―――――504号室
あの式さんだけでいいんじゃないかな?した後の俺達。結局、あの式(?)はその場にとどまることなく消え、いつの間にか着物の上から上着を着ている物騒な式にフォルムチェンジしていた。どういう原理なのか全くわからないが、まぁ、夢であるような人物だったので深くは考えないようにする。只、彼女が出ていた時の式に記憶はないらしく、木の幹に足を引っかけて転び、気絶していたと本人は思い込んでいた。……自分の身のこなしを振り返ってそんなことはないと思わないのだろうか。それとも意外とそういったことをするタイプなのかと若干気になった。
それはともかく、なんちゃらマーダー擬き……とも言えないような亡霊を屠ったのであれば、残っている理由もなし再びマンション探索へと乗り出した。で、現在はサンタオルタ(槍)が立ちふさがっていた階層よりも一つ上がって五階にやって来ていた。ロマン曰く、この階層は一番魔力が濃く、その辺の亡霊よりも数段強力な反応が観測されているという。そしてその霊基はこの特異点擬きを構成しているものと酷似しているらしくそこにこの特異点擬きを作り出した元凶がいるとのこと。要はここにいる奴を倒してしまえば万事OKということらしい。我ながら呆れるような脳筋思考だが、大体あっているので今回は問題ない。というか、物理で解決できるならその分面倒がなくていい。
「確かにそうだ。チマチマ考えるのは今一性に合わない。切って解決するならそれが一番だ」
「イヒヒ、おやおや随分と物騒な発想をお持ちなようで。私、そういうことは少々苦手です。何せ、悪魔ですから。余りにあっさりと片付けてしまっては勿体ないではありませんか。素材はしっかりと下ごしらえと味付けをしないとおいしく戴けませんよ」
「どちらも甲乙つけがたいくらいえげつないですね。……先輩、廊下も終わりが見えてきました。恐らくあれが最後の部屋みたいですけど、何か感じますか?」
「ロマンの言う通り、強い魔力を感じる。………けど、ぶっちゃけついさっき相手にしたなんたらマーダー擬きの方がよっぽど強いかね」
「あれと比べてはいけませんよぉ。あれは例外中の例外。むしろ、あんなのがぽんぽん出てきてしまわれては
メフィストフェレスのテンションがうなぎ登りである。元々、悪魔は欲望に忠実だときくし、彼もその類なのだろう。俺としては元凶なんてどうでもいいけど……こんな余裕のない時にサーヴァントの誘拐なんて愉快なことを実行してくれた相手は拝んでおきたい。
そんな思いを抱きつつ、俺たちは504号室に手をかけ、中へと入る。
すると、開けた瞬間にその部屋が異常だということがわかる光景が目に飛び込んできた。今までだって、壁にはひびが入り、全体的に呪われているということがまるわかりなくらいに薄ら寒い部屋しか見てなかったが、ここはそういう次元ではなかった。ここには何もない。深淵の如き暗闇が広がっているだけで、もはや部屋でも何でもなかった。明らかに外装と内装が一致していない。
『んなっ!?この部屋、境界線がない!スカサハ女史が居る影の国のようなものだ!こんなの放っておいたら―――――』
「ようこそおいでくださいました皆様、楽しんでいいただけましたかぁ?」
「おや、私こんにちは。そして境界式の監視ご苦労様です」
ロマンの言葉に俺は顔を青ざめる。あそこはやばい。世間一般の人が想像するような地獄ではないものの、それでも十分にマズイ。意味不明なくらい強い亡霊がうようよ点在しているし、空気も冷たくその場に立っているだけでも生気を失っていくくらいだ。厳密には影の国とは違うのだろう。だが、それが発生するという時点で嫌な予感しかしない。
いつの間にか、悪い方のメフィストフェレスが現れ、「メフィストフェレスが二体……来るぞ遊馬!」状態になっているのだが、そんなことはどうでもいい(迫真)この空間がまかり間違って影の国判定を受けてしまったら師匠がここを占拠して、訓練場に改造し、サーヴァントたちを閉じ込めかねない(物凄い偏見)なんとしてでも阻止しなければ。
「せ、先輩!何やらメフィストさんがまた二人に増えてしまっているのですが……!」
「どうせ、悪魔だから悪の心はそれこそ何個もあるってオチでしょ」
「流石マスター仁慈!一時期の契約と言えど、私のことを深く理解してくれているようで、とても嬉しいですよォ!」
