「なかなかやるじゃねえか。いいところの出身と見えるが……中々どうして、楽しませてくれる」
「ククッ、純粋に武芸を競い合ったのは果たしていつぶりであったか………これも又貴重な経験だ……よかろう!この身は吸血鬼なれど、余の全力を以ってしてその身体、貫いてくれる!」
廃墟となった街並みの中で、黒と青がお互いの得物をぶつけあいながら自分たちのギアを上げていく。ぶつけあい、逸らし、敵の身体を貫かんと槍を振るう。その衝撃で周囲の瓦礫がはじけ飛んだりもしているが当の本人たちは関係ないと言わんばかりにより強く槍をぶつけ合っていた。
黒ジャンヌの召喚したバーサーク・ランサーはその名のとおり狂化が付与されており、自身の身体能力に上方修正を加えている。そのため、クー・フーリンはその打ち合いにおいては不利だ。しかし、その身体能力の差を彼は人智を超える槍さばきで巧みにイーブンまで持っていっている。
そんなランサー組が激闘を繰り広げている中、ヒロインXとバーサーク・ライダーは一方的な戦闘を繰り広げていた。
「星光の剣よ……赤とか白とか黒とか消し去るべし!」
「くっ―――!(魔力放出からの加速ですって!?)」
「みんなには内緒だよ。
「ぐぅうううう!?」
滅多切りである。見事なまでに滅多切りである。
敵であるバーサーク・ライダーが手も足も出ていなかった。しかし、これには理由がある。黒ジャンヌが召喚したサーヴァントはどのサーヴァントも狂化スキルが付属されている。そのため、力に頼りがちな戦法になってしまうのだ。このことは根っからの英霊と戦う時においては致命的な欠落となる。さらに言ってしまえば彼女、ステゴロの方が圧倒的に強いのである。しかし、クラスがクラスなためにその本来の力を出し切れていないのだ。……さらにさらに付け加えるならば、クラスの相性が致命的だ。狂化付与にライダーというクラスはアサシンのクラスであるヒロインXと大変相性が悪いのである。もちろんクラスに縛られないキチガイ染みた奴らもいるが今回はそれに当てはまらなかった。
「ッ!調子乗ってんじゃねえっつーの!」
「――――!?」
だが、彼女にも意地がある。自分たちが間違えているとしても一方的にやられるのは性に合わないとヒロインXの攻撃に無理矢理割り込み、拳を振るった。直感から直にその場を離れたヒロインXにその拳が届くことはなかったものの、直撃した地面は陥没しそこらに地割れができたほどだ。これには流石のヒロインXも脂汗を流す。
「――――フゥー……。ごめんなさい。私、今狂化をかけられてしまっていて、ちょっと狂暴化しているようです」
「………ちょっと?というか、そっちが完全に素じゃn―――「そぉい!」回避ッ!」
再び飛んできたミサイr―――ゲフンゲフン拳。それを紙一重でヒロインXは回避すると拳の範囲から出るために大きく背後に跳んだ。
「………予想外のまっするぱわーですね。これは時間がかかりそうです」
「言いたいこと言ってくれるわね……!」
微妙にシリアスになりきれないままヒロインXとバーサーク・ライダーの戦いは続いた。
最後に、バーサーク・セイバーとバーサーク・アサシンと対峙している仁慈とマシュである。……マスターである仁慈が足止めに参加している時点で色々間違っているような気がしなくもないが、そこは今さらなので気にしないでおく。
「あら、残念。あの聖処女の方がよかったのだけれど……男なのね……」
「男でどうもすみませんね」
そんな返しをしながらパッと見、帝国華撃団のような恰好をしている金髪のバーサーク・セイバーとSM嬢じみたバーサーク・アサシンと正面から対峙する。
「(なんだこの二人のコスプレ臭は……)」
「先輩どうしましょう?」
「(やべぇ、うちの方も大して変わらなかった)」
「先輩……?」
さすがに返事を返さないのはまずいと思ったらしい仁慈はいったん自分の思考をカットするとマシュに返事を返した。
「どうしたの?」
「敵は英霊二体です。やはり私たちで勝つのは難しいのでは?」
マシュの心配はもっともである。なんだかんだ言って普通に人間である仁慈とデミ・サーヴァントとなってから日が浅い二人では英霊に勝ことは困難である。しかし、そのことに関して仁慈はなんてことない風に答える。
「さっきも言ったように俺たちのすることは足止めだから。その点に関しては問題ないと思うよ。回避には自信があるし、マシュも耐久型だから十分に耐えられる」
先ほどは自信なさげにその言葉を発した仁慈だったが、今回は違う。完全にスイッチを切り替え、はっきりとした口調でその言葉を口にした。そのことにより、マシュも仁慈を信じて盾を構える。
「生意気ね、あなた。どちらが上でどちらが下か、私自ら教えてあげるわ。さぁ、かかってらっしゃい」
「そうですか。それでは胸を借りるつもりでいかせていただきましょう」
「胸っ――――!?なっ、何を言っているのかしら!この変態!」
「えぇ……(困惑)」
予想外すぎる返しに流石の仁慈も困惑を隠しきることができなかった。しかし、その困惑のおかげで周りを気にする余裕が失われ結果的に仁慈へ白い視線を送っているバーサーク・セイバーとマシュに気づかなかったことはきっと本人にとってとても幸福なことだったのだろう。まぁ、その直後にマシュからかけられた声によってその幸福も砕け散ることになってしまうのだが。
――――――――――――
くっ、まさか俺の発言を逆手にとって社会的に抹殺しにかかろうとしてくるとはなんということだ……!おのれSM嬢擬きめ!なんて恐ろしい技を使うんだ……!おかげで、先ほどまで信頼を向けてきてくれたマシュが若干冷たくなってきているんだぞ!
