「ふぅ……。無事レイシフト完了です。大丈夫ですか?先輩」
「大丈夫。ありがとう……ってあれ?兄貴は?」
「フフフフフフ………」
「「あっ(察し)」」
レイシフト先で直前まで居たはずの兄貴の姿が見えず、代わりに清姫が居ることからXと共に彼が今ここにいない理由が分かった。どうやら、兄貴は清姫に無理矢理追い出されてカルデアに置いて行かれたらしい。兄貴ェ……。
「ところで先輩上を見てください」
「上?」
マシュの言葉を受けて視線を上に向ける。するとそこにはオルレアンにもあった光の輪が上空に浮かんでいた。
やはり今回もこれがあるのか。………これは特異点に必ずあるものとして考えていいだろう。
「ロマン。あれ結局何?」
『光の輪のことかい?正直サッパリだよHAHAHA!お手上げだね!』
「おい」
返しが軽いわ。
もう少ししっかりしてくれよ……。
『所で、そこはどう考えてもローマの中じゃないよね?』
「ローマってすげぇな。ここまで自然豊かなんだぁ。まるで丘陵地帯ミタイダナー」
「先輩先輩。みたいではなく丘陵地帯なんですよ」
知ってますとも。いくら何でもここが本気でローマなんて思っていたわけじゃない。確かローマって石畳とかだった気がするし。いくら何でもここが本気でローマなんて思ってないよ?
「ならいいです」
心を読まないでください。
「嫁なら必須スキルですよ?
心を読まないでください(切実)
マシュならまだいいんだけど貴女はマジでやめてください。お願いします。
清姫の言葉を必死に聞き流しながら、周囲に視線を巡らせる。
付近に敵影はなし。唯、どこかで大勢の人がぶつかり合っている音がするな。結構な規模だ。
「ロマン。周囲に敵影はないけど音が聞こえる。声は大勢の人間が戦闘している音だ」
『なんだって?時代からして今はまだローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウスがしっかりと人々に愛され、栄華を極めている時だ。そこまで大規模な戦いは歴史上確認されていない』
「ということは―――」
「既にこの時代で何かが起きているということですね」
Xが俺の言葉を続ける。彼女の言葉にその場にいる全員で頷く。
『とりあえず、音のする方へ行ってくれるかい?』
「了解」
ロマンの言葉に従って俺は音が聞こえてきた方向へと進んでいく。すると音が聞こえるだけあってすぐに大人数の影を確認した。しかし、片方の集団はかなり少ない。ぱっと見、攻め手である集団の半分以下ほどしかいないのである。
「何であれで拮抗で来てるんだ?」
「……マスター。あれを見てください」
首を傾げる俺に声をかけたのはヒロインX。彼女の指さす先には大人数の敵をほぼ一人で相手取っている一人の女性が居た。……ん?どこか見覚えのある顔だな。なんだろう、毎日毎日普通に顔を合わせているような顔……あっ(察し)
隣でマシュがロマンに現状を報告していて、今後の方針を決めているのだが、そんなこと関係なしにXが突っ込んでいきそうなオーラを出していた。理由は単純明快、小規模な方の部隊で獅子奮迅の活躍をしている女性が剣を使いXと似たような風貌をしているからである。
これはマズイ。どう考えてもXのセンサーに引っかかっている。オルレアンで邪ンヌを倒してから多少この病気も収まって来たと思ったが、やはり本物を前にすると我慢できなくなるらしく今も聖剣を持つ手がカタカタと震えていた。
「やめろX。彼女からサーヴァント特有の気配を感じない。完全にこの時代の人だぞ。顔は似てるかもしれないが、セイバーじゃないんだぞ」
「いいえマスター。彼女は放置していると必ず私の障害になると直感が告げてきています」
「なんというスキルの無駄遣い」
Xにとってはこれ以上に重要な使い道なんてないのかもしれないけどさ。
『確かに仁慈君の言う通り彼女はサーヴァントじゃない。でも、普通の人間にも拘わらずあの力……いったいどうなっているんだ?こんなの前例が……あっ』
「あっ」
「……………何?その『ここに居た』と言わんばかりの表情」
話の流れからして言われるとは思っていましたけどね……。
それはともかく、大規模な範囲に展開されている部隊の目的は彼らの進行方向からしてローマ帝国だろう。小規模部隊の方はローマの防衛部隊とみるべきか……ならどちらに味方するのかは決まってるな。
「あの少数の部隊を掩護するよ。このままいくとあの大規模部隊、ローマに攻め入りそうだし」
「はい。私も賛成です」
「
「私はあります。なんといいますかこう……今がチャンスな気がするのです。あの憎き赤を屠るチャンスは……!オワコンの汚名を晴らすチャンスは、今しかっ、ないのですッ!」
ジャンヌの時以上にものすごい気合を入れていらっしゃる。いったい彼女とXの間に何があったというのだろうか。けれども、ここでうんいいよというわけにはいかない。彼女はこの時代で俺たちに協力してくれる人なのかもしれないのだから。
「………ここで我慢してくれたら帰った後Xの望みをできるだけ叶えてアゲヨウカナー」
「ん?今なんでもするって言いました?」
「できる限りとも言ったけど」
「本当ですか?本当ですよね?もし嘘だったらマシュにあることないこと言いますからね?」
「おいバカやめろ。俺の唯一の癒しだぞ」
マシュに嫌われるようになったら泣くんだけど「先輩最低です」とか言われたらもう立ち直れないよ。人理復元とかどうでもよくなるかもしれない。
「その時は私が癒してあげますよ?安珍様《ますたぁ》」
声が似てるから本気でやめてください(土下座)
天使かと思ってつられていったら清姫だったとかいう落ちが来ると本当に立ち直れないので。貴女は………せめてそのままで居てください。
「まぁ……!ありのままの私をそんなに愛しく思ってくれているなんて……!」
「あー、うん。それでいいよ」
これ以上相手にするのは時間の無駄……とまでは言わないけれど俺の精神がゴリゴリ削られるのでスルー。話をXに戻す。
「で、どうする」
「ぐぬぬ………。ここであれに引導を渡すのもいいのですが、普段全くデレることのないマスターにアレやコレをやらせる機会を得るというのも捨てがたい………」
しばらく悩んでいたXだったが、やがて決めたのか俺の方を見て一言「帰ってから楽しみにしたいと思います」とだけ言った。どうやら俺に対するお願い権にしたらしい。
「じゃあ、行きますか」
『はい!』
一応サーヴァントは居ないけど人数が多いから気を付けないとな。
そう考えながら、強化魔術と魔力放出を並行して使いローマへと進行する大群の中に身を躍らせた。
―――――――――
そこにあるのはもはや防衛戦ではなく一方的な蹂躙だった。それはそうだろう。いくら相手が大群とは言え、仁慈たちが率いているのは英雄たちだ。それぞれが一騎当千の猛者と言っても過言ではない。それが三人もいるのだ。数だけで構成されている彼らに勝てる通りはない。そして何より、
「……」(ドドドヒャァッ!!
