袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第三十話 公孫瓉を捕らえよ!

「……子遠。ご苦労」

 

 郭図がごく短く言った。

 

「全く大変だったわよ!」

 

「その鬱憤を晴らす相手は公孫瓉」

 

「分かっているわよ。何せ今、教え子達は情報収集の実戦中よ。教官のアタシがそれぐらい分からなくてどうするの」

 

「なら、安心」

 

 そう言って郭図は鄴の町の地図を差し出した。

 

「既に住民の避難を進めている。今回の戦闘は市街地での可能性が高い」

 

「待ちなさい! 住民の民家はどうするの? まさか彼らの家を破壊して戦闘するとかじゃないでしょうね!」

 

「それしか方法はない」

 

「家が破壊されるとはどういうことか分かる?彼らの生活を根こそぎ奪うことになるのよ!」

 

「なら、あなたが野戦で勝てるような作戦を立てて」

 

 郭図は許攸に鄴の町の外の地図を渡した。

 

「やってやるわよ!」

 

 最初こそ威勢の良い返事をした許攸であったが、地図を見れば見るほどその表情が硬くなっていく。

 

「どうなの?」

 

 郭図が尋ねると小さく許攸が言った。

 

「無理よ」

 

「でしょうね」

 

 郭図がやれやれといった具合にため息をつく。

 

「だから可能な限り民家に被害を出さない戦闘を行いなさい。あなたなら出来る」

 

 そう言って、郭図は許攸の肩を軽く叩き、そのまま韓馥の屋敷へと向かった。

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

 

 許攸は嬉々として作戦の立案に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり火計に持ち込むのが最良の手ね」

 

 散々悩んだ結果、火計が最良の手と気付くまでに時間は掛からなかった。しかし、火計を用いると民家への被害が大きくなりやすい。

 そこが悩みどころだった。

 

「火計ならどこを利用すべきか……」

 

 町を見ると兵糧を蓄えておく倉庫の前には一本の大きな道路が走っており、そこに追い込むことまでは考えた。しかし、民家が多くできる限り周辺での戦闘は控えたかった。

 

「あれ、これは……」

 

 そこには商人通りの名が書いてある。

 

「これは使える……」

 

 その瞬間、許攸が何かをひらめいたような表情になった。

 

 

 

 

 それから少しして郭図が再び許攸の元へやってきた。

 

「どういう手を打つ?」

 

「火計」

 

 予想外の答えに郭図は目を丸くした。自分であれば容赦なくそうしたであろうが、民衆への被害を考える許攸がそのような手を思いつくとは考えられなかった。

 

「どのようにして民家への被害を押さえるの?」

 

「食料が蓄えてある倉庫の前には大きな通りがある。その通りに沿ってあるのは商人の家や役人の家。旅館などが多く、商人通りとなっているわ。ここであれば、利用ができる。確かに家を失うかもしれないけれど今後の商売で少し融通が効くように手配をしてあげれば、納得をするとは思うわ。商人は家は大事であろうけど彼らは利益には目がないから」

 

「本当にそうかしら?」

 

「そのために極力、役人の家が集中する場所で火計を仕掛けるわ。彼らには申し訳ないけどしばらくの間、鄴の役場で寝泊まりをしてもらうわ」

 

「それしか方法はないの?」

 

「あることにはあるけど、それではこちらの被害も大きくなり、最悪民家への被害がより大きくなる。それにこの方が避難を出す場所が少なくて済むし」

 

「分かった」

 

 その後、すぐに二人は作戦のための準備を始め、前回に至る。

 

 

 

 

 

「公孫瓉をついに追い詰めたわ!」

 

 公孫瓉に対しての使者の役目を担ったのは許攸だ。彼女は自らが倒す武将をこの目で見ておきたいと、使者の役目を買って出た。本来であれば、かなり危険であるために別の人間が行く予定であったがその熱意に押され、渋々郭図が了承したのだ。

 

 その後、事は順調に進み公孫瓉をあと一歩の所まで追い詰めている。

 

「矢を射かけよ!」

 

 油断をせず、火の中にいる公孫瓉軍に矢を射かけるよう命じる。ここでなんとしても公孫瓉を仕留めねば、今後の袁紹の禍根となることは分かりきっている。

 

「これで終わりね、公孫瓉」

 

 総大将を倒してしまえば、城外の敵は為す術もなく崩壊をしていく。

 そう考えて、公孫瓉を孤立させ殺しやすくしておいたのだ。公孫瓉は長年、騎馬兵の強い異民族相手に戦ってきた名将である。そのために正面から戦っても勝ち目はない。

 

 そのことから、彼女らの軍をなんとかして少なくする必要があった。そのために仕組んだのが、今回の仲間同士での戦闘である。町に人がいない違和感を戦闘の音で気付かないようにさせるのと同時に公孫瓉に少数の兵士しか動かせないようにしたのだ。

 

 最後のとどめを刺そうとしている許攸に何者かが走ってくるのが見えた。

 

「お待ちください、許子遠殿!」

 

 それは田豊であった。

 

「これは田元皓殿、如何なされた? ここは戦場であるため危険ですぞ」

 

「分かっております。そんなことよりも公孫瓉への攻撃をおやめください!」

 

「何ですと! 奴は貴殿らを殺そうとした極悪人! そのような者を野に解き放てと申すのですか!」

 

「そうではございません! いまだ、華北の地はいまだ、争乱が絶えず、もし彼女を殺せば我々にも被害が出ます! 今、殺すときではありません! それにあなた方はこれからこの地を統治する存在。今後、民の支持を得る必要があります! この機に乗して敵将を解放するという懐の深さを見せるのです。さすれば民も安心してあなた方を支持するようになるでしょう」

 

 その主張を聞いた瞬間、許攸は成る程と思うと同時に田豊の知識の深さに嫉妬の念を抱かざるを得なかった。

 しかし、これは袁紹の進退に関わることだ。感情だけでは動いてはいけない。

 

「分かり申した、弩弓隊、撃ち方止め! 火を消せ! その際に抵抗するようであれば、容赦はしなくていい、斬れ! それからすぐに公孫瓉を捕らえよ!」

 

 指示を兵に出し、消火を始める。敵の抵抗も予測されたが、ほとんどは窒息したり矢によって死んでいたりする者が多く、生存者は百名にも満たなかった。しかし、公孫瓉は臣下の者が盾になるようにして守られており、気を失った状態で保護される。

 

 こうして対袁紹連合軍は完全に崩壊したのである。

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