この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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これにて監獄編終了です。
そこまで面白くもないこの章にお付き合いいただきありがとうございます。

後、UA100万突破しました。これも皆様のおかげでです。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

活動欄にてアンケートもどきを設置しました。もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


巌窟王

 監獄塔の中にある、裁きの間。

 既に七つの裁きを越え、用済みになったはずのその部屋で二つの影がぶつかり合っていた。一つは、黒き闇と、紫電を身に纏ったポークパイハットを被っている男。もう一人は、支給された白い礼装に身を包み、何を間違ったのか世界の命運を背負ってしまった一人の少年。

 彼らはそれぞれ、黒と白の閃光で己の軌道を描きながら幾度となく交わっていた。

 

「ハハ、ハハハッハ、クハハハハ!!どうしたどうした!お前の実力はこんなものか!?まだ足りないぞ、想いが、願いが!何よりも、生への渇望がッ!」

 

「やかましい!」

 

 ポークパイハットの男。アヴェンジャー……巌窟王エドモン・ダンテスは高らかに謳う様仁慈をなじる。一方の仁慈はエドモンの攻撃に防戦一方であった。相手は、確かに古い人間であり、彼自身生前は特別な力なんて持っていなかった。彼自身は己を人間と区別するものの、仁慈のサーヴァントや知り合いに比べたらよっぽど人間染みている。只の槍に概念として付属できるほど、彼の身体に染みついている人外殺しも全くの無意味というわけだ。そして、さらに仁慈にとって不可解なことが一つあるのだ。

 

「(いつもに比べて、身体が重い……!?)」

 

 仁慈の感じる違和感。それは自身の身体の重さである。いつもであれば、己の思い道理に動く身体。それは、条件が揃えばサーヴァントですら相手取れる肉体である。しかし、今この時限りは違った。その重さは普段であれば気にしないようなものではあるが、サーヴァント戦に置いてその僅かは大きな違いになる。

 

「どうした?動きが悪いぞ」

 

「大きなお世話だ」

 

 何度目か、数えるのも億劫なほどの激突。

 自身の宝具である巌窟王によって、強大な力を有しているエドモンの攻撃は仁慈の身体を再起不能にするには十分な代物だった。それを紙一重で回避しながら彼は今の力でどのようなことができるかを計算していた。

 

「ハハハ!どうやら不思議で仕方がないようだな。いや、だが、そうではない。そうではないのだ。元々、オレとお前に差などない。オレは極めて人間(お前たち)に近い存在。さらに言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に()()()()()()()()()()()()()()

 

「なん……だと……?」

 

 巌窟王エドモン・ダンテスの言葉に思わず言葉を失う仁慈。普段の彼であれば絶対にさらすはずのないその隙を、この七日間行動を共にしてきた巌窟王エドモン・ダンテスが見逃すはずもなく、右腕から魔力の塊を放った。

 半分遅れて反応することができた仁慈は慌てて回避行動を取るが、そもそも気づくのが遅かったせいで完全に避けることはできず、その左腕に決して軽くはない傷を負うこととなる。

 

「ちっ」

 

 チラリと左腕の様子を見た仁慈は慰め程度に回復魔術をかけてみるものの、傷の塞がり具合からこの戦いでは使い物のにならないことを悟って舌打ちをかます。そして、現状の不利を悟った仁慈は思考を全て断ち切り、頭の中を完全に戦闘状態へと移行させた。

 だらりと垂らした左腕のおかげでいつもよりバランスが悪いせいか、多少不格好ならがも態勢を低くした仁慈は、魔術回路に魔力を流し名がら、強化した足で力強く床を蹴り穿ち加速をする。

 

「―――――――!」

 

「それでいい。どの道お前にはこのオレを倒すしか道はないのだからな!」

 

 仁慈の突撃を眺めて嗤いながらも、巌窟王は体に奔る電撃をさらに強め、正面から迎え撃とうと己も仁慈に倣って地面を蹴る。

 お互いが向かっている所為で、五秒も満たずにその距離がゼロとなった。巌窟王は手刀を作り、右斜め上から仁慈の身体を切り裂こうとその手を振り下ろそうとする。だが、ここで仁慈はありったけの魔力を使い物にならなくなった左腕へと回し、動かないはずのその左腕を遠心力を使うことによって振りあげ、巌窟王の攻撃を受け止める盾とした。当然、想像を絶するような痛みが彼の身体を駆け巡るが、仁慈はその表情を一切変えることなく身体をさらに半回転させ、左腕と同じく遠心力を乗せた打撃を巌窟王に向けて放つ。

