この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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大変お待たせいたしました(本当に待っていたかはともかく)


あーあ、出会っちまったか

 

 

 

 

 

 

 

 前にも思ったかもしれないが、俺たちが一番無防備になるかもしれないレイシフトをちゃっちゃか終わらせやって来たのは十九世紀のロンドン。何かと事件が起きたり、シリアルキラーが現れたり、無駄に万能な探偵が事件解決(物理)とかやらかしてしまう魔境の地である(偏見)

 

「レイシフト完了しました。……それにしても、この霧は……」

 

「前が見えねぇ……」

 

 ロンドンと言えば霧という感じにも思える位に霧を取り上げているものが多かったけれども、これは流石に予想外すぎるでしょう。

 

 俺の視界に移るのははっきりと目視できるくらいの霧。すぐ近くの街並みは確認できるが、もう少し遠いものを見ようとするのであればはっきりと確認することができない。魔力強化も試してみたものの効果は芳しくなかった。

 

「ほんと、全然見えないわね」

 

「まるで元ご主人の心中を表したような天候だな。実に面倒くさいゾ」

 

「…………ねぇ、前から思ってたんだけど、貴女私のこと嫌い?嫌いよね?絶対嫌いでしょ!?」

 

「わはは!」

 

「答えてよ!」

 

「なんじゃ、騒がしいの……。それにしても、せっかく南蛮の街並みを見ることができる機会だというのにこんな霧じゃあのぉ……」

 

「ほとんど現状に関係ない呟きですね……」

 

「普通に人選ミスったかも」

 

 緊張感がないのはこの際もういいけれども、どいつもこいつもこの現状について何も考えないという使えないという有様。

 

「それにしても、すごい濃度ですね」

 

『空を覆い尽くす程の霧、煙。産業革命時代としては全然おかしくないことなんだけれども……まぁ、当然の如く普通の霧煙ではないね。とんでもなく高濃度の魔力を観測できる。いや……これはちょっと濃すぎるんじゃないかな!?大気の組成そのものに魔力が結びついているクラスだよ!』

 

「結局何が言いたいのよ?」

 

『間違いなく生体に有害だよ。マシュや仁慈君は体調に変化などないのかい?』

 

 ロマンから尋ねられるも正直俺に変化は感じない。普通にいつも通りである。マシュもデミ・サーヴァントであるからだろうかどこにも問題はなさそうである。

 

「私は問題ありませんね。先輩は……」

 

「いつも通り。どこも変わったところはないよ」

 

『うーむ。デミ・サーヴァントであるマシュはともかく、一応……一応人間である仁慈君にも影響はなし、か。流石仁慈君。僕たちにできないことを平気でやってのける。そこに痺れる憧れるぅ!………まぁ、もしかしたらマシュと契約していることが大きいのかもしれないね。彼女はシールダー。様々なことに耐性を持っている守ることに対するスペシャリストと言ってもいいからね』

 

 仁慈君なら素で毒を無効化していても不思議じゃないけれどと最後に付け加えるロマン。否定したいところだが、俺でも自覚できるくらい変態が集まっている我が家系の歴史の中で人間の対抗能力の限界を突き詰めていた樫原が居てもおかしくはないために否定はできなかった。

 

 今更ながら樫原という家のキチガイ具合を把握しつつ、この毒霧ィ……(杉田ボイス)の影響の所為でゴーストタウンと化している街を捜索しようと声をかけようとした瞬間、カタカタ、ゴトゴトと何やら駆動音のようなものが俺たちの耳に入って来た。

 

「――――この音は?」

 

「む?」

 

「あら?」

 

「おぉ?」

 

『生体反応は……なし?しかし動体反応は複数体!ものすごい勢いでこちらに近づいてきている!魔力反応は………あぁ、ダメだ!この濃い霧の所為で感知できない!』

 

「そうですか」

 

 とりあえず何かが近づいているということが理解できればそれでいい。俺たちは段々t近づいてきている音の方向に対してそれぞれ警戒を強めていく。

 

 数秒後、霧の中からその音の原因が飛び出して来た。

 その正体とは、何かの人形のようなものであった。どこかマネキン人形にも似たそれはカタカタと所々人間では不可能な動きをしながら俺たちに襲い掛かって来た。こちらもその人形を返り討ちにしようと追撃態勢を整えたところで、一番近くまで接近していた人形の一体がバラバラに引き裂かれた。

