この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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この話でエリちゃん一歩手前まで行く予定だったのですけど、予想以上にヴラドがシリアスしていたので、ヴラドさんだけになってしまいました。


イベントで真剣勝負だって!?こんなの普通じゃ考えられない……

 

 

 さて、城の中に居たとてもとても優しい家政婦(偽)さんが快く道を開けてくれたので案外早く次のステージへとたどり着けたようだ。ファントム・メイデンで破壊された廊下をまっすぐ進んでいくと開けたパーティー会場として使えそうな場所にたどり着いた。そこに居たのはまさかのヴラド三世である。カーミラと言いオルレアンで戦った連中が軒並みやってきているな。多分、吸血鬼の逸話を持っているからだろう。ちょっと例の彼女、人選が残酷すぎやしませんかね。

 

「ふむ、ここまでたどり着いたか。カーミラが手を抜いた………わけではなさそうだという予定だったのだが、思いっきり手を抜いたなあやつ」

 

「仕方がないと思うけどね。だって、こいつと戦うことになるんだし」

 

 若干呆れ顔のヴラド三世に所長がそう答えた。あのビビりな彼女がこうして話すのは珍しいというか初めてである。そこまで俺と戦闘を避けたことの正当性を主張したいのだろうか……。嬉しくない所長の成長に肩をおろす。一方、所長の説得(?)を聞いたヴラド三世は大変納得したようだ。

 

「なるほど。戦闘を以てしてこの地位を築きあげたわけではなかったカーミラでは荷が重かったか。……よかろう。英霊を戦わずして避けさせるその武勇。この悪魔公、ヴラド・ツェペシュと戦うに値する」

 

「俺の戦闘経歴はそこまでに値するものになっていたのか……」

 

「十分だと思いますわ。それにしても今回はいつにもましてまっとうな戦士なのですわね。クラス的には私と同類ですのに。あっ、当然私もお淑やかさで右に出る者はいないバーサーカーでございますが」

 

「でも話聞いてくれないじゃないですかーやだー」

 

 話を聞かないお淑やかより、たとえガサツでもしっかりとこっちの話を聞いてくれるこの方がいいです(真顔)

 

「そこなマスターの言う通りよ。笑わせるな人食い。罪深さで胃の腑から焼けただれるぞ?余も貴様も破たんしているという点では共通よ。今さら正道などに戻れるとは思わないことだ」

 

「…………いま、少しだけ苛立ちました。こう、喉仏らへんにある鱗に触れてしまったような」

 

「当然である。余興とはいえ、これは宴。であれば―――――――道化であれ、本気でかからなければ面白くも何ともあるまい。国を守る者ならば、祭りの重要性は理解している。娯楽なくして人の世は収まらぬもの」

 

 なんだ、この雰囲気は……このヴラド公、本編よりもシリアスしてるぞ……!いったいどうなっているんだ!?やっぱり例の彼女に吸血鬼として呼ばれたことを怒っているのではなかろうか。

 

「すごいです先輩……!あのヴラドさんは正気です!一人だけ明らかに空気を読めてません!オルレアンの時よりヴラド公してます!」

 

 正直に言ってしまったマシュ。

 彼女の言葉にロマンも続いた。

 

『なるほど、ある意味バーサーカーということだね。周りがおかしいと自分一人だけ正気になるとか』

 

「それもう唯の天邪鬼じゃないの」

 

 確かに。所長の言う通りそこまで行くと唯の天邪鬼だろう。もはや狂ってるのとはまた別物だと思う。

 内心彼女の言葉に賛同していると、カルデア勢にぼろくそに言われたヴラド三世が異議ありという感じで口を開いた。

 

「――――――いささか心外だな。余とてユーモアを解する紳士なのだがね」

 

 だったら一人だけ真面目な空間を展開しないでくださいよ。その固有結界に当てられて俺まで真面目な戦闘モードへ入りそう。

 

「まぁ、いい。………先も言った通りこれは余興。本来なら歌や踊りを行うものだ。故に余も鮮血の(うた)を送りたいところなのだが……そこは許すがよい。残念ながら余が得意なのは刺繡であって、歌ではないのだ」

