この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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今回と次回ですまないさんがジークフリートに進化する!?(FGOのCM並みの正確さ)


やはり脳筋だった!

 

「………賛同しかねます」

 

 仁慈の意見に異議を唱えたのはジャンヌだ。いくらこのフランスを滅茶苦茶にした相手を倒すためだからと言って、街そのものを吹き飛ばすのは流石に違うだろうと彼女は思ったのである。それに、自分の国が壊されているところを見ていて気分の良い人間はそうそういないだろう。聖女として国のために戦った彼女であればなおさらである。もちろん、口には出さないがマリーも賛同はしていない。

 

「まぁ、気分はよくないよね。けど、これが一番勝率が高い方法だと思うよ。こちらは一人一人の戦力こそ群を抜いているものの、魔力源はそろいもそろって俺からの魔力だ。聖杯を握っていて、ほとんど無限と言っていいほど手駒を作れる相手にはかなり分が悪い」

 

 ジャンヌもそれを言われたら反論ができない。しかも、仁慈は全人類の未来を背負っているのだ。当然のごとく失敗は許されない。いくら非道な手段でも、特異点を正せば元通りになるということから実行することも辞さないこともあるのだ。そのことを知っているジャンヌは彼に強く出ることはできなかった。

 

「マスターは他人の心がわからない(ボソッ」

 

「X、聞こえてんぞ」

 

 Xの茶々に仁慈がそう返す。すると、ここでジークフリートから待ったがかかった。

 

「しかし、その宝具が防がれない保証があるのだろうか?もし、防がれたらマスターはただでは済まないぞ」

 

 単純に考えて、英霊数人分の宝具開放を同時に行う。それは通常の魔術師であれば一瞬で魔力が枯渇し死んでも不思議ではない蛮行である。仁慈と言う世界が生み出したバグとしか思えないマスターとダ・ヴィンチ印の魔力回復ポーションがあるからこそできる力技と言えるだろう。

 だが、その魔力回復ポーションも数が限られており、残りは二つ。敵の総力が正確に把握できない段階で保険たる魔力ポーションを使い切るのはかなりギャンブル要素が強いと考えられた。

 

『そもそも、僕たちの目的の中には聖杯の奪取も含まれているからね。今の行動、どう考えても聖杯ごと吹っ飛ばすことになるよ』

 

「………あっ」

 

 どうやら聖杯回収のことを完全に忘れていたらしい仁慈は間の抜けた表情を浮かべた後へなへなと地面に手を付いた。そして、その後このような方法を提案したことをジャンヌとマリーに謝罪した。流石にフランスラヴな二人相手にこの作戦はまずいものがあると考え直したのだろう。

 一方彼女たちも彼が好き好んでこのような方法を提案しているわけではないことを知っているためにあっさりと許す。なんとも和やかな雰囲気が充満するが、問題は何一つ解決していない。むしろ振り出しに戻っている。

 遠距離から根こそぎフッ飛ばそうぜ作戦が瓦解した今、これを超える作戦を思いつかないでいた。なにをどう考えても正面突破しか思い浮かばないのである。もはや世界の強制力が働いているのではないかと思うくらいには何も出なかった。

 

 そうして、一時間が過ぎ去った頃。仁慈は意を決してこれからの行動を口にした。

 

「小細工なしの正面突破を行います」

 

 話し合いとは何だったのか、この時その場にいた誰もがそう考えた。散々頭を悩ませた結果が脳筋を通り越した脳死作戦(笑)だったのだ。仕方ないことと言える。

 

『いや、いやいやいや。どうしてその結論に行きつくのさ!?何のための話し合いだったの!?』

 

『もう少し何とかならなかったの!?』

 

「えー……じゃあいいよ。聖杯が壊れない程度の威力を遠距離からぶち当てればいいんでしょ。というか、遠距離から俺と兄貴が槍投げ大会やっとけばいいんじゃないかな」

 

『投げやり!?』

 

 二重の意味で投げやりっぽい仁慈にオペレーター組は驚愕を隠せない。先程まで真面目に話し合いを取り仕切っていた彼は何処に行ってしまったのだろうか。やる気スイッチがぶっ壊れたのではないかと懸念したのはここだけの話である。

 実際仁慈は投げやりだった。何故なら本来の彼はこういったことを行わない。もちろん無謀に突っ込むということもしないが、戦いが始まったのであれば今までの経験をもとに直感で動くタイプの人間である。どれだけ脳筋ではないアピールとして策を練っても根本のところで脳筋なので直にぼろが出る。今の状態がまさにそれだ。

