この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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※この話に農民は出てきません。

……それにしても回を追うごとに更新する日が多くなってきている気がします。大変申し訳ないのですが、少々事情がありまして……恐らく後三か月はこのようなペースもしくは不定期更新のタグが働くほど空いてしまうかもしれません。
それでも更新できるのであればしていきたいと考えていますので何卒よろしくお願いします。


アッケナイモノヨ……

 

 

 

 

 

 ホームズを本意ではないのだけど見送り俺達も自分の目的のためにアトラス院から脱出する。外に出てみると、相も変わらず肌が焼けそうなくらいの熱量を放つ太陽と、それらの熱を最大限に生かす砂漠が出迎えてくれた。先程まで太陽の光が届かず、尚且つ地下で涼しかったアトラス院に居たためそのギャップで体感温度がエグイことになっていた。

 

「うわっ……」

 

 急に10℃近い気温差にさらされた所為で少しだけ眩暈を覚え、頭を抱える。するとすかさずマシュが近くにより俺の身体を支えてくれた。その気づかいがとてもありがたい。やはり彼女は天使(確信)……これも久しぶりな気がする。

 

「どうしたの仁慈?もしかして太陽の光に目をやられちゃった?」

「三蔵よ。仁慈殿はあれでもマスターであり、人間だ。先程の場所とこことの気温差にやれられてしまったのだろうよ」

「…………そっか。仁慈ってば英霊じゃないのよね。すっかり忘れてたわ」

 

 忘れられてたかー。

 ダ・ヴィンチちゃんの開発した万能機器によって水分を補給する。それと同時に全身を魔力でコーティングしてこの砂漠に来た当初と同じ状態に持っていく。しばらくすればここにも対応できると思う。

 

「ッハハ!まぁ、仕方ないよな。仁慈はぶっちゃけマスターって感じはないしな」

「……(苦笑)」

 

 これには流石のベディヴィエールも苦笑い。この特異点においては彼が一番俺達との付き合いが長いためにフォローができないので居るのだろう。彼は俺に遠慮するように笑った。苦笑だけど。その気づかいはとても嬉しい。しかし何だろうどこか胸が痛かった。

 

「―――――ッ……!和やかな空気はそこまでです」

「こちらの行動は読まれていたようだな」

 

 無言の攻撃に胸を痛めている際、この中で最も色物枠のサーヴァント二人Xとサンタオルタが異常を感知したらしく己の得物を取り出して戦闘態勢を整えた。そこで俺も近づいている気配を悟る。

 我がカルデア屈指のギャグキャラである彼女達がここまで過敏に尚且つ真面目(シリアス)になる相手は少なくない。それはこの第六特異点において明確に敵として定義できる者達。そう、円卓の騎士たちである。

 二人が視線を向ける先には馬に乗った騎士たちがこちらからもはっきりと確認することができた。来ている甲冑は鮮やかな紫色。その風貌には身に覚えがある。俺達が呪腕さんたちが住みかとしている村に行く際に追跡をしてきた円卓の騎士であり、その中でも最強と言われている湖の騎士ランスロットである。

 

「ランスロット卿。発見しました。例のカルデアという機関に所属している人間かと」

「……相変わらず、この手の読みは鋭いな……。敵の姿は私の方でも捉えている。アーラシュ・カマンガーに三蔵法師殿。私が相手にしたアーチャーも居る………ッ!?」

 

 俺達でも捉えられるくらいに近づいているのだから当然向こうも気づいている。その証拠にランスロットの表情はこわばっていた。今までの対応からして恐らくXとサンタオルタを見て驚愕しているのだろう。ガウェインですらそのような反応を返したのだから予想はできる。

 これで精神的に動揺して実力が鈍ってくれればいいんだけど……甘くは見ないでおこう。彼女たちに説得してもらうようにはしてもらうけど。一々戦っていたらこちらの戦力が持たない。……多分オジマンディアスの所で戦闘になるだろうしねぇ。

 

 それらのことを含めた視線を彼女たちに贈ると、二人は渋々頷いてくれた。普段どれだけふざけていても流石は王様。大局を見据えてらっしゃる(熱い手のひら返し)……それはともかくとしてどこかマシュから怒気というか、黒いオーラというか……不吉な気配を感じるのだけれど気のせいだろうか。

 さりげなく声をかけてみるが、マシュはとてもイイ笑顔でなんでもありませんと還すだけだった。一体どういうことだろうk――――いや待てよ。ランスロット、マシュに力を貸している英霊の正体、その関係………あっ(察し)

 彼女が不機嫌な原因のようなものに辿り着いた俺は答え合わせとして、同じく円卓の騎士であったベディヴィエールに確認を取る。

 