 

 彼が繰り出した打撃は見事に巌窟王の鳩尾を捕らえ、そのまま穿った。外見からは想像もできないほどの魔力を込められていたのだろう。鳩尾に突き刺さった打撃はその衝撃を決して外に漏らすことなくそのまま内部に留めて破壊しまわるという荒業を見事に成し得てみせた。

 

「……!!」

 

「―――まだまだァ!」

 

 持ち前の意思によって無様な叫び声すら上げなかったものの、身体を駆け巡る予想外の衝撃に一瞬だけ完全に停止する巌窟王。もちろん仁慈がその隙を逃すことなく、鳩尾に置かれている右手を足を使ってさらに奥へと抉り込ませていく。

 

「……っ!」

 

「――――はぁあ!!」

 

 仁慈はその勢いを弱めることなく、巌窟王の身体を宙へと浮かせた。そして、無防備にも浮いている彼に全身全霊を込めた回し蹴りを叩き込んで裁きの間の壁際までまるでミサイルが飛ぶかのような勢いで吹き飛ばした。

 が、巌窟王もただでやられるわけではない。吹き飛ばされながらも両手から魔力を放ち仁慈への攻撃を行う。回し蹴りを行った後であったため、隙だらけの仁慈はその攻撃の一つを左腕で受け止めるがもう一撃は胴体に直撃し、一メートルほど後ろへと戻された。

 

「あぐっ…!……ぺっ」

 

 撃ち抜かれた胴体の状態を素早く把握。内臓は無事か、傷の程度はどれほどか、動きに支障はあるかどうかを右手で軽く確認する。左手については見るだけでSAN値が減少するほどえぐいことになっているのでもう無理だと諦めているため確認することはなかった。

 

「(内臓に傷はなし。けど骨に少しだけ罅が入ったか……動きには問題ないから今はいいか。一応回復魔術だけ軽くかけておくけど)」

 

 傷の把握が終わった仁慈はその直後、何かに弾かれるようにその場から跳躍した。彼が急いで現状把握に努めてみれば、先程まで居た場所にはいつの間にか巌窟王が存在しており、地面を陥没させているところであった。恐らく己の宝具を部分的に開放したのだろうとあたりを付けた仁慈は単純な高速化の厄介さを改めて実感することとなった。

 

「……見た目は派手だが、やはり威力にかけるな」

 

「人間である俺に何を期待しているのかと」

 

 五メートルほど距離を保ちながら対峙した二人。

 その構図は勝負が始まる前の状態と酷似していたが、本人たちの様子は天と地ほどの差があった。巌窟王たる彼は、所々に破壊された床の破片が付着しており、埃をかぶっている程度の変化で済んでいるが、仁慈の場合はかなりひどい。左腕は完全に使い物にならず、脇腹も巌窟王の攻撃の所為で礼装が破けて青いあざが浮き出た肌が見えてしまっていた。

 

「……随分と粘るものだ。オレとお前の相性は最悪だと、骨の髄まで理解したはずだが」

 

「正直言っていることが理解できない。なので相性云々も、何で身体が重いのかも理解できてないというね。……まぁ、それでも戦いうけど。生きるためだし」

 

 話し合いに興じるものの、その実油断などはしていない。お互いがお互いに少しでも隙ができたのであればそのまま襲い掛かるような状態である。

 

「生きるため……そう、お前はそれでいい。人間とはそういうものだ。だが、それだけでこのオレを倒せると思ってはいまいな?」

 

 仁慈と五メートルほどの距離を置いていたはずの巌窟王の姿が一瞬にして消え失せ、先程よりもはるかに近いところから彼の声が仁慈の耳に響き渡る。仁慈は、消えたことに対しての動揺などは一切見せることなく、声が聞こえた角度、気配のする位置、動く度に起こる空気の振動や風の揺れ幅などを察知し、巌窟王のいる場所を特定その場所に己の足で蹴り穿つ。

