「ひとまずは、あの金色の人に加勢するとしましよう」
ロンドン中に充満している霧を使って召喚されたと思われる嵐の具現、槍を持つアルトリアの方へと向かって行ったヒロインXとモードレッドの二人を見送った仁慈は改めて自分たちが戦うべき相手を視界に収める。彼も、サーヴァントたちが仁慈なら何とかしてくれるという思いを抱いているのと同じくヒロインXなら色々ありつつも何とかしてくるだろうとある意味で信頼しているからだ。
敵を絞った彼らはひとまず戦いに参加することはせずにまずは自分たちの準備を進めることにする。ノッブの場合はあるだけ火縄銃を取り出し、まるで某何も怖くない人のように地面に突き立てて準備をしているし、詠唱の隙を埋めるためにナーサリーも既に魔力を使って術の発動を行っている。タマモキャットに関しては彼女と瓜二つな容姿の女性に夢中になっていて戦う気配がないので放置するとしてマシュだっていつでも動けるように重心を低くして自分の身長程ある盾を構えている。
そんな彼らの様子を確認した仁慈は、金髪の男性に向けて声を張り上げて忠告した。当然そんなことをしてしまえば相手方にも聞こえてしまうのではあるが、そんなことは関係ねえ!と言わんばかりに遠距離専門組の攻撃が炸裂する。
バンバンバンと妙に耳に良い音を響かせながら鉛球を発射する火縄銃と、子どもたちの想像によってその在り方を変えることができるナーサリーからの多種多様な魔術が一斉にニコラ・テスラへと殺到する。
「ハッハ!ライトニング!」
が、相手もそう素直に攻撃を喰らうわけはない。彼は胸や腕に付けている機械で増幅あるいは精製した雷を鉛球や魔術に当てることで相殺する。むしろ、それだけにとどまることはなく、仁慈達の攻撃を貫通してナーサリーと信長を襲った。
「させないわよ!すぅーーーー………LaAAAAaaaaaaa!!」
予想外の威力に驚く中、動いたのはハロウィンエリザベートである。彼女は横から空気を振動させることで発生する超音波による衝撃波を駆使して、相手の雷をかき消すことに成功した。いくら、ナーサリーと信長の攻撃で弱まっているとはいえ、声だけで雷をかき消すとは流石の超音痴兵器である。
攻撃をかき消された隙をついて、先程狙われていた信長が真っ先に動く。火縄銃を両手に装備し一気にニコラ・テスラとの距離をゼロにする。そこからノータイムで発砲するものの、彼女の鉛玉はすべてニコラ・テスラが纏う帯電した霧に当たって本人に届くことはなかった。その光景に信長は一瞬だけ硬直するものの、すぐに復帰しその場から退避し、仁慈の隣まで帰ってくる。
「あの霧、中々に厄介じゃな。近づくだけで魔力が吸い取られるし、何より纏っている電気が英霊由来のもので半端な攻撃をかき消してしまう。……相手も西洋の神を語っているだけで神性はないようじゃし、わしではちょっとばかし決定打にかけるかもしれん」
「……その霧はどうすればいい?」
「魔力を吸われることから長期戦はこちらが不利じゃ。だからと言っても、先にあのジャージと乱雑騎士は出払ってしまったしのう……今いる面々では微妙かもしれん」
ヒロインXとモードレッドが抜けたことにより、今ここにいるのは仁慈にマシュ、信長とハロウィンエリザベート、タマモキャット、ナーサリーライムだ。タマモキャットの宝具であればバーサーカーの補正もあり行けるかもしれないが、撃ったら昼寝をするが故にリスクが高すぎる。仁慈の槍も、人外であれば刺さるのだが、あの英霊はおそらく人を由来とするものだと彼らは予想しているため、そこまでの効果は見込めないと考えていた。そしてなにより、マスターである仁慈の魔力を吸われることはカルデア組にとって致命的と言えるので手出しはできない。
「……ここはオレの出番じゃんかよ」
若干詰んだのでは?ヒロインXでも呼び戻そうかと考えていた信長と仁慈の元に声がかかる。それは仁慈達が助けに参戦したほうの男性。金髪に裸ジャケットというワイルドな坂田さんちの金時君だった。
「しばらく一対一でおっぱじめてて、ちっとばかり厳しいかもしんねえが、それでもアイツに宝具一発ぶちかますくらいは余裕だぜ」