メフィストフェレスに褒められてもなぁ……と微妙に思うが、要するにあの悪のメフィストフェレス二号の後ろに存在しているバカでかい死霊を倒せば問題は解決するということなのだろう。で、あれば。やることなんて一つしかない。人外に通じる槍を以てしてさっさとあれを除霊するだけである。
「おや、流石にもうわかっているご様子。しかし説明させていただきましょう!あの悪の私の後ろに存在している大死霊……あれこそ、この特異点擬きの要石!この空間を支える柱でございます!」
「―――――でかいな。なんだあれ、死の線が見えすぎててきりがない。どんだけ死ににくいんだ、あいつ」
「キヒヒ!そりゃもう、何億という死のコピーペーストですからねぇ。皆様にもこの死霊の一員となってもらいますとも。ですが、その前にぃ――――――――私、どうしても気になることがあるのですよねぇ……いえ、仁慈さんのことです。この件に関して、貴方は全く関係ないはずです。ここは特異点擬きで、人類史には全く関係ありません。例え放置してい置いても影響はないでしょう。ここに来たサーヴァントだって、自ら望んで変質したのです。……そんな彼らを貴方はどうして助けるのです?態々こんなところまで訪れて!」
と、メフィストフェレスが俺に問う。
余りに馬鹿馬鹿しい質問だ。こんなもの態々答えるまでもない質問だ。ぶっちゃけどうして聞く必要があるのかわからない。しかし、向こうも本気で分からないという感じの表情をしているので、答えておこう。質問に答えながらのほうが、あのドでかい死霊を倒す準備も捗るというものだ。
「――――関係ないわけがない。だって、ここには俺たちが呼び出したサーヴァントもいた。彼らを放置する?関係ない?そんなわけにはいかない。人類史を取り戻す戦いということで普段から戦力不足なカルデアだぞ?せっかく召喚に応じてくれた
そう。彼らは俺達の召喚に応じてくれた貴重な戦力にして頼りになる仲間である。エリザベートだって色々トラブルは起こすけれども、そんなトラブルがカルデアの職員たちにとって息抜きとなる。だって被害を受けないで外から見ていられるから。ブーディカだって俺たちのお母さん的な存在だ。カルデアの職員たちのぎりぎりな精神面を支えてくれているおかげで俺たちは今もこうしてレイシフトをすることができる。ノッブだって、ヒロインXだって、頼りになる戦力だ。頭おかしいけど。そんな彼らを置いて行けるわけがない。心情的にも、実情的にも。
「―――そうですか。なんとも、予想通りで面白くない答えですねぇ………」
「むしろほかに何があるのというのか……。まさか、俺が皆を助けたい的な理由でここに来たと思ったのか?……いやー、ないない」
自分で言うのもなんだけど、俺は結構俗物だ。相手に会わせて態度だって替えるし、噓も吐く。興味のないことには首を突っ込んだりしないし、自分のことが一番かわいい。誰かのために動くなんてそれこそ英雄みたいな真似はどう頑張っても無理だ。
「聞きたいことはそれだけ?今さら面白くもない人間性を確かめたところでどうなるかわからないけど……その後ろの奴は俺のためにさっさと成仏してもらおうか」
「いやー、回答は面白くもないものでしたが、そういう方の方が悪魔としてはとても好ましいことも事実!さぁ、始めましょうか!」
――――――――――――――――――
結論を言おう。圧倒的だった。カルデア勢力たちは、悪のメフィストフェレスを封殺し、大死霊を根絶やしにした。それはもう酷いものだった。マシュの盾はシールダーというだけあって恐らく最も防御に優れたものだろう。億という途方もない数の死を重ね合わせた死霊でも、プライミッツ・マーダー擬きが持っていた人類特攻を持っているわけでもない。呪いというものも、毒をはじめとする数多の状態異常を無効化するマシュの対魔力の前では文字通りの無意味。つまりこの段階で大死霊は彼らのことを害せない。となれば、方法は仁慈達の体力切れまで粘ることだけとなる。普段であれば、億という死を塗り固めた大死霊が速攻で倒されることはない。粘るという点では不足などなかった。