 

 まさか不意打ちを仕掛けた自分に反応し、あまつさえ反撃を受けるとは思っていなかったのか巌窟王の表情が驚愕一色に染め上げられる。だが、先程のようにその場で固まると言ったような愚行を犯すことはなかった。

 突き出された足を腕で掴み、態勢を逆さにする。そのまま宙で自由になっている足を仁慈の脳天に振り下ろした。

 

「ぜぁ!」

 

「―――ガンド!」

 

 仁慈は自分の頭に振り下ろされた足に向けてガンドを撃ち抜きその動きを封じてから距離を取る為に背後へと跳躍する。そして、地面に足を着いた瞬間反発するように再び地面を蹴り、三度接近。巌窟王へと向かうために付けた速度を上乗せし肘鉄を彼の顎に見舞った。

 

「ガッ―――!?」

 

「もう一撃……!」

 

 いくらサーヴァントと言えど、肢体を捥がれれば痛みを感じ、腹を割かれれば臓物が零れ落ちる。つまり、そういった部分は人間と変わらないのだ。故に、巌窟王も仁慈の肘鉄によって顎を撃ち抜かれ脳を揺らされてしまってはまともな態勢を維持することは難しい。

 態勢を立て直せないことをいいことに、仁慈は巌窟王の胸倉を掴み、そのまま背中で背負う様にすると勢いのまま地面に叩きつけようとした。

 

「―――舐めるなァ!」

 

「――――!?」

 

 が、地面に叩きつけられようとする刹那。巌窟王は脳震盪から解放されると変幻自在のマントを地面に突き刺し、そのまま固定逆に仁慈を地面へと叩きつけた。

 

「―――あ゛がァ……!」

 

 意識外からの一撃により、予想よりも大きいダメージを追う仁慈。巌窟王はそんな仁慈に対して蹴りを入れて後方に蹴とばすと、その無防備な身体にいくつもの魔力弾を放った。

 

「さぁ、耐えてみせろ!」

 

 その声が、仁慈の耳に届いた瞬間、想像を絶する衝撃が仁慈を襲った。

 

 

 

―――――――

 

 

 まさか、自分がここまでのダメージを負うことになるとは。

 

 これが今の俺の、正直な感想だった。

 別に何も俺がここまでダメージを負う相手がようやく現れたか的な慢心染みた感想ではない。純然たる事実によるものだ。

 

 そう。今にして思えば明らかに俺の繰り広げて来た戦いはおかしいものだった。どうしてか?そりゃお前、師匠が師匠だからに決まってんでしょ。

 相手をするのは自分の実力を軽々と超える魑魅魍魎やサーヴァント、そしてどこに部類分けしていいのかわからない師匠が一人だ。基本的に、このような傷を負う前に死んでしまうのである。何故なら俺は普通の人間で、耐久力はその辺の奴らと比べて正しく紙同然なのだから。

 だからこそ、ここまでのダメージを負いながら生きているという現状が不思議な感じなのだ。

 

「死んだか……。フン、己を強者と見誤るからそうなるのだ。お前の用途は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アヴェンジャーの言葉がとても遠くに聞える。……このまま、俺が地面に倒れていれば当然の如く、アヴェンジャーに止めを刺されることになるだろう。そうなってしまえば、ここから出ることもかなわず二度とマシュやほかのサーヴァントに会うこともない。まぁ、向こうは俺なんか待ってないかもしれないけれど俺はとても帰りたかった場所ではある。はぁ、残念だなー。このまま若くして死ぬとかないわー………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんてね。

 

 ネガティヴなことを考えてはみたものの、俺の脳内に巡るのは生きたいという一点のみ。

 前述したことも当然重要なことだが、俺にとって何よりも重要なことは自分の生……我ながらなんて醜いと思うが、残念ながらこんな自分本位の思考をしなければここまで生きてこれなかったのである。多少は大目に見て欲しいね。

 

 さて、このままだと死んでしまうと言ったわけだが、身体もまだまだ活動できる。傷は決して軽いものではないけれど、今もなお魔術回路と血管を通じて魔力をガン回ししているので少なくとも動けないというわけではない。一度聖杯とパスを繋いでいたおかげで自分の魔力回路+αに関しては結構詳しく把握できているからこそできる技とも言えるだろう。これを極めた人はたとえ自分の意識がなくとも復活とかできそうだけれども。

