袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第六〇話 昇格の裏

「のう、月よ。袁紹は一体何を考えておるのじゃ?」

 

 漢帝国第一三代皇帝劉弁の弟に当たる劉協は董卓に問いかけた。

 

「袁冀州刺史は現在、統治に全身全霊を掛け打ち込んでおり、その功績たるものは他の者の比ではございません」

 

「それは分かっておる。ただ儂にはよう分からんのだ。袁紹がもし皇帝陛下に上奏なされ、天下に争いを止めるよう各諸公に命じれば世の趨勢は決まったも同然。しかし、袁紹はこれを一向にしようとはしない。何故だ?」

 

 主に政務を執り行っているのは皇帝の劉弁よりこの劉協であろう。劉弁は元々政治にはあまり興味が無く、時たまとても漢の皇帝にはあるまじき行動も取っていた。これらの問題から劉弁を廃位し、弟の劉協を皇帝に使用という動きもあったが、劉協はこの提案に断固拒否を示し立ち消えとなった。しかし、実質的な政務は劉協が行っており、皇帝といっても過言ではないほどの権力は持っていた。

 

「それは私も見れば分かるでしょう。陛下を立てようとして動けば周囲の諸公には漢室利用した逆賊呼ばわりされ攻められます。袁刺史は大変慎重なお方です。おそらくはこれを恐れて動けないでいるのでしょう」

 

「袁紹の兵力は強大だ。そなたも袁紹の同盟軍のはず。これだけの兵力を有しているのは漢でもいないであろう。何を恐れる?」

 

「民でございます、陛下」

 

「民か」

 

「漢の民達は数多くの戦乱に逃げ惑い、現状に多くの不安と不満を持っております。そのような状況に逆賊の話が出れば民はどう考えるか……。言うまでも無いでしょう」

 

「ならば、私に考えがある。月、協力をしてもらえぬか?」

 

「何なりと」

 

 

 

 

 時は190年八月上旬。

 

「袁刺史様、皇帝陛下より勅使にございます!」

 

 袁紹の元に転がり込むように駆け込んできたのは逢紀であった。

 

「何ですって! すぐ向かいますわ!」

 

 袁紹は今まで行っていた政務を投げだし、身支度を調え始めた。

 

 袁紹が謁見の間にたどり着く頃には袁紹の主立った配下は殆どが到着しており、勅使を迎える準備は済んでいた。

 

「袁刺史様のご到着です!」

 

 衛兵がそう叫び、臣下達は一斉に礼を取る。

 

「すぐに勅使を!」

 

 袁紹はその礼を軽く受けて、すぐに衛兵に告げた。

 

「天子の勅使である驃騎将軍朱儁が入られます!」

 

 その声と共に初老の男が一人入ってきた。皇帝の臣下であることを示す黒い着物に身を包み、脇には皇帝からの勅書とみられる布を持った人が控えている。

 

「皇帝陛下からの勅命である!」

 

 男が高らかにそう告げると袁紹は椅子から立ち上がり臣下の礼を取って続きを待つ。

 

「冀州刺史袁紹を冀州牧に任じ、同時に大将軍として各地の戦乱を収拾、世の混乱を鎮圧せよ」

 

「その任、謹んで務めさせて頂きます」

 

 袁紹は下を向いたまま勅使である男から布を受け取る。

 

「では、私はこれで……」

 

 そう言って勅使は部屋から出て行った。

 

「随分と慌ただしい勅使でしたね」

 

 許攸が言った。

 

「それはそうであろう。彼は立場こそ驃騎将軍であるが、その任は皇帝の護衛や政務、皇帝の相談役など多岐にわたる。彼は皇甫嵩と並び、朝廷の重鎮だ。ほとんど暇な時間は無い」

 

「何故そんな重鎮が袁刺史、いや州牧の元へ?」

 

「おそらくは朝廷の意志だろう。今、朝廷はほぼ力を失っている。だからそれに変わる軍事力を持つ誰かを必要としている。その点、袁州牧は朝廷に従順である上、漢内でも有数の力の持ち主だ。それだけ重要視していると言うことだろう」

 

 逢紀は許攸の問いに答えていく。

 

「朝廷が睨んでいるのは黄河より南にある諸侯達だ」

 

 郭図がそこへ入ってきた。

 

「おそらくは我が君の権力を強めることで、他の諸侯も静かに従うと考えたのであろう」

 

「だが、こんな考えを天子がお持ちの可能性は低いであろう。何せ、あのお方は政治に余り興味をお持ちでない。おそらく考えたのは皇弟殿下の劉協殿下だ。そしてその背後にいるのは」

 

「董卓だ」

 

 郭図がぼそりと呟く。

 

「相国が! 何故!」

 

 許攸の大きな声に思わず逢紀が口を塞ぐ。

 

「馬鹿! 声が大きい」

 

 逢紀が周囲を見渡すも皆、袁紹に賛辞を述べており、気付いた者はいない。

 

「これ以上の話はここでは不味い。場所を変えよう」

 

 逢紀達は場所を変え、官庁内にある庭園に移動した。

 

「我が君は大将軍となられた。もしこの情報が諸侯の耳に届いたとき、諸侯はどう考える?」

 

「無論、我が君が天下を手中に納めんと朝廷に圧力を掛け地位を奪い取ったと考えるであろうな」

 

「その通り。そして各地の諸侯は反袁紹の狼煙を上げ、一斉に決起することは目に見えておる。それは水が高所から低所に流れ込むかの如く漢全土に余すこと無く広がり、かつての董卓の二の舞だ」

 

 郭図は続ける。

 

「さらに言えば、状況はより悪い。かつての董卓達は守りやすい地にある洛陽に立てこもっていたのに対し、こちらは何も遮る設備が無い平野にある鄴だ。十万以上の軍勢が攻め上がれば、戦いは目に見えている」

 

「しかし、我々が危機に陥れば危険になるのは何も我々ばかりではないでしょう。董卓達も危険な目になるはずだわ」

 

 許攸の反論に逢紀が首を振った。

 

「いや、奴等は大丈夫だ。何せ今は力が無い。だから我々に良いように使われていたと何でも言えば逃げられる。特に強いのは後ろ盾に劉協殿下がいらっしゃることