この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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後もうすぐでプロローグが終わります。
そこから幕間の話を二、三話はさんでオルレアンに行きたいと思います。


自己評価程間違ったものはない

 

「で、結局エミヤ師匠はこんなところで何しているんですか?」

 

「先ほど言った通りだが?」

 

「へぇー……世界に絶望でもしたんですか?」

 

 人類の未来がかかっているのに、その原因を護っているなんてよっぽどひどい経験をしたのかな。例えば、正義の味方を目指して世界を回ったけど結局自分が思っているのとは違っていたけれど、それでも止まることができず行きつくところまで行ってしまったとか。

 

「別にそういうわけではないが……まぁ、黒い霧を纏っている時点で察してくれ」

 

「無様に敵に操られたんですねわかります」

 

「なぜそんなにあたりが強いのかこれがわからない」

 

 ことあるごとに皮肉をぶつけてくるからここで発散しているんですよ師匠。

 思っていても口には出さず、鞄の中から小太刀を二本取り出し、一本は右手、もう一本は腰に差す。そして、背後にいるマシュとキャスターに向かって言葉を発した。

 

「あ、今回は俺一人にやらせてくれない?」

 

「なっ!?」

 

「―――――――へぇ」

 

 マシュは英霊でもない俺がいくら自分の師だからと言って一人で立ち向かうのはおかしいと思っているのか驚愕の声を上げる。一方キャスターの方は俺の心情を理解できないわけではないらしく、否定的な雰囲気は出していなかった。あの人本当は絶対接近戦のサーヴァントだって。性格が後衛向きじゃないもの。

 

「先輩、今回は人類の未来がかかっているので、ここは確実に三人で戦った方がいいかと思います」

 

「そうよ。なにも無理して挑むことはないわ。ましてや相手はサーヴァント……いくら仁慈でも埋めようのない差が開いているはずよ」

 

  カルデア女性陣から批判が入る。まぁ、当然だよね。普通に考えたらわざわざリスクを冒しに行く俺の方がおかしいんだし。

 

「まぁ、いいんじゃねえの?この坊主にもそういう経験が必要だろうさ。それに危なくなったら速攻で助けに行ってやるよ」

 

「むぅ……それなら、まぁ……」

 

「男の意地ってやつなのかしら?ホント馬鹿ね」

 

 キャスターの弁護のおかげで何とか一対一の権利をもぎ取った俺。やったぜ。キャスターに後でお礼を言っておこう。

 彼らに約束も取り付けたので、一歩前に出てから構えをとる。エミヤ師匠に教えてもらったのは弓、過去に最も得意なのは弓と聞いたこともあったのでクラスは確実にアーチャーだろう。しかし、エミヤ師匠は接近戦もそつなくこなすオールレンジの英霊である。死角はないに等しい。ここでの対処法はエミヤ師匠の技量を純粋に上回るもので攻め立てることだが、今の俺がエミヤ師匠とどのくらい打ち合えるかはわからないため、情報を探りながらの戦いになるだろう。

 今まで以上に気合を入れつつ、緊張で硬くならないように精神を整えると、呼吸のリズムと同時に地を蹴り穿つ勢いで踏み込み、一気にエミヤ師匠との距離をゼロにした。

 

 しかし、流石英霊というべきか。

 俺の縮地なんて珍しいものでもなんともないとでもいうかのように普通に対応を行う。エミヤ師匠は両手に彼の唯一使える投影魔術(昔、この光景をマジックだと思っていたのだが、今ロマンに通信越しに否定されてそう説明を受けた)というもので愛用する夫婦剣を投影すると、俺の攻撃を見事に防いだ。 キィンッ!と金属と金属が接触するとき特有の甲高い音が、洞窟に響き渡る。エミヤ師匠は両腕に力を入れると俺の体を簡単に押し返し、体勢を崩した後俺の腹に回し蹴りを放ってきた。

 

「protect!」

 

 サルでもわかる現代魔術の中の一つ。自身の耐久性を上げる魔法を応用したオリジナル魔術を発動させて腹を防御する。簡単に言うとこれは全身に回していた魔力を1か所に集めることで防御性能を高めたものだ。そのためダメージが微々たるものだが、衝撃までは緩和できないので俺は後方に弾丸のような勢いで吹き飛ばされた。

 その間に、小太刀を鞄の中にしまうと新たに槍を2本取り出す。そのうちの1本を地面にさしてブレーキとする。さらに勢いが殺され、自分の体が止まった瞬間にその槍を地面に見立てて蹴り、一気に加速再びエミヤ師匠に接近を試みる。

 

「ほう?槍まで使えるようになっていたとは、つくづくアレだな」

 