 

 そんな今考えてもどうしようもないようなことを頭で思い浮かべながら俺はフッと立ち上がる。

 身体はボロボロ。左腕は相変わらずくっついているだけし、他の肢体も活動に支障がないというだけであって多かれ少なかれ出血はしている。どう頑張っても長い時間活動できるわけではないだろう。で、あれば次の一撃で決着をつけるほかない。

 

 立ち上がった俺に対し、目を丸くする巌窟王の顔を眺めながら俺は体に回していた魔力を足と腕だけに集中して流しほかに回る分は出来る限りカットする。

 

 さぁ、己の意識を切り替えろ。相手は巌窟王エドモン・ダンテス。彼は俺と戦いを繰り広げていたアヴェンジャーではなく俺を殺そうとする敵だ。そして何より()()()()()()()()()()()()()()

 神秘の有無ではない。戦闘面の実力というわけではない。人間としての格が、至高深く、気高きあの魂が。俺よりも圧倒的に優れている。故に――――、

 

 

「――――往くぞ、巌窟王」

 

「ク、クハッ、ハハハハハハハ!!そのボロ雑巾のような身体に残った力を一つに集約し、一か八かでオレを葬るつもりか?……普段であれば、諦観から来る自爆かと嘲笑ってやるところだが……お前の眼を見ればわかる。―――いいだろう!」

 

 どうやらアヴェンジャー……否、巌窟王も俺の挑発に乗ってくるようで、彼を纏っている闇が晴れていき体内へと吸い込まれていく。

 

「―――我がマスター()()()男よ。我が復讐の炎にて、恩讐の彼方に消えるがいい!」

 

 それは、宝具を発動させる合図。

 己の思考を肉体から、空間から、時間からも脱獄させ主観的に時止めを再現する宝具。彼が持つ人外的な思考能力のおかげで成し得るまさに大魔術。別名スタープラ〇ナ。

 

―――――あぁ、そうだろう。アヴェンジャー。お前なら、俺が全身全霊を込めた力を見せれば自分の最高の技で迎え撃ってくれると思っていたさ。なんだかんだ言いながらも、人間のことが大好きなお前なら、俺の覚悟に報いてくれるだろうと。

 

 

――――けれど、気づいているか。アヴェンジャー。お前の宝具は、発動するその瞬間。思考を脱獄させるために体の動きが止まるんだ。魔人柱では、慣性を使ってごまかしていたが、この態勢ではそれができない。故に、

 

「―――我が往くは恩讐の―――「ガンド!!」―――なッ、ぁ……!?」

 

 

 ―――その瞬間に受ける攻撃は、ほぼ100%ヒットするんだ。

 

 

「―――悪いな、巌窟王。俺は俺らしく、正々堂々と正面から、不意打ちをかますことにした。()()()()()()

 

「―――………ハッ」

 

 巌窟王はすべてを察したのか、戦闘中に見せるものとは思えない、とても満ち足りた表情を浮かべた。

 俺はそれに気づかないように、一瞬にして距離を詰めると、彼の心臓部分。霊核がある場所目掛けて今放てる限り最大威力の攻撃を突き刺すのだった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「……ク、ククッ。オレの戦い方を……いや、性質を見破っていたか。流石、と言っておこう」

 

「悪いね。唯々生きたいなんて実に人間らしい願望を、欲を抱いている俺の誘いには大体乗ってくると踏んで一計案じさせてもらった」

 

「クハハ!いいや、いい。存外悪い気分ではないからな。……あぁ、そうとも。これこそがオレの望んだ結末だ」

 

 巌窟王は、その言葉通り確かに満足そうな顔をしていた。しかし、仁慈にとってはそれが不思議でならなかった。何故なら、彼も自分と同じくここを脱出するために戦た筈であり、敗北した結果その願望は叶わないのだから。

 

「……かつてのオレを導いたただ一人、敬愛すべきファリア神父……貴方のように!オレも絶望に負けない誰かを……おぞましい罠に堕ちた、無辜の者を、せめて我が希望として――――」

 

