この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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サーヴァントとしてではなく、マスターとしての物語。
簡単に言えば、マスタージンジという感じですね。

もし、仁慈がサーヴァントとしての物語を待っていた方々はすみません。今のところは続きを書く予定はないんですよね。
今、メインで書いているものが終われば書くかもしれませんが。


第零章 炎上汚染都市冬木
特異点Fプロローグ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の家系はいわゆる典型的な魔術師の家……というわけではなかった。いや、この言い方には語弊がある。より正確に言えば、樫原仁慈の家系はかつて魔術師の家系だった(・・・・・・・・・・・・)

 かつて、樫原の性を持つ者たちは、ほかの魔術師と同じような過程を経て根源にいたろうと考えていた。それはなぜか? もちろん前提があるということも重要だが、何より自分たちの興味関心がある内容を突き詰め、極めるためという極めて魔術師らしい考えがあったのだ。

 

 しかし、ある時、一人の樫原は思った。なぜ、魔術で根源を目指すのだろうかと、と。

 その者は魔術回路に恵まれていなかった。魔術を発動できないほどではないが、それでも消費の少ないものしか使えないし、大した効果も発揮しない。才能の有無がもろに出る魔術の世界においてこれは致命的な欠落であった。

 だからこそ、彼は考えたのだ。魔術ではなく、己の肉体を使って根源にいたって見せようと。根源とは言わずとも、それに近いことを成し遂げた英雄はわずかではあるものの存在する……その代の樫原はそれを求めた。

 

 今あげた考えを持った樫原は、刀を極めた。次に生まれた樫原も、彼の考えに同調し、槍を極めた。その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、別に樫原の当主でも何でもない者たちが、自身の才能のなさにもめげず自身にできることを引き継いでいった。

 すると、樫原はそんな彼らにいつの間にか染められていたのか、魔術を最低限に抑え、こぞって肉体での根源到達を目指した。正直、ただの脳筋の集まりだったといわれればうなずくしかない事態である。

 というか、目指している途中で若干趣旨が変わっていた。もはや、当初の目的である根源を目指すということを頭の隅どころか、家系図の端っこの方に寄せて、誰もが好き勝手に自身の体を鍛え始めた。ここに樫原は完全に魔術(物理)に傾倒した家系となったのだ。

 世の魔術師が聞けば指をさして大いに嗤うことだろう。

 

 そんな世間一般の魔術師とは一線を画する……どころか、空間の軸を少しずらしたかのような異次元に存在する魔術師となった樫原たちは、好き勝手やっている割には根源に確かに近づいていた。本人たちは気が付いていないが。

 

 過去の資料を糧に、さらに刀を極めた樫原はその踏み込みで音を置き去りにする縮地――――をもはや通り越して、0.5だけ時間を丸々飛ばすという時間旅行の亜種的なものを生み出し、HAKKYOKUKENを極めた樫原の拳は空間すら越え、敵にその比類なき強烈な一撃を見舞ったという。

 

 ほかの魔術師たちが聞けば、「まるで意味が分からんぞ!?」と発狂すること不可避な所業の数々。それらを成し得ることができる家系に仁慈は生まれた。

 

 彼が生まれてしばらくして、一族は皆仁慈の誕生に立ち会えた時を喜んだという。それはなぜか? 決まっている。それは――

 

 

 ――――樫原仁慈が一族始まって以来の麒麟児だったからだ。

 

 

 彼は一族の集大成ともいえる才能を身に付けて生まれてきた。

 刀を持たせれば、1週間で縮地をしながらあらゆるものを豆腐のように切り裂き、武術を教えれば、たちまち相手をなぎ倒す。弓を持たせればどんな体勢からでも的を外すことはなく、槍を持たせれば疾風怒濤の攻撃で相手に攻め込ませることすら許さない。

 おおよそ、人ひとりが生涯をかけてもたどり着けるかどうかという領域に、齢10を過ぎたころにはたどりついてしまっていた。

 

 そんな鬼才を持って生まれた仁慈が16になった頃、人理継続保障機関カルデアへの招待状が届いた。

 それを見た樫原の一族は大いに喜んだ。己達のやっていたことは間違いではなかったと。幾たびの世代を持って築き上げてきたものは他人に認められるくらいのものになっていたのだと。

 実際は、仁慈の保有する魔力が他よりも圧倒的に多いということをどこかで聞きつけた彼らが数合わせの素人枠として呼び出したのだが、そんなことをこの家の者達が知る由もなく、樫原仁慈はあれよあれよと荷物をまとめさせられ人理継続保障機関カルデアへと半ば強制的に送られてしまった。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「……なんでやねん」