 

『!?』

 

 俺達が驚く中、それを行ったと思われる人物は俺の前にすたっと静かに着地して、濃い霧の中でも失われることのない輝きを携えた西洋剣を人形の群れに向けた。

 

「ふっふっふ。マスターのピンチに颯爽と現れる……これぞセイバーに相応しき活躍だと思いませんか!?」

 

 無駄に廃テンションで声を上げたのは、特徴ありすぎな少女。唾付きの帽子からアホ毛を貫通させ、サーヴァントとは思えないジャージ装備。その美貌を台無しにするくらい残念な言動。どれをとっても間違えることなどできないくらいに濃いキャラであるヒロインXであった。

 

「何でいるのさ」

 

「私が黙ってお留守番していると思いました?残念!黙ってついて来てしまいました!だって私、アサシンですし!」

 

「都合のいい時だけ暗殺者名乗んな」

 

「あだだだ!?マスター、帽子が……!私のトレードマークが……!」

 

「やかましい」

 

 ドヤ顔を決めてくれたヒロインXに向ってアイアンクローを繰り出し、ぎりぎりと締め上げつつ宙に釣り上げる。

 必死に俺の腕をタップするヒロインXだが、それくらいではこれをやめることはできない。戦力が増えることはいいことだけれども、魔力の分量とかその他諸々を色々考え直さなきゃいけないじゃないか。聖杯のバックアップがあったときとは違うんだぞ。

 

「先輩!今は思いっきり敵の前ですよ!」

 

 普段から油断すること、話していることが悪いというだけあって、不意打ちされても文句は言えない。そんなわけで俺がアイアンクローを行っているところに人形が一斉に襲い掛かって来た。

 しかし、自分が効果的とわかって行っていることに対して何の対策を持っていないかと言われれば否である。この場合には腕にちょうどいい弾丸があるためにそれを射出することにした。

 

「行け!謎の弾丸X!」

 

「正気ですかマスター!?」

 

 お仕置きの意味も込めて、襲い来る人形の集団にヒロインXを投げ込んだ。文句を言いつつも飛んでいったヒロインXは俺から受けた勢いを利用しつつ、聖剣を握る手に力を込めた。そして――――――

 

「―――――――――」

 

―――――すれ違いざまに一閃。

 

 それだけで、人形たちは俺の前ですべてスクラップへと変貌してしまった。

 ……実力だけは確かなのに本当に残念な存在である。

 

 

『仁慈君!まだ終わってないぞ!』

 

 ロマンの声と同時に再び聞こえてくる駆動音。今度は俺達を囲むように四方八方からその音が耳に届いてきた。もはや聞くまでもないが、思いっきり囲まれているらしい。

 

「これは……」

 

「どうやら囲まれているようじゃの。自動で動く絡繰り人形か……ワシらの歓迎パーティーというわけではなさそうじゃ」

 

「うむ。どう考えてもパーティーという雰囲気ではないな。しかしこの雰囲気には覚えがある。なにを隠そうキャットが時々行う狩りの時と同じ雰囲気であるが故にな」

 

「さっき思いっきり襲い掛かって来たわよね……はぁ、これが私のファンであれば一曲特別サービスで歌ってあげたのに……」

 

「ここでこのガラクタ共を蹴散らせばワンチャンマスターに許してもらえるかもしれませんね」

 

 敵に囲まれているという状況の中で在り得ない言葉であるが、彼女たちは歴戦の英雄?……英雄、うん英雄達なのである。

 たかが人形に囲まれたくらいでは問題にすらなるわけがないのである。一斉に襲い来る人形。効果的とはいえ、複数の相手はこれしかやることがないのかと思いつつも、人形をさばいていく俺達なのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 そして数分後。俺たちの目の前には先程まで襲い掛かってきていた人形たちの残骸が転がっていた。やはり、なんにしても英雄というカテゴリーに位置する者達からすれば人形などは物の数には入らなかったようである。

 

「………この人形、こっそり持って帰ってしまおうか……」

 

「人形相手に歌っても意味ないし、ほんと無駄な時間だったわね。子イヌ(?)ー。のど飴とか持ってないかしら?」

 

「ご主人。仕事の報酬を要求する。ニンジンか散歩で頼むぞ」

 

