この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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山の翁がくるなんて聞いてないんですけど……。石が消えてしまうではないか……ッ!

あ、今回はプロローグなのでかなり短いです。


復讐鬼とキチガイは監獄塔にて哭く
プロローグ


 

 

――――――人を羨んだことはあるか?

 

 

――――――己が持たざる才能、機運、財産を前にしてこれは叶わないと屈したことは?

 

 

――――――世の中は不平等が満ち、故に平和は尊いものだと噛みしめて涙にくれた経験は?

 

 

――――――答えなくてもいい。どうせあったとしてもろくなことじゃないだろう。

 

 

――――――自らの心を覗け。目を逸らすな、それは誰も抱くもの。誰一人として逃れることはできない。

 

 

――――――他者を羨み、妬み、無念の涙を抱くもの。嫉妬の罪。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――― 

 

 

 

 

 

 さて。

 この状況、どう説明したものか。と、俺は()()()()()()硬質なベッドに腰かけながら頭を抱える。

 

 いや、こうなった経緯を説明するのは簡単だ。式を迎えた後に、自室へと眠りに行こうとし、マイルームの扉をくぐったらこのカルデアとは似ても似つかない……まるで監獄のような部屋に入ることとなったである。

 そう説明だけなら簡単だ。が、全く分からない。なにがどうしてこうなったのかさっぱりわからない。ロマンとの通信は繋がらないし、夢の可能性も考えて頬を抓ってみてもただ痛いだけだ。壁をぶっ壊そうと思い、八極の極意を乗せた拳をぶつけてみても全く反応はなかった。正直八方塞がりである。

 

 そして何より、

 

『キィァッァァアアアア!!』

 

「うるさい」

 

 ふと、湧いて出てくる亡霊の叫び声が物凄くうるさい。特に何もしていないにも関わらずどこからかやって来て俺に襲い掛かってくるのである。幸い、魔力を纏わせれば殴り飛ばせるので全く問題ないのだが、唯々うるさい。

 

「………仕方ない。とりあえず、一発で壊れないことが分かったし、何度も同じところを攻撃するほかないな」

 

『やめろ脳筋。と、いうか、まっとうな人間ならあの亡霊にがたがた震えているべきだと思うのだがどうだ?』

 

「ははは(棒)心にもないことを。俺のことをまっとうな人間なんて思ってないだろ。………真っ黒黒助」

 

『は、冒涜者の言葉を借りたか。お前の可愛い可愛い後輩の口を借りればこの世に存在してはいけない英霊、冒涜者の言葉を借りれば真っ黒黒助……碌なものがない』

 

 姿は見えない。気配も感じない。だが、確かにそこにある。

 声が聞こえる、式とあった小川ハイムにて感じた、確かにして明確な敵意、悪意、殺意……ごくごく最近受けたばかりだからこそ、間違う筈のないものだ。

 

『しかし、このままでは話が進まないのも事実。お前にここがどういうところか教えてやろう。――――――此処は地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄塔!……だったところだ』

 

()()()……?」

 

『その通りだ。本来であればここは、数多の罪人たちの恩讐で満ち溢れ、実に人間が作り出した地獄と呼ぶにふさわしい場所だった。………だが、お前と邂逅を手引きしたものが、よりにもよってこの場所にも余計な手を入れたのだ』

 

 その声は、俺たちと対峙した時には感じられなかった明確にして強大な憎悪が見て取れた。どうやらこの真っ黒黒助は恐らくソロモンであろう人物のことを大層気に入らないようだった。

 

「なら、俺がここにいるのは」

 

『当然ながら、オレとの邂逅を手引きした者……十中八九魔術王によるものだろう。お前が想定以上にできるようだったらしいな。ここに閉じ込めてしまおう、臭いものには蓋をしてしまおうということだろう。………フン、人間のことを何一つ理解できない割には人間臭いことだ』

 

 吐き捨てるように答える真っ黒黒助。声は全く似ていないのにどこかアンデルセンを思い浮かべさせた。

 

「ま、そのことはどうでもいい。俺が聞きたいのは唯一つ。今回お前がどちらにつくかということだけだ」

 

『………オレは誰の傍にも寄り付かない。オレはそういう存在だ……。だが、こと今回に置いてそれは別だ。ここはシャトー・ディフ。いわば()()が生まれた場所とも言い換えていい。そして、敬愛する―――――も………。そこに不完全な肉柱なんて撒かれれば誰でも頭にくる、というものだ』

 

 要は、この真っ黒黒助も自分の知るここを魔術王―――ソロモンに好き勝手に弄られて頭に来ているらしい。しかも、自分のポリシーであろうことも捻じ曲げる位には。

 

『故に、俺の手を取れ。仮初のマスター。この監獄塔に蔓延りし、無粋な肉柱を一匹残らずへし折ってやるために、な』

 

「………そうだな。そちらが正体を表せば考えるかな」

 

 

 俺の言葉に一瞬だけ間をあける真っ黒黒助。しかし、その条件を飲むこととしたのだろう。彼が言葉を発する。それと同時に俺の眼の間にはっきりとした人型が浮かび上がって来た。

 

『――――いいだろう』

 

 そうして、はっきりと姿はが浮かび上がった。

 ポークパイハットを被り、その肌はサンタオルタに匹敵するほど白い。もはや病的と思わせるほどだ。だが、弱弱しさは感じない。むしろ、そこまでぶっ飛んだ格好でもないのに言いようのない威圧を感じさせる……そんな不思議な外見だった。

 

「―――俺は英霊だ。お前のよく知るものの一端……世界に影を落とす呪の形。哀しみによって生まれ、恨み、怒り、憎しみ続けるが故にエクストラのクラスを以て現界せし者。そう―――――アヴェンジャーと呼ぶがいい」

 

 

 そう言って、彼はわずかに唇の端を吊り上げた。

 

 

 




監獄塔イベント始まります。

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