「それが、お前の真の目的か。アヴェンジャー」

 

「その通りだ。分かっているではないか、我がただ一人のマスター!()()()()!お前はオレを殺してくれた!オレを勝利へと導いたのだ」

 

 心の底から愉快極まりないという風に笑い上げる巌窟王。その反応に、仁慈はきょとんとしていた表情を無くし、フッと力なく微笑んだ。

 勝利とは、千差万別である。相手を負かすことを勝利とするものもいるし、相手よりも優れたとこを見せつけることを勝利とするものもいる。仁慈のように、生き残ればそれで勝ちと思う者もいるのだ。であれば、この結末を勝利と呼ぶ存在もいるだろうと納得を付けた。

 

「そうだ。オレは勝利を知らずにいた。復讐者として人理に刻まれながらも、最後には救われたエドモンが故に。復讐を成し遂げられず、勝利の味を遂に知らぬままオレという復讐鬼を持て余したのだ。……だが、仁慈よ。お前はオレと行動を共にし、障害を自らの手で打ち砕き、塔を脱出する。それはなんと希望に満ちた結末であろうか」

 

 彼は笑う。

 いつもの嗤いとは当然違い、先程の愉快極まった笑みともまた違う笑み。まさに、満ち足りたという後悔のない笑みであった。

 

「そこまでか」

 

「その通りだとも。復讐者として、勝利を知らなかったこのオレに。導き手としての勝利を与えてくれたのだから」

 

「え?俺のこと…導いてた……?ほんとでござるかぁ~?」

 

「フン、言っていろ。まぁ、過程はともかく、結果はオレたちの勝利だ。魔術の王とて全能ではないということだろう」

 

「やっぱりアレのせいか……」

 

 ドでかい溜息を吐く、仁慈に対して巌窟王はクツクツと笑いながら彼に言葉を返す。

 

「ロンドンでお前が一戦構えたときに盛られた猛毒だ。どうやら余程焦ったらしいぞ?あの肉柱を添えるあたり、本気度が上がっていると見える。が……結局は終わったものとして見逃すあたりあれの甘さが知れるな。しかも、オレなんぞをこの役目に選ぶ始末。バカ者め!ざまあない!」

 

「基本、人間大好きだもんな。アヴェンジャー」

 

「誰が人間(お前ら)なんぞを好きになるか。オレは、魔術王(あれら)とは一切合うことはない。只、それだけの話だ」

 

 皮肉気に返すあたりで、巌窟王の身体が段々と消え始めていた。仁慈はその様子をみて、彼の最期を悟り、巌窟王も己の最期を見て言うべきことを言うために仁慈の返答を待たずして言葉を紡いだ。

 

「……もはや、お前の道を塞ぐ者など誰も居ない。魂の牢獄ですら脱獄したお前であれば、いずれは世界をも救うだろう。―――だが、決してこれだけは忘れるな。お前の本懐は天上を相手するほどに発揮される。常に己の位置を把握し、その場に相応しき牙を選ぶことだ」

 

「……うん。こんだけボコボコにされれば、その忠告は受けざるを得ない……。……それはそれとして、アヴェンジャーはどうなる?まさかお前、消えるのか……」

 

「……特に不自然ではないのだが、どうしてここまで邪な気配を感じるのか……。だが、我がただ一人のマスター、仁慈よ。もしも、このオレとの再会を望むのであれば、オレはこういう他ない」

 

 

 

 

 

「❝―――待て、しかして希望せよ❞と!」

 

 

 

 

 その言葉を最後に彼は光の粒子となって消えていった。それと同時に仁慈の意識も何処か外へと引っ張られる感覚を覚えた。直後、すぐに彼の意識は消えることとなるのである。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「…………」

 

 随分と長い夢を見ていたようだった。まぁ、あの牢獄での出来事がリアルタイム換算だと、実際に七日間寝ていることになっているから長い夢というのは間違いじゃないんだけど。

 ふと思い立ち左腕を上げてみると、そこには何の怪我も追っていない左腕が存在していた。どうやら向こうでのダメージは現実に換算されないらしい。最も、こちらでもそれなりに長く寝ていたのか、全身の筋肉が低下しており、左手を動かすのも億劫だけれども。

 

