袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第四一話 逃亡劇

 その男は顔良の目の前まで来ると顔良の問いかけに応じず、静かに言った。

 

「顔良と言ったな」

 

「ええ。私の名を知って名乗り返さないとは無礼ではありませんか?」

 

「名乗るほどの名は持っていない。そんなことより、貴様らをこのまま通すわけにはいかんのでな。私も主君の命で董卓を捕らえねばならんのだ。董卓さえ譲ってくれれば、ここを通しても良いのだが如何かな?」

 

「あなたと同じく我が主君の命は董仲潁殿をお守りすることにあります! あなたに譲るわけにはいきません!」

 

「そうか。残念だ。では首だけを頂戴しよう」

 

 そう言って、剣を一瞬で抜き顔良に向かって走り出した。

 

(くっ! 早い!)

 

 その速さに一瞬驚くがその程度で討ち取られる顔良ではない。すぐに愛武器でその攻撃を防ぎ、剣ごと敵をたたきつぶそうとする。

 しかし、敵は弾かれたとみるやすぐに後退し、鉄槌は何もない地面に大穴を空ける。

 

「いやいや、噂には聞いていたがこれほどの猛将とは。いや見くびっていたことを許せ」

 

「そのような無駄口すぐに黙らせてやりましょう!」

 

 今度は顔良から仕掛けに行き、敵に向け鉄槌を振り下ろした。

 しかし、今度も敵はそれを躱し、顔良の背後の地面に降り立つと無防備な顔良の背中に向けて斬撃を浴びせようとする。

 顔良は鉄槌を軸に宙返りをして敵の攻撃をいなし、その勢いを殺さず鉄槌をなぎ払う。

 

 しかし、今度も敵はいなす。

 

「顔将軍! 何をやっている! そのような敵に構っている暇はないぞ!」

 

 そこへ廬植がやってくる。

 

「廬先生! そいつは手練れです! 早く離れてください!」

 

 顔良はそう言い、廬植に警告を送る。

 

「貴殿、まさか!」

 

 廬植が叫ぶとその男はにやりと笑い、廬植に言った。

 

「久しぶりだな、婆さん!」

 

「お前は紀霊!」

 

「おうとも! 再会早々悪いが、アンタには死んでもらうよ」

 

 そう言って紀霊は廬植に斬りかかった。

 

「危ない!」

 

 顔良が止めに入ろうとするが間に合わない。

 廬植はいなそうと剣を構えるが時既に遅し。廬植は血を吐き、地面に倒れる。

 

「先生!」

 

 顔良は駆け寄ろうとするが、そこに紀霊の邪魔が入る。

 

「行かせんよ、お前の相手は私だ」

 

「邪魔だ!」

 

 紀霊の斬撃を払い、叩きつぶそうとするが気が動転していることもあり、攻撃大ぶりで当たらない。

 

「くっ!」

 

 顔良は紀霊の攻撃に防戦一方になっている。

 廬植は血を吐きながらも辛うじて意識を保っていた。傷は肩口から胸の辺りまで達しており、確実に致命傷であることは予測できた。

 

「顔将軍!」

 

 その息も絶え絶えの姿からは想像出来ないほど大きな声で廬植は顔良を呼ぶ。

 

「儂に構わず行け!」

 

「しかし……」

 

「良いから行くのだ!」

 

「……御免!」

 

 そう言って顔良は踵を返し、逃げ出した。

 

「逃がしはしねえ!」

 

 紀霊はその後を追おうとするが、その足下に幾つもの短刀が刺さる。

 

「何だ!」

 

 飛んできた方を見るとそこには数人の兵士がいた。しかし、他の兵士と違い鎧のようなものをまとっていない。

 

「ふん! まずは貴様らから殺してやろう!」

 

 そう言って剣で切りつけようとする。まず、一人が斬り殺されるが、その代償として紀霊も攻撃を食らう。切られた兵士は一言も言わず、静かにその場で崩れ落ちる。

 その攻撃は小さな切り傷のみであり、致命傷には至らない。

 

「ふん! この程度の傷どうということはないわ!」

 

 紀霊は、次々に斬り殺していくが、徐々に切り傷も増えていく。そして、最後の一人を切り終えたとき紀霊はあることに気付く。

 

「くっ! 体がしびれて動かねえ!」

 

 紀霊の動きはどんどん鈍くなっていく。それもそのはず、その剣の先には麻痺毒が塗られており、既に紀霊の体にはかなりの麻痺毒が入り込んでいた。

 

 その間に顔良達は既に包囲網を突破し、辛うじて遠くの彼方へ逃げる姿が確認できた。

 

「待て!」

 

 そう言って追おうとしたが、体が言うことを聞かずその場に倒れ込んでしまう。

 

 今に至って紀霊はとんでもない大物を逃したこと気付く。

 

「しまった! 敵はこれが狙いか!」

 

 紀霊は悔しさのあまり叫んだ。その声は空しく周囲に木霊した。

 

 

 

 

「このまままっすぐ行けば、船にたどり着ける!」

 

 顔良は道筋を確認しながら進んでいく。

 廬植を殺されたことで味方の士気は大分下がってはいたが、顔良の必死の努力もあり辛うじて部隊の壊走だけは避けていた。

 

 しかし、間もなく船という所で、事は起きた。

 

 突如、周囲に敵兵が現れたのだ。

 

「しまった! 敵の伏兵か!」

 

 許攸は思わず唸る。

 こちらの兵は士気も数も劣る状態で勝ち目は低かった。

 

「万事休す!」

 

 顔良が叫び、誰もがもう終わりだと思った次の瞬間、伏兵の周囲に大量の矢が降り注ぐ。

 

「顔将軍! お急ぎください!」

 

 そのさきには田豊が弓隊の指揮を執って待っていた。

 

「皆のもの急ぎ、船に乗るのだ!」

 

 顔良は少ない手勢と共に董卓達を船に乗せる。

 しかし、敵もこのままでは逃げられると気付いたのか死にものぐるいで攻撃を仕掛けてくる。

 

「馬を下り、盾を構えよ!」

 

 顔良は兵士にそう言った。すぐに兵士達は馬を下り、盾を構えた。

 

「弓隊は敵に射かけ続けつつ徐々に後退! 船に乗り込め!」

 

 田豊が顔良の考えを見抜き、すぐに指示を出した。

 

 その間にも敵は突っ込んできて顔良隊とぶつかり合う。

 

「者ども! 後退! 船に乗り込め!」

 

 その瞬間、顔良を含めた兵士達は一斉に船に乗り込むために逃げ出す!

 敵はここぞとばかりに追い打ちを掛け、数人の顔良の兵士を倒すものの大半は逃げ切ることに成功し、船に乗り込む。

 

「出立!」

 

 船はすぐさま岸壁を離れ、沖合に逃げていく。

 命からがら顔良達は岸を離れることに成功した。

 

 こうして救出作戦は数多くの犠牲を出しつつも、一先ず幕を閉じたのである。

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