自身の代名詞たるまさかり(ゴールデン)を担ぎながら、豪快に笑う。仁慈はこの時思った。この人外見で誤解されるタイプなのではないかと。どう考えてもあっち系統のひとっぽいのに常識を兼ね備えまくりである。しかもバーサーカー。……カルデアの人たちに見せてあげたいと彼は本気で思った。ちなみに、通信越しに見ていた職員たちはこの姿を見て仁慈がまともになることを願っていた。知らぬは本人たちばかりである。
「と、言うわけでいっちょ行こうぜ。ヒーロー」
「なぁに格好つけちゃってるんですか金時さん。その状態で行ったら宝具撃つ前に即チーンですよ。紙装甲極小火力で前線張ってた私が言うのですから間違いありません。なので、ちょっとだけ待っててください」
これからかっこよく戦いへ――――とはならず、タマモキャットに危うく暗殺されそうになった玉藻の前が金時の元へとやって来て、簡単な術をかける。すると完全とはいかないが、それでも後一戦は問題なく戦える程度までは持ち直すことができた。それを見た仁慈は思わず勧誘しそうになるが、今回は何も言わずとも味方してくれそうなのでスルーすることにした。ちなみにタマモキャットはその様子を見た後、再び襲い掛かりそうになっていた。
「おうサンキューフォックス。しっかし、意外だな。アンタはこういったことをしないタイプだと思ってたぜ」
「えぇ。そりゃ、普段の私ならどこの誰だか知らない人間がその辺で死のうが知ったこっちゃないんですけどね。ほら、これは一応全人類の危機とも言える状況じゃないですか。もし本当に滅びたりでもしたら私とご主人様のあんまーいイチャらぶ生活にどんな影響があったかわかったもんじゃありませんしぃ」
「お、おう……やっぱお前らはそうだよな……」
明け透けな物言いに引き気味の金時だが、この時仁慈は満面の笑みである。曰く、無償で協力するよりこういった理由を言ってくれる方がよっぽどいいとのこと。
「………ご主人。やはりアタシはあれを八つ裂きにしたいのだが、許しを貰えるかな?」
「やめて。こういったサポートもこなせるサーヴァントは貴重なんだから……」
「むぅー……むむむむむ………」
「帰ったら散歩してあげるから」
「ニンジンもよろしく頼むぞご主人」
「とびっきりのを用意させていただきますとも」
ヒロインXの件と言いタマモキャットの件と言い、物で釣る男である。
と、こんなことがありつつもなんとか綺麗に纏まりニコラ・テスラに戦いを挑もうとする面々。………ちなみに、どうしてこうも悠長に話ができているのかと言えば、
「ちょっと!もうソロ活動はいいから助けてくれないかしら!?この人笑いながら雷しかとばしてこないんですけどっ!」
「ライトニング!ライトニング!もういっちょライトニング!」
「ぎゃー!びーりーびーりーすーるー」
「酷いのだわ、酷いのだわ。こんな人とか弱い乙女二人で戦わせるなんて酷いのだわ。悪いマスターには
「やめて(迫真)」
仁慈は自身の第六感が全力で回避せよと訴えているジャバウォック召喚を阻止するために、簡単な会議を行った後にすぐさまニコラ・テスラへと一斉に攻撃を開始するのだった。
――――――――――
「ようやく全員で向かってくるか!いいぞ、勇者たち!この新しき神話系の主神。ゼウスすらも凌駕する雷を操る私を倒して見せろ!」
「人の身で神を名乗るとか、ちょっと不敬にもほどがありません?別にあの節操なしが何言われても気にしませんけど、同じものとしてはみこーんと来るものがあるんですけどっ!」
「これは、古き神話系の匂い!……本来であればこの私。貴婦人には紳士たるのだが、今は状況が状況だ。遠慮なくいかせていただくとも」
主神を語るニコラに対してまじモンの神霊たるタマモが言い返しつつ、着物の袖から呪符をバッと取り出して一斉にばらまく。それら全てが不可解な軌道を描きつつニコラに襲い掛かるが、雷を纏った霧が信長の鉛玉と同じようにそれを阻み、さらには反撃と言わんばかりに紫電が走った。だが、この結果とて彼らにとってはわかり切った結果である。目的は神霊の気配を微妙に漂わせているタマモに注意を一瞬でも引きつけることなのだから。
