何時か余裕ができたら完全な日常回を書いて出番の少ない人たちを出したいな(願望)
………前回のフランケンシュタインの一件から薄々思っていたけれども、何処かドラ〇エのお使い染みて来たよね。
そのような考えに至った原因はついさっき、フランケンシュタインの怪物改めフランを引き連れてジキルの部屋へと帰還したときにさかのぼる。ここでジキルによってめでたくフランがこの時代の人間?だと分かった後、このロンドンで室内にまで侵入して人間を襲う人とそう変わらない大きさの本が現れたという。今度、俺たちはその調査に行こうというわけだ。実際に人が襲われていて被害も出ているということで急を要するとのことで早速再び霧が蔓延するロンドンの街並みを歩くことになっている。
今回俺たちについて来てくれているのは、信長に代わってハロエリである。なんでも退屈が極まってしまい構えとのこと。このサーヴァント、本当に残念である。良識の欠片を持った結果、その他諸々のパラメーターを捨ててしまったんじゃないのだろうか。
「ちょっと子犬。いま失礼なことを考えなかった?」
「ソンナコトアロウハズガゴザイマセン」
時々発現される勘の良さから来る指摘に冷や汗を垂らして話を逸らしつつ、俺は適当にハロエリを流した。
ばれないようにそして尚且つ彼女が満足できるように話を流すという作業を俺がしている中、マシュとモードレッドは再び二人で話し合いをしていた。これが疎外感というものか……。というか、モードレッドの反応とか、冬木のアルトリア・ペンドラゴンの反応からして絶対にマシュの英霊は円卓関係だと思うのだろうがどうだろうか。
まぁ、所詮俺の妄想だし、そもそも言葉に出していないから返事を返す人物もいないんだけれども。
「オレ達も結構な幻想種と戦ってきたぜ?あれはあれで中々面白かったぜ」
「そんなことが……」
「まぁ、俺だってそれっぽいのと戦ったこともあるし、円卓があった頃ならそんなものなんじゃない?」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
全員で一斉に見られた。
うん、カルデアに来て、こういう世界を本格的に知った後だからこそ気づいたんだけど、師匠に修練の一環として相手した奴らが多分幻想種とまではいかないけれどそれに準ずる連中だと予想できた。だって、滅茶苦茶大きかったし、何か謎のモノ飛ばしてきたし。
「………お前、本当に意味が分からないな。オレが言うのもなんだが、人間か?」
「正直、竜でも何でも何か混ざってないと納得できないレベルよね」
「先輩には神様でも憑いているんじゃないのでしょうか………」
『在り得ない……と、断言はできないなぁ……』
何やら言いたい放題言われているのだが、どうにも否定しにくい。いや、これが間違いであることはわかっているのだけれど、俺じゃない俺がそれに酷似しているような……。
ま、まぁ、それは置いておくとして。先程までドン引きの表情を浮かべていたモードレッドが急に気配を鋭いものに変化させた。恐らくは敵が来たのだろう。こちらでも大まかな存在を感知できている。
「この感じ、自動人形が多い感じだな」
「あれ自律人形じゃなかったんだ……」
「どっちにしても倒すなら同じよ。人形相手っていうのは少し不満だけど、私たちのハロウィンはこれからよ!」
「――――行きます!」
―――――――――――
――――カット(ワラキーボイス)
自動人形との戦いなんて一方的な蹂躙にしかならないがためにとりあえずスルー。簡潔に結果だけを伝えるなら、再びガラクタの山が築かれたというくらいである。無駄に数は多かったもののそれでも多少時間がかかるくらいのものだったしな。
そうして戦いが終わりひと段落したこのタイミングでロマンからの通信が入った。なんでもジキルが俺たちに通信をよこしたいらしい。そう、一言入れてからロマンは通信をジキルに明け渡した。
『あーあー……聞こえているかな?』
「はい。感度良好です」
『うん。大丈夫そうだね。それにしてもカルデアの技術はすごいね。これが未来の技術ってやつなのかな』
「おい、無駄話をしたいわけじゃないだろ?」
『ごめん。――――じゃあ改めて、追加情報だ。さっき言った本の具体的な被害が明らかになった。なんでも、そこに出てくるホムンクルスや自動人形みたいに人を殺すようなことはせず、深い眠りに誘うらしい』
「魔術か?それとも薬物か?」
『そこまではなんとも……。ただ、薬物なら君たちには効かないだろうね』
「はい。私とモードレッドさん、そしてエリザベートさんはサーヴァントですし、先輩にも耐毒スキル(仮)がありますからね」
「へえ、そいつはいい。ただ、これが宝具の類だった場合は気負付けろよ。オレやそこの盾野郎の対魔力スキルでも直撃は危ういぞ………お前が素直に当たるとは思えないがな」
「あぁ、ここでも子犬に汚染された被害者が……」
「言い方……っ!」
被害者とかハロエリだけには言われとうなかった……!
