田中は袁紹に連れられ町へと入った。この町は南皮であり、史実の袁紹の最初の拠点である。
南皮の袁紹の屋敷で袁紹からだいたいの話を聞き、自分の置かれた状況について理解することができた。
まず、今は後漢時代の189年。時は董卓が洛陽にて実権を握り、袁紹は勃海群の太守に任じられて現在は南皮に本拠地を置いていた。
黄巾党の乱が起こりその後、鎮圧はされたものの、各地にその火種がくすぶることで戦乱が起きようとしている正に三國志の始まりの時代であった。
ただ、唯一歴史と違うのは武将達が女性ばかりと言うことだ。何と、あの曹操までが女性だという。
そんな不思議な三國志の世界に来てしまったわけだが、そもそも何故袁紹が田中の名を知っているのだろうか。
「何故、袁太守様が私の名を知っているのですか?」
田中がそう聞くと袁紹は答えた。
「私の母上様の袁逢様に昔言われたのです。『将来、あなたは大きな人になる。そうなれば、きっとたくさんの人の手が必要になる。その協力してくれる人の中で一番大切な人は10年後の南皮の郊外に現れる。その人は今までに見たこともない服装をしているはずだからきっとすぐに分かるわ。その人の名は田中 豊という名前よ、良いわね。その人の言うとおりにすれば、あなたは素晴らしい人生を歩めるわ』そして言われてからちょうど10年たった昨日、何となく胸騒ぎがして心の赴くままに外へ出てみるとあなたがいたということでしたの」
田中は、10年も前から自分がここに来ることを予測していた人物が存在していたということに仰天した。
その袁逢という人物は何者なのであろうか。
実際に会ってみたいと思い、袁紹に尋ねた。
「袁逢様にはお会いできるのでしょうか?」
そう聞くと袁紹は若干暗い顔をしながら答えた。その儚い横顔を見たとき、不謹慎にも田中はドキッとした。
「もう亡くなりましたわ。さっきの言葉を遺言とするかの如く、次の日に……」
「申し訳ありません。失礼なことを尋ねました」
「いいえ、良いのです。もう悲しみはとうの昔に置いてきましたわ。それよりも大事な話がございます」
そう言いつつ、袁紹は田中の前に進み出て言った。
「どうか私に協力していただけませんか?」
田中は、この時ある決意を固めていた。この少女は何があっても最後まで守り通すと。それは打算とかを抜きにして純粋にそう思った。先ほどのような悲しい顔をさせたくはないと。
「むしろ、こちらからお願いいたします。どうか私をあなたがたの末席に加えていただけませんか?」
「ありがとうございます!」
そう言って二人は固く握手し合った。
その夜、田中は袁紹から与えられた部屋にいた。
(最初は日本に帰ることばかりを考えていたのに気付いたら忘れていたな)
そんなことを考えていた田中は、最初、袁紹の元でしばらく仕えながら、日本に帰る方法を模索して見つけ次第、さっさと帰るつもりだった。しかし、気付けば帰ることを忘れるどころか、袁紹を守ることしか頭に残っていなかった。
(これも袁紹という人の成せるカリスマか。さすが、田豊や沮授を従えていただけあるな)
改めて、袁紹のカリスマの凄さに驚かされていた。
この時、田中は自分の中に芽生えたそれ以外の心に気付いていなかった。
翌日、袁紹に呼び出された田中は袁紹に謁見していた。
「まず、あなたの位についてですが私の副官として働いていただきます」
「え、よろしいのですか?私のような若僧がそんな重要な地位で」
「構いませんわ。何せ亡き母上様のお言葉の方ですから」
そう言って、にっこりと笑った。
その後、副官に任命したことを伝えるため袁紹の部下達との顔合わせとなった。
だいぶ、年齢などは適当な設定になっています。すいません。そこら辺はご容赦ください。
なお、袁逢の没年は分かっておらず、本作では179年と設定してあります。