 

 ここまで色々うだうだと言葉を弄したが、結局のところ言いたいことは一つ。仁慈の頭がオーバーヒートしたのである。

 

「けど、突き穿つ死翔の槍(投げる方)は爆発するぜ」

 

「大丈夫でしょ。なにもオルレアンごとフッ飛ばそうってわけじゃないし。黒ジャンヌたちが寝床にしているところにそれをぶつければいいだけだよ」

 

「その場所の把握はどうするんだい?まさか、君やX君の直感だよりというわけじゃないだろう?」

 

「ロマンに任せる」

 

『僕!?』

 

「サポート、期待してるよ。本当に」

 

『含みがある言い方だね』

 

 回復ポーションを送ったこと以外には特にこれといった活躍がないことは彼自身も自覚済みなため、そこまで強く言い返すことはかなわなかった。ポーションも作ったのはダ・ヴィンチだし。

 

「まぁ、ここまで作戦会議的な何かで色々時間取らせて申し訳なかった。結局脳筋プレイの正面突破となったけど、宝具使いたい時には一言俺に言うように。急にブッパとかやったら俺が背後から座に還すから」

 

 仁慈の言葉に全員が震えながらうなずいた。

 それに満足した彼は、一瞬だけ笑顔を浮かべた後、再びきりりと表情を引き締める。

 

「オルレアンに行くぞ。最終決戦だ」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 道中、今までにないくらいの強力な狂化をかけられていたもふもふさんを俺と兄貴の槍で一突きして退場させつつたどり着いたオルレアン。

 人間である俺でも目視できる距離まで近づいたところで兄貴と視線を合わせる。そしてお互いに槍を構えてロマンが示す場所に槍を投擲しようとした。

 

 

―――だが、人生っていうのはいつだってうまくいかないものである。

 

 

『―――ッ!?サーヴァント反応あり!場所は君たちの目の前……種別はルーラーにセイバー、ランサー、アサシンだ!』

 

「アイエ!?」

 

 ロマンの通信に思わずニンジャ的な返答をしてしまったが俺は悪くない。そもそも、俺と兄貴が槍を構えたのはロマンから彼女たちの居場所を受け取ったからである。先程の反省を活かし、なるべく被害を最小限にしようと居場所を把握してから槍投げ大会を始めるつもりだった。

 が、結果として今、城にいたはずの反応が目の前まで来ているというか実際に肉眼でとらえることができている。これは一体どういうことなのだろうか。

 

「フフッ、別に。そこのマスターがやりそうなことを考えただけよ。街一つ消し飛ばすとか平気で言いだしそうでしょう?」

 

「ぐぬぬ」

 

 当たっているから何も言い返せない。ぐぬぬ状態になるしかないのである。愉快そうに笑う黒ジャンヌを若干力の籠ってない目で睨む。

 

「敵の方がマスターのことわかってますよ」

 

「つまりマスターは悪だったのね!」

 

「やめろやめろ」

 

 そういうこと言っちゃいけない。俺は戦場において善悪を持ち出すなって教育されてきただけだから。日常生活は普通に良識的だから。

 相も変わらず自分の味方であるサーヴァントにツッコミを入れていると、黒ジャンヌの後ろにファヴニールと大量のワイバーンが現れた。まさか、向こうから出向いてくるとは思ってなかった。こういうボスは裏でふんぞり返っているもんじゃないのかよ。

 

「まぁ、何はともあれよく頑張ったと一応褒めてあげましょう。しかし、それもここまでです。見なさいこの数多の竜を!もはやこの国は彼らの巣窟と成り果てました。これで、この世界は完結する。これで人類の未来は消滅するのです!これこそが、真の百年戦争……いや、邪竜百年戦争だ!」

 

 高らかに宣言するとともに彼女の背後から複数の人影が飛び出す。誰もかれも一度この特異点の中で交戦したことのある者たちだ。

 

「やあ、君たち健勝そうで何よりだ!特にそこのマスターはね。……正直な話、あまり戦いたくはないのだけど、召喚の仕様上そうもいかなくてね。色々発散するために付き合ってもらおうかな!マスター君!」

 

「上位存在が格下を指名するとかどうかと思うんですけど!」

 