「(ベディヴィエール、ベディヴィエール。あちらをご覧ください)」

「(?どうしたのですか、仁慈殿――――あっ)」

「(もしかしてマシュがああなっているのは……彼女に力を貸している―――)」

「(十中八九そうでしょう。いや、むしろそうでなければレディ・マシュがああなる理由が見えません)」

 

 お墨付きをもらったところで俺はこれから起こる事態を想像することができた。これはどうしよう。止めた方がいいのだろうか。いや、可能性の話としてマシュが自身の感情を完璧に抑え込み、普通に戦うという選択肢もあるやもしれない。結論を下すにはまだ早い。

 

「王……?」

「えぇ、王様ですよ。貴方たちが愛してやまないアーサー王ですよ。……そこの黒いのが」

「私に振るのか」

「いえ、今更ながら私は謎のヒロインXということを自覚しまして。最近謎してないなぁと思ってしまいまして……」

「安心するがいい。はじめから謎などなかった」

 

 お前らもいつも通りなのかよ。

 先程までの真面目な雰囲気を早くもかなぐり捨てて普段通りのやり取りをするWアルトリア。どうやら目の前のランスロットはスルーされているご様子。湖の騎士も困惑顔を浮かべていた。

 

 こちらとしてはその隙にいつでもことを構えられるようにしてある。三蔵は普段通りだけど、藤太とアーラシュさんは弓に矢をつがえ始めている。ベディヴィエールも自身の右腕を構えていた。一応そう簡単に使うことはないと思うけど、彼は彼で頑固だ。きっとこちらが不利になったらすぐに使うだろう。その辺のことも考えてなければいけない。彼の右手は獅子王に取っておいてもらわないと困るし。ダ・ヴィンチちゃんもキャスターらしく後ろに下がって眼鏡をかけていた。あれが戦闘態勢なのである。

 

「―――いや、我が王はあの御方のみ」

「……意外です。ガウェインよりも動揺するかと思いましたが、そこまでではなかったようですね」

「私とて騎士の一人。一度誓った忠義は違えません」

 

 Xの言葉に彼は言葉を震わすことなく毅然とした態度で言い返した。その様子を見て俺は少しだけ反省する。ランスロットは言い伝えからして少し思うところがあった。実際の円卓の騎士たちの様子を見てその考えは更に加速した。けれど、実は俺が思っているよりもよっぽどまともな人だったのかもしれない。

 

「格好つけているところ悪いが、ランスロット卿。足腰が震えているぞ」

 

 サンタオルタの指摘に俺はそちらに視線を移す。すると、毅然とした上半身とまるで相反するように小刻みに震える下半身があった。それはもう、まるで上半身分の震えすらも下で引き受けているのではないかと思うほどのバイブレーションである。少しだけ気持ち悪い。そしてそのバイブレーションの所為で少しだけ身体が砂漠に埋まっていた。

 その様子に彼の部下たちである粛清騎士たちは何も言わない。只自分たちの前で剣を携えこちらを警戒しているだけだった。これは武士の情けならぬ騎士の情けなのだろうか。

 

「これは武者震いです。――――では、こちらもいい加減覚悟を決めましょう」

「……私たちとことを構えるということでいいのだな。ランスロット卿。……それは獅子王のやろうとしていることを真に捉えている上での事だと?」

「その通り。我が王は我々を召喚した差にご自身の目的を包み隠すことなく告げています。その上で、我々円卓の騎士たちに選択肢を与えました。すなわち、王に追随するか、抵抗するかを」

「……で、貴方は服従を選んだ―――んですよね。聞くまでもありません。既に宿しているギフトがその証ですし」

「故に―――覚悟を決めていただきます。異を唱えるのであれば、我が王の前で語っていただきます!例え綺麗な女性が相手だろうと、今回ばかりは容赦しません!」

 

 問答を終えたランスロットは、今までの情けない様子から一転しすぐさま歴戦の戦士の風格を醸し出す。それはまさに円卓の騎士最強を名乗るに相応しい覇気、技量も又その肩書が決して言葉だけでないことを示していた。

 ゼロから瞬時に加速することで彼の姿が一瞬ぶれる。それを合図に彼の背後に控えていた粛清騎士たちも動き出した。だが、彼らは既に矢を構えていたアーラシュさんと藤太の矢に牽制され、動くことができないでいた。

 一方初めに飛び出したランスロットは目の前に居たサンタオルタとXの横を通り過ぎ、一直線に俺の方へと向かって来ていた。アグラヴェインが居るからか、中心人物を狙うことに躊躇いはなさそうだった。

 魔力で強化していても対応できるかギリギリな速度で接近されているが、大人しく斬られるわけではない。できる限りの速度で回避行動を行う。

 

