今後も宜しくお願いします!
「はあ、旨いメンマの店へですか……」
「そうです。袁刺史の命の恩人がメンマの店を紹介しておくれと仰っておりましてね。私はそういったことは詳しくないので、田中さんにお願いしたのですが……」
「構いませんが……」
逢紀から変な命令を受けた田中は、困惑しつつも配下の沮授と偶然見かけた審配を呼んだ。袁紹は廬植を失った悲しみと未だに命を狙われているという恐怖から立ち直れず、逢紀が代わりに職務を行っている。
また田豊は廬植を殺されたことで塞ぎ込んでおり、回復までには時間が掛かると思われており、この場にはいない。
袁紹陣営は皆が喪に服している状態であった。
そんな中でも常に状況は変動しているために田中達まで悲しみに暮れる訳にはいかず、働いているのだ。
「「旨いメンマの店ですか(~)?」」
二人とも意外な質問に戸惑いつつも首をかしげる。
つい最近、呂布に約束していた旨い饅頭を食べさせる約束を果たすため、町中の饅頭屋を探し回ったばかりだ。
もちろん、いい店を見つけ呂布を連れていったのだが、田中個人的には見つけて良かったと思っている。何せ食べるたびにモキュモキュと可愛い音が出そうなほど愛らしい食べ方をしており、噛むたびに動く触覚のような髪も相まって、余計に可愛さを引き立てていた。
もちろん、その食べっぷりは尋常ではなく田中の懐は一瞬で寒いを通り越し、凍死していたがその光景を見れた価値はあったと言えよう。
(今回の人もそんな人だと良いな)
田中はそんなことを考えながら、また調査に行くことを決心した。
以前と違い、饅頭屋探しの時の人脈があるおかげである程度、店を絞ることは出来た。
しかし、メンマは饅頭とは違うものであるために、それほど絞り切れたわけではなかった。
「まあ、後は実際に足を運ぶまでか」
そう言って田中は絞った店に実際に足を運ぶことにするが、自分一人だけだと心配であるために審配と沮授を連れて店をはしごすることにする。
「この店のメンマは確かに噂通り美味しいですね」
審配は食べながら言った。
この店は評判もかなり良く特にメンマに関しては、頭一つ分高い評価を受けていた。本来はラーメン店であり、本人達にしてみればラーメンが高い評価を受けたいのであろうが、ラーメンに関する評判は今一つであった。
「この店であれば、噂の御仁も満足してくださるであろう」
田中は確信を得て、袁紹にその旨を報告することにした。
そのメンマ店探しの帰り道、沮授は審配に尋ねた。
「そう言えば、正南殿~。如何にして袁刺史殿に使えようと思ったのですか~?」
沮授は間延びした声で唐突に聞いた。彼女は普段から何を思ったのか到達に変なことを聞く癖があり、田中も最初は戸惑っていたが、最近は大分慣れた物だ。
「また随分と唐突ですね」
「いや~、申し訳ありません。何せ気になったものは所構わず聞いてしまうのが癖でして~」
「まあ、構いませんが……」
審配は一旦勿体ぶってコホンと一つ咳をしてから話し始めた。
「私が田中殿の家で奉公していることはご存じですよね?」
「ええ~。もちろん」
「あれはもちろん、田中殿に助けてもらったという恩義もあってのことですが、それ以外にも思惑があったからなのですよ」
「え、そうなの?」
田中は意外な言葉に驚いた。
「申し訳ありません。流石にそれだけのために殿方の内に奉公に行くのは、流石に抵抗がございまして……」
そう言って審配は若干頬を赤らめた。
田中は、審配を完全に天然な少女だと思い込んでいたが、花も恥じらうお年頃なだけあってそういった面での欠如はしていなかったらしい。
田中は、ある意味安心させられた。
「して、その目的とは~?」
沮授はそんなことはどうでも良いと急き立てる。
「袁刺史の雰囲気です」
「あ~!」
沮授は納得といった様子で頷いた。
「田中殿に初めてお会いしたときに袁刺史に関しての質問をしましたが、実際はどんなお方かは分かりません。故に田中殿の普段の雰囲気を見ることで袁刺史の仕事や周囲の人間関係などを掴もうとしたのです」
「でも人間関係まで分かるのかい?」
田中は聞いた。
普通、人を見ただけで周囲の人間関係までは読み取れないであろう。
審配が普通の人間であればの話だが。
「人というのは感情が表情に表れやすい。ですから、田中殿の表情を見てまず、仕事は大変なのかどうか。また、仕事の人間関係はどうなっているのかを実際に様々な人の名前を言ったときの表情の変化で判断していったのです。それだけでは心配なので、町の人からの情報や実際登庁して中の様子を探ったりもしました。ここまでやれば、大体のことは分かります」
その審配の言葉を聞いて田中は身震いをした。審配にここまで読まれていると、自分お勘定が全て筒抜けになっているのではないかと思ったのだ。
田中も男だ。その家に年若き可憐な少女がいたら、男なら誰しも多少なりとも不純な考えを持ってしまうであろう。
もし、そのような感情がバレたらと思うと気が気では無かった。
気になりはしたが、田中はそのことを追求はしなかった。というか出来なかった。
「その結果、袁刺史様は大丈夫であろうと考え、仕官したのです」
田中の心中を知ってから知らずかは分からないが、話の内容を変えることもなく審配は言い切った。
「ふむ~。審配殿は流石ですね~。私にはそこまで出来ませんよ~」
「沮授殿はどうなのですか?」
「え~とですね……」
しばらく考えた後、妖艶に微笑んで沮授はウィンクをしながら言った。
「秘密ですよ~」
「え~! 私が話したのにですか!」
「まあ、いずれ教えますよ」
「む~! まあ良いでしょう」
審配は少しむくれながら言った。
そんな少女達の会話を横で聞きながら、未だに審配に心を読まれたかどうかを真剣に悩み続ける田中であった。