「走れラムレイ3号!フルスロットルだ!」
「俺の魔力馬鹿食いしながら暴走するのやめーや」
「万能車両オーニソプタースピンクスって言ったはずなんだけどなー」
「この色物サーヴァント!もう少し速度落してください!本当に切り捨てますよ!?」
「Xさんがツッコミ回っています……!凄まじいボケです……!」
「フォォォオオウ!!??」
「――マシュ・キリエライト!このまま首位を独走します!」
「待て、落ち着くんだマシュ。後ろには誰も居ないしこの砂漠にコーナーもコースもない!だからもうすこし安全な運転をだね!?」
「イヤーカゼガキモチイイナー」
「中々の腕前だ。……流石だな。マシュ」
「フォフォ、フォーウ!!(別の意味でデンジャラス・ビーストだね!キチマス、何とかしろ!)」
「おぉう!何言ってんのかわかんないけど俺を攻撃するのはヤメロォ!」
「私も運転するよ。……あ、左腕の籠手が邪魔だ………いいや、片手で運転しよう」
「ダ・ヴィンチちゃん!浮いてます!方車輪浮いてますぅ!」
「片手運転はやめろって!」
「ほら、私万能者だから平気平気」
「そういう慢心が事故の原因ってデータにはありますけど……」
「せめて速度は落そうよ!」
「………このまま俺が運転するからね?」
『ハイ』
「フォウ」
オジマンディアスから追い出され、砂漠をダ・ヴィンチちゃんが作り出したバギーで走行していた俺達の一幕があり、その結果、最終的には俺が運転することとなった。異論は認められない。この状況でどこまでも悪乗りをかましたダ・ヴィンチちゃんと主犯格のサンタオルタ。そして、テンションを上げ過ぎてしまったのだろうけれども結果的に事故を招きかねない運転をしたマシュにそう言い聞かせる。本人たちも自覚はあるらしく粛々と運転をする俺の結論を受け入れていた。
……この場で一番まともだったのはXだったんだよ。この一言だけでどれだけカオスな状況だったのかわかっていただけただろうか。大学生の小旅行じゃないんだからさ……。テンション上がるのは分かったからもう少し落ち着こうか。
「……運転中に余計なことしたら振り落とすからそのつもりで」
「フォー……(激おこだ……)」
シャレにならない速度で暴走されればそうなる。俺も運転はしたことないけど、その分慎重に行うから問題ない。何故か騎乗スキルを持っている人たちはハンドル握ると暴走するからな。
砂嵐は晴れているが時々舞う砂に目を取られないようにゴーグルをダ・ヴィンチちゃんから貰い、そのまま一時間ほど運転を続ける。いくら何でもこの砂漠長すぎないか?と思っていたところでようやくその砂漠の終わりが近づいてきた。近くにはジャンプ台、その奥に待ち構えるように敵が待っていた。いかにもここから飛び越えてくださいと言わんばかりのシチュエーションであった。
チラリと一瞬背後の方を振り返ってみれば全員がキラキラとした瞳でこちらを見て来た。あっはっは。跳べってか。
「どうする、フォウ」
「フォーウ?(跳んでやれば?)」
「………マシュ、翻訳できる?」
「良いそうですよ」
「じゃ、跳ぶか」
アクセル……の代わりに魔力を回して速度を上げるとそのまま加速しつつそのジャンプ台の役割を持っている丘に突っ込んだ。
一体だけ、跳び越えようとした敵の中に石像のように大きい奴が居たのだが、その剣が当たりそうになった時、咄嗟にサンタオルタがモルガンエンジンを発動させて事なきを得ることとなった。……落下時の衝撃がすさまじかったけど。
「よし」
「………此処に来て私のキャラ喰われまくってませんか?破天荒、無軌道、無鉄砲、無秩序は私の本懐だったはずなんですけど」
「大丈夫大丈夫。Xはもうある意味で別格だから。むしろ別枠だから。おんりーわん」
まぁ……正直二人とも同じ畑の人ではあるよね。ぶっちゃけ。
キャラ被りを気にしているらしいXを適当に宥めつつ、改めて周りの風景に目をやる。……そこにはあるのは、砂漠と似たような光景であった。草木は枯れ堕ち、もはや炭と化していると言ってもいい。大地は罅割れ雑草の一つも生えてやしない。感じる温度は砂漠とそう変わりなく、むしろ砂漠よりも直接自分たちの肌を焼きに来ているのではないかと錯覚を起こす程であった。
……言ってしまえば土地そのものが死に絶えている。そう表現するのが最も適切と言えた。これが本来の十三世紀の中東ということでは無いだろう。見たことはないが、そう確証はできる。こんなもの人が住んでいける土地ではない。俺もキツイ。
「トナカイ、これをもってろ。少しは楽になる」
言葉と共に俺に渡される氷。どうしてサンタオルタがこんなものを持っているのか今は聞かないが、それを首に当てて全体の体温を冷やそうと試みる。先程よりはマシになったがやはり簡単に克服、というわけにはいかなかった。まぁ、砂漠で耐性を得た分そこまで酷いことにはなっていないが。