ただ、問題は相手方にあったのだ。死人、死霊の死すら捕らえる眼を持つ式と、彼の経歴、英霊に置き換えれば逸話と言ってもいいものの影響をもろに受けて人外殺しの概念を纏った深紅の槍を携えた仁慈は圧倒的に相性が悪かった。式のもつナイフが体を掠めるたびに、大死霊の身体は削られていき、仁慈の槍が当たるたびにほころびが生まれると同時に修復ができない。しかも、彼らの陣形を邪魔しようとした悪のメフィストフェレスも仁慈達と一緒に居た善のメフィストフェレスの妨害により手出しができなかったのである。
式に斬られた死霊は問答無用であの世逝き、仁慈に貫かれた死霊もあの世逝きに追加で周囲に対する回復阻害効果をまき散らす。……そう、どう考えても詰んでいたのだ。
しばらくして大死霊は何をするわけでもなく、消え、ついでに悪のメフィスフェレスも式の直死によって斬られ、実に満足げに消えていった。悪魔メフィストフェレスにとって直死の魔眼の味は格別だったらしい。
「敵サーヴァント及び巨大ゴーストの消失を確認。私たちの勝利です」
「ん、お疲れ様。……メフィストフェレスもな。よりにもよって自分の妨害を試みるなんて随分と意外なことをしたねぇ……お前の性格上、そんなことは絶対にないと思ったけど」
「く、クククク!ここまで怪しい人物にお疲れと来ましたか!いやはや、貴方様は冷徹無慈悲な人間だと思ったのですが、中々どうして!面白いですなぁ」
「……心外だなぁ。確かに俺は俗物だけど、敵じゃなければそこまで辛辣じゃないぞ」
「私を敵ではないと?心にもないことをおっしゃる!しかしそれもまた新鮮でよいですなぁ!―――――まぁ、こんな機会、此度の現界だけでしょうけれども。私、悪魔ですし」
クスクスと笑いながら、メフィストフェレスの身体が先ほど消滅した悪のメフィストフェレスと同じように光の粒子となる。
彼らは二つに分かれたとしてももとは同じもので、善と悪という切り離せない存在。片方が消えればもう片方も消える。それは当然のことだと仁慈も思っていた。だってよくあるパターンだし。だからこそ、余計な口出しはしない。
「――――!?メフィストさん!?どうして、善のメフィストさんまで!?」
「おや、意外ですか?そんなことはありませんとも。私たちは元々一つだったのですからこうなることは必然です。それに、どちらか一つが生き残るなんてさみしいじゃないですか。ほら、ヒトは一人では生きられないといいますしぃ?まぁ、私は悪魔なのですが!」
「――――――。おい、ハサミ男。随分とご機嫌そうだが、そこまで楽しかったか?」
「ええ、ええ。少なくとも、私がこの別れを惜しむくらいには。ここまでぶっ飛んだ
むしろ、式や仁慈級の人間がゴロゴロいたらそれは紀元前や、一世紀近い時代なんじゃないかと錯覚しそうである。
「それでは皆様、これで私は死霊の仲間入りとなります!マスター・仁慈。実に見事なキチガイっぷりでした!いつまでもその異常性が失われないことを悪魔たる私は願っておりますよ!ええ、それは心底ね」
最期の最期まで実に愉快そうに、実に悪魔っぽく消えたメフィストフェレス。この特異点の核たる大死霊も倒し、いずれこの特異点は崩壊を迎えるらしい。しかし、それまでは時間があるという。一応このまま放っておいてもこの空間の崩壊と同時にサーヴァントたちは帰ってくるらしいのだが……仁慈は、自ら望んだにせよ、無理矢理にせよ様子だけは見たいので、そのまま上に行くことにした。
ちなみに、用件が済んだはずなのに全く帰れる気配がないということから式がカルデアに来ることが決定した。理由は仁慈をはじめとするサーヴァント連中の様子を見てみたいらしい。面倒事が嫌いそうな顔をしながら自ら面倒事に突撃していくスタイル……仁慈は妙な親近感を抱いたという。
――――――――704号室
上に上がっている途中で明かされる衝撃の真実。式の目的は近隣住民の苦情の原因であるであろうサーヴァントの撤去作業だった。ここまでカルデアに居ないが、有ったことのあるサーヴァントたちとの戦闘でこのことを知った仁慈たちは大変驚いたものである。なんでも、このマンション今は式の実家が持っているらしい。
そんなこんなで、各特異点であったサーヴァントたちの主にだらしのない一面を視させられ呆れつつ、上に上がること二階ぶん。そろそろ屋上が近くなってきた七階最後の部屋に仁慈たちは訪れていた。
「おう、新しいお客さんかい?遠慮せずに入って来な。別に取って食いやしねえよ」
「…………………」
「先輩の眼が死んでます……。これが、直死……」
