であれば、絵を描けない私はどうすればいいのか…………書けば、でるか?(錯乱)
波濤の獣
監獄塔にて、とっても親切な復讐者と共に魔術王の仕掛けた罠をブチやっぶってから二週間。この期間はできるだけに衰えた体力を戻すために師匠達との訓練、修練に当てられていた。できるだけっていうのは、ちょくちょく心配させたお詫びとかで半日くらいそれぞれのサーヴァントに付き合っていたから殆どなんだけど、それ以外は本当にひたすらに身体の機能を戻すためのものだった。
………ホントウニサーヴァントノミナサンニツキアッタダケデスヨー。
監獄塔では槍はおろかほかの武器すら触れることができなかったから、久しぶりに使っている感じがして少し感動もした。うん。やっぱりリーチがあるのはいいことだよ。人間がゼロ距離で戦うなんてできるだけ避けた方がいいに決まっているしね。
「余計なことを考えるな、仁慈。集中しなければ、すぐにでも貴様の命を奪ってしまうぞ」
「状況の整理くらいさせてくれませんかねぇ……」
身体能力が大よそ戻ってきたあたりで本当に組み手をやるとかどうかしているのではと思う。俺の身体能力がフル活動できる状態でも勝てないのに、どうして調子の戻っていない時にやらせたりするのかこれが分からない。
実際の戦場に置いて、こちらの体調なんて考慮されないというのは前々から言われている者の、師匠は程よい手加減を知らないから……。最悪本気でここで殺されそうなんですが……。
「それっ!」
「ぬわっーーー!?」
マジで殺意を乗せた槍を飛ばしてくる師匠に対して、こちらも教えてもらったはいいものの使う機会が全くなかったルーンを使い、師匠と同じように武器を浮かせて飛ばす。いくらかは相殺できたものの、やはり熟練度が違うために幾分かうち漏らしが存在している。まぁ、そこはいつもの如く自分で打ち払うので問題はない。
飛来する紅槍を同じようなデザインの短刀で打ち払い、視線を師匠へと改めて固定した。
「………うむ。これで元通り、と言ったところか」
「そうですね。身体を動かすときに感じていた違和感は大体消えました。これであれば前と変わらない動きができるかもしれません」
いやむしろ前よりもいい動きができる可能性すらある。
俺の身体のメディカルチェックをしていたロマンや、ダ・ヴィンチちゃんから俺の魔術回路が強化されているという報告が入ってきているのだ。どうやら俺の身体は寝ている間にも魔術回路をガンガン使って行き、それの所為だろうと言っていた。恐らく監獄塔で戦っていた影響が出ていたのだろう。どうやら、あの中での出来事の一部はしっかりと肉体に反映されているようだ。
「いや、訂正しよう。以前よりも、良い顔つきになった。余程のことがあったと見える。例えば…そうさな。復讐を語る者に、待て、しかして希望せよと言われたか?」
「貴方俺がどこで何をしていたか知ってんじゃないんですか……」
師匠の例えがピンポイントすぎる。もはや例えではなくただの正解だ。この人なら不思議ではないけれど、あの監獄塔のどこかにひっそりと潜んでいたのではあるまいなと勘ぐってしまう。
「フフ。さて、それはどうか……。ただ、師の前で隠し事が通じるとは思わないことだ」
「ヒェ……ッ!?」
一瞬、師匠にいつもとは違うベクトルの怖さを見た気がした。具体的に言えば清姫に近い何かを。
と、とりあえず当初の目標には到達した。二週間という時間はかかったものの一応身体は本来の性能を取り戻したのだから。もちろん、だからと言って修練をさぼるというわけではない。俺の実力は無くては困るが、あり過ぎて困ることはないのだ。サーヴァントたちの最もやりやすい弱点は俺なのだから。
「………」
やばい。今の思考が師匠にばれてしまったのか?
何やら真剣な表情で俺を見つめ、また何かを考えているかのように時々ブツブツと呟いている。さて、俺の甘い考えを見抜いたためのお仕置きを考えているのだろうか、それともかつての悪夢。ドキドキ☆ケルト式、一日耐久ぼすらっしゅ☆が再び猛威を振るう時が来てしまったのだろうか。
「……仁慈。お主、時間はあるか?いや。あるな」
「断定するなら聞いてこないでくださいよ」
「よし。ならば少しお主の時間を貰うぞ。ついてこい」
ハッハ、当然のごとくスルーですよ。
この反応にも慣れたもので、こちらを気にせず踵を翻す師匠に倣い、俺も大人しく彼女について行くことにする。
さて、今回はどうなるのかな。鬼が出るか蛇が出るか………。むしろ、鬼や蛇で済めばいいけれど。
――――――
連れてこられたのは、何処か見たこともない海の上。どんな原理なのか理解できないけれども海の上に立つなんて貴重な体験だと思う。けど、こんなところに連れてくるとは一体どういうことなのだろうか。
パッと見る限り、波一つない静かな海であり、何かしらの罰を与えるにせよ鍛えるにせよ適している場所とは思えないのだけれども。
「まぁそう焦るな。直にわかる」
師匠は俺の表情から疑問に思ったことを読み取ったのだろう。普段通りの無表情から少しだけ笑みを浮かべた。嫌な予感しかしない。
そう、俺が思った直後―――
―――――――――▪▪■ッ!