「こんな凡才をほめたってなにも上げませんよ!」

 

「その勘違いも健在か……いい加減、君の周りがおかしかったことに気づけ」

 

 俺の周りがおかしいなんていつものことだろ。むしろ、あの家も含めて俺の周りでは普通の奴がいた方が珍しい。なんていったって俺の周りには非凡人のたまり場みたいなものだった。具体的にはどいつもこいつも武術キチだった。

 

 まぁそれはともかく、今はこの戦いに集中するべきだ。

 俺が最も近年教えてもらった武術。3日間という家から強制された方ではなく、ふらりとうちに立ち寄った年齢不詳の師匠が1週間という短い期間だけ教え、授けてくれた槍の技術。それは昔俺に弓やその他接近戦を指導してくれ、手札が丸見えとなっているエミヤ師匠に対しても切り札となりうるものである。だからこそ、一撃一撃必殺の意を込めて振るえ。

 

「――――穿て!」

 

 距離も残り2メートルを切ったあたりで右手に握っていた槍を投擲する。自分の加速していた分も乗せた槍は目にも留まらない速度でエミヤ師匠に襲い掛かる。距離が短いことからいくら英霊だとしてもこの距離で回避することは不可能。ならば、どうするか?

 

「――――!?投擲だと!?」

 

 予想外の一手だったのか、若干動揺したように夫婦剣を振るい、槍を防御するエミヤ師匠。その際夫婦剣にわずかに罅が入っていた。よし、十分な収穫だ。

 エミヤ師匠が槍を防いでいる間に再び鞄から2本槍を取り出す。さらにだめ押しの一発として左手に持っている槍を第2陣として投擲した。間髪入れずに来たもう1本にエミヤ師匠も夫婦剣の修理を放棄して迎え撃つ。

 そして、2本目の槍が防がれたと同時に夫婦剣は砕け散ってしまった。今が好機!

 

 度重なる防御のおかげで俺は既にエミヤ師匠の懐まで入ってきていた。本来なら、槍使いが必要以上に接近するもしくはされることはタブーだが自分から仕掛ける分には、ぎりぎりセーフと俺はしている。

 回転の力を加えた槍は寸分違わずエミヤ師匠の体を貫いた。

 

「――――甘い」

 

 と思っていた。

 しかし、槍の先から伝わってくるのは肉を貫いた感覚ではなく、もっと硬い鋼鉄のようなものをついた時の感覚と自分が放った衝撃が丸々帰ってくるようなしびれだった。そこで俺はエミヤ師匠の腹に在ったものを見る。するとエミヤ師匠の腹の前に一つの盾が置かれてあった。

 

「―――チィ!」 

 

 攻撃失敗とわかった瞬間、バックステップを踏みながら槍を目の前に突き出した。

 そのことから追撃は来なかったものの、再び振り出しの状態に戻ってしまう。あの投影魔術っていうものがとても面倒くさい。一定の強度を持っていて尚且つすぐに量産可能とかチートすぎやしませんかね。

 

「人間スポンジの君が言っていいことではないと思うがね。まぁいい。それで、これからどうするのかね?君と私とでは私の方に分がある。後ろの彼女たちに手伝ってもらった方がいいと思うが?」

 

「はっはっは!あきらめるにはまだ早いですよ。宝具使えないエミヤ師匠に負けるくらいならこの先、生き残ることはできないでしょうし」

 

「ならば、己の程度を知ることだ。正確に把握できていないからこそ、君はこんな様になってしまった私にてこずっている。……いい加減、自分を凡才と思い込むのはやめたまえ。そもそも、人類の未来がかかっているこの戦いで平然としている時点で常軌を逸脱していることに気付くべきだ」

 

 ……エミヤ師匠の言葉は俺の先を心配しての言葉だった。

 自分の力を見誤るな。まさか、自分の力を低く見すぎているがためにこの言葉を言われるとは思ってもいなかった。こういう言葉っていうのは普通、自分の実力に驕っているいる人に言うべき言葉じゃないの?

 

「どちらにせよ。自分の実力をわかっていないことには変わりがないだろう?……さて、おしゃべりはここまでにしよう。どうやら彼女の方もそろそろ我慢できなくなってきたようでね。食事の時のように急かしてきている」

 

「相変わらず誰かの尻にひかれているんですね」

 

 この人は英霊になっても本当に変わらないな。

 どこに行っても苦労を背負い込み、家事をやっていそうな感じがピンピンする。そして、色々皮肉っているけどなんだかんだで手を貸してしまったりするからさらに苦労と心労が倍になる姿が想像できる。

 

「それは褒めているのか?」

 

「最大級の賛辞です」

 

「嘘をつくな」

 

