そちらが気に入らないというのであれば、ご注意ください。
更に、狂化ルートにはいったことから一つ設定を変更します。
ザイードさんの幸運値を元ネタ通りEXにしました。
これで彼も真の暗殺王(白目)になりましたね!
レフ・ライノールの召喚に応じた自称暗殺王ザイード。
彼は今、非常に焦っていた。
何故なら、暗殺対象の名前だけは聞いたのだが、それ以外の情報がまるでなかったからである。彼もアサシンだ。はじめから自分の姿が見えていないという前提さえあればどのような暗殺も誘拐も行える自信を持っていた。
が、今回の場合はそれ以前の問題だ。ネロ・クラウディウスについては何とかなるだろう。彼も幾多の王族や人々を屠って来た人物だ。経験からそういった人物の割り出しは行うことができる。
だが、誘拐対象のマシュ・キリエライトという少女……特徴が全く分からない。ついでにその実態もわからない。性別ですらザイードにとって確実な情報ではなかった。ここに来て一度本拠地に戻り、特徴を聞いてこようかとも考えたが、そうしてしまっては夜が明けてしまう。暗殺者にとって最も重要なことはその姿を見られないことだ。
その前提があることによって暗殺者は無敵となることができる。魔術師が自分の魔術工房を作って準備をするのと同じようなものだ。
「私としたことが……。少々はしゃぎすぎたようですな」
移動している間に冷静になったザイードはちょうど目の前に見えてきたローマへとさらに足を速めた。マシュ・キリエライトについてはその時、誰から聞き出せばいいと考えたのである。
ザイードは難なくローマに侵入し、そのまま闇を縫うようにローマで最も大きな建物に向かう。時に壁に、時に障害物の陰に隠れながらとうとうザイードはネロの屋敷と思われる場所へとやってくることができた。
「他愛なし」
そのまま、持ち前の気配遮断スキルを使用して屋敷……というより城に侵入を果たす。音を立てない完璧な足運びで城内を詮索する。
ここで補足をしておこう。
このザイード、特殊な召喚の所為で宝具を使えないというかなりのデメリットを背負っているのだが、その見返りとしてか幸運値EXという常識外のステータスを誇っているのである。つまり、何が言いたいのかと言えば、適当に歩いていても目的の場所にたどり着けるのだ。
しばらく歩いていると、明らかに他とは違う豪勢なつくりをした場所を見つけた。おそらくここが皇帝ネロの部屋であろうと暗殺者の勘と幸運が言っていたので、彼はそこに近づこうとする――――しかし、すぐさま自分の方へとやってくる気配を察知し、彼は一度身を潜めた。
ザイードが感じ取った気配の正体はXと清姫であった。
彼女たちはため息を吐きつつもネロが居る扉の前に立ってそのまま各々が好きなことをやりだした。
彼女たちがいるのは当然ネロの護衛の為だ。彼女が死んでしまえば人理復元ができなくなる。このことから仁慈は常に寝るときは彼女たちをつけていた。Xが不満を抱き、仁慈にひと手間かけさせたのは言うまでもない。
ザイードは考えた。この二人を相手してネロを殺すのはどう考えても現実的ではないと。彼の気配遮断スキルは強力なものだが、攻撃に移行するときその効果が薄れてしまうのだ。ここまで近くに居るとその一瞬で不覚を取る可能性もある。
また、入る前にザラリとこの建物の構造を把握しているが、どこもネロの部屋へと繋がるルートはなかった。おそらく、何時暗殺者に狙われても問題ないようにという配慮だろう。
これらの万全な対策から暗殺は厳しいと考えていた。
そのままXと清姫はネロのドアの前で二人小声で語り合っていた。マスターについて。
彼女たちの本人が聞いたら戦慄しそうな会話を受け流しつつザイードは思考する。
本来ならば、護衛が付いたあたりで一先ず撤退するか、力量に圧倒的な差があれば、この人物たちを排除してもターゲットを殺すということができる。しかしサーヴァントとしての性能は向こうの方が圧倒的に有利、しかも二人だ。
だが、このままおめおめと帰るのは流石にマズイ。
そう考えたザイードは標的を変更してマシュ・キリエライトを探しに行った。