内心でそうSM嬢擬きを罵りつつ、相手の出方を見る。ぶっちゃけ、総合的に劣っている俺たちが突っ込んだらその場でカウンターからのKOしか思い浮かばない。
「――――――――――ッ!」
なんて考えていると帝国華撃団っぽい人が俺目掛けて一直線に向かってきた。なんでやねん。
英霊の例にもれず、高い身体能力から繰り出される素早い動きでこちらに接近してくるが、日ごろから兄貴と馬鹿みたいに槍を交えて鍛え上げられた動体視力を舐めてもらっては困る。振り下ろされた剣を召喚した槍で受け流そう槍を差し込む。だが、
「―――――げっ!?」
その衝撃を受け流したにも拘わらず俺の身体は風に煽られたごみのように宙を舞った。
「先輩!!」
「大丈夫だからそっちの方をお願い!」
俺に意識を向けていたマシュに指示を出しつつ俺も空中で態勢を立て直す。というか、受け流したにもかかわらず人ひとり吹っ飛ばすとかどういう力してんだあの華撃団員。
槍を地面に刺して、弓と矢を召喚して華撃団員に向けて放つ。エミヤ師匠から習ったことによってそれなりになった弓術から放たれる矢は敵を穿とうとするが、それらをすべて剣で弾くと再び彼女は接近を試みようと足に力を入れていた。
「まじか」
さすが歴戦の戦士はやることが違うわ。兄貴もそうだけど、次の行動に移るまでの間隔がなさすぎる。足元、頭、鳩尾、腕それらすべてに自分の持てるすべての技術を乗せた矢を放つ。魔力を浸透させて、普通のよりもはるかに強化されているはずの矢をごく普通にはじく姿を見て憤りを感じざるを得ない。どうしてこうも英霊と言う者は理不尽なのだろうか。ほんと、接近しながら矢を斬るとか頭おかしいんじゃないんですかね(真顔)
「はぁぁああ!!」
「のわっ!?」
気が付けばすぐ目の前に華撃団員が居たため弓を強化してぎりぎり剣を受け止める。しかし、先程受け流したにも拘わらず吹き飛ばすほどの力を持っている奴だ。強化も虚しく弓が真っ二つに裂けてしまう。
「くっ、舐めんな!」
さらに一歩踏み込み刺突の態勢に入った華撃団員と同じく俺も懐に入るように踏み出す。やることはもちろん拳での対応だ。兄貴との戦闘で培った目に任せて刺突を最小限の動きで回避を行う。そのあと行うのはもはやテンプレとなった八極の一撃。愉悦とマーボーでできたような神父である師匠に教わった武術。彼はこの技で数多もの人外を仕留めてきたという。俺にその技が出せるかどうかはわからないが、兄貴にも認められたこの攻撃を今は信じる。
――――喰らえ
「
「―――――――!?」
セイバーということで対魔力や前線で残れるだけの耐久力は確かにあるのだろう。だが、内部からの攻撃にはなかなか対抗できないだろう。なぜならそれは、内臓を直接殴られたにひとしいものだからだ。いくら体を鍛えたところで内臓までは鍛えることはできない。今回は黒騎士王に行ったものと同じく、すべての衝撃を体内に残すものを使った。これにはさすがの彼女も耐えきることができなかったらしい。一度膝を折ると最後の力を振り絞って背後に跳び、SM嬢の隣に立った。
「ただの人間相手に何をやっているの?」
「……ごはっ……ぐっ……内臓に直接、衝撃を送り込まれたんだ……がはっ……はぁ、はぁ……あのマスター、下手なサーヴァントよりも厄介だ。ハハッ、ああいうのを理不尽の塊っていうのかな」
「失敬な。理不尽が服着て歩いているような英霊には言われたくないんですけど」
「いえ、一番先輩が言えません」
また味方がいないよ。
近くに来たマシュがまたもや俺の精神を傷つけるようなことを言った。まぁ、それはいいか。
さて、改めて相手が二人そろったところで俺も次の行動に移る。本当ならもっと遅くに出しておきたいものなのだけど、出し惜しみは死亡フラグとわかっているので遠慮せずに出すことにする。
「先輩それは……」
俺が取り出したのは槍師匠からもらったあの槍。
