この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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六章はちょっとあれなのでちょくちょく本編見直しながら書いていきます。
なので、少し更新速度が遅くなるかもしれませんがご了承ください。


前途多難

 

 

 

 

 

 

――――無双。

 

 その言葉が丸々当てはまるような状況でした。

 相変わらず、共に戦っているサーヴァント達の姿しか確認するとはできないけれど、敵であるはずの巨大な()()は次々と倒されてしまっていました。それは正しく無双と呼ぶに相応しいのでしょう。

 

 けれど、どれだけ敵を倒しても私の前を行く先輩の表情が明るくなることはありませんでした。むしろ、どんどんと表情がなくなっていっているのです。けれども、動きはそれに比例しているように鋭くなっていきました。

 そう――――まさに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、前に見た時よりもさらに先輩が遠くに行ってしまうようでした。それがとても怖くて、恐ろしくて、必死に引き留めようとして手を伸ばすけれど……どうしても、届きませんでした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 レイシフトが完了した。普段と同じように、空間を移動する微妙になれない感覚に身を任せた後にゆっくりと目を開く。……なんとなく開きたくないけど、目を開く。するとなんということでしょう。あたり一面砂嵐。一寸先は闇……というほどではないけれど、ずっと目を開けていると砂が目に入りそうで怖い。

 手で目を庇いながら薄目で周囲の状況を把握してみる。けれどもあたり一面変わらず砂嵐で特に建物とかが見つかることはなかった。エルサレムって砂漠の中にあるものだったのだろうか。その辺詳しくないからわからないんだけど……。

 

「っていうか、あれ……」

 

 そこでようやく気付く。

 普段近くに居るはずの気配が存在しない。それどころかパッと感じ取れる中で生物の気配がしない。

 ……だらだらと冷や汗が流れる。まて、待て待て、待て。ちょっと待とうか。確かに前振りとしては十分だった。重い腰を上げた天才。今までとは勝手が違う特異点。脅威の人理定礎評価EX……これだけ揃えばなにか起きることは予測できるものだった。……だけど、さ。

 

「―――サーヴァントと離れるってどうよ……」

 

 これ冗談抜きで死ぬぞ。

 とりあえずカルデアとの通信を試みてみるもののあえなく失敗。ですよねー。しかしここで俺が存在できているということは、少なくともカルデアから存在は補足されているはずである。

 

「さて……こういう場合には下手に動き回らないことがセオリーなんだけど……」

 

 再び黙ってぐるりと見渡してみる。

 ―――この状況で助けが来るとは思えない。何よりマシュ達がどこに居るのかもわからない、ぶっちゃけ普通の人間である俺がこのままここに突っ立っててもそのまま死ぬ。それはもう申し開きできないくらい死ぬ。

 とりあえず、砂嵐を抜けたいな。これが解消されれば通信も回復するとは思うんだけど……。

 

 まぁ、いいや。

 俺が今優先して行うことはマシュ達と合流することだし。こういう時こそ培った勘に頼るべきだ。

 

 判断を下した俺は四次元鞄の中から人ひとりを包み込むことができる布を取り出す。これこそはエミヤ師匠が夜なべして作ってくれたただの布である。効果は特にない。只、こういった布を被るだけでも日射病とかを予防することにつながるということで貰ったのである。

 もう、この状況を見越して言っていたのではと思うほどのタイミングの良さに俺は驚きだ。さすエミ。

 

 というわけで一人旅開始。

 なんだかんだこうして一人で歩くのは師匠主催「ドキッ、原生生物だらけのサバイバル!(命の)ポロリもあるよ!1週間ライト版!」以来である。あの時は酷かった。何が酷かったかと言えば、サバイバルの知識ゼロ。戦闘技能も師匠に修練を付けてもらう前だから、今より全然弱い状態で森の中に放り込まれたんだよなぁ。

 

