勃海郡へと袁紹が兵を進めているとき、勃海の首都の南皮では大きな騒ぎが起きていた。
北平の太守の公孫瓉、済北相の鮑信、孔融が連合軍としてこちらに攻め入ろうとしているのだ。特に公孫瓉騎馬隊は異民族の討伐として名高い。連合の総数は6万を超える大軍と言うこともあり、南皮では逃げようとする者などが相次ぎ、大混乱が起きていた。
軍の宿舎においても出陣の準備が整えられており、全体的に慌ただしい雰囲気が出ていた。
袁紹が連れて行った兵力は2万5千。
それに対し、南皮の本国に残されているのは4万ほどの軍勢であり、戦いはかなり厳しいものになることが予測された。
「早く準備をしろ! 今、こちらに敵が向かってきている! 我が軍が遅れれば、この南皮の町が火の海と化するぞ!」
文醜は兵に呼びかけながら、官庁の方に向かっている。
今、官庁では閣僚の臨時収集が掛けられており、かなりの人間が向かっていた。
官庁に入ると中も慌ただしい雰囲気になっており、文官や武官がそこら中を走り回っている。
その中でも、文醜は謁見の間に向かって歩いて行く。ここは広いために会議の際にもよく使われる。
文醜は謁見の間に入っていくと周辺にいた武官は臣下の礼を取る。ほとんどの人間は集合しており、郭図や顔良はまだ来ていなかった。
いつもの位置に付き、しばらく待っていると最初に顔良が入ってきて文醜の後ろに立つ。
「何だ、斗詩。遅えな」
「ここに来るまでに人にぶつかっちゃって……」
「そうか。大丈夫か?」
「ええ。仮にも将軍よ。その程度で傷つくほど柔な鍛えかたをっしていません!」
そう言って憤慨したように言う。
「いや、何。私の嫁の斗詩が傷ついては大変だと思ってな」
ニヤニヤしながらいう文醜に顔良がぽかぽかと殴る。
「も~! 馬鹿!」
そう言って二人でじゃれ合っていると、郭図が部屋に入ってきた。
袁紹がいない期間、代理で総指揮を執るのは郭図だ。郭図が何者かを連れている。その人物は、白髪交じりの高齢の女性だが、足取りはしっかりとしており背筋も伸びている。
その人物は郭図と共に全員の前までの普段は袁紹が座る袁紹の椅子まで行き、その横で止まった。
「皆の者、今は聞いての通り非常事態である!」
郭図が話し始めた。
「こちらに迫っているのは北平の太守公孫瓉、済北相の鮑信、北海の太守孔融である!」
そういった瞬間、軍事関係借家らはどよめきがあった。
それほどまでに公孫瓉の軍は有名なのだ。
「そこで今回、紹介したいのはこちらにおわすお方だ」
そう言って横にいる老婆が前に出た。
「私の名は廬植、字を子幹と言う。見ての通り老体だが、皆の足を引っ張らぬよう努力する」
そうきりっとした口調で言い放つ。
廬植と言えば、漢王朝に仕えた人物で、黄巾の乱においては数々の手柄を立てつつも政争に巻き込まれて隠居した人物だ。
そのような人物が味方になるとは心強いと皆が歓喜の声を上げる。
「皆の者、廬子幹殿が加わったのは大変嬉しいことであるし、心強い。しかし、今の問題は連合軍への対策である。そこでこの場で皆に聞いておきたい。この中で妙案のある者はいるか?」
皆に問いかけるも反応は芳しくない。もちろんないわけではないであろうが、相手はあの公孫瓉。小手先の技では通用しない相手だ。そう簡単には言い出せないのは当然のことであった。
しかし、そんな中一人が手を上げた。その人物は先日、仕官してきた者で袁紹がいないことから正式な採用は指定ないものの一時的に能力を見るために登用した人物であった。
外見は袖無しの服を着ており、胸元には大きなリボンをしめていて眼鏡を掛けていた。
「では、そちらの者」
郭図が指すとその人物は一歩前に出て、話し始めた。
「私は先日仕官させていただいた郭嘉と申します。私に一つの案がございます」
「どんな案だ」
郭嘉は静かに地図のそばへと行き南皮の待ちに指を指した。
「敵は今、ここ南皮の町に迫ってきております。ただ敵は大軍。どこかの地で補給を兼ねた休憩を取るはずです。そこはおそらく敵の大将の一人でもある鮑信の治める済北の地でしょう。ここは黄河の二本の支流に挟まれた地です。ですから敵が川を渡りきる前に攻撃を行えば敵を川に蹴落とすことができます」
そう言って言葉を切った。
「確かにその案は良いであろう。しかし、敵が補給を行わずにこの地に攻めてきたらどうする?」
「その時は籠城をしつつ韓馥に使者を送り、敵の背後を付くように説得します。『公孫瓉が我々を倒した後に狙うのはおそらく冀州。なれば今ここで倒すのが上策』とでも言えば説得できるでしょう。韓馥は元来、臆病な性格。現在敵対関係にいるとはいえ、この話を持ち出せば乗ってきます」
「では他の地で奴らが補給を行ったら?」
「それでも敵はどこかで川を渡らねばなりません。敵が補給を行っている間に先回りをして要所を押さえておけば簡単に倒せます。万が一にも渡河を許せば、南皮の町に立てこもれば良いでしょう。なお、籠城を行う際には必ず城外に伏兵として騎馬兵を5000ほど置いておくべきでしょう。この兵を使い敵の補給線を圧迫すれば為す術もなく敵は崩壊します」
郭図は今一度、この作戦に問題点が無いかよく確認を行った。そして自分が無いと思った後に周りに聞いた。
「他の者でこの案に異論、意見、質問などがある者はいないか?」
誰も手を上げない。
「よし。ならばこの案を採用しよう」
そう言って出陣をする人選や兵力の検討に移っていった。