 さて、自由な三人組はとりあえず放置するとして、問題はこのヒロインXだ。素直に戦力が増えることはいいことだ。それもなんだかんだで、うちの戦力でもトップに近い実力を持っているヒロインXならば尚更。

 だがしかし、どうにも俺の勘が引っかかる。それだけが唯一の懸念となっているのだが…………ここまで来たらもうどうでもいいか。何か問題が起きたらその時で対処すればいいだろう。

 

「はぁ……仕方ない。X、あまり余計なことはしないでくれよ」

 

「何を言いますか。私はセイバーが居なければ普通に大人しいでしょう?」

 

 くくりがでか過ぎるんですよ。もう少し限定的にしてくれませんかね。あと、お前が大人しい時はぶっちゃけない。

 

「先輩が言えることではない気がします」

 

「マジか」

 

 どうやらマシュからすると俺はヒロインXと同類だったようだ。肩を叩いて笑顔を浮かべる彼女の姿がとても頭にきた。そんなことを思いつつも人形に邪魔された町の捜索、もしくはこの時代で起きたことの手掛かりを探しに行こうとするのだが、再びこのタイミングでアクシデントが起きた。なんでこうもこの場から動くことができないのだろうか。

 

『話がまとまった?ところ悪いけど、生体反応だ。一応さっきみたいな人形の類ではないと思うけれど、この霧に耐性を持った一般人か魔術師、サーヴァントかどうかすらはわからない。くれぐれも注意してくれ』

 

 また何かがここに向かって来ているようだ。

 一応、皆にいつでも戦闘ができるように心構えだけはしておくように声をかけてからここにやってくる人物を待つ。

 

 そうして、数メートル先すら見渡すことのできない濃い霧の中から現れたのは何処か見覚えのある風貌の少女だった。

 見覚えのある顔、見覚えのある金髪。多少髪質はとがっているものの、髪型までもがそっくりなその少女はどう考えても今俺の隣に居るヒロインXと言うよりいわゆるアルトリア・ペンドラゴンと同じ顔、もしくは限りなく近い顔を持っていた。

 

「ん?なんだお前ら。あの人形どもを追って来たんだが………!?」

 

 ガサツさを感じる口調で何かを問おうとしたアルトリア・ペンドラゴン似の少女だったが、向こうもこちらに居るヒロインXを視界に収めた瞬間目を見開き、口をだらしなくあんぐりと開けた。

 

 俺の直感が言っている。これはヒロインXの病気という名のセイバー絶対ぶっ殺す精神だけでなく、向こうの少女は少女で非常に巡りあわせが悪いと。

 

 

 常識という檻から解き放たれた自由三人娘すら黙らせる雰囲気の中、ヒロインXに視線を固定していた少女は、実に間の抜けた声で叫び声を上げた。

 

「ち、ちちち……父上ー!?」

 

 まさかの娘さんだった。

 ヒロインX(アルトリア・ペンドラゴン)を父?……親として仰ぐということはあの少女はもしや反逆の騎士モードレッドだったりするのだろうか?もしそうだったらまずいぞ。先程人形を追いかけてきたという旨の発言から考えるに、彼女は確実にこの街についての情報を持っている。それを聞きたいのだが、色々こじれた因縁があるであろうアーサー王と行動を共にしている俺達と話をしてくれるかどうか、とても不明瞭だ。無闇に突っ込むのはよくないと思い、ひとまず静観を決め込むことにする。

 

 素っ頓狂な声を上げたモードレッド(暫定)の発言に対して、ヒロインXはゆっくりとその顔を上げて、静かに口を開く。

 

「そうですかそうですか。モードレッド。………貴方まで、私の邪魔をするというのですね………」

 

「えっ?ちょっ?父上?」

 

「――――――このドラ息子。城の窓をたたき割って回ったことも含めてじっくりと私が教育してあげます」

 

「父上が認めてくれた………ドラ息子って言ってくれた………!しかも、剣で語ってくれるとか、よっしゃ!テンション上がって来たぜ!」

 

 ………カオスだなー……。もう収集つかないなー。会話に入るのも面倒くさいなー。しばらく放置しよう。

 

 既に観戦モードに入ってしまった能天気三人娘を視界に収めつつ、急に剣を交え始めた親子(暫定)

 こんな状況で俺が取れる手段はなかったのだ。

 

 そうだなとりあえず、マシュが妙に優しい表情をしながらヒロインXとモードレッドの戦いを見ていたことが印象に残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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