汜水関方面の軍がちょうど攻撃を仕掛けていた頃、洛陽方面軍も洛陽付近に到達。
「弓隊! 敵の湾口設備を狙え! 放て!」
許攸の合図と共に弓隊がさっそく攻撃を開始した。
洛陽の守備隊はすぐに袁紹軍の襲撃に気付き、慌ただしくなる。
「良し! 敵は陽動に引っかかりました! 今のうち、上陸を行いましょう!」
顔良はすぐに近くの岸に船を着けこっそりと上陸した。
乗ってきた船を水草の中に隠し、陣を整える。
「田中組、集まれ!」
すぐに許攸の配下の間者が集まる。
「今回の作戦目標は既に伝えたとおりだ。目的の復唱を行う。董仲潁及び、天子の案内と護衛」
「「「董仲泳及び、天子の案内と護衛」」」
「よろしい。既に数人が現地に入っており事前捜査を終えている。彼らと合流し少しでもこの軍の近づけるのだ。良いな!」
「「「御意!」」」
「では、分かれ!」
許攸がそう言うとすぐに間者たちは闇に溶け込むように消えていった。
洛陽方面救出軍の本隊の先鋒を務めるのは案内の関係上、廬植が勤めることになった。
「それでは出立致す!」
洛陽方面救出部隊はこうして作戦を開始した。
洛陽を守るのは袁術配下一の猛将紀霊だ。
彼は敵来襲の一報を聞き、すぐに現場へと向かう。
「戦況は?」
部下の副将に尋ねる。
「敵の兵力はおよそ一万。袁紹軍の兵と思われます。敵は遠距離からこちらに矢を浴びせてきており、大きな被害は報告されておりません」
「ふむ。ずいぶんと中途半端な兵力だな。それに遠距離からの攻撃が主体というのも妙だ」
「敵は腰抜けの兵ばかりなのでしょうか?」
「袁紹軍に限ってそれは無いな。彼らは以前公孫瓉軍を打ち破っている。腰抜けの兵ばかりならば公孫瓉軍を打ち破れるはずはない」
「では、なぜ?」
「良いか、攻撃をするときは何かしらの目的があって攻撃を行っている。故にその目的を考えるのだ」
「はい」
そう言って副将はじっと敵の方を見つめ、しばらく考える。そして呟いた。
「もしや、敵の攻撃は囮?」
「決めつけるには早いが、その可能性が高いと私も考える」
「では、敵は何のために囮を? ここら辺には敵の狙うようなものはありませんよ」
「目的は我々と同じだ」
「まさか!」
「すぐに兵をまとめよ! 私が直に率いて奴らの発見に全力を尽くす。敵の攻撃開始の時間から見てまだそう遠くへは行っていないはずだ! それから貴様は万が一のことも考え、ここで残れ!」
「御意!」
紀霊はすぐに洛陽に行き、そこにいた兵、約一万を率いて袁紹軍追撃軍を編成し、その後を追った。
「敵は気付きますかね?」
顔良は近くにいた許攸に尋ねる。その顔には不安げな表情が浮かんでいる。何せここは敵の重要拠点であり、かなりの兵力がいることは予測されている。
その中でこの兵力では不安になるのも致し方ないと言えた。
「顔将軍、大丈夫ですよ。何せこの軍はあなたが育て上げた精鋭中の精鋭。部下を信じなさい」
「はい……」
そうは言いつつもやはり不安げな表情はぬぐえない。
「顔将軍、文将軍とのやりとりを忘れましたか?」
「あっ!」
今まで忘れていたようだ。
「大将という役目を忘れてはなりません。それにこれより天子様をお助けに行くのです。そのようなみっともないところ見られれば世に笑われますよ」
「そうでしたね! 子遠さん、ご迷惑をおかけしました」
そう言って顔良は普段のキリッとした表情に戻る。
だが、この時、既に敵軍がこの軍の存在に気付いていることを誰も知らなかった。
「紀将軍! 敵の船の場所を突き止めました!」
「よろしい! では、これより追撃する部隊と敵を待ち構える部隊に分ける!」
そう言って紀霊は兵の一部を船の近くに伏兵としておき、その他の部隊を引き連れ追撃を続けた。
「この道をまっすぐ行ったところが待ち合わせた地点じゃ」
廬植が顔良に言う。今のところ特に大きな動きは無く、敵の攻撃もない順調な進撃であった。
(しかし、ここでようやく半分の道のりか。まだ先は長いな)
許攸は心中で呟く。
周囲には敵影らしきものは確認できず、ひとまずは安心に見えた。
無事、董卓と合流した顔良隊は董卓と軽い挨拶を行う。
「顔将軍、救援にここまで来ていただきありがとうございます!」
「お礼は主君に後ほどお伝えください。ここは危険です。すぐにここを離脱致しますので、文官の方々は我々が連れてきた馬にお乗りください」
そう言って文官達を馬に乗せようとするが何せ百人近い文官を乗せるのには時間が掛かる。
(何やってるんだ! 早くしないと敵が来るぞ!)
許攸は内心焦るが、特に敵が現れる気配もなく、どうにか全員乗り終える。
「天子様は?」
「いらっしゃいます」
董卓はそう言って後方を向く。
そこには二人の老人に囲まれるようにして小さめの機動性の良さそうな馬車が止まっている。
「天子様の御車は皇甫将軍と朱将軍がお守りしていますので大丈夫です」
「分かりました。では、これより出立致します!」
そう言って、再び顔良隊は動き出す。
(頼む! このまま何も起こらずにいてちょうだい!)
許攸はそう思うが、運命は非情であった。
動き始めたばかりの顔良隊の上空からシャーと何かが降り注ぐ音がする。
「盾構え!」
顔良は反射的に叫び、兵士が盾を構える。
その直後、上空から何本もの矢が降り注ぐ。
「「「ぎゃ~~!」」」
盾を構えていた兵士は良かったが、文官達は身を守る術が何もない。為す術もなく肢体に矢が何本も突き刺さり、朱に染まっていく。
「文官をお守りせよ!」
顔良が叫び、大急ぎで兵は文官達を守るような陣形に変化していく。
直後、前方からわーっと多数の兵士が突っ込んできた。
「我に続け! 敵を突破する!」
顔良は既に奇襲の混乱から立ち直った部下を引き連れ、敵の兵士に肉薄する。
「他の者も続け!」
廬植がそう叫び、その後を兵士達が続く。精鋭を選んだだけあって、最初こそ浮き足だったもののすぐに混乱から回復し、攻撃態勢に移った。
「護衛の兵は無理をして攻撃をせんで構わん! 護衛のことのみを考えよ!」
廬植はそう叫びながら先頭に立ち、剣を振るっている。
それは老体を感じさせない鮮やかな剣捌きであった。
実質文官は百人ほどであるために護衛にはあまり人数を割かないようにして、顔良は極力突破力を高める方針を取る。
「我は顔良! 死にたい奴から掛かってきなさい!」
そう言って周囲の兵を金光鉄槌で吹き飛ばす。
その勢いにたじろぐ敵に向け、顔良は叫ぶ。
「我々の進撃を阻むというのであれば、ここで死んでもらいます!」
周囲の兵士が怖じ気づき逃げだそうとした瞬間、顔良の目の前に一人の男が静かにやってきた。
その瞬間、兵の指揮ががた落ちし崩れかかった軍は、落ち着きを取り戻していく。
「何やつ!」
顔良はその男へ向け叫んだ。