この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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スパルタクスさんは書き手に回るとすごく面倒臭いですね。
書いてて実感しました。


遠征(遠足じゃないよ)

 

 

 

 

 ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウスと同盟のような関係になってから、数日。特に進展らしい進展はなかった。

 襲い来る連合ローマ帝国とやらを追っ払うために世紀末オリンピック槍投げ大会を開催したり、物資をえるために必要なサークルを作るついでに邪魔しに来る奴らを蹴散らしたりしただけである。どちらもサーヴァントが投入されていなかったため、簡単に片付いたのは幸福なことだった。

 さて、そんな感じで過ごしている俺たちにネロはガリアに来てほしいと頼んできた。自分が行くことでそこで戦っている配下の士気を上げるんだと。

 こういう人が上だと下も助かるよね。アクティブな上司は困ることもあれど有事の時は総じて頼もしいと相場が決まっている。彼女もきっとそのタイプなのだろう。

 

「皇帝自らが遠征を行う!準備せよ!」

 

「ハッ!」 

 

 40秒で支度しな!と言わんばかりの勢いで指示を出すネロ。その甲斐あって、30分もしないうちに準備を終えた。早い(確信)。

 ガリアまではそこそこ距離があるらしく、馬を使って移動するとのことだ。マシュには騎乗スキルがあり、ヒロインXは元々がアルトリア(断言)だっため、馬に乗れる。俺もオルレアンでワイバーンに乗ったので何とかなると思う。清姫はそれといったスキルがなかったため、自分のではなく誰かの馬に乗ることとなった。

 ……ここまで言えばわかるだろう。当然乗る馬は俺が乗っている馬である。

 

「あぁっ、乗馬がこんなにも良いものだとは知りませんでした……!合法的に肌と肌を触れ合わすことができるなんて……ッ!昂ってしまいます!」

 

「やめろ清姫!落ち着けぇ!それ以上(淫らな)気を開放するなァ!」

 

 年齢に似合わないものを押し付けながら興奮する彼女に俺は某伝説の息子を持つアスパラのように懇願するしかなかった。どうしてこの子はこうも積極的なのだろうかもう少し周囲の目を気にしていただきたい。こういったことを公衆の面前で行うと下がるのはいつも男の評価のだから。もうマイルームでは添い寝くらいしてあげる(諦め)からさぁ……。

 幸い、ここには清姫の奇行に慣れている人と、若干ものの見方が違うネロしかいないのでそこまで酷いことにはならなかったが、本当にこれを直してもらわないといつか致命的な隙になりかねない。狂化EXの清姫をどのように教育したらいいのかと考えていると、いつの間にかガリアについていたらしい。途中で連合ローマ帝国の奴らと鉢合わせした気がするけど気の所為だった。ゴミ屑のように飛んでいく人間なんていなかった。うん。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「ガリア遠征に志願した兵士諸君。よくぞ今まで持ちこたえてくれた。是より余も遠征の力となろう。さらには、ここに一騎当千……を上回る力を持った将もいる!この戦い負ける道理はない――――――余と、そなたたちの愛するローマに勝利を!」

 

 ガリアの遠征に参加している兵士に向かってネロが演説を行う。彼女の目論見通り、自分たちの大将が体を張って最前線に来てくれたということで兵士の士気はうなぎ登りだ。今も、鼓膜が破れるかと錯覚するくらいの歓声があたりを包んでいる。

 

「す、すごい歓声です」

 

「ふむ………流石赤。注意されるだけのことはありますね。やはり消した方が……」

 

「X!新しい菓子よ!」

 

 暗黒面に落ちかけたXにネロに頼んで作らせてもらった菓子を投げて落ち着かせる。くそっ、戦力的には申し分ないのにそれ以外が致命的すぎる。これは菓子がなくなるまでにガリアを奪還しなければならないか……ッ!

 

 マシュとロマンがシリアスムードを醸し出す中、俺もシリアスだった。具体的に言えばどうやってこの狂犬どもを大人しくさせようかということであるが、これは意外とシャレにならないのである。Xを放置しておけばローマからも連合ローマ帝国からも狙われかねん事態になるし、清姫だって敵味方関係なく焼き尽くす可能性もあるのだからどれだけしっかり手綱を握っていられるかというのは重要なものなのだ。

 

「おー。思ったよりお早い到着だったね。ネロ・クラウディウス皇帝陛下。……ん、そっちの初心そうな男の子が噂の客将かな。見た目に反して強いんだってね。遠路はるばるこんにちは。私はブーディカ。ガリア遠征軍の将を務めてるよ」

 

 それぞれがそれぞれのシリアスを醸し出していると、二体のサーヴァント反応が感じられ、そのうちの女の人の方が自己紹介をしてきた。

 どうしてこの人も胸元を開けているのだろうか。ちょっとだけそう疑問に思った。

 

「ブーディカ?」

 

「そう。ブリタニアの元女王ってやつ。で、こっちのでかい男が―――」

 

「|ω・`)ノ ヤァ」

 

『…………』

 

「うわ、珍しい。スパルタクスが誰かを見て喜ぶなんて滅多にないよ。――――いや、ごめん訂正。他人を見て喜んでいるのに襲い掛からないのなんて滅多にないわ。あなた達すごいね」

 

 ………いやいやいやいや。

 俺からすれば、今の顔文字擬きでそこまでの意思を読み取ることのできた赤毛の貴女の方がすごいと思うんですけど。というか、あの短い動作の間にそこまでの意味が込められていたとでもいうのか!?

 

「(ロマンどういうことだ。まるで意味が分からんぞ)」

 

『(僕に聞かれても困る)』

 

「(どうしましょう。あの筋肉の言葉がまるで翻訳できません。いったいどこの言葉なのでしょうか……)」

 

『(仁慈君。君なら何とかなるんじゃないの?)』

 

「(俺は英語も熊本弁も収めてない。当然あれもわかるわけがない)」

 

「(⊃・ω・)⊃*名前* 」

 

「(おい、さらに重ねてきたんだけど。ロマン何とかしてくれ)」

 

『(無理無理無理無理。そもそもあの筋肉で顔文字を駆使しているという光景自体が既にきつい。あの顔で顔文字再現とかどうなってんのさあのサーヴァント!?)』

 

 カルデア勢、混乱の極みである。

 ゴツゴツの筋肉ダルマともよべる二メートル越えの成人男性の顔から繰り出される顔文字は俺たちに見事混乱の状態異常を付けた。

 これにはブーディカと名乗った女の人も助け船を出してくれた。

 

「あはは。やっぱり、あったばっかりでスパルタクスの相手は厳しかったね。彼は今君たちに名前を聞いているのさ」

 

「(・ω・)( ._. )(・ω・)( ._. )」

 

 わかるわけがない。そもそも分かろうと彼の顔を直視した瞬間噴き出してしましそうになるためどちらにせよ理解できるわけがない。マシュだって顔には出していないが、肩を微妙に震わせている。ロマンは若干声が漏れていた。

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「謎のヒロインXです」

 

「清姫です。どうぞ、よろしくお願いします」

 

「樫原仁慈です。よろしくお願いします」

 

「うんうん。よろしくね。と、言っても名前はこっちにまで届いて来てて知ってるんだけど。なんでもお気に入りの客将なんだってね。皇帝陛下?」

 

 一通り、自己紹介を済ませるとブーディカがからかう様にネロに話を振った。しかし、彼女は頭痛がひどいらしく現状の説明をブーディカに投げテントの中に入っていった。………ネロ・クラウディウスって確か頭痛持ちだったか。

 

 ブーディカがどこか不安そうな面持ちでネロを見送った直後、兵士の一人が足早にやってきて報告を行った。

 なんでも敵の斥候部隊がこの付近に居て、今離脱を図ろうとしているらしい。追撃を加えようにも敵の足が速すぎて追いつかないとのこと。

 

『まずい。こっちの情報を持っていかれるぞ……!』

 

「敵の規模は?」

 

「は?」

 

 唐突に俺がそう尋ねたため兵士は一瞬だけ呆けた顔でこちらを見た。しかし、すぐにブーディカと普通に一緒にいることから客将だと判断した兵士は規模と場所、そしてその進行速度を知らせてくれた。

 彼の報告を聞いた俺は、その兵士に追撃に向かわせているこちらの兵士を下げろと指示を出した後、異次元バックから改造済みの紅い槍―――――フェイク・ゲイボルク(verダ・ヴィンチ)を取り出して速度を計算し、敵集団がいる方向に構える。

 聖杯のバックアップがあるため特に遠慮することなく魔力を込めていき、限界寸前まで溜め終えたところで、兵士から撤退が完了したとの報告が入る。それを聞いて待ってましたと言わんばかりに全身の筋肉を無駄なく使い、フェイク・ゲイボルク(verダ・ヴィンチ)を投擲した。

 

「えっ!?」

 

「先輩……まさか……」

 

 投げたフェイク・ゲイボルクは紅い線を残しながら真っ直ぐ逃げようとしている部隊へと狙いを定め、彼らの中心に着弾。例外なくその部隊の人間を吹き飛ばした。

 

「ロマン。反応は?」

 

『綺麗さっぱりなくなったよ。………ほんっっっと容赦ないね。時々僕らは本当に人類史をあるべき姿にしているのかと疑問に思えるよ』

 

「してるさきっと。そう信じようじゃないか」

 

『よりにもよって元凶に慰められた!?』

 

 ぎゃーぎゃーうるさいロマンはとりあえず無視するとして、これで敵に情報が渡らなくなった。ついでに必要以上の魔力を込めて派手にしておいたから相手にも迂闊に近づけばどうなるのかは伝わったはず、他にもいる可能性もあるけれどひとまずは安全とみていいだろう。後は、

 

「X、敵の斥候部隊は他に居そう?」

 

「人数が多すぎで把握しにくいのですが……それらしき気配に心当たりはありません」

 

「わかった。ありがとう」

 

 なら、ひとまずは安心してよさそうだ。

 

「あぁ……っ、ますたぁ。流石ですわ!その激しさを床の上で私にも……!」

 

「やっても途中で気絶すると思う」

 

 やる気はないけどね?

 清姫の純粋さから言って普通に容量オーバーからの気絶まで行くと思うんだ。視線を清姫からそらしてみれば呆然とこちらを見ているブーディカと目があう。

 

「どうかしました?」

 

「いや………噂に違わぬ力だなぁと。今攻めているガリアにいる敵将はかなり強くて、君たちがどのくらい援軍として期待できるか試そうと思ったんだけど……必要なかったみたいだね」

 

 苦笑気味にそう言われた俺はいつものことですと返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、彼女の身の上について聞いたのちに風呂に入ろうという話で盛り上がり、案の定清姫に突撃されかけたりしたが関係のないことだろう。

 

 

 

 




次のDEBU戦。不意打ちしちゃうと聖杯の在り処を聞けなくなるんですよねー。どうしましょう。

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