 

 どうも初めまして。樫原仁慈といいます。家は、代々何かしらの武術を収めていっていること以外は割かし普通の家です。実家は屋敷だけど、なんでも一応は昔からある由緒正しき家系なんだとか。

 そんな感じの家系に生まれた俺はまぁ、普通に武術の手ほどきを受けてきたわけだ。こういう家は本人が望もうと望むまいとやらせることがあるのでその辺は気にしていた。しかし、俺がやるやつはすぐに家の人が止めてしまうのだ。刀は1週間、槍は3日、弓は3週間、武術は半年で家の人からストップがかかった。多分、才能がないんじゃないかな。やめさせる時は決まってなんか微妙そうな顔をされるし。

 

 そんなこんなで、16年間生きてきた俺ですが、16歳の誕生日を迎えたその日に家から追い出されました。

 なんでも、人理継続保障機関カルデアというところから呼び出しがかかったらしい。魔術がどうたらこうたら言っていた。初めて聞いたんですけど、というとそうだっけ? って首を傾げられた。うちの人たち適当すぎィ! つーか、勝手に俺の個人情報を公開しつつ応募とかしないでくれません?

 

 思わず、文句を投げかけるも、なぜかテンションがハイになっている親戚の方々は全く取り合うことなく、いつの間にかまとめられていた荷物を持たされた。さすがにこのままそのカルデアに行けと言われてもまったくもって納得できないので、何とか粘って簡単な概要だけでも聞かせてもらった。

 

 今明かされる衝撃の真実ゥー! うちの家系は魔術という摩訶不思議パゥワーを使う不思議家系だった……!

 武術全般どこ行った。そう突っ込んだ俺は多分悪くない。すると答えはすぐに帰ってきた。

 

 なんでも魔術師という人たちは根源というものを目指して頑張るようなのだが、その中でうちの家系だけは魔術で根源を目指すのではなく己の肉体を鍛え上げて根源にいたろうと考えたらしい。それはもはや魔術師でも何でもないんじゃないかな? と、そんなまっとうな疑問は隅に追いやられた。おい、会話しろよ。というかこの招待状、最後の方に数合わせの素人としてお招きいたしますありがたいと思えとか書いてあるんだけど。大丈夫なの? あ、全然聞いていないんですね分かります。って、ちょっ……何で背中押すんですかね? どうして俺の荷物を背負わせるんですか? どうして家の扉を閉めるんですか? おいィ? ……マジかよ。

 

 というのが、約12時間前の話である。

 現在は飛行機に乗り、電車を乗り継いだ先に到着したどこかの雪山で猛吹雪の中ひたすら山道を歩いている途中です。

 俺の荷物に入っていた「サルでもわかる現代魔術」という教本がなければ即死だった。移動がてら読んで、人目を気にしつつ試してみて本当によかったと思う。おかげで、自身の肉体強化の魔術を使えるようになったぜ。おかげでかなり厳しい雪山でもすいすい歩けちゃう。

 

 魔術のすごさを実感しつつ、さらに2時間が経過した。もしかして遭難したんじゃないかと思い始めた俺の視界に、雪山の景色にそぐわない人工物が見えた。おそらくあれがカルデアなのだろう。そうじゃないと困る。もし違ってもあの建物に入るけど。

 

 魔術で強化した足に力を込めてフッと飛び上がる。すると軽々と俺の体は5メートルほどの高さまで到達した。魔術を使うと俺も忍者のような身のこなしが可能となるのだ。アイエェェェェエエ!!??

 

「どうしてこんなところに造ったんだか」

 

 入口のところまで跳んで来て、目の前にある近未来的な扉を見ながら思わず独りごちる。とりあえず中に入ろうとすると、俺の耳に電子で作られたと思われる声が響いてきた。

 

『――塩基配列……ヒトゲノムと確認。――霊器属性……善性・中立と確認。ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。ここは人理継続保障機関カルデア。指紋認証、声帯認証、遺伝子認証クリア。魔術回路の測定……完了しました。登録名と一致します。あなたを霊長類の一員として認めます』

 

 そっからか。

 俺は霊長類としても疑わしいということだろうか。そうだとしたら、ものすごく失礼な気がする。

 

 

 ……まぁ、いいや。

 取り合えず、来てしまったものはしょうがないし、やれるだけのことはやってみよう。

 

 

 

 

 

 

 




カルデア終了のお知らせ。

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