―――想像を絶する殺意が俺たちに向けて叩きつけられた。その殺気に震えるかのように今まで静かだった海も荒ぶりはじめ、足場が安定しなくなってきた。叩きつけられた殺気に対して反射的に構えを取った俺は無意識のうちに殺気が飛んできた方向に視線を向ける。
するとそこには、ここからでは全貌が見渡せないほど巨大な、まさしく怪獣と言えるべき化け物が存在していた。
『―――――■■■■ッ!!!!!!』
怪物が咆哮を上げる。
それだけで海は更に荒れ、それどころか竜巻すらも発生する始末である。ちょっと待って、今から一対一であれを相手取れとか言いませんよね師匠。流石にあれを一人は無理ですよね。大丈夫ですよね?ね?
「相も変わらず騒々しい獣だな。……さて、仁慈よ。アレがお前の相手だ」
「くっそ!貴方は大馬鹿野郎だ!」
「これでも私は女だ」
「違うそうじゃない!」
こんな時に天然を発動しなくてもいいんだよ。俺が欲しいのはそういう返しじゃないんですよ。普通に考えてこんな怪獣サイズの化け物と戦えるわけないでしょうが。普通に考えてくださいよ、普通に!
「まさか『普通に考えて』などと情けない言い訳を心中で漏らしているわけではあるまいな?」
「……ぎくっ!」
「………はぁー。まさか、お主。肉体だけではなく精神まで衰えたのではないか?それらを鍛える意味でも、アレと一戦交えて来い。あやつは海獣クリードとそれなりに名の知れた怪物だ。決して退屈なぞしないだろうよ」
死ぬって。本気で死ぬって。超範囲攻撃とか、俺に一番やっちゃいけないやつですって。
「ではな」
短き一言を残してその場から消え去る師匠。その素早さはまさに光の如し。一瞬にして気配すらも感じられないところへと向かって行ってしまった。
どうやらこれは本気で来てしまったようだ。久しぶりの無茶苦茶な試練が。改めて俺は身体を怪物の方へと向ける。
体は巨大で、目は青く光り、全身は鎧のように何重にも皮膚と思わしき部分が重なり合っている。
俺にとっての地面の役割を果たしている海も怪物の出現によって不安定なものへと変わっており、有利な条件は何一つないと言ってもいい状況だった。
「――――うん。覚悟を決めよう」
さあ、なんだかんだ言いながらも俺に道を示してくれた彼の言うべきことを思い出せ。今目の前にいるは文句なしの上位種。現代ではお目にかかれない弩級の化け物である。要するに、
「これで死んだらどう責任取るんですか師匠ォ―――!!」
ごめん。全然いつも通りじゃなかったわ。
――――――――
「………自分の力を、いや……自分の本懐を多少は悟ることができたのだろうな」
仁慈の元から離れ、再び戻ってきたスカサハはその光景を見て普段から浮かべている鉄仮面のような無表情を少しだけ綻ばせた。戻って来た彼女が見た光景は、数十メートルはあるであろう巨大な怪物……海獣クリードの死体とその上で力尽きたように寝ている仁慈の身体だった。
クリードの死体は見るも無残なものだったと言ってもいいだろう。クリードの血によるものだろう。周囲の海は赤く染まり、外殻の部分はあらゆる方向から抉られている。そして、そこから内部を攻撃したのだろうか、抉られている外殻から全身に至るまで内側から爆発したようになっていた。
「頭蓋骨を一切傷つけず殺すあたり、こやつは分かっていたのだろうか。……まぁ、どちらでも構わないがな。……フフフ」
ぐったりとした仁慈の身体を背負ったスカサハは、クリードの死体を手慣れたように解体した後、二人と切り取った死体を手にしてその場から消えた。
後日談として、スカサハは本調子に戻ったばかりの仁慈に無茶振りを行ったとしてカルデアのお母さん事ブーディカとエミヤから説教を受けたのだった。
仁慈が行ったお詫び。
マシュ→マイルームで半日間ずっと背中合わせで読書もしくは雑談をしていた。
エミヤ&ブーディカ→三人で新しい料理の開拓と味見。
ノッブ→レイシフトからの南蛮めぐり+素材集め。
タマモキャット→一緒にお昼寝(意味深)
兄貴&スカサハ→修練。
エリザベート→ひたすら歌の練習に付き合う。
サンタオルタ→プレゼント集めとジャンクフードめぐり。
清姫→デート
ヒロインX→セイバー撲滅に対する熱い意思を語られる+「私が一番の剣ですよね?」