 なんとなくやることもないので意味もなく過去を思い返しつつ、俺は強化魔術を使用する。全身の血管をなぞる感じで魔力を馴染ませ、くまなく強化を行いそのまま強化された脚力で不安定な砂浜を蹴り上げる。

 下が固定されていないために若干疲労の度合いが大きいが、このように立地が悪い場所で移動することは初めてではない。なので俺はそのまま気にせずに移動を続行する。

 何分出口が見えないだけにどこまで行けばいいのかもわからないが、俺の勘は生きることに特化していると言っても過言ではない。それ以外であればたまにさぼることもあるけれど、生命保持に関しては信じている。故にこの先に行けば合流ないし通信回復くらいはすると思うんだけど……。

 

 そんなことを思いつつ、しばらく移動していると。目の前から何人かの人影を発見した。誰もかれもが俺と同じく何かを深くかぶっていて、顔はおろか体格すら確認することはできない。只、その集団を率いているのは間違いなくサーヴァントだった。気配が人間のそれではない。未だ遠めなのでよくわからないが、何処か髑髏の面をしているようにも見える。

 

 遮蔽物がないため、隠れることは難しい。というか恐らくもう手遅れであると思われる。俺が補足できているのだ、サーヴァントである向こうが気づかないわけがない。

 案の定、向こうはこちらに気づきその動きを止めた。その隙に他にいる者達が俺の周辺を囲い始めた。

 

「―――百貌さま。どうやら旅の者と思わしき風貌ですが……」

「この地にて一人旅なんぞ馬鹿な真似をする奴が普通の者とは思えないが……この気配は先程の盾の女や、変な女、白い袋を持った謎の女に、言動がおかしい女サーヴァント達とは違う……人間だ。食糧は持っているだろう……」

「奪いますか?」

「そうだな。――――こいつに恨みはないが、弱肉強食がこの世界の定だ」

 

 食料狙いと来たか。一応鞄の中に食料は入っているけど全て原料なんだよなぁ。……なんて考えている場合ではない。あのサーヴァントは確かに盾の女、変な女、白い袋を持った女、言動がおかしい女のサーヴァントと言った。……このワード、心当たりがあり過ぎる。十中八九マシュ達だろう。そんな奇妙な組み合わせが特異点に二つとない。あったら怖い。アーサー王のサンタなんて二人も存在していいわけがない。ギャラクティカサーヴァントなんておかしな称号も二つとあって溜まるものか。

 

 さて、向こうは既にやる気満々。周囲を囲っている人たちは武器をチラつかせ、髑髏の面をかぶっているサーヴァントもこちらを脅すために武器を構えている。

 

「食料を渡せ。もし渡せば危害は加えん」

「………食料を渡すのはいいけど、いくつか聞きたいことがある。それに答えてもらえれば食料は渡してもいい」

「我々には時間がない。直に渡せ」

 

 何やら焦っているようにも見える。もしかして追われているのか……?よくわからないだけれども話し合いで終わらせるわけには行けないらしい。我慢ができなくなったのか周囲に取り囲んでいる人たちと髑髏の面を付けたサーヴァントは既に砂漠の砂を蹴り上げていた。

 ―――相手はサーヴァント。敵は複数。こちらはサーヴァントも居ないどこか味方すらいないと来た。()()()()()()()()()()()()()()()()

 この砂漠、食料が必要となれば向こうの立場は大体予想が付く。こういった手合いは自分たちの生命がかかっているためになんでも行う。向こうの殺すという言葉に嘘偽りはないだろう。なら、こちらも対抗するんだ。このままだと死ぬのだから。

 

「―――お命頂戴!」

「―――――」

 

 全身に送る魔力量をさらに増やす。

 先程とは比べ物にならないほど出力を増した強化魔術を感じながら、俺はゆっくりと拳を構えた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 私たちは確かに第六の特異点にレイシフトいたしました。それは無事に成功したはずなのに、どういうわけか先輩の姿だけが見当たりません。周囲をくまなく捜索してみましたが人影が見つかることはありませんでした。……いくら先輩と言えども特異点の中で一人というのは相当危ない状況だと思われます。なのに……

 

「皆さん!いくら何でも落ち着きすぎじゃないですか!?」

 

 共にレイシフトしたダ・ヴィンチちゃんやXさん、サンタオルタさんは全く慌てないどころかどこ行ったんだろうねーと言っている始末です!これはちょっと危機感が足りないのではないでしょうか!

