袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第十八話 勃海の危機

 両軍が対峙を始めてから早2週間。

 

 大きな衝突は孫策による攻撃以来起きておらず、互いににらみ合いが続いていた。と言っても反董卓連合は最早、瓦解の様相を呈し始めていた。

 

 これは呂布軍や張遼軍による補給戦線への攻撃だ。

 

 敵は反董卓連合の知らない裏道を通って、補給線に高い頻度で出没し兵糧を奪ったり焼いたりすることが起きていた。

 このダメージは最初こそ気にするほどではなかったが、徐々に被害が効き始め、現在では各軍の兵糧が不足する事態が起きている。

 これを防ぐために護衛兵の数は増やしてはいるものの何せ敵は士気、練度共に高い騎兵。そう簡単に防げる相手ではない。ましてや今は兵糧の不足により、全力を出せない状況だ。

 

 これでは襲撃を防げないのも無理はない話だった。

 

 

「このままではじり貧の戦いね。何か兵站を確保する策はないのかしら?」

 

 曹操は自分の配下の人間に尋ねた。

 皆が一様に悩み込む。

 

「う~む、兵站の意味は何だ?」

 

 一人、夏候惇だけは違うところに悩んでいるが……

 

「姉者、兵站は軍の食料などを運ぶための通路のことだ」

 

「成る程!」

 

 妹の夏候淵の助太刀のおかげで皆と同じレベルまで追いつけたようだ。

 といっても夏候淵が言ったものは夏候惇が理解できるレベルでの説明をしただけで実際にはさらに多くの事象、例としては人員の配置、転換、設備の整備や維持、さらには衛生分野など多岐に渡る。

 

「まったく、春蘭は……」

 

 ため息交じりに曹操が呆れる。

 

 そのなか、一人の女性が声を上げた。

 

「一つ提案がございます」

 

「何、竜刃?」

 

 竜刃と呼ばれた人物は黒髪の長い美女である。

 

「はい、敵はおそらくこちらの兵士の数が多いことを逆手にとって利用してきています。そこで、こちらは敵の弱点を利用すれば良いのです」

 

「……成る程、そういうことね」

 

 曹操は納得するが他の人間は誰も理解できない。

 

「すぐに孔北海太守と鮑済北相、公孫北平太守を呼んでちょうだい」

 

「御意」

 

 彼女はそのまま天幕を出た。

 

「華琳様、あれはどういうことですか?」

 

 夏候淵が聞く。

 

「まあ、見ていらっしゃい」

 

 そこには獰猛な笑みを浮かべた乱世の奸雄の姿があった。

 

 

 

 

 それから数日後、袁紹は久しぶりに関の外を見た。

 

「田中、この戦いに何の意味があると言うのかしら?」

 

 袁紹はこの戦争が始まったときからその疑問を隠せずにいた。

 少なくとも洛陽の民は暴政などしかれていないし、そのことは反董卓連合の諸侯達も分かっているはずだ。

 なのにも関わらず戦争を行うとは、どのような意味があるのか?

 

 その意味を指揮官として知りたかった。

 

「本初様、私が思いますにこの戦に意味などございません。これは今後の敵を減らすための策略なのですよ」

 

「今後の敵……ですか。やはり漢王朝はもう……」

 

「ええ、おそらくは乱世になるでしょうな。そうすれば、今いる強力な人間は邪魔な存在となる。それを消しておこうという算段でしょう」

 

「何とおろかな……」

 

 袁紹は思わず頭を抱えた。そのような理由でこれだけの人間に犠牲を強いていると思うとやるせない思いがこみ上げてくる。

 田中はその袁紹から目をそらし、反董卓連合の陣に目を向けた。

 

「おや?」

 

 田中が疑問の声を漏らした。

 

「どうされたの?」

 

「いや、以前まで見えていた孔融と鮑信、公孫瓉軍の旗がないのです」

 

「何ですって!」

 

 急いで袁紹が目を向けるがその三軍の旗はどこにも存在しない。

 

「これはまずいですわ!」

 

「何がです?」

 

 田中は袁紹の懸念が分からずに尋ねる。

 

 その直後、逢紀が二人の所へ駆け込んできた。

 

「大変です!鮑信、公孫瓉、孔融の軍勢が勃海群へ向け、進軍中との情報が!」

 

「何!」

 

 田中は叫んだ。

 

 田中は攻め込む可能性があるとすれば、冀州刺史の韓馥辺りであろうと考えていた。

 しかし、想定を上回り公孫瓉が配下を率いて、勃海群に攻め挙がろうとしている。これは完全に計算外であった。

 公孫瓉は反董卓連合の主力の一員であり、まさか離れて本拠地に攻め挙がることはないであろうと考えていた。

 

 公孫瓉は北平の太守であるが、別の役目も担っている。

 

 それは漢に侵入してくる異民族を撃退する役目だ。特に公孫瓉が守る地域は馬の扱いに長けている異民族が侵入してくる。ゆえに公孫瓉はそれに対抗するために極めて優秀な騎馬隊を保有している。その戦い方は諸侯の中でもダントツの強さを誇るであろう。そのような軍勢がただでさえ手薄になっている勃海群を襲えば何が起こるかなど目に見えている。

 

 

「本初様、いかがいたす!」

 

「すぐに張将軍に面会を!」

 

「それは大丈夫や、ここにおる」

 

 そこにはいつのまにかいた張遼が立っていた。

 

「張将軍、今の話の通り、私たちはすぐに勃海に戻らなければなりませんわ。申し訳ございませんが、これ以上援軍は無理かと」

 

「構わへん。すぐに戻りぃ!あんたらはもう十分なくらい戦った。おおきに!」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言って袁紹はすぐに軍勢をまとめ上げ、出陣の準備を整えた。

 

「正面は敵に押さえられております。ゆえに帰りも来た道を通って帰還しましょう」

 

 逢紀は献策した。

 

「そうしましょう!」

 

 そう言って来た道を引き返すように進軍を始めた。

 

 

 

「華琳様、袁紹軍が動いたようです」

 

 竜刃が曹操に報告をした。

 

「今彼らと戦って勝てる?」

 

 曹操の疑問に竜刃が答える。

 

「袁紹は本拠地に顔良、文醜両名を置いてきたそうです。彼女らがいなければ十分かと」

 

「よし、出陣お支度をしなさい!」

 

「御意」

 




 竜刃は真名です。
 彼女は完全にオリキャラで三国志演義には登場する人物なので良かったら予測してみてください。
 

 なお、公孫瓉はある程度袁紹軍の動きは掴んでおり、勃海群を守る部隊があまりいないことから他国に攻め込む余裕などないことが分かっていたために、北平に帰り守りを固めるようなことはしませんでした。
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