「気温48℃、相対湿度0%。大気中の魔力密度0.3ミリグラム……砂漠も酷いがここも酷いな。とても人が暮らせる環境じゃない。人理定礎を乱すとここまで来るか。これが人類史、その一切を焼き払った魔術王の偉業……その一端ってことかな」
「今までの特異点ではここまで人理定礎が乱れていなかった……だからこそ影響はなかったのですか」
「その通り。もしくは特異点だけは例外的に影響されないとも思ったけど……そういうわけじゃあなさそうだ」
「……もしかして、本当にアルトリアさんがこんなことを……」
「これはもうブッ殺事案ですね!マスター!」
清々しいまでの笑顔。外見がいいだけにその表情には何とも言えない魅力がある。……んだけど、言っていることは物騒すぎる。何処がサンタオルタにキャラが喰われている、だ。どちらも等しく濃すぎる。
そして改めて思い返してみると俺達が会ったのは敵として遭遇するアルトリアかネタに振り切った混沌じゃないけどカオス属性のアルトリア、その二種類の存在しかいないことに気づく。……やっぱりこの戦いで一番割喰ってるのはアルトリアなんじゃなかろうか。重苦しい空気をXがぶち壊してくれたところで――――俺を含める全員が何かに弾かれたかのように顔を上げる。
すると、移動してきたのかここで待ち伏せしていたのかはわからないが、俺が身につけているような全身を覆えるほどの布を被った集団がじりじりとこちらを囲う様にして接近してきていた。わずかに覗く顔からは生気が全く感じることができず一瞬だけゾンビか何かかと見間違えるほど……しかし、気配は純粋に人間の者であり、ゾンビでもましてやサーヴァントと言った存在でもなかった。
『食べ物だ……食べ物だ……。水もあるぞ、うまそうな女もいるぞ……。きっと太陽王の所に居る化け物から逃げて来たんだろうなぁ……ありがてぇ……ありがてぇ…………オレたちに喰われるために生き延びてくれてありがてぇ……!』
生きながら死んでいる。この表現が的確に当てはまる。恐らく彼らは厳しい環境の中で《《ああ》》成ることでしか生き残ることができなかった人なのだろう。
「こ、この人たち……は、人間です……!サーヴァントでも、幻影でもない……れっきとした……」
「……これはもうダメだね。彼らは半ば屍鬼化してしまってる。あそこまで行ってしまったらもう人としてはだめだ」
「―――容赦はいらん。むしろ殺してやるのも救いだろう」
「介錯も又一つの救いですよ」
ダ・ヴィンチちゃんがXが、サンタオルタがそう言い聞かせる。
心配はいらない。そんなことは分かっているし、そもそも明確に敵対するのであればもとより容赦なんて加えない。下手に逃がして仲間を呼ばれても困る。けど――――
「………ッ」
「フォ……」
―――――まあ、仕方ないか。
―――――――――
『くそっ……くそぉっ!何で大人しく死なねぇんだよぉ!!』
「え?殺してほしいの?」
『――――ちくしょう!』
襲われたら返り討ちにする。当然のことである。というわけで、俺達は特に苦戦をすることなく食料その他狙いで襲い掛かって来た集団を撃退することに成功した。最終的に死ぬ一歩手前まで痛めつけてようやく止まったのが一割ほど……俺が遭遇したアサシンの連中も含めてここの世界は大部分が死んでいるとみて間違いないだろう。
「――戦闘終了、です……」
「お疲れ様」
「奇跡的に死者はゼロ。こういっては何だけどよくやったねこんなこと」
「そういう日もあるある」
嘘である。殺さないように撃退するということは結構な負担であることはもはや疑いようがない。しかし、久しぶりの対人戦ということでマシュの負担を考えればこれくらいはやってもいいと思ったのだ。彼女の守りは重要でありそれを担う本人が参ってしまっては元も子もない。
「ま、そういうことにしておいてあげるよ」
「あ、あの……この方たちに食料を分けてあげることは可能でしょうか……?」
うーん。ダ・ヴィンチちゃんが言った通り、このヒトたちはもはや終わっていると言っても過言ではない。今さら食料を渡したところで僅かな延命にしかならず、むしろ争いの種にもなりかねない……。しかし、彼女のことを考えて彼らを生かしたんだ。そのまま見捨ててしまったら助けた意味がない。
この中でどうしても食事が必要なのは俺とマシュだけ。他の三人はサーヴァントであるために絶対に必要というわけではない。唯の趣向品のようなものだ。そして問題の食糧はオジマンディアスの所で貰った分も含めて結構の余りがある。ここでばらまくくらいは別にいいだろう。後程争いの種になるかもしれないが、そこはもう範囲外である。
「ここまで来たらいいと思うよ。好きにしたらいい」
「私たちも流石にこの状況の中ご飯をくださいとは言いませんよ」