 

「え、マジで?」

 

 ヴラド三世から放たれた衝撃の真実に俺たちカルデア勢に衝撃が走る。

 

「え……?ヴラドさんは刺繍が得意なのですか?もしかして、その豪華なお召し物はご自分で?」

 

『そういえば、ヴラド三世は牢獄の中で刺繍をやっていたという言い伝え的なものが……』

 

 なにもない牢獄の中での唯一の暇つぶしが趣味にまで昇華したということか。……清姫とヴラド三世だけだから断定はできないけど、バーサーカーっていう割にはあんた等多芸だな。

 

「ははは。嬉しいことを言ってくれるなレディ。だが、これは専門の服飾が仕立てたもの。余も一度仕立ててみたかったのだが、残念ながら立場というのがある。――――うむ、少女よ。望むのなら後ほど手ほどきをしよう」

 

「本当ですか……!」

 

 なにやら乗る気満々のマシュ。だが、一つ待ってほしい。

 

「待ってくれ」

 

「どうした?別に、そこの少女を誑かすわけではないぞ?心配はいらない」

 

「違う。――――――――俺にもお願いします」

 

 時が止まった………そんな気がした。マシュも所長も清姫もフォウも画面越しのロマンもヴラド三世でさえも見事に固まっていた。そこまで変なこと言っただろうか?

 疑問に思いつつ、彼からの返答を待つ。

 シリアスモードを冠するだけあって、一番初めに復帰したヴラド三世は少々間を作りつつも口を開く。

 

「よかろう。自ら率先して物事に挑戦するその姿勢は褒められるべきものだからな」

 

「よし」

 

 これで自分の戦闘服とか仕立て上げよう。ダ・ヴィンチちゃんと協力して。

 

 脳内で新しい礼装擬きの構成を練っていると、ヴラド三世が手に持っている槍を構えた。どうやら、まったりした雰囲気はここまでのようである。

 

「さて、残念ながら刺繍教室の前に荒事だ。こちらも盛り上げてくれと頼まれているのだ。――――この宴を面白おかしく盛り上げるために、貴様らにはそれ相応の悲鳴を上げてもらおう。それでは前菜だ。痛みに骨を軋ませながら喰らうがいい」

 

「先輩、敵のバーサーカーが戦闘態勢に入りました!」

 

「わかった。こっちこそ、後々の刺繍教室に支障が出ないように手と声だけは無傷で片付けてやる!」

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 なんて粋がったはいいものの、事態は拮抗していた。それもそのはず、ここにいるヴラド三世はバーサーカーの枠に収まっているものの理性をしっかりと残した戦士なのである。当然、生前の経験を活かして戦うことが可能なのだ。

 清姫が炎を吐いて、ヴラドの行動範囲を制限し、そこへ俺が重心移動を乗せた拳を振るう。回避され、反撃をされそうであればマシュのシールドで防ぐ。ここまでやっても彼らは攻め切れないでいた。

 リズムが今一つかみきれない仁慈たちはこれ以上の接近を許すとマズイと考え、マシュに指示を出す。

 マシュはヴラドの槍を受け止めると、俺からの強化を受けた身体能力を使って全力で攻撃を弾いた。そうして、できた一瞬の隙に俺がその身をヴラドの懐に滑り込ませる。そして、破壊ではなく衝撃を重視した拳を見舞った。

 ドン!とダンプカーが衝突したのではないかという音とともに後方に飛ばされるヴラド。清姫が追撃として炎を飛ばすが、ヴラドは体から黒い杭を出してそれらを相殺、その後、杭を地面に刺して勢いを殺す。

 

「うむ、宴は楽しい。あの小娘に付き合った甲斐があるというもの」

 

「………あの小娘というとやはり?」

 

「当然だ。全サーヴァントの中でもこれほど甘い妄想を臆面もなく広げられる者など、そうはおるまい」

 

「まぁ、確かに」

 

 もっとドロドロした奴とか、バイオレンスな奴とかエロティックな奴とか超絶カオスとかなら適応者は多いだろうけど、ハロウィンを再現してそこに誰かを招待しようなんてスイーツ(笑)な願いをするサーヴァントはそういないと思う。