「流石に一緒にするなよ」
部屋に居たのはまさかのクー・フーリン。しかも、いつものランサーではなく彼らが一番初めに会った冬木の時に当てはめられていたキャスターの姿でその場に座っていた。いなくなった段階でここに居ることは予想できたものの、それでもショックは大きかったようだ。こいつは何をしているんだと。
「って、なんだマスターか。まぁ、いいや。とりあえず座ってゲームを選びな。一応カード、ダイス、ルーレット、バックギャモンとバリエーションに富んでるぜ」
「……バクチ……式さん。近隣住民の苦情にはなんて?」
「深夜になるとゾンビがうるさい。裸のゾンビが泣きながら出てくる……こんな感じのだ。……まぁ、深く考えなくてもマンション賭博だな。問答無用で逮捕案件だ」
『ゾンビを普通に表記して尚且つ苦情を寄せるなんて、なんてたくましい近隣住民なんだ……』
「いえ、確かにそうですけど……クー・フーリンさん……貴方という兄貴は……!」
「ご名答~、つい暇だったんで、趣味に走ってカジノとかはじめてみました☆……なんかここに来たらクラスがキャスターに変わってるしよ。この杖があれば、ダイス操作も楽だしな」
『違法ギャンブル!しかもドルイド能力を使ったものだって!?才能の無駄遣いにもほどがある!』
「何をしているのですか……というか、クー・フーリンさん。貴方は確かスカサハさんとの修練中だったのでは?」
堂々とイカサマをしていると明かし、ケラケラと笑うクー・フーリン。それに対してマシュが当然の疑問をぶつけた。そう。彼は第四の特異点に参加せずにスカサハに連れられ久しぶりにケルト式修練を受けていたはずである。
聞かれたクー・フーリンは、それこそが原因だと言いながら、ここに来るまでの経緯を語った。
曰く、全く成長しないと毎日罵倒されまくった結果大喧嘩をしたというのだ。元々サーヴァントとは完成されたもの。成長ということを行うには生前の姿に霊格のを近づけていかなければならず、修練等でどうにかなるものではない。が、そんなことは関係ないとひたすらやられ続けた結果、先程言った喧嘩が発生したという。決め手は歳についての言及らしい。
「で、俺はここにぶち込まれたってこった。曰く、反省しろだと。ったく、俺はどこぞの猿かよ」
「……その境遇には同情しますが、駄目ですよ?女性の年齢についての言及は」
「マシュの嬢ちゃんほどの美人からの忠告なら聞くしかねえな!どうだい?バクチはそこそこにして、別の遊びをしていくかい?美人な嬢ちゃんなら大歓迎だぜ?」
………さて、ここで、ほとんど言葉を発していない人物がいることにお気づきだろうか。本来のクー・フーリンであれば、このような行動、このような発言はしないだろう。ましてや、弟弟子である仁慈の前だ。ほぼ絶対にないと本人も周囲の人間も言うだろう。だが、今の彼はスカサハと喧嘩してぶち込まれたという精神的隙とマンションの性質を受けてしまったせいで普段の彼ではなくなっている。それは他のサーヴァントたちに比べれば誤差の範囲と言える。精々少々欲望に忠実になった程度だ。だが、それが今回は逆にいけなかった。ほとんど彼の知るクー・フーリンと乖離していないからこそ、割り切ることができなかったのである。
「――――――兄貴……」
そう。はじめを除き発言をしていない仁慈はマシュを誘うクー・フーリンに声をかけようとして、
「フォウ!フォーウ!」
「うむ。フォウはいいことを口にするな。”怠ける戦士はその槍で灸を据えよ”とは」
「す、スカサハさん!?」
「残念ながら私はケルト最強かつ最美の女戦士ではない。名もなきクノイチである」
何やらおかしなことを言いだした仁慈とクー・フーリンの師匠であるスカサハ(本人は否定している)に遮られた。
そのことに再び無言になる仁慈だが、ケルト出身の二人は気づいていないのか、そのままやり取りを続けていた。
「では、死ねクー・フーリン。一日に二度も三度も死ね」
「えー、知りませんー!アナタどなた様ですかーぁ!ここにはクー・フーリンなんていいないんですけどーォ!」
今にも槍を以てクー・フーリンを串刺しにしそうなスカサハと、フードを被り、必死に他人を装うクー・フーリン。その様子にマシュは困惑を隠せないでいる。
そして、あわや、二人が激突しようかという瞬間に、まるで首元にナイフを突きつけられたかのような寒気を帯だ声が、部屋全体に響き渡った。