ニコラが放った紫電と玉藻の前に滑り込む薄紫色の影。カルデア組のメイン盾。頼れる後輩マシュがタマモを守るようにして盾を構え、その紫電を打ち消す。もちろんそれだけでは終わらない。突っ込んできたのはマシュ以外にも存在してるのだから。
マシュが割り込んでくると同時にニコラは弾かれたかのように首を回した。そう。そこには珍しく火縄銃ではなく腰に指した刀を抜いている信長と、殺意にあふれるタマモキャットが居たのだから。
彼女たちは霧に魔力を吸われることすら構わずに自身の得物をニコラに突き立てる。一方のニコラは帯電している霧と自分の身体に電流を流すことで二人の攻撃を逆に利用して反撃を行った。ビリッとした感触と共に体を離す二人。それを隙と見たニコラは今度はこちらの番だと言わんばかりに発明した機械に電気を走らせるが、まだまだカルデア側に人員はいる。
「さっきのお返しよ!」
「さぁ、みんなパーティーの時間よ!」
「ぬぉぉおおおお!!??」
ニコラは反撃に転じようとしていた分だけ隙を曝している。さらに言うならば、今度の彼女たちは霧に吸われきれないような濃度の攻撃をぶちかましているために霧の自動防御は発動しなかった。故に、わずかとはいえ彼の身体に攻撃が届く。圧倒的な物量による波状攻撃に流石のニコラも厳しいと言わざるを得ない状況だった。
「ハッハッハ!だが、卑怯とは言うまい。そうだ。勇者とは、抗う者たちとはそうでなくてはいけない……!」
心底楽しいとでも言わんばかりに笑いながらニコラは霧が吸った分の魔力を取り込みそれをそのまま電気へと変換させて放出する。全身から放電することによって四方八方に紫電が飛び交い、軽快に攻めていた仁慈達も行動を止める。
しかし、これは逆にチャンスでもあった。
放電を行っている以上ニコラの視界は残念ながら封じられたも同然だ。眩い電光が誰よりも彼の視界を奪っているのだから当然と言える。本来ならこれでいい。魔力を潤沢に取り込んだこの紫電はおよそほとんどの攻撃を飲み込み焼き尽くすことができるだろう。
けれどもここには金時が居る。ニコラと同じ雷に携わる者にして、霧を持っている状態のニコラに一歩も引かなかった雷人。彼は自身が持つ鉞に魔力と雷撃を込めて既にスタンバっているのだ。
「アンタ、ぴかぴか光りすぎだぜ。雷ってぇのはな……一瞬で光って消えていくもんだぜ!―――――――――吹っ飛びな!
まさかりに内蔵されている雷を込めた15個のカートリッジを全て開放し、爆発的に攻撃力を高めたそのひと振りは、まさに落雷の如し。鼓膜が敗れんばかりの轟音とニコラの放電を切り裂きつつ、金時の宝具はニコラに到達するに至った。
「―――は、はははははっははは!はーはははははは!!」
「こいついっつも笑ってんな」
金時のまさかりを受けてもなお原型をとどめ、豪快に笑いだすニコラ。それにツッコミを入れたのは今回珍しく何もしていない仁慈だった。本来なら、倒すべき敵がこうして生き残っている以上、全力でとどめを刺しに行くのが仁慈なのだが、既にニコラの身体の半分は瓦解しているために追撃を加えることはなかった。仁慈からすれば、一応槍を持ったアルトリアも控えているために無駄な魔力などは消費したくないという思いがあったこともある。
「目的を達成できなかったのに随分と楽しそうじゃな」
「何を言う。私はこれでも星の開拓者。真に人類の終焉など願うわけもなし。そこのところはMr.ゴールデンも理解していたはずだ」
「まぁな。オレだって、そいつが心の底から願っているのかそうでないのかくらいは判断できる」
「と、言うわけだ。それにしても見事だ勇者たち。まさか宝具すら撃たせてもらえないとは……」
「物量で勝っているのだからこの戦法は当然」
「ふむ。まっとうな結論だ。……では、そろそろ限界のようなので私は帰らせてもらう。では、さらば!」
後腐れなく消えていくニコラ。だが、その消え際の姿を仁慈は見送ることもなく、ニコラとの戦いで消費しなかった分の魔力を槍に込める。そして、
「―――――突き崩す、神葬の槍――――!」
黒き槍から嵐のような暴風をまき散らしているアルトリアに向けて思いっきり投擲をかますのだった。