サーヴァント達の許可も貰えたので、彼らに適当に食料をばらまいてからダ・ヴィンチちゃんの作り出したバギーに乗り込む。すると、食料の効果か一時的に正気を取り戻した彼らが俺達に忠告をくれた。聖都には近づかず、生きて居たければ砂漠に居た方がいいと言っていた。やっぱりろくでもないじゃないですかー。
そうして―――バギーを走らせること数時間。流石にこれ以上の運転は危ういので何やら宇宙船を運転した経験を持っているというXに少し前に運転を交代してもらい、死んでいる大地の光景に目を向ける。
砂漠の時には真上にあった太陽も今は沈みはじめ空は茜色に染まり始めていた。そこまで走ったあたりでようやく通信状態が良好になったらしい。ロマンの焦りを多分に含んだ声が聞こえて来た。
『やっと繋がった!みんな大丈夫かい!?』
「へいきへいき」
「はい、問題はありませんドクター。私たちは元気です」
『なんていうかこっちの心配が必要ないくらいに本当に元気だね君たち!』
「やっほー」
『レオナルドォ!なんて暢気なんだ!』
「何故私だけ……」
自分だけ何故か怒られ気味な感じに納得できないのか彼女にしては珍しく本気で困惑したような声を上げた。
そんな彼女を若干無視しながら俺達は今までにあった情報をロマンに伝えていく。そんな彼はやはりというべきか、今も聖杯をもっているオジマンディアスが厄介なものと踏んだらしい。しかし、こちらは妙に精度の高いセイバーセンサーを常備しているXの話から聖都に恐らくアルトリア顔の誰かが居ることが分かっている。さらにこの特異点には銀の腕を装備したベディヴィエールが居ることも含めるとロマンもその推測に頷いてくれた。
『けど、ダ・ヴィンチちゃんの話では聖都にいるのは獅子王なんだろう?そして、謎のヒロインXとサンタオルタの言葉ではアーサー王が居る、と………おかしいよね?』
「言いたいことは分かるけどさ。それはこれから確かめてばいいよ。今の状況、誰が味方で誰が敵かもはっきりしてない。聖杯をもっているオジマンディアスが完全に敵かどうかも怪しいから」
その通りだ。もし完全に敵であればあの場で俺達を殺しにかかるだろう。実際、今までの奴らはそうであったはずだ。
けど、彼が言い残したのは俺達にこの世界を見て来いという曖昧な言葉を残しただけで、攻撃どころか物資を支援する始末。これは完全に勘だが、正直聖都にいる奴よりも山の奥の方からとてつもなくやばい気配がする気がする。これは根拠なんてない完全に勘というかあれだけど。
『――!そこから50メートル先に強力なサーヴァント反応!ついでに生体反応もある!』
「ではスピンクスはここに止めておきましょう。様子、見に行きますよね?」
Xが確認のために顔をこちらに向ける。それに全員頷き、彼女は慣れた手つきでバギーを止めた。
できるだけの隠密行動を心掛けながらその五メートルという差を着実に埋めていく。そうして目標の近くまで来た俺達が見たものは、明らかに一般人と思われる人とそれを庇う何処かで見たようなアサシンのサーヴァント。そして、糸目で赤毛であり弓と思われる武器を持ったアーチャーのサーヴァントだった。
「鳥公じゃないですか」
「あの寝てるのか起きているのかわからない表情、間違いなくトリスタン卿だな」
また知り合いか。
「先輩……私、あのサーヴァントを見ると寒気が止まらないのですが……」
「―――いつぞやの俺と同じく外付けで何か付けてる気がする」
それも、この特異点探索で嫌というほど感じた神性によく似た気配を感じることから、確実に何らかの神格から受け取っているということも。
「――――あれはだめだ。我々では殺される」
ダ・ヴィンチちゃんが初めて見るほど真剣な表情でそういった。それと同時に一般人と思わしき人たちを守っていたサーヴァントが己の首を切り裂いた。何を思ってそれを行ったのかどうかわからないが、恐らく後ろの人には手出ししないでということを言ったのではないだろうか。
しかし、赤毛のアーチャー――――Xとサンタオルタにトリスタンと呼ばれた恐らく円卓の騎士であろうそのサーヴァントは一般人の首を容赦なく斬り落としその場を去っていった。
……成程、あのアーチャー。弓を使わないのか、いやあの武器が弓じゃない。どちらかと言えば楽器のようだったな。
完全にトリスタンの気配が消えたのを確認したのちに俺達は先程攻撃をされた場所へと足を運んだ。
誰しもが首を切られていて、生き残っている気配は何一つない。
「……一体何を思ってあの鳥公はこのような凶行を行ったのでしょうかね。まさか、私からの指示とかですか?」
「反転していれば不思議なことではない。只、オジマンディアスが言っているようにこの世界を見てみないことには何とも言えんな。――――が、あの行動。トリスタンが起こしたにしては違和感を感じる……。あのランスロット卿とゴミみたいな話で盛り上がれるほどだぞ。しかし今のトリスタン卿はむしろ『人の心がわからない』と言われる側になっている」
はてさて、真意のほどは一体どうなんだろうか。