 最初のように軽い言い合いをしながら、エミヤ師匠の言った言葉を心の中で何度も何度も思い浮かべる。

 己を信じる、か……。生まれてこの方向けられて来た視線がすべて誤解だったと分かったところでそう簡単に自分を信じることなんてできないけれど、エミヤ師匠の言葉だしやるだけやってみよう。

 

「フッ、それでいい。………私にはできなかったが君にならできるはずだ。己を最後まで信じることが。……では、行くぞ馬鹿弟子。魔力の貯蔵は十分か?」

 

「もちろんですとも。師匠こそ、弟子にのされる覚悟はいいですか!」

 

 鞄から、残り2本となった内の1本の槍を取り出す。今回取り出したる槍は家に有ったものではなく、俺が1週間槍を教えてもらった年齢不詳の師匠から授かった槍である。外見は特に変わったところはなく強いて言えば少し赤黒いくらい。これをくれた人も特になんともない凡骨だと言っていた。なんでも沢山持っているから1本くれるとのことだった。

 

 呼吸を整え、次に放つ一撃にすべてを乗せる。

 師匠はようやく、自身のクラスの象徴である弓を持ち出し、剣を矢に見立てて構えている。シャドウサーヴァントとなっているため全力での攻撃はできない師匠だがそれでも俺を殺すくらいわけないだろう。今までは何処か加減をしてくれていたが、この一撃だけは違う。何より俺を信じていてくれているからこその全力攻撃。ならば、俺も彼の期待にこたえなければならない。

 

 視線が交わる。

 合図はない。唯、お互い自分のコンディションが最高の位置に達した時が、始まりであり終わりの合図だ。

 

 

 

 ―――――動き出したのは同時だった。

 

 

 エミヤ師匠が放った矢は風を捻じ切りながら飛来する。俺も、エミヤ師匠が放った矢のごとく一直線に彼のもとへと疾走した。

 矢との距離が詰まるのは一瞬だった。

 

 そして、その矢が俺を貫かんとした瞬間、俺は前面に向けていた体勢をさらに低くしつつ捻りを加えてその矢を紙一重で回避した。しかし、風を捻じ切るほどの勢いで迫ったものだったため、触れていないにも関わらず背中に傷を受けたが、それは後回し。

 エミヤ師匠が第二の矢を放つ前に彼との距離をゼロにする。その後、左手に持っていた、赤黒い槍を突き出す。だがその攻撃は先ほども槍を防がれた盾に拒まれエミヤ師匠の体に届くことはなかったが、盾はしっかりと破壊してくれた。

 これで彼の体を防ぐものはない。

 

「貫き穿て――――!」

 

 八極拳の技術を応用し、突進の勢いを槍に上乗せしてエミヤ師匠の心臓を貫かんと槍を突き刺した。

 ドシュ、と肉を貫く音が耳に届く。血のようなものは出なかったが何か核になっているものは破壊することができたと漠然と理解ができた。

 

「………ふむ、案外あっけないものだな。これで私も色々な意味でお役御免というわけだ。いやいや、よかったよ」

 

「………よくないよくない。あんなこと言っておいてなんだけど、師匠全力じゃないから超えたことにはならないだろうし」

 

「そこは問題ではない。重要なのは、君が己の認識を改めたことだ。それさえできればあとはどうにでもなる。………だが、それでも納得ができなければこれをやろう」

 

 エミヤ師匠はそういって俺に虹色に光るもやっとボ〇ルのようなものを4つ渡してきた。正直これが何なのかさっぱりわからないので、尋ねてみる。

 

「これは英霊の核になるものだ。これを4つ使い魔力を注ぎこめばこれを霊核として英霊を召喚することができる。もちろん、様々な工程を省いている分魔力は喰うが……それでも持っておいた方がいいだろう。もしかしたら、私を呼べるかもしれんぞ?まぁ、しばらくは休ませてほしいがね」

 

 最後に肩を竦めると、師匠はいつもの少しばかり影のある表情で消えて行ってしまった。

 あとに残ったものは俺がそこらへんにブン投げた槍と、彼からもらったレインボーもやっとだけである。

 

 けれど、エミヤ師匠は俺に重要なことを教えてくれた。己を信じるということを。

 

 

 

 ――――よっし……俺は自分を卑下するのをやめるぞー!師匠ー!代わりにできそうなことは積極的にやってみることにするよ。

 

 

 彼が消えていった方向を見ながら心中で俺はそう誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おまけ・一方観客席の方々


 「やっぱりおかしいですよね」

 「…………フッ、家柄とか遺伝とか……何だったのかしらね……」

 「フォーウ……」

 『もう彼が英霊なんじゃないかな』

 「…………(あの槍……まさか、な)」


 


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