とんでもない速度で気持ちの悪い軌道を描き動き回っている仁慈の存在が止めとなっていた。彼が自分にかけた魔術やその他諸々の所為で台風かと見間違うくらいの活躍を見せているからである。
右へ左へと、残像を残しつつ一人ひとり確実に敵の意識を刈り取っていく姿はまさに
変態。にやりと唇の端を吊り上げていることから敵の精神にも大変よろしくない。精神を切り崩し仲間を一人ひとり刈っていくことでもはやローマに攻め入ろうとした者たちは戦う気力を折られていた。
やがて、仁慈立ちが好き勝手に暴れまわった結果か、それとも仁慈本人が変態的すぎた所為か大群は引いてきた。去り際に仁慈の耳に届いてきた「なんだあの変態強すぎる……」という声を本人は無視することにした。
「戦闘終了。お疲れ様です先輩」
「お怪我はありませんか?
「うん。問題なし」
さっと体を確認し終えた後報告をして、俺たちが助けるまで一人であの大群を相手取っていた女性に視線を移す。
「先の戦いでは助かったぞ。貴公ら。余は貴公らの戦いを高く評価する。……特に、美男美女がそれぞれ信じられないような戦いを見せるのが気に入った。そこな男の戦い方も実に思考が巡らされて実に無駄のないものだったな!うむ、あの戦いを評価して貴公らには余と轡を並べて戦うことを許す。至上の光栄に浴すがよい!」
おぉ、なんだかものすごく偉そうだ。一応部隊を率いているのだから立場が低いってわけじゃないだろうけど、この話し方はどうにもおかしい気がする。まるで彼女がもっと偉い立場にいる人間なのではないかと思わせた。
「ははーっ、ありがとうございます」
何はともあれとりあえず乗っておこう。
今の状況を総合的に考えるに彼女達はローマの人たちで間違いない。そして、大群が攻めてきたにも拘わらずこの少なさは、今のローマに戦う人材がいないことを知らせてくれている。
そこに、ある程度以上の実力を持って明らかに不利であった自分たちに味方してくれた俺たちを逃がすほど彼女の眼は節穴ではないだろう。十中八九俺たちをローマに連れていき戦力として活用したがるはずだ。それを見越してのノリである。
「うむうむ。では、貴公らの報酬についてはローマに帰還した後にしよう。存分に期待するがよいぞ。………ただ、貴公らは異国の者か?少々露出が過ぎるのではないかと余は思うのだが……」
俺の狙い通りローマでそれなりの待遇を約束してくれた彼女はそういう。しかし、その言葉をぶつけてきた彼女の格好だって北半球は丸見えだし、下なんて思いっきり透けて、下着が丸見えである。人のことは言えない。だからと言ってここでツッコミを入れて気分を損ねるのもあれなので、
「そうですね。特に盾を持っている彼女の服装は私もそう思います(キリッ」
「せ、先輩!?」
これを機に、マシュの鎧のデザインについて意見することにした。
前にも言ったけど腹は隠そうぜ。
何はともあれ、こうして俺たちはローマへと無事たどり着くことができた。
おまけ
「それにしてもXが随分と静かだなぁ。交換条件を出したとはいえ、思いっきりにらみつけるくらいは想定していたんだけど」
「彼女なら………あれです」
清姫に指された場所に視線を移す。するとこそには、
「いったいマスターに何をさせましょうか?私だけ豪華な食事をするということは?いやしかし、一日中一緒にいてもらうという選択肢も悪くはない。……いっそのこと私こそが最強のセイバーとマスターの口から言ってもらうことも…………ブツブツ」
……………………欲望ダダ漏れじゃねーか。
「>そっとしておこう」
「私もそれがよいと思います」
Xはマイルームのボイスからしてマスター大好きだと思ってます。
特に「セイバーなんてどうでもいい~」というセリフからの勝手な思考ですが、マスター大好きなXはかわいいと思うんだ。