『うん。仲が良くて大変結構。それはともかく、被害のあった町に着いたらまずは僕の言う古書屋に立ち寄ってほしい。そこに情報提供者がいるはずだ。まだ、本に襲われていなければ、の話だけどね』
「フランケンシュタインの二の舞だけは勘弁してほしいなぁ……」
「全くだぜ。しかし、幸いにも目的地は目と鼻の先だ。さっさと行くか」
モードレッドの言葉にうなずき、サーヴァントの全力を以って目的地に向かい駆け抜けていく。それだけで身体能力強化の魔術を使ってしまったが、一応は非常事態として割り切ることにする。
「………ようやくか。待ちくたびれたぞ馬鹿め。おかげで読みたくもない小説を一シリーズ
、ニ十冊近くも読み潰すハメになった。だがまぁ、おまえたちがヘンリー・ジキル氏の言っていた救援だな。では、早速こちらの状況を伝えるとしようか」
急いで向かった古書店には青髪に眼鏡をしたとんでもなく低くいい声をした少年が居た。ぱっと見、ここの店の子どもかと思ったが、話し方と本が襲ってくるという状況下においてもこの冷静さを保っていることから普通の子どもでないことは容易に予想することができた。それに気配がどことなくサーヴァントに似ていることもなるしな。
さて、メフィストフェレスとまではいかないがどことなく彼を思わせる声と話し方をする少年の言葉を簡潔に説明するとしたらこうだ。
この街の大部分の人は既に本に襲われてしまったらしい。今彼が居るこの古書店の店主も被害者だという。そして肝心の本はこの古書店の二階に眠っているらしいのだ。
「その本。二階にいるんだよな?襲ってきたりはしなかったのか?それとも、お前は狙われないのか?」
「………ほう?お前、どうやら俺の正体に気づいたらしいな。そこのいかに盲信脳筋と目隠れ隠見少女とは少し違うようだ。……その通り、この本は俺達サーヴァントを襲うようなことはしない。何故なら、こいつははぐれのサーヴァントだからな」
『っ!?』
「………なら、まさか人間を襲っているのは」
「おそらくお前が予想している通り。……答えはマスター探しさ。こいつはマスターの精神構造を読み取って実体化するサーヴァント……いや、サーヴァントになりたがっている魔力の塊だ」
「………色々聞きたいことはありますど、とりあえず今はまだ実体化していないということですね」
「その通りだ。まるで創作物の中から出てきたような主従だなお前ら。どれだけ絶望的な状況もひっくり返し、わずかなヒントから答えを導き出す……まるでメアリー・スーだ」
ふぅ、やれやれと俺とマシュの言葉を聞いた少年が息を吐きつつ首を振る。何やら失礼なことを言われた気がしないでもないが、その発言は今スルーするとする。
俺はモードレッドとマシュ、ハロエリに視線を向けて本を外へと誘導するように指示を仰ぐ。万が一ということもあるための処置である。最も、俺がここでやることがうまくいけば戦う必要はないのだが。
「さて、と。そこの君、このサーヴァント擬きはマスターの精神構造を読み取って実体化するんだったな?」
「細かな理屈は多々あるが、大体はそんなものだ」
「なら、ここで俺がマスターとなれば解決なんじゃないか?」
『……早まるな仁慈君!君の精神構造を読み取らせるなんて正気なのか!?もしまかり間違って君が二人に増えてみろ、世界は終わりだ!』
「あれ?俺の役職は世界を滅ぼす魔王だったかな?」
ロマンからの必死の抗議に一瞬そう思ってしまった俺をいったい誰が責められるだろうか。
「しかし、魔力の方は大丈夫なのですか?先輩」
「あの本は町の人を使ったものの、ここまで自力で形作ったんだから、俺が消費する魔力もそこまで酷いものではないと思う」
「後先考えないとは間違うことなく馬鹿だな。お前が終わればゲームオーバーじゃないのか?だからと言って俺がどうこうするわけじゃないがな」
「なんかメフィストフェレスとは別のベクトルで面倒くさいな君」
いい声で次々と罵倒を繰り出す少年に呆れならも外に誘導した本に対して契約を結ぶ。俺と本の間で魔力のパスがつながれたことを自覚する。
その直後、今持っている魔力の半分ほど持って行かれる。だがそれによって起きた変化は顕著だった。今までただの本という外見だったのだが、今はもう違う。そこには既に浮いているだけの本はない。
ただ、かなり小柄なイケボ少年よりも更に身長の低い女の子が立っているだけだった。黒いゴスロリドレスに、編み込んでいる髪を二本に分けた女の子である。色々わからないことはあるが、これが俺の精神構造を読み取ったが故の結果でないということだけはわかった。
「君、話が違うぞ」
「馬鹿め。俺の言葉を馬鹿正直に鵜呑みにした結果だ。……が、今回ばかりは予想外と言っておこう。どうやらよほどこの本を愛読した人間が居たらしいな」
形容できない微妙な顔をする少年。
どうやら、かつていたであろうマスターを象った姿がいまだに残っているということなのだろうか。
「………ありす、ありすは何処にいるの?」
「……お前にマスターはいない。いや、正しくはこの時代に居ないというべきか」
「ありすという子のことはわからないけど、一応今は俺がマスターということになってる」
虚空を見ながらうわごとのように呟く元本の少女。そんな彼女に俺は正直に現状を話すことにした。ここで彼女が俺に攻撃を仕掛けるとするのなら仕方がないが、倒すしかない。
「……………そういう、こと、なのね……。ここにありすはいないのね………。いいわ、私はこれから貴方の本。貴方の為の物語。これからよろしくね。マスターさん」
契約は一応うまくいったらしい。元本の少女は契約に応じ、この場ではサーヴァントとなってくれるようだ。ただ、ありすというおそらく前のマスターであろう人物に対しての想いもなくなっているわけではないだろうし、しばらくの間、取り扱いには十分な注意が必要だな。
「ここまでうまくことを運ぶとはまさに主人公だな。全く面白味の欠片もない奴だ」
「もうどうすればいいんですかねぇ……」