 だが、彼の剣が俺に振り下ろされる前にその剣の往く手を阻むものが居た。その人物はもちろん最高にして最堅であるマシュである。彼女の盾はランスロットの剣に押されることなく完全に抑え込み、尚且つ弾き返した。

 自身の剣を防がれたことに驚いたのか、後方に飛退いたランスロットは俺の前で盾を構えているマシュを驚愕した表情で見つめていた。

 

「私のアロンダイトを正面から受け止める……?それにその盾、いや……まさか……!」

「先輩、お怪我はありませんか?」

「も、問題はないけど……」

 

 チラリと様子を見るためにこちらに振り返ったマシュの様子を見てみる。浮かべている笑顔はとてもキレイだ。けれども、それ以上に背筋が凍るように寒くなる。まさに絶対零度。レジアイスもびっくりの冷たさだ。

 

「どうかしましたか?」

「なんというか……マシュさん怒ってます?」

 

 確実に先程よりも怒っている。最早疑いの余地はない。全身から私怒ってますオーラが感じ取れるくらいには怒気を放っていた。

 

「怒る……?おかしなことを言いますね先輩。私のどこが怒っているっていうんですか?」

「アッハイ」

 

 その口調が既に怒っていると思うんですけど言いません。怖いから。

 スッと彼女から目を静かに逸らした俺をいったい誰が攻められようか。普段天使天使しているマシュの怒気はそれはもう恐ろしく、下手に刺激して俺もそれにさらされようなら1日は立ち直れない自信がある。故に俺は眼を逸らすという戦略的撤退を取ったのだ。

 

 と、彼女から逃げるように目を逸らすとその先には俺―――正確にはマシュだろう―――に対して指を向けているランスロットの姿があった。

 彼は先程Wアルトリアと話をしていた時以上に身体を震わせながら恐る恐る口を開いた。

 

 

「……もしかして君は、ギャラハッド!?」

「―――――――」

 

 

 

 

 空気が死んだ気がした。

 ギャラハッド―――その名前が出た瞬間に、こちらを包囲しようとしていた粛清騎士たちも、それを足止めしていたアーラシュさんと藤太も、いつでも動けるように準備していたダ・ヴィンチちゃんと三蔵、Xにサンタオルタそしてべデイヴィエールも等しく動きを止めた。

 

 原因は分かり切っている。

 俺の目の前で盾を構えているマシュの雰囲気が一変したからだ。

 

 それは魔力の膨大な魔力の流れ。これまでは感じることのなかった渦巻きがマシュを中心に表れているい。これほどの魔力を纏った彼女を見たことはなく、正直何が起こっているのかわからない。只、俺が此処で言えることと言えば――――

 

 

 

 

「ホームズですら我慢してくれた真名(秘密)を此処でバラすのか……」

 

 

 

 

 という一点のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 マシュを中心として現れていた魔力の渦はすぐに収まった。特に周囲に被害を与えることはなかったが、だからと言って何の影響もなかったというわけではない。何よりマシュ本人に見違えるほどの変化を起こしていた。

 どこか守るところが少なかった鎧はその防御範囲を拡大させ、腰には細い剣のようなものが差さっていた。何より、先程とは段違いの魔力を彼女から感じることができた。まるで、英霊の身体を構成している霊基の質が一つ上がったような……はまりかけのピースが完全に収まる場所へと収まったような雰囲気だ。

 

「ギャラハッド……フフッ」

 

 ランスロットの言葉を受けてマシュは笑う。それは決して大きな声ではない。只、我慢できないという風にこぼれた静かな笑みだった。しかし、その場に居る全員の注目を集めるには十分なナニカを纏っている。三蔵法師は若干涙目であり、いつの間にか仁慈が着ているカルデア制服の袖をつまむ始末だ。仁慈に関してももはやどうすることもできまいと激流に身を任せるような心持をしていた。

 

「全て合点がいきました。私がここまで昂っているのも、ガウェイン卿を見て心を痛めた理由も、特異点Fでアルトリアさんを見たときの衝撃も、全て」

 

 静かに言葉を紡いでいくマシュ。その声音は――――冷たい。

 

「合点がいきましたので、改めて――――決闘です。サー・ランスロット。私は私の霊基(カラダ)が叫ぶままに貴方を叩き潰します。こう、マシュっと」

「………えっ」

 

 その時、余りにも間の抜けた声を漏らしたランスロットを誰も攻めることはできなかった。

 こうして時間を超えた奇妙な親子対決が幕を開けることになったのである。その場に居るサーヴァントのほとんどを置きざりにして。

 

 

 




ホームズですら気を遣えたというのにランスロットェ……。

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