この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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ついにやってきた師匠登場回。



師匠登場!?仁慈(と兄貴)が死んだ!この人でなし!
魔境の主


 

 

――――――――地獄というのは、まさにこのことを言うのだと思った。

 

 

 ある日、自宅にて俺は家の人から課せられていた槍の修練を行っていた。槍を突き、重心に気を付けつつ振り回していると、いつの間にか絶世の美女ともよべる人物が隣に居た。まぁ、その恰好は黒い全身タイツという今考えたらこの人やばくね?若干痴女入ってってね?という感じであったが、当時の俺はその美しさにそんなことを思っている余裕なんてものはなかった。

 ……どこから現れたのかわからない女性であったが、彼女はしばらく周囲を見渡した後、俺の顔に視線を固定した。俺が色々な意味で呆然としている間にその女性は俺の方へと向かって来て言ったのだ。

 

「お主、私の下で槍を振るってみないか?拒否権はないがな」

 

「…………じゃあ、何で聞いてきたんですかね」

 

 当時の俺はそう返すのが精一杯だった。

 そこから俺が言う槍師匠、クー・フーリンこと兄貴曰くスカサハ師匠との修練が始まったのである。

 彼女の修練は半端なものでは全くなかった。ついでに容赦という言葉をどこかに忘れていたような感じでもあった。次々と自分に襲い来て、薄皮を掠めていく深紅の槍。どこだかわからない場所に飛ばされてからのサバイバル……からのどう考えても魔獣の類の連中との一対一。それらに何の準備もなしに突っ込まれた身としては幾度となく死を覚悟したものである。と言うか、我ながらよく死ななかったと思う。だが、現代で馬鹿みたいに死にそうな経験を積んだおかげで俺は一週間という短期間では考えられないくらいには強くなることができた。それでもあの人にとっては手慰み程度のレベルらしいが、なんとかそこまでたどり着いたのである。ぶっちゃけ、その後に待ってた仮免許試験的なものが最大にして鬼畜な試験だったんだけど、そこは大体予想もつくだろうし省略しよう。

 少なくとも、俺の人生の中でもそんな地獄を身近に感じるような時があったということだ。

 

 

 ……さて、問題はどうしてこんなことを急に語りだしているのかということだろう。もちろん今の回想には意味がある。むしろ関係がないのであればこんなこと思い出そうとはしない。

 

 現在俺が立っているのは燃え盛る炎の街の中。多分だけど一番最初の特異点Fこと冬木だと思われる。これだけなら別に問題はないのだけれど、俺はそもそもレイシフトをした覚えがないのだ。寝ている隙をついて誰かが送りだしたという線もない。そもそも近づかれたら俺が気づくしそれに。

 

「……先輩?」

 

 ここには既に戦闘態勢を整えているマシュが居るのである。当の本人もどうしてこのような場所に戦闘準備が済んでいる状態で佇んでいるのかわからないという顔をしていた。あの戦闘態勢だけは外部からの干渉じゃどうにもならない部分だと思うのでレイシフトの可能性も殆どないと言っていいだろう。

 となると、心当たりが一つしかないのだ。その心当たりというのが先程の回想に繋がってくるのである。最も、もし本当にあの人がやったというのであれば、どうして俺だけではなくマシュまで招いたのかということになるのだが。

 

「えっ……あれ……?私は先程まで薬を飲んでベッドに……?えっ?」

 

「まぁまぁ、一旦落ち着こうかマシュ。はい深呼吸してー。大丈夫、こんなような事態には慣れてる。超慣れている。もはやプロ」

 

「すぅー……はぁー………。すみません、少々取り乱しました。……それにしても、流石ですね先輩。説得力が違います」

 

「まぁね」

 