 えっ?清姫?彼女の場合、甘いは甘いけど、ここまで爽やかな奴じゃなくてもっとドロドロしてそうだから除外で。

 

『けど、ことはそこまで甘いもんじゃないぞ。いくら聖杯の力とは言え、サーヴァントがサーヴァントを召喚するなんて……』

 

「ロマニの言う通りよ、これが誰にでも適応されるのなら大変なことに……」

 

「別に、オルレアンでもやってたじゃん。今さら驚くことじゃない」

 

「そこのマスターが言う通りだ。我々がオルレアンでいかにして呼び出されたのか思い返してみよ。それに、あの小娘に関しては我々の方から応えてやったのだ」

 

「マジですか」

 

「あれが持っているのは聖杯の欠片とでもいうべきものだ。時代を焼却可能なほどの力は持ち合わせていない。大方、オルレアンの時に偶然拾ったのだろうよ。あの中で最も無害なサーヴァントの下に行くとは、これも神の恩恵というべきかもしれんな」

 

 オルレアンの時に偶然拾ったものか……。俺と一体化した聖杯は別に欠けているわけではなかったし物理的な意味ではないな。多分、聖杯の余波か何かを受けてそうなってしまった疑似聖杯ってところか。最も、一つの空間を作り出し、合意の上とは言えサーヴァントを呼び出していることからそこまで劣化しているわけじゃなさそうだけど。

 

「私にはあの方が無害には思えないのですが」

 

「あれの発想は幼子と同じよ。幼子の発想を本気で実現させようとする、実に大人げないサーヴァントだ。善悪ではなく、夢や欲望ですらもなく、唯己の楽しさに溺れる。……だが、それがいいのだろう。我らのようなしがらみのない、純粋な愉悦だ」

 

 なんだろうか。ヴラドが唯のお父さんか、親戚の伯父さんに見えてきた……。

 

「さあ、悪いが本気で戦わせてもらうぞ。歴史に名を刻みし余の串刺し刑。そう温くないと知れ!」

 

 お父さんみたいとほっこりしているのもつかの間、ヴラドは自分の槍を地面に刺すとそこから黒い液体を地面に広げていく。そして、そこから無数の黒い杭が次々と生えてきた。

 これに似た攻撃をどこかで見た気がする。……神機、特異点、アルマ・マータ……うっ、頭が……!

 

 思い出してはいけないというか、それ以上はいけないと訴える本能に従い、その考えを振り払った俺はヴラドの攻撃を避けつつ思考を戦闘用に完全に作り替えた。それと同時にヴラドが俺に接近してきてきた。

 

「まずは一番厄介な貴様から退場してもらおうか!」

 

「無理矢理退場を強要してくる祭りとか怖いわ!」

 

 ヴラドは既に槍をこちらに突き出している。今から俺も槍を取り出しても遅すぎる。ならば、当然取るべき手段を一つ。

 魔力を纏わせ、強化した左腕で槍の進路をずらして、そのまま右こぶしを振るう。だが、ヴラドの体から突き出てきた杭に俺の拳は防がれてしまった。体からも出せるんだっけか。流石兄貴とやり合ったサーヴァントだ。

 

 両腕を防がれたので、俺はレフに対してキレたときに使った技を使用することにした。肺に空気を流し込み、そこで空気を溜めつつ魔力を混ぜ込む。そして、俺の限界が訪れたとき、吸っていた空気をすべて口から吐き出した。

 

「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■―――――ッ!!」

 

「なにっ!?」

 

 超至近距離で衝撃波を起こす咆哮を喰らったヴラドは思わず何歩か後ずさる。その隙に俺も魔力放出を使ってまで背後に跳んだ。

 俺がヴラドから離れた瞬間マシュと清姫が俺の代わりに懐へと入っていく。俺の超音波をもろに喰らっているため、よろめき隙だらけのヴラドにマシュと清姫の攻撃をクリーンヒットした。

 確実に決まったと思っているのか、マシュと清姫は声に出していないものの「やったか?」的なことを思っている雰囲気を醸し出していた。残念ながら、やったか?は思っただけでもフラグになるんだよ。