 フッと息を吐いたところで、俺の身体に別の温かみを感じた。軋む身体を無視しつつそちらの方に視線を向けてみれば、そこには我が愛しき癒し(キモイ表現)であるマシュが居た。彼女は誰かからかけられた布団だけを被り、俺の身体の上に頭を乗っけて寝ていた。頬を伝う涙の後を見る限り随分と心配させたのかもしれない。

 

「―――ただいま、マシュ」

 

 とりあえず、俺は筋力の衰えた左腕で彼女の頭を軽く撫でる。すると、それだけで起こしてしまったのか、マシュはごそごそと首を動かしたあとゆっくりと目を開けた。

 

「え……せん、ぱい……?」

 

「あー……心配、させてごめんね……?」

 

 実は心配してくれていないんじゃないかと疑った罪悪感もあり、疑問形になってしまった俺の言葉。しかし、そんなことは彼女に関係ないのか、マシュは口をしばらくパクパクした後ガバッと俺に抱き着いてきた。

 胸部に備え付けられている強力な戦闘力を持ったマシュマロが身体に当たって、何とも形容し難い感触を受けた。

 

「よかったです……!先輩!目が覚めて、本当に……ッ!」

 

「……うん、ごめんね。いや本当に。とりあえず、ただいま」

 

「―――――はい!おかえりなさい!先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、

 

 

 

「あぁ、久しぶりの旦那様!安珍様!ますたぁ!!もう……逃しません……」

 

「本当に心配したんだからね!七日間も寝るときは、前もって言ってもらわないと困るよ!料理も作っちゃったしさ!」

 

「……いや、ブーディカ。しかりつけるところは、そこではないと思うのだが……」

 

「寝坊だトナカイ。罰として今から来年のクリスマス用のプレゼントを調達しに行くぞ。……なに?動けない?えぇい……!ならば、私と一緒に雷光に乗ればいいだろう!」

 

「久しぶりだな。ご主人。早速だがワタシのことをよしよしするがいい。散歩でもいいぞ?ニンジンでも可!……ただし、心配させた分キャットの野生は爆発している。精々酒池肉林にならないように気を付けることだナ!」

 

「子ジカ!とっても、とっても心配したんだからぁ!心配で、血も喉を通らないし、寝れないし!どうしてくれるの!?」

 

「ようやく帰って来たか。うむうむ。え?このカオスな状況をどうにかしてほしいと?……これだけ心配させたということじゃろう。大人しく受け入れるんじゃな」

 

「マスターマスター。ここ最近真の私のパチモンが現れたんですが。まさか、うつつを抜かしてなどいませんよね?ヒロインXの可愛くない方とか私のことをそう表現してませんか?大丈夫ですか?」

 

「ほう。幾分かマシな顔つきになったではないか。だが、無様にも呪いをかけられるとは堕落しているぞ。こい、リハビリがてら私が組み手をしてやる。……クー・フーリンと一緒にな」

 

「また俺もか!……まぁ、それにしても無事でよかったぜ。……ただ今後の無事は保証できないがな」

 

 

 目が覚めた後滅茶苦茶説教された。

 

 

 




―――次回予告。

「誰であろうと関係ない。俺は壊すだけだ。望まれたからそうする。単純な話だろう」

―――過去、最強の敵。それは仁慈たちが慕う兄貴分の変わり果てた姿。その力は自然災害のようで、まさに暴力の権化と言っても過言ではなかった。

「ここまで堕ちたか。私自ら引導を渡してもいいのだが……いや、ここは私が出る幕ではないだろう。なぁ?」

―――普段であれば、絶対に許さないであろうスカサハは、今回だけは自分の役目ではないと引き下がる。

―――仁慈達にとって最悪と言ってもいいその男、クー・フーリン〔オルタ〕を倒すのは、

「―――セタンタ」

「―――おう。テメェの不始末は、テメェでつけるさ」

―――何を隠そう。カルデアのクー・フーリンだった。


 彼らはぶつかり合う。お互いが己の方が強者と言うことを証明するために。
 

第五特異点 北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム 開幕。

「――ハッ!態々やられる側(クリード)に染まりやがって!そんなに死にてぇなら殺してやるさ。その心臓、俺が貰い受ける―――!」













もちろん嘘です。




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