 出てきて早々剣を構え、突撃してくるセイバーの斬撃を回避すると同時にカウンタ―気味に拳を突き出す。

 だが、この程度の攻撃を喰らう筈もなく難なく回避し嵐のような刺突を繰り出してきた。すぐさま全身の魔術回路に火をともして強化を施し、剣の腹を手の甲で弾きながら隙を伺う。馬鹿みたいに神経を使う動作だが、ぶっちゃけ武器を出している暇がないのでこうしてやり過ごすしかないのだ。

 

「ハッハ!やっぱり君はその辺の人間とは一味も二味も違うよね!テンション上がってくるよ!」

 

「前より狂化、進んでんじゃないの!?」

 

 前回戦った時よりも明らかにテンションがおかしいセイバーの斬撃&刺突を防御しながらなんとか状況を打破するために頭を使う。

 

「マスター!」

 

「っ!?」

 

 ここで、マシュが俺とセイバーの間に入りセイバーの剣を大きく弾く。その隙をついて俺もこの前彼女を沈めたものと同じ攻撃の体勢に入り、すぐさま拳を突き出した。しかし、セイバーはこれを弾かれた体勢からバク転をすることにより回避、地面に着地すると同時に地面を蹴り、速度を上乗せした神速の突きを放ってきた。それに対して、やることは変わらない。神速の突き、今までのように腹を甲で弾こうとしても手を貫かれるだけだ。ならば――――

 

 

――――狙うべきは武器を持っている手から腕にかけての部分。神速で放たれた突きの軌道と速度を計算し、自分の手をそれに合わせるように設置する。そして、計算通りの場所に来た瞬間腕に力を込めて腕をつかみ、そのまま下に方向性を変換する。

 

「フフッ」

 

 セイバーは体勢が崩れ、地面に叩きつけられそうになっても笑っていた。このとき、俺は忘れていたのだ。彼女が見かけによらない怪力の持ち主だということを。

 地面につく寸前でフリーになっている左手でセイバーは地面に接触するのを防ぐ。そして、想像を絶する力からハンドスプリングで起き上がりつつ、その勢いを利用して俺を放り投げた。迂闊……っ!

 

「これでとどめ!」

 

「舐めんな!」

 

 突きではなく、俺を真っ二つにするべく上から下へとその胆力に任せ剣を振り下ろす。当然、空中に投げ出されている俺は回避することができない。ならば、

 

 虚空より刀を取り出し、すぐにその斬撃を受け止める。もちろん、セイバーの筋力を空中で受け止められるわけなどもなく再び先ほどの勢いを超える勢いで後方に飛ばされる。まるでドラゴン〇かと思われるくらいには飛ばされたが、追撃を喰らって真っ二つになるよりは全然ましだった。というか、いい加減空中で移動できるようになりたいな。魔力で足場を作ったりはできないのだろうか。

 脇道にそれた思考を一瞬だけ行いつつも、体に染みついた癖からしっかりと受け身を取ってセイバーに向き直る。 

 ちなみにマシュは邪魔をするなと言わんばかりに集まって来たワイバーンの対処に追われており一緒に戦うことはできない。一対一で俺とやりたいってか。

 

「早く私を止めてくれよ。マスター君。正直、このままいくと彼女に剣を向けそうで気が気じゃないんだ」

 

「既に狂っている件について。後、そんなに死にたいならさっさと死んでくれよ」

 

「できたら苦労しないよ。この狂化は君が思っているよりも面倒なものなんだ。だから……」

 

「もう普通に別の英霊と戦ってろよ……」

 

 マスターである俺のところにやってくるから簡単に死ねないんだからさ。その旨を彼女に伝えるが静かに首を振られることで俺の意見は否定された。なんでさ。

 

「私はね。君に倒してほしいんだ。自分でもよくわからないけど、初めて君と戦った時から君のことが頭から離れなくて……」

 

「狂化で思考回路と倫理、思想まで狂ったか」

 

「体が疼いt(ry」

 

「やめい」

 

 ふざけて会話をしているように見えるけどしっかりとこれには意味があるのだ。このような時間の間でも魔力回復に回さなければ後半でばててしまう可能性がある。なるべく無駄に会話を続けて何とか魔力切れという事態を防がないと。あ、今誰か宝具使った。

 

「っ……。そろそろ我慢するのがつらくなってきたから、次で終わりにしよう。大丈夫君なら私を殺せるって信じてる」

 

「ありとあらゆる意味で複雑だ」

 

