袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第五三話 南皮の人材

「それにしても、彼らを配下にしておいて本当に成功でしたね」

 

 田豊は沮授に向かって言った。

 彼女の目線の先にあるのは郭嘉らが配下に入れた情報処理部隊である。

 郭嘉と戯志才がこの地で特に重視したのは、人材登用であった。

 袁紹陣営は元々、人手不足な面がある(これは袁紹にのみ限った話では無く、むしろ袁紹の所はましな方であった)ため、優秀な人材が欲しいともなれば独自で発掘する必要がある。

 そんな彼女らが目に着けたのが人気飲食店の店員達であった。彼らは一人でも奥の客をさばくため、素早く的確に動きかつ、臨機応変に対応するという言わば、その他の多くの場で活躍できる能力を身につけている。そこでこうした能力を活かせないかと郭嘉等は各店舗に要請を出し、ある程度の人員を引き入れることに成功したのだ。

 こうして編成されたのが、情報処理部隊である。この部隊は元々は治安維持や民衆の生の声を聞くために編成された物であり、彼らは普段は従業員として店で働いているが、そこで耳にする噂を聞き入れて必要か否かを選別。そして必要を判断される場合は上に報告すると言った任務を担っている。

 言わば、警察組織に近い一面を持つ。

 

 そんな彼らが活躍したのが今回の賊の情報だ。

 彼らは働いている店でいち早く、その情報を入手。更に独自のルートでその情報をさらに濃密にして沮授らに報告を行ったのだ。

 これにより、かなり早くから賊の動きを正確に把握することが出来たのである。

 

「これほどの人材がまさか~、飲食店にいるとは~。これを見つけ出すとは~、さすがは人材発掘の天才ですね~」

 

 沮授はのんびりとした口調で言う。その言葉には郭嘉達に向けられた素直な賞賛が混じっている。

 

「とは言えど、あの賊達は何者の指示を受けて動いているのでしょうね……」

 

「おそらくはこちらと公孫瓉の仲にひびを入れたい何者かでしょう~」

 

「と言うと考えられるのは曹操か、はたまたは……」

 

「袁術でしょうね~」

 

「私は袁術の方が可能性は高いと思います」

 

「ただ、問題はどうやって~、この賊と連絡を取っているかですよね~。おそらくは中間役がいるはずですよ~」

 

「ええ。それを何としても発見しなければいけませんね」

 

「はい~」

 

 その二人の元へ一人の女性がやってきた。

 身にまとうのは黒い将官の鎧、腰に着けているのは煌びやかでは無いが機能美を感じさせる一振りの剣。

 横に従者の如く猫を引き連れている人物だ。

 

「お二方、審配、ここに帰参いたしました!」

 

「おお、ご苦労。兵の調練はいかほどですかな?」

 

「はっ! 現状としてはまずまずであります。正規軍ならば分かりませんが、賊程度であればそれほど苦戦することも無いでしょう」

 

「よろしい! であれば、すぐに出撃の準備を! 既にこちらに向け鄴から援軍が向かっております」

 

「御意!」

 

 そう言って審配はくるりと踵を返し、その場を後にしようとする。

 

「あ、それからもう一点だけ~」

 

 その審配を沮授が引き留めた。

 

「今回の目標は~、敵の撃破では無く~兵糧を焼くことだということをお忘れ無く~」

 

「分かっております」

 

 審配は振り返って一礼をしてからまた歩いて行った。

 

「沮太守、何故そのような確認を?」

 

「今回、実は仕組んでいることがあるのですよ~。ふへへ~」

 

 妖艶な笑みを浮かべながら沮授は言った。

 

 

 

「それにしても今回の敵は十万ですってね」

 

 顔良は進軍を指揮しながら隣にいる呂布に話しかけた。

 

「汜水関ではそれ以上の敵が押し寄せてきた」

 

「確かに。あの時は大変でしたね。私は現場にいませんでしたが帰ってきた田中さんとかに聞いたら、何でも地を埋め尽くさんばかりに敵兵がいたとか!」

 

「うん。でもみんな弱い」

 

「いや、あなたから考えれば、弱い人しかいないでしょう……」

 

 困惑気味に顔良は突っ込む。

 

「うんうん、違う」

 

 首を振りながら呂布は言って、顔良を指さしながら言った。

 

「顔良、文醜二人とも強い」

 

「え、そうですか! いや~それほどでも~!」

 

 顔良は頬を朱に染めて照れながら言った。どうやらまんざらでもないようだ。

 

「この袁刺史様の武将は強い人が多い。だから、恋、嬉しい」

 

「でも呂将軍に敵う人なんていないじゃ無いですか」

 

「そうじゃない」

 

 呂布は顔良の言葉を否定する。

 

「確かに恋に敵う人誰もいない。でもその意志の強さは強い。みんな袁刺史様を思って必死に、戦う。だから強い」

 

「呂将軍」

 

 その言葉に思わずじんわりくる顔良。

 

「ところで何でその大きい馬、立派ですね! 何て言う馬なんですか?」

 

 呂布の乗る立派な馬を見ながら顔良は聞いた。

 顔良達、冀州の兵士達が乗る馬は北部が原産の馬であり、公孫瓉の領地で飼育された駿馬ばかりだ。

 それに対し、呂布が率いている元西涼軍の兵士達が乗る馬は駿馬と言うよりは戦車を思わせる重厚な馬だ。その蹄の音は冀州は軽快なのに対し、西涼は重厚である。

 しかし、唯一呂布の乗る馬だけは将軍が乗る馬というだけあって大きいのに走りは実に軽快だ。

 

「名前は決めていない」

 

「え、そうなんですか! じゃあ決めたらどうですか?」

 

「う~ん、じゃあ平和」

 

「え!」

 

「みんなが仲良くなるような馬になって欲しいから平和」

 

「そう、ですか」

 

 その言葉に一瞬顔良は唖然とした。武の申し子とも言える呂布から平和という言葉が出てくるとは思えなかったからだ。

 

(奉先さんって意外と争いが好きで無いのかもしれないな……)

 

 顔良はふとそんな言葉が頭をよぎった。

 隣にいる呂布の顔を見たが、その顔から特に表情を読み取ることは出来なかった。

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