実はこの槍、兄貴が持っていたものの劣化したバージョンということで神秘ととても相性が良かったのである。で、俺の魔力強化とダ・ヴィンチちゃんの改造を施した結果。真名開放なんてしなくてもある程度の破壊力を持たせることが可能となった。瀕死の敵もいることだし、思いっきりぶつけることにする。
「マシュ、ちょっと盾構えといて」
「はい!」
マシュに声をかけることによりこちらの二次被害を抑えにかかる。彼女が盾を構えたことを確認した俺は真っ先に槍に魔力を流した。
その槍の色と同じような深紅に光りだす。
「はぁ……はぁ……あれは、中々、マズイんじゃないかな……?」
「人間が何であんなもの使えるのよ……!?おかしいんじゃないの!?」
若干素が出始めているSM嬢と華撃団員。
しかし、ケルト流戦術を受講している俺が敵に容赦する確率は最初からゼロ%だった(ブロントさん感)。このままあの二人には裏世界でひっそりと幕を下ろしてもらおう。お前ら調子に乗った結果だよ?
「投擲!」
魔術とか科学とかが交差した深紅の槍がちょうど敵の足元あたりに着弾する。そして、間をあけずに、あたり一面を吹き飛ばした。
ドカンなんて音ではない。もはや何なのかわからないくらいの轟音が響き渡り俺たちの視界を光で染め上げた。着弾と同時に俺たちはマシュの構えた盾の後ろに隠れたからそこまで被害はなかったが、轟音が消え、あたりが戻ったときそこにはひどい光景が広がっていた。
瓦礫が転がっているというレベルではない。もはや隕石でも落ちてきたのかというようなクレーターが出来上がっており、ぶっちゃけ、黒ジャンヌたちが出した建造物の被害なんて無きに等しいくらいの被害を出していた。
「……おいおい」
「これはまた……派手にやりましたね」
「フム……」
「な、なんなの?アイツ」
「…………」
「……えっ、こんなのが来るなんて聞いてないんですけど。ジル?ジルー。………そういえばいないんでしたね……………これ、まずくないですか」
敵も味方もそろいもそろってこの反応である。あえて言わせてもらえば、俺じゃなくでダ・ヴィンチちゃんが悪いと思う。いったい誰があの槍をここまでの破壊力が出るまでの兵器にできると思うのだろうか。
「わ、私のサーヴァント達。いったん引きましょう。えぇ、それがいいです。そこの奴らの戦力も分かったことですし、手を考えましょう。ジルも交えて」
「マスターの意向であれば仕方ない」
「異議はないわ」
「私ももう戦える状態じゃないから問題はない」
「…………聖処女の血は別の機会にしましょうか。あれのいないところでね」
そう言って彼らは呼び出したワイバーンに乗って去っていく。しかし、その直前に俺が戦っていた華撃団員がこちらを向いて口だけ動かした。
「私を止めてくれてありがとう……か」
結果だけ見れば内臓をひっかきまわしただけなのだが、それでもありがとうと言うのは彼女はこのフランスに関わりのある英霊だったのかもしれない。国に忠誠を誓った騎士かシュバリエか何かだったのであれば、フランスを破壊する自分を止めたことに感謝してもおかしくはないし。
『サーヴァントの反応ロスト。完全にその場を離脱したようだ』
ロマンの言葉に体の緊張を解きながら一応敵意のある存在の探索を行う。こちらでは反応がなかったが念のためXの方にも確認をとる。彼女も首を振ってくれたので敵はもういないとみていいだろう。ここ最近、Xが完全にレーダーみたいな扱いになっているが俺は謝らない。何故なら直感は物凄い便利スキルだから。
警戒を解き、黒ジャンヌが飛んで行った方向を眺めているジャンヌさんに近づく。どうやら彼女の表情を見る限り納得のいく答えは得られなかったようだ。
「………すみません。私のわがままを聞いていただいて」
「大丈夫ですよ。敵サーヴァントの戦い方なども色々わかりましたし、全員無事でしたし」
「本当に、ありがとうございます」
彼女は元々村娘だった。しかし、戦場で先陣を切って戦っているうちに戦術なども分かるようになっていただろう。だからこそ、今回の行動が悪手であることがわかっているのだ。謝りたい気持ちもわかるため受け止めておく。
ジャンヌさんとの会話に一区切りつけたので今度は兄貴とXからほかのサーヴァントの情報を聞き出すことにした。
「どうだった?」
「あの男は中々やるぜ。特にいたるところから杭を出すなんて愉快なことをしてくれやがる。だが、あれは狂化されていることで攻撃的になっているんだろうぜ。本来なら自分の周りに忍ばしておいて、敵が踏み込んだ時に使った方が有用だからな。おそらくあのサーヴァントは本来防御に傾いた奴なんだろうよ。バーサーク・ランサーと呼ばれていたことから狂化されたランサーってとこか」
「私の方はライダーでしたが……正直、拳の方が強いというクラスを投げ捨てたサーヴァントでした。あえて当てはめるとすれば、グラップラーといったところでしょうね」
なにそれ怖い。
Xと戦っていたのってあの痴女シスターでしょ?あれでステゴロ強いとか超怖い。俺が戦った相手も見かけからは予想もできない力を持っていたけどね。やっぱり英霊は理不尽。
「私たちのところは多分、セイバーとアサシン……ですよね」
「うん。一人キャスターかと思ったけど、それにしては魔力の運用がかなりおざなりだった。唯、アサシンの特性が何一つとして生かされていなかったから、絶対に何かがあると思う。アサシンの枠に収まる何かがね。もう一人のセイバーはフランス出身の英霊だと思うよ。俺が戦闘不能に追い込んだとき『ありがとう』って返してきたし」
『なにごく普通に戦闘不能に追い込んだとか言っているのかしら……』
あーあー聞こえなーい。
所長のツッコミを塞ぎつつ、これからのことを考えようとした時、ロマンから通信が入った。
『ん?七時の方向にサーヴァント反応あり。数は二体だね』
「みんな、戦闘準備」
俺の声に反応したマシュたちは一斉にそれぞれの得物を構える。
「あら?あらあら、皆さまそんなに怖い顔をなさらないで。別に私、貴方たちと対峙するために来たわけではないの」
聞こえてきたのは何処かふわふわとした声。その声は何処かマシュに似ているような気がした。
そして、その緊張感に欠けた声とともに一人の女性……正確には少女と言える外見の女性と一人の男性が現れた。
受けた印象は、真逆な二人というもの。少女とも呼べるようなサーヴァントの方は表情から活発そうな印象を受け、まるで花のような雰囲気を放っていた。逆に男性の方は暗い雰囲気を纏っており、顔はピエロのようにも見える。
「この街からあの人たちを追い払ってくれたこと、感謝するわ。そして最後に優雅だったわ!」
「見てたのか」
何やらテンションを上げまくっているが、今の一言で警戒レベルを一段上げる。敵対しないからと言って自分たちの味方であるとは限らない。警戒してしかるべきだと思ったからだ。
「こらマリア。相手の警戒心を刺激するようなことを言うもんじゃない。そういう言動が君の最後に繋がっているんだよ?」
「余計なお世話よアマデウス。そんなことばっかり言っていると女の子に嫌われちゃうわよ?ただでさえ屑なんだから」
「ハハハ、知っているとも」
『”アマデウス”に”マリア”……ま、まさか!?』
ロマンはあの二人のサーヴァントの正体に気づいたらしく、驚愕していた。彼らのことを聞こうと口を開く前に、先に彼らが自分たちの正体を明かしてくれた。
「けれど、挨拶もなしに話しかけたのはだめだったわね。こほん、では改めて……ヴィヴ・ラ・フランス!私はマリー。マリー・アントワネットよ。パンがないならお菓子をたべればいいじゃない♪なんてね」
「だからそういう言動をやめなと言っているんだ。そのセリフ、別に君が言ったわけでもないだろうに……。はぁ、まぁいいや。僕はアマデウス。君たちにはモーツァルトと言った方がなじみ深いかな」
そうやって、簡単に簡潔に彼らは自分たちの真名を口にした。
……あまりに有名な二人の登場にその場に数分固まったのは今では情けなく思うことである。
一体理不尽なのは英霊と仁慈、どっちなんですかねぇ……。