 

「フォフォ、フォーウ(まぁまぁ、落ち着き給え^^)」

「フォウさんまで!」

 

 皆さんいくらなんでも慣れすぎです!確かに先輩は、私たちに降りかかる理不尽をそれ以上の理不尽で撥ね退けてきましたけど……今回は状況が違うと思うのです。この砂漠、この砂嵐の中一人でレイシフトさせられてしまった場合、生命としてどうしても逃れることのできない要因で死んでしまうことだってあり得ます!

 

「確かに、それはそうだね。この砂漠、この砂嵐、何よりこのエルサレムの時代とは思えない濃厚な大気中の魔力……どれをとっても普通の人間には辛いだろう。……ただね。一応、この近く――というわけではないんだけれど、少し行ったところにオアシスの反応があるんだ」

「それがどうかしたのですか?」

「仁慈君には驚異的な勘があるだろ?それこそ生き残るという一点においては予知と言い換えてもいいくらいの精度のやつ。……彼がこの状況に置かれれば真っ先にそのオアシスに向かうと思わないかい?」

「!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの話は納得できるものでした。

 普通の人であればまずありえないことですが、先輩は普通の人間ではないのでノーカウントですし、同じく遠くのオアシスをなんとなくで感じ取って向かっていてもおかしくはありません。

 

「どうだい、直感持ちのダブルトリア君達。我々はこのままその方面で行って大丈夫だと思うかい?」

「万能の変人、その呼び方はやめろ。お前の工房にある物をこの袋に詰めてもいいのだぞ」

「一括りはやめてください。もし次行ったら相性の差なんて無視して宇宙的サーヴァントパゥワーであれこれしますから……」

『で、マスター(トナカイ)のことなら大丈夫です(だろう)』

「……ね?」

 

 Xさんとサンタオルタさんがそういうのであれば……。

 そうして私たちはダ・ヴィンチちゃんの指し示す方向に歩き始めました。

 

 

 

 しかし、途中でこの土地の原生生物やら、スフィンクスやら髑髏の仮面を被ったサーヴァントから捕まっていた女性を助け出したり、助けた女性に襲われたり、スフィンクスを嗾けられたり、ルキウスを名乗る人物と共闘したりするのでした。

 ……ただ、ルキウスさんがXさんとサンタオルタさんを見てひどく動揺していたのはどうしてなのでしょうか……?今もブツブツと何かを呟いていらっしゃいますし……。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

「ただの人間……のはずだろうがァ!」

「何故切れられているのか、これがワカラナイ」

「なんてこと言いながらッ!的確に我々の数を減らすなぁ!」

 

 襲われたので撃退したら切れられるという理不尽。なんということだ。

 戦いが始まってから数分。向こうのサーヴァントは切れていた。戦況は恐らく4:6で俺の不利。周辺の人たちには少しの間砂漠で寝てもらっている。別に殺してもよかったんだけど、後で話を聞く際に殺してしまっては余計に話がこじれる可能性もあるためだ。

 で、今はサーヴァントと一騎打ちの真っ最中である。……おそらく向こうはアサシンのサーヴァントだろう。他とくらべて気配が察知しにくいということと、何より他のサーヴァント程ステータスが高くないという点から予想しただけで確信はないけれど。

 しかしこのサーヴァント、そういうスキルを持っているのか増えている。姿形は違えど反応はサーヴァントということから分身のスキルだろうか。いや、一人一人の強さが下がっていることからどちらかと言えば分身ではなく分裂の方が近いのかもしれない。