惚れ惚れするような手際で兵士を拷問してマシュ・キリエライトの居場所を聞き出したザイードは兵士に口封じを施すと音を立てずにその場所へと急いだ。
……普通ならば、マシュもキチガイの権化の仁慈もそう簡単にことを運ばせないだろう。だが、この自称暗殺王ザイードの幸運はEX。神々にでも溺愛されているレベルの幸運を持っている彼はそのステータスを存分に振るっていた。
仁慈も戦闘中はキチガイで意味不明でなにこれぇ?な存在であるものの人間である。カエサルとレオニダスというサーヴァントを一日で立て続けに相手をしたことにより滅多なことでは起きないほど熟睡していた。自分が狙われているというのであればケルトインストールを行ったこの男は目を覚ますだろう。だが、アサシンに命に係わらないことを狙われて気づけるかと言われれば厳しいものだった。
上記と同じ理由でマシュも精神的な疲れから休息をとっていたこともザイードにとって良い方向に働いた。
結果として、彼は特に苦労することなくマシュ・キリエライトを誘拐することに成功したのである。
すやすやと眠る彼女を背負い、音も振動も立てない快適な安眠を確保しながらザイードは自分たちの本拠地へと帰って行った。
「……他愛ない」
こうして、幸運値EXという前代未聞の暗殺者はキチガイの巣窟からお姫様の誘拐に成功したのである。
だが、ザイードは気づかなかった。
自分の幸運値によってもたらされたこの成果が、のちにその辺の不幸なんて幸せと思えるくらいの不幸(キチガイ)を運んでくるという皮肉な結果になるということを。
帰還したザイードはいち早く主であるレフ・ライノールに報告を行った。
ネロの暗殺に失敗したということで一時、ザイードのことをかなり罵倒したレフだったが、マシュの誘拐に成功したということでその怒りを少しだけ抑えつけた。
レフは、すやすやと眠るマシュをゴミを見るような眼を向けた後、本拠地にある牢屋に閉じ込めておけと命じた。
ザイードはその言葉にしたがい、彼女を極力起こさないように運び、体に傷がつかないように鎖でつないだ。イレギュラーな召喚の所為か妙に紳士なザイードだった。
レフは最期にマシュを誘拐したということと返してほしければという要求を手紙にしたため再びザイードに渡した。曰く仁慈に渡してこいとのことだった。
もはややっていることは暗殺者なのではなく運送屋か何かになってしまっているザイードだったが、こうして何かを頼まれることはもちろん、仲間はずれが嫌いなはずの百の貌の中で若干仲間外れにされていた彼にとっては喜ばしいことであった。そのため彼は全身で喜びを表しながら再びローマへと向かった。
それを見送った若干疲れ気味の表情をしたレフは、やがてその表情を糸目の目を見開き唇の端を避けそうなくらい吊り上げた笑顔に変える。
「くくく……これでお前も終わりだ。樫原仁慈。ゴミはゴミらしく、大人しく潰されていればいい」
その様を彼に召喚されたサーヴァントの一人はなんとも言えない表情で見つめている。
夜明けは近いが、何故かレフの周りには先を見通せないほどの闇に飲まれているとそのサーヴァントは漠然と感じた。
―――――――――――――――――――――――――――
「うん?仁慈よ。マシュはどうしたのだ?」
「えっ?あれ、居ない。珍しいないつもは決まった時間に必ず起きるのに」
一方、マシュが誘拐されたことなんて知らない仁慈たちは呑気にそんな会話を行っていた。
いつもは一緒に居るはずの癒し系後輩が居ないということで仁慈は驚き、彼女が使っている部屋へと向かう。数回ノックをしたのちに返事を待つが、中は全くの無音。それどころか人の気配すら感じなかった。
マシュに気配遮断スキルなどないことはマスターである仁慈なら当然知っている。ならどうして人の気配がしないのか………。
言いようのない不安に駆られた仁慈は勢いよくドアを開いた。
すると仁慈の視界に入って来たのは、誰もいないベッドのだけだった。
――――――――――そこから仁慈の行動は速かった。それはもう引くくらい。
「ロマン。この部屋にある魔力の残滓とマシュの反応を今すぐはじき出せ」
『えっ』
「現在マシュはこの城の中にいない。一応パスは繋がっているけど近くに居る感覚はないし、気配も感じない」