 

 俺の予想通りヴラドは全然平気だった。むしろ、ゆっくりと顔を上げながら絶望を演出する余裕まである。ちゃっかり宝具も発動してるし。

 あの発動段階だとマシュの宝具でも間に合わないな……。

 

 俺はもはやおなじみの動作で紅い槍を取り出すと、即座に真名開放を行う。そして、魔力放出を利用して全力でヴラドに接近する。

 

「しっかりと加減はするから安心したまえ―――――血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)!」

 

「光の速さで私の後に続け!なんてね。―――――真名開放、宝具展開!穿て!突き崩す神葬の槍!」

 

 ヴラドの宝具がマシュと清姫に直撃するギリギリのタイミングで俺の宝具的な何かを滑り込ませて相殺する。

 

「あの距離から間に合わせてくるか!」

 

「あのくらいでやられるとは思ってなかったから!一応構えておいたんだよ!」

 

 宝具同士がぶつかり合い、弾き合う。

 だが俺は後方に飛びそうになる体を魔力放出で無理矢理押しとどめ、逆に前に進むくらいに調整する。

 

 聖杯のおかげで魔力の残量を気にしないでいいっていうのは本当に楽でいいわ。などと考えつつ、魔力でコーティングした拳をヴラドの鳩尾に叩き込んだ。

 

 拳が入ったタイミングから一瞬だけ遅れて再びトラックが事故を起こしたかのような音が周囲に響き渡る。

 

「ふむ、ここまでか……」

 

「ピンピンしてますね!」

 

 俺の拳を受けて槍を下ろしたヴラドが言うと、すかさずマシュがツッコミを入れた。しかし、その言葉に対してヴラドは苦笑を返す。

 

「いや、そうでもない。流石にあの一撃は余に届いた。今は意地で立っているだけにすぎぬ。………後の認識にて吸血鬼に歪められたこの身体をここまでボロボロにするとは………人類を背負う者の拳は重いということか」

 

『そこは仁慈君が異常なだけだと思うな』

 

「ふっ、やはり貴様はあらゆる意味で特別のようだな。……まぁいい。これで余の役目も終わりだ。次に進むがいい。そして最後まで付き合ってやるがいい。……あれはあれで貴様が来るかどうか不安で仕方がなかったようだ」

 

「あら、顔に似合わずお優しいのですね。まさか本当に縁でもあるのですか?」

 

「なに、同類相哀れむ、というやつだ。吸血鬼として見られるのも、些か応えるものでな」

 

 やっぱりお父さんみたいだな。

 なんだかんだ言いつつ、例の彼女のことを気にかけているヴラドを見ながらそんなことを思った。

 

 

「ところで旦那様。のど飴などお持ちですか?先ほど炎を吐き過ぎで、のどが痛くなってしまいまして……」

 

「飴はないけど、回復くらいならできると思う。唯、喉に触れる必要があるから、逆鱗に触ってほしくないというのなら―――――「ぜひお願いします!」」

 

 食い気味で答えられた。

 ヴラドには言葉の綾とは言え、キレていたので一応聞いてみたのだが、普通にOKだった。

 ひと声かけてから、苦しくないように添えるように右手を彼女の喉に当てて、魔術を使う。

 

「応急手当」

 

「あぁ……!旦那様のモノが流れてきます……しかもこの姿勢はいつでも旦那様が私の命を奪うことができる姿勢………この殺生の自由をゆだねている感じがたまりません……!」

 

「……………………」

 

 引くわー。その発言は流石に引くわー。 

 

 恍惚とした表情を浮かべる清姫にドン引きしていると使っている右手とは逆の裾をちょいちょいと引っ張られた。そちらを向いてみれば若干むくれているマシュが居た。あら可愛い。

 

「先輩、私にも、して……ほしいです」

 

 ………なんかよくわからないけど、とりあえず死にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、フォウ。戦闘ができない人には人権(出番)がないなんて酷い世の中よね……(モフモフ」

 

「フォウ、フォーウ(そもそも人じゃないです)」

 

「そう。分かってくれるのね」

 

「ファ!?」

 

 どことなくかみ合っていない二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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