 と、言いつつ呼吸を整えて全身の力を抜く。

 向こうは筋力ももちろんのこと耐久も中々に優秀らしく正しく前線職の鏡と言えるほどのステイタスを誇っている。そのため、馬鹿正直に槍で貫くよりも、防御や耐久無視のこっちの方が有効なのだ。え?サーヴァントには神秘しか効かない?大丈夫だ。俺が師匠から教わったのは唯の八極拳ではなくマジ☆狩る八極拳だから。神秘の範疇。

 

「スゥー……」

 

 一度息を吐ききってからセイバーを真っ直ぐに見やる。

 ……そして、俺が先にセイバーが一歩遅れて動き出した。

 

 お互いがお互いに接近しあっているために、その距離は一瞬で詰まる。地面を蹴ってから一秒後には目と鼻の先にセイバーの顔があるくらいだ。

 セイバーから放たれた剣先から視線を逸らすことなく、見据える。タイミングを計り、自分の体にそれが接触する時間を計算し、回避を実行に移す。その工程を経て俺はセイバーの剣を紙一重で回避する。多少の誤差があったのか、前髪がいくらか切られてしまったが、そこは完全に無視。今の俺がすべきことはこの一点を以って目の前のサーヴァントを倒すこと。前回のように不完全なものではない。今度こそ、完全に殺しきる。

 

「シッ!」

 

 ドンッ!と地面に足をつけた瞬間我ながら人間が出すとは思えないくらいの重音が周囲へ響き渡る。そこから体に伝わってくる勢いをすべて攻撃へと変換し相手の内臓すべてをバラバラにする勢いで体から逃げないように叩き込む。

 

「―――――――――」

 

 声すら出せず、その身体が光の粒子へと変換されていく。そんな中でもセイバーは笑顔だった。前に戦った時もそうだったが、やはり彼女はこのフランスに縁のある人物なのだろう。今だってマリーのことをなんとも言えなさそうな表情で見ているし。

 体も半透明になり、実体化が維持できなくなってきたころ、セイバーは再びこちらに視線を固定した。声は出ないためか、この前と同じく口パクだったが言いたいことははっきりと聞き取ることができた。

 

 言葉が伝わったことを向こうも感じたのか、狂化しているときは決して見せることがなかった穏やかな顔を浮かべた後セイバーは消滅していった。

 その光を見送った後、全体の戦況を把握し、今からファヴニールに突撃をかまそうとするジークフリートさんのもとへと向かったのであった。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「マスターか。そっちの方は決着がついたらしいな」

 

「つけましたとも。意地でもね」

 

「お見事です仁慈殿。……そして申し訳ないのですが、ここでファヴニール討伐にもどうか手を貸してくれませんかな」

 

「別に問題ないよ」

 

「私もマスターと一緒に行きます!」

 

 ワイバーンの相手が終わったらしいマシュも含めて俺、ジークフリートさん、ゲオルギウスさんの四人は今からファヴニールを倒しに向かおうとしていた。

 ここで、唯一にして無二の討伐経験者であるジークフリートさんにどの様にして倒すのかということを聞いてみる。

 

「正直なところ、何をどうすればいいのかわからない上に成功率は物凄く低い。当初、どのようにして勝てたのか今でもわからない」

 

「ちょっ!?いきなり不安になるようなこと言わないでくれませんか!?」

 

「どうしてそんなに自己評価低いんですかあんた!」

 

「すまない。……だが、それは事実だ。あれは勝って当然の戦いではなく無数の敗北の中からわずかな勝利を引き上げたに過ぎない。もう一度、同じことをやれと言われても中々難しいだろう。あれは相反する二つを同時に行うというような矛盾を乗り越えないと絶対に倒せないような怪物なのだから」

 

 戦いの直前でとんでもないくらいの不安を煽ってくるじゃなの。

 けれど、

 

「大丈夫ですよ。矛盾した行動なんて、存在そのものが矛盾しているマスターにとっては容易いですよね!」

 

「笑顔で毒吐くのやめーや。……でもそうだな。自分の持てる全力を出しますよ。出しますとも」

 

 

 

「フッ、大胆なマスターで何よりだ。―――――――邪悪なる竜よ。お前が何度でも復活し、その力を振るうというのであれば、俺は何度でもお前の前に立ちふさがり、黄昏へと叩き込もう。かつて受けた剣戟を再びその身に刻み、地に沈め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今週から来週にかけてテストがあるので投稿が遅れます。申し訳ありません。
ジークフリートさんの活躍(予定)は少々お待ちください。

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