 無駄に胸を張っていった俺に若干引き攣りながらもそんな言葉をかけてくれたマシュ。本当にいい子。

 マシュの表情と言葉に傷つけられ、癒されつつも俺は周囲の建物などを強化した視力で見渡していく。魔力強化によってアーチャーばりの視覚補正を手に入れたその眼で見てみると、どこまでも燃え盛る冬木の街並みが広がっており、実物というわけではなさそうだった。それに加えてカルデアの通信機がつながらないどころか起動すらしないときている。これらのことから、断言こそできないものの、レイシフトで送られた可能性は低いとみていいだろう。

 

 そして、それと同時に冒頭で考えた槍師匠の仕業と言うこともよくよく考えてみるとないという判断を下した。あの人ならこんな面倒なことをする前に影の国へと引きずり込んでそこに住む魔獣と戦わせるか、本人が直接現れてくるはずだからだ。

 

「あっ、先輩。もしかしてこれはサーヴァントとマスターが視るそれぞれの記憶の断片ではないのでしょうか?私の記憶が正しければ、最後に意識があったのは自分のベッドの上ですから……その可能性は十分にあるかと思われます」

 

「マスターとサーヴァントってそんなものも見るんだ……。しかし、今回に限ってはどうなんだろう?目の前にある炎は普通に熱いけど」

 

 サーヴァントの夢を見る……それが彼らの人生の体験であれば炎を熱く感じることはあるかもしれない。が、どれだけ推測をしようとも、結局は唯頭で考えただけ、ヒントも何もないとまではいかないものの、かなり少ない中で正解なんてたどり着けるはずもなく俺たちは適当にそこら辺を探索しようとマシュに提案をする。

 

「とりあえずここら辺を探索してみようか」

 

「はい」

 

「それじゃあとりあえずこっちにk――――――っ!?マシュ、下がれ!」

 

「―――――――――ッ!」

 

 しかし、もはやお約束と言わんばかにり会話を振り払うかのようなタイミングで深紅の槍が飛来する。マシュは俺の言葉にすぐ反応したこともありすぐにバックステップを踏んでいたため、傷一つ負ってはいなかった。このまま彼女の方に向かうかと思いきや、なんと槍たちは俺に標的を絞ったのかおかしな軌道で進路を変更すると俺に対して一気に飛来した。

 俺は何処か不安に思いつつもルーンを発動する。するといつもの如く四次元鞄から神葬の槍を召喚することに成功した。OKいい子だ。

 

 どうやら武器の類は取り出せる世界らしい。余計この世界に関する疑問を募らせつつ、第一撃として、一番近くまで来ていた槍を弾く。そしてその弾いた槍がまた別の槍を弾いて連鎖的に飛来してきた槍を全て叩き落とす。だが、それだけで安心するようなことはしない。これを行った人物はこの程度で姿を現したり、攻撃を中断するするわけがない。絶対に追撃をかましてくる。むしろ気を抜けば命を代償に持っていかれてしまうことになる。

 

 少々間をおいて、思っていた通り再び深紅の槍が降り注ぐ。その量は先程のものを遥かに凌ぐ量だ。だからこそ先程と同じような行動を取りつつ、それでも取りこぼした槍は空いている左手でつかんで別の槍に対して振り下ろす。平行して槍に魔力を

込めて侵食を果たし、俺の魔力で満たされたその槍を振り注ぐ槍の群れに向って投擲する。そして、

 

「壊れた幻想!」

 

 自分に対して飛来してきた槍を特攻させてその大軍をやり過ごす。もちろんこれで終わりじゃない。神葬の槍を右側に向かって思いっきり振るう。すると、先程まで影も形もなかった槍が飛んできていた。

 

「せ、先輩!?大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫大丈夫!むしろこれは、逆に手助けしたらやばい。助けられたら死ぬ。俺が」

 

「えぇ!?」

 