「正座」
その場にいた者たちは、その声をはじめは誰が発しているのかわからなかった。それはあまりにも普段聞いているものと違っていたからである。
恐る恐る、その場に居る全員が声のした方を向くと、そこには視線と顔を下に落としているために表情を窺えない仁慈の姿があった。これはやばい。その場に居たものは全員がそう思った。いまの彼からは、むやみに逆らえない、動けない『すごみ』をかんじた。
そんな彼らを華麗にスルーして、仁慈はもう一度、口を開く。
「師匠、兄貴、正座」
まさかの名指しである。特にスカサハは自分すらも指定する仁慈に驚きより一層固まった。一体どういうことなのだろうかと。クー・フーリンも同様である。今までに見たことのない仁慈の姿に動揺を隠しきれなかった。
そして――――――――――それがいけなかった。
「正座……しろっつってんだオラァァァァァァアアア!!!!」
「ぐぼぉ!?」
「ぐっ!?」
「えっ!?」
「は?」
『えぇ!?』
「ファ!?」
全く動かない二人を見て、反省する気というか、言うことを聞くきがないと判断たらしい仁慈はその場から一瞬で消え失せると、スカサハとクー・フーリンの頭を両手で掴むと音速で床に叩きつけた。
スカサハは、持ち前の性能と判断によってギリギリ両手を床に着くことで頭をぶつけることは回避するも、キャスターとなっているクー・フーリンは反応できず、床に頭を思いっきり埋める結果となった。
唐突な暴挙に動揺を隠せない一同、特にカルデア組の動揺はすごかった。仁慈が普段は頭が全く上がらなないスカサハに対して令呪(物理)をかましたのだ。その動揺は計り知れない。
しかし、当の本人はそんなこと関係ねぇと言わんばかりに説教を始めた。
「……兄貴。いくら相手が師匠だからって余計な口出しばっかりしないでもらえます?確かにあの人は理不尽の塊だし、無駄に馬鹿強いから溜め込むものが多くなることもあるけど……その時は俺がしっかりと聞くんで、師匠に年齢という爆弾として打ち返すのはやめてマジで」
「……………………」
へんじがない ただのしかばねのようだ。
実際、彼の顔は床と一体化しているので返事などできようはずがない。そのことを気にせず仁慈は視線をクー・フーリンからスカサハに変更した。
「師匠も、無理を通して道理をひっこませることができるのは貴方だけということをわかってください。兄貴が、全盛期の実力なら確かに遠慮なんていらないかもしれませんが、ここ居る兄貴はサーヴァント、本来のクー・フーリンという存在の一部を切り取っているだけなのですから無理なこともあります。それを押し込ませて我を通させるのはやめてください。まぁ、無理しなければ強くならないというのも身をもって知っているのでこの辺のことに関しては強く言いませんけど、せめて、お仕置きと称して未知の特異点擬きなんかに閉じ込めないでください!まかり間違って敵として出てきたり、もう二度と召喚できなくなったらどうするんですか!」
「フン、そのときは私が責任を取る。それより仁慈、私にこんなことをしてただで――――――」
「うるさいです黙ってください。自分の立場を自覚してください。師匠どうせ遊ぶでしょうが。それに自分よりもはるか年下の小僧に説教を受けている身で偉そうにしても威厳なんてありません」
「……むむむ」
「――――さて、続きですけど―――――――――」
この後も説教は続いた。口答えをすればその場で正論を言って黙らせる。一度だけスカサハが武力行使を試みようとしたが、その時はなんと、カルデアの礼装に登録されていた魔術、ガンドを使って彼女の動きを封じてまで説教をつづけた。その様子は鬼気迫るものを感じ、今まで自由奔放だったスカサハに対して言いたいことがたまりにたまった結果だと医療トップのロマニは語った。
最終的に仁慈の説教は二時間続き、その後、二人そろってカルデアに帰るところを仁慈に監視されるのだった。
クー・フーリン「………どうした。随分と大人しいじゃねえか」
スカサハ「………説教なんて、初めて受けたかもしれんな………」
通信越しの仁慈「いい話風にしようとしてますけど、帰ったらまた説教ですからね?…………逃げたらどうなるか、お分かりですね?」
クー・フーリン「」
スカサハ「」