 

 平均的な骨格をしている髑髏面の男の鳩尾に肘を撃ち込んでその動きを止め、そのまま左手を頭に振り下ろして下の砂漠の熱そうな砂へ叩き込む。

 そうしているうちに取り囲んでいる三人を攻撃が早い順番から処理をしていき、最後に背丈が一番大きく、拳も丸太よりも大きい男に立ち向かう。

 その剛腕から振るわれる攻撃を翻し、逆にその腕を蹴って跳躍、そのまま重力を加算した踵落としをその巨漢の首筋にぶつける。普通なら死ぬが相手はサーヴァント、何の問題もない。人間の攻撃ごときでサーヴァントが死ぬわけない。(前科としてヘラクレスの命を一つ奪っている)

 

「貴様ッ!何故我等の気配を……!」

「焦っているからか結構雑だけど……」

 

 というかアサシンが正面から戦いを挑む時点で気配云々もないと思うんだが。

 そのような思考をしつつも戦いの手は緩めることはない。近く似た分身体(分裂体?)の身体を掴み取り、それを武器として振り回す。他の者たちを巻き込んでブン投げた後に、追い打ちとして助走をつけた跳び蹴りを見舞った。

 

 そして、残るは目の前に居る女のサーヴァントただ一人である。

 

「くっ……!殺せ」

「何でやねん」

 

 こんなところでくっころ見なければならないのか……。そんなことを思いつつ、俺は誤解を解くために話をすることにした。

 こういったことはいつもマシュに任せているところがあったからなあ。少し手こずったがここまで見事に返り討ちにしておいて何もしないということが功を奏したのか、一応話を聞いてくれる態勢になってくれた。

 

 なので、俺は自分の四次元鞄から材料を取り出すとそれを手渡し、報酬としてこの世界の事と彼女が遭遇したというサーヴァント達のことについて聞き出すことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――大体はこのような状況だ。ちなみに私たちがあった変なサーヴァント集団は向こうの方角に居る」

「ありがとう」

 

 彼女の話を指さした方向を確認しお礼を言ってから食料を手渡す。

 色々有益な情報を手に入れることができた。この世界に現れた騎士達にピラミッド……騎士達が行っていることにピラミッドの近くに居る化け物たち。どうやらこの特異点は半年前からこういった感じになってしまったらしい。ロマンも前から観測できてはいたけれどレイシフトできる状態じゃあなかったということから、その間にも状況は進んでいたのだと見て間違いはないだろう。

 

「私たちは嘘を言っているとは思わないのか?」

「え、嘘なの?じゃあ―――」

「いや!待て待て!本当だ!だから拳を振り上げるな!……ほんと、何なんだ貴様……。しかも貴様の戦い方はどこかで見たことがある気がする……全然いい感じではないのだが……」

 

 なぜか勝手に落ち込んだサーヴァント。

 情報を引き出すことには引き出せたので彼らと別れ、俺は再び全身に魔力を流して動き出した。

 ……あのサーヴァントが言っていた情報を整理すると、攫ったピラミッドを建てた側のサーヴァントをマシュ達が助けたらしい。しかしそのサーヴァントは連れ去るために眠らされていたという。

 彼女であれば助けた後は、そのサーヴァントの目を覚まさせるだろう。そしてきっと目を覚ましたサーヴァントの誤解によって戦闘もしくは敵対してしまうに違いない。だって俺が返り討ちにしたあのサーヴァントの話だと、そもそも彼女たちをピラミッド側の尖兵もしくは騎士達と間違えて襲ったらしいし。こういった状況での勘違いはある意味でお約束とも言えるからな。

 

 ――――つまり、俺が追いつく可能性が残ってるってことだ。

 ここで俺は久しぶりの魔力放出を開放し、さらに移動速度を上げることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




百貌「なんだあれ怖い」
麻婆「愉☆悦」

これは酷い。

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