 両目を見開いて驚くマシュ。そのリアクションと表情は当然なのだが、残念なことにケルトに常識なんぞはないのである。

 そんなこんな考えているうちにどうやらウォーミングアップが終了したのだろう。俺の目の前に黒い全身タイツのような服を着用した美しい女性が現れた。彼女こそ、俺に槍を教えてくれた師であり、兄貴ことクー・フーリンの師。影の国の女王、スカサハである。このことを知ったのはつい最近だけど。

 

「今回のことは師匠の仕業ですか?」

 

「開口一番随分な挨拶だな仁慈。このような場に招くようであれば、私が直接出向いていく。………今回は妙なことが発生しているということに気づいてな」

 

「ですよね」

 

「安心するといい。お主も、マスターとして人理復元に一役買っていることはわかっている。流石に命を奪うようなことはしない。……腕の一本や二本は持っていくかもしれないがな」

 

「流石師匠。容赦のよの字も感じられない」

 

 はぁ……と溜息を俺が付いたと同時に師匠はその場から音もなく姿を消した。そしてすぐに俺の左斜め後ろへと姿を現す。相変わらず無茶苦茶な速さである。自分の周囲に槍を出現させながら向かってくる師匠に対して、俺もエミヤ師匠からもらっていたゲイボルクを召喚して地面へと突き刺す。

 師匠は接近と同時に彼女の周りにストックされていた槍を射出した。それに対して俺は地面に突き刺したゲイボルクを地面から引っこ抜いて宙に浮かせるとそれをそのまま蹴り放つ。師匠の槍をそれで処理したのちに、本命である師匠本人の槍に俺の神葬の槍をぶつけた。

 

 無表情ながらも美しい師匠の顔が目の前に現れる。何も知らなければ見惚れてしまうような容姿だが、中身を知っている身としては恐怖を感じられずにはいられなかった。

 

「ほう。私の顔を見て表情を引きつらせるか仁慈よ」

 

「滅相もございません」

 

 師匠の力がこの所為か強くなり思わず後方へと倒されてしまう。このままでは地面に倒れてそこを突かれてボロボロにされるためにとっさにバク転へと移行。地面に転がるのを防ぎつつ体勢を立て直そうと試みる。

 だが、師匠がそんな隙を逃すはずもなく、一歩踏み込んでくるものの、バク転で足が地面から離れる瞬間に蹴りを放ち師匠の握っていた槍を叩き落す。

 それと同時に持ち直した俺は先とは逆に俺の方から彼女の懐へと潜り込んだ。

 

「はああああ!!」

 

「………」

 

 全力全開。殺す気で突きを放つ。何度も言うようだが、手加減をした瞬間に死ぬのは俺の方なのだから。

 

 我ながら今までで一番早い突きだったと自負できるのであるが、結果ははずれ。どうやら師匠は魔境の叡智を発動していたらしい。

 ぬかったと心の片隅で反省しつつ、頭を切り替えて再び彼女の気配を感じたところへと槍を突きだした。するとそこには俺の喉元ギリギリで槍を止めている師匠の姿が。

 

「………あれから反応するか。先の攻撃に引っかかったのは減点だが、最後のこれだけはよいぞ。これからも精進せよ」

 

「わかってます。さぼったらその時点で串刺しにされそうですしね」

 

 実際、時々夢の中に乱入してくるんだ。それも俺がしくじったタイミングで。このことから彼女が時々俺のことを監視していることがわかる。監視とまでも行かなくても俺の状態を知る何かがあるのだろう。そんな状況の中、修練をさぼってみろ。死ぬぞ。

 

 内心で戦々恐々としていると、今の今まで黙っていたマシュがおずおずと手を上げた。かわいい。

 

「あの………すみません。少し質問よろしいでしょうか?」

 

「そうだね。色々と聞きたいことがあるかもしれないし、とりあえず簡単に説明しておこうか?」

 

 




スカサハ「仁慈よ。もっと強くなれ。もっともっと、私を殺せるようになるまでな」
仁慈「ヤダこの人超怖い」

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