『わ、分かった。ちょっと待って!』
「四十秒で終わらせな」
それを言った後、仁慈はマシュの寝ていたと思われるベッドに触れる。
仁慈が触れたそれは完全に温度を失っており、ついさっき起床してお花摘みに行ったという感じではないということを教えてくれる。
『な、なんだって!?どうしてこんなところに!?』
「驚いてないで結果を言え」
『ま、マシュが居るところは連合帝国の本拠地、その城の中だ!そんないつの間に……!?』
その言葉を聞いて仁慈は確信する。
彼女は昨晩のうちに攫われたのだと。
どうして気付かなかったという後悔が、彼の中を駆け巡った。こんな状況になっているにも関わらず、のうのうと惰眠を貪っていた自分を殺したくなった。
だが、何よりも―――――――――――こんなことをした奴を、――――したくなった。
『――――!?仁慈君、サーヴァント反応だ!クラスはアサシン。しかもその部屋にわずかに漂っていた魔力と反応が酷似してるぞ!』
それを聞いた瞬間、仁慈は動いていた。
感情の昂りと共にあふれ出していた膨大な魔力をすべて自身の強化に割り当て、己が勘を信じて自身の背後に音速すら越えた右腕を突き出す。
一方、右腕を突き出されたザイードは驚きを隠せないでいた。
カルデアの魔術師が反応があると言っただけでどの場所かまでは言っていない。それにも関わらずノータイムで自分の居場所を割り出してくる仁慈に驚愕せざるをえなかったのだ。
音速すら越えたそれは、ザイードが動揺した隙に既に彼の身体を捕らえていた。ちょうど首の位置をつかまれたザイードはそのまま部屋の壁に半分埋め込まれる形で押さえつけられた。
「ぬぐぁっ……!!??」
「………」
体を壁に半分埋められ、さらに人間とは思えない力で首をぎちぎちと絞められているザイードは思わず苦悶の声を上げる。それに対して仁慈は全くの無表情だった。
「ぐ……ぃ、ぁ……ま……」
首を絞められすぎてもはや言葉が出てこない。
それを知った仁慈は少しだけ首に込める力を弱めた後、開いている左手に黒鍵を一本出現させた。
「マシュを攫ったのはお前か?」
「…………」
ザイードがとった行動はレフから預かった手紙を渡すことだった。
元々彼がここに来たのはこれを渡すためである。予定が多少……いや、多大に違うものの自分の状態を鑑定に入れず、結果だけを考えるのは実に暗殺者らしい。
手紙を受け取った仁慈は右腕を緩めず、黒鍵を仕舞ってフリーになった左手で器用に手紙を開いて中身を読みだす。
時間にして三十秒くらいだろうか、仁慈の視線が一番下まで向かうと彼は読んでいた手紙を捨てると黒鍵でザイードの首を何のためらいもなく切り裂いた。
いつもなら霊核を狙う筈の仁慈がわざわざ首を狙った……ロマンはそれだけで理解してしまった。
――――――――言うなれば、
聖杯と繋がっている身体から濃密にして膨大な魔力が吹き荒れる。
その魔力は術に変換をしていないにもかかわらず、ベッドを飛ばし、壁を剥がし、床を抉る。
――――――今の仁慈は
目は限界まで見開かれ、人間というよりは獣の方が近かった。
そして彼はその獣の如き眼光を丁度連合帝国の方に向けた。
―――――――――超絶、キレている。
「レフ・ラァァァアアイノォォォオオオオルゥゥゥァァァァァアアアAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■―――――――――ッ!!!」
『うわっ!仁慈君が壊れた!ついでに壁も!』
その怒号、否。
もはや咆哮と呼べるものを発した仁慈は、次の瞬間にはその場から消え失せていた。
残ったのは濃密な魔力と、ぶち破られたと思われる壁のかけらだけである。
こうして彼は生まれ出る
良いも悪いも、善も悪も平等に蹂躙する
この星の天敵たる者が
幸運EXというか、運でどうにかなるレベルではなかったんだよ……。
今回は入りで、次から戦闘です。頑張らなければ。
今の仁慈は完全にプッツンしているので、令呪による召喚とか全く考えていません。
まぁ、レフの方でもそれようの対策を用意しているので無駄なんですけどね。