最近忙しかったもので……。今週からは定期的に投稿できると思います。
「……突撃」
呂布が小さく呟くとその合図を待っていた数千の騎馬兵が一気に敵陣目掛けて突撃を開始した。
その様子はさながら巨大な龍に噛みつく虎のようである。
「敵襲、敵襲だ!」
敵兵がそう叫び、敵陣はばたばたとしながら戦闘の準備を始める。
しかし、敵は所詮、賊。戦いを生業としている兵士の中でもとりわけ勇猛で知られる呂布隊の騎馬兵に押っ取り刀で敵うはずも無い。
為す術もなく、敵兵は蹂躙されていく。特に呂布の周辺は凄まじく、奉天画戟を一降りする度に数名の兵士が朱に染まって倒れていく。
「りょ、呂布だ~! 敵に呂布がいるぞ!」
呂布の強さは有名らしく早くも一部の敵が戦意を損失し、逃亡を始める。
しかし、何せ母体が大きいだけあり、いくら勇猛で知られる呂布隊とてそう簡単には敵を撃破はできない。
「敵の数は少ない! 恐れることは無く、迎撃態勢を取れ!」
賊の指揮官らしき人間が周囲の兵士を叱咤している。
呂布はそれを見つけ手に持っていた画戟から腰に着けていた弓を構える。矢をつがえてきりきりと弦を引き、狙いを定める。
ひゅっ!
風を切る音が聞こえ、狙った敵は叫ぶ間もなく、崩れ落ちる。
これを境に敵の一部は完全に瓦解し、逃走兵が相次いでいく。
それに見向きもせず、呂布は次の獲物を探る。
すると逃げ出していく敵の中で一際目立つ部隊がある。人数は少ないもののその部隊は他の兵士が統率を失っていく中で、しっかりと守りを固め、呂布隊に対し、攻撃の準備を行っている部隊であった。中央には敵の将らしき人間がしきりに声を上げて指示を出していく。
(あいつ、強い!)
呂布は持ち前の勘でそう感じとる。
強いというのは武力では無い。武力で呂布に敵う者はそういないであろう。しかし、この人物にあるのは武力では無く、将としての統率力だ。これに関して言えば、おそらくこの広い大陸と言えど、五人といないはずだ。
そう判断したのは配下の兵の動きだ。
彼の言うとおりに動いており、彼に絶大な信頼を置いているのが分かる。さらにこの味方が崩壊していく中で迅速に態勢を整えるその指揮能力は呂布すら及ばないであろう。
「奉先殿、あの部隊は危険です! 攻撃せずに迂回しましょう!」
陳宮はその部隊の動きの違いに気付き、すぐに危険であると判断した。
「分かった」
呂布はすぐに馬のくつわの向きを変え、その部隊から離れるように進もうとする。
「呂布が奴だ! 攻撃始め!」
しかし、その敵将はその行為を良しとせず、呂布の部隊へと向け矢を放ち始める。
更に悪いことに、その部隊が落ち着いていることから周囲の部隊も落ち着きを取り戻し始め、呂布軍の包囲網を固め始めたのだ。
「公台先生、このままでは不味い」
戦場の空気を読むのが敏感な呂布はその流れをすぐに察し陳宮に言った。
「ええ。ですが、こうなったのはあの部隊が原因。ですから奴等を撃破するし、敵の士気の低下を狙うしかありませんね。逃げ出すのはまだ早そうですし」
「分かった」
呂布はすぐに行動を開始した。
敵は少ない兵士で守りを中心に考えているのか方円の陣を組んでいる。
そこで呂布は近くにいる旗を持つ兵士に指示を出し、鋒矢の陣を組ませた。
ただでさえ、突破力のあるこの陣に呂布のような猛将とそれに率いられた精鋭が組み合わさればその破壊力はとてつもない物となる。
「来たぞ!」
敵将はそう叫んでから何かの旗を振り回した。
すると敵兵の数十人が一斉に弩の矢を放っていく。
数名の兵士が落馬するもその程度の攻撃で止められるような呂布軍ではない。あっという間に距離を詰めていく。
全くその勢いが衰えずにいるのに、妙に敵は落ち着いている。
「不味い! これは罠だ!」
陳宮が叫んだ。
呂布隊が突撃しているのは周囲がかなりの高さがある草むらの中を突っ走っている。しかもその草は乾ききっている。
たき火の火種にするには最高の物であろう。
「未だ! 火矢を放て!」
その将の周囲で何人もの兵士が一斉に立ち上がり、火矢を何百本も飛んでくる。
「足を止めるな!」
呂布は鋭く叫んで、兵士達を叱咤する。
その間に火矢は降り注ぎ、呂布隊の前方に落ち、周囲の草木に一斉に火を付けた。
「この場で止まればいずれ火で巻かれるか、敵に包囲されます! 真っ直ぐこのまま突破してください!」
陳宮はそう叫んで、呂布に献策した。
「突撃」
呂布は炎をものともせず、突っ込む。火の壁が極力薄く、弱い場所を狙って突破を図ったのだ。まだ燃え上がり始めたばかりの段階であるためにそれほど火の手も激しくは無かったのだ。
部下達も何事も無いかのように突っ込んでいく。
これには流石の敵も驚いたようで響めきが上がり、明らかに狼狽えている。
その瞬間、合図の狼煙が上がった。
顔良が敵の兵糧の攻撃に成功したのだ。
「目の前の敵を突破して退きましょう!」
呂布に向かって陳宮は叫んだ。
呂布は何も言わず、陳宮の言ったとおり敵陣を蹂躙すべく、突撃をしていく。
敵兵は策が上手くいかなかったことから士気が一気に低下し、四散し始める。
敵将は最早これまでと、覚悟を決めたかのように項垂れた。そして呂布軍は何事も無かったかのようにその場を蹂躙していった。
そこにはかつての強大な敵兵の軍団は無く、燃えさかる草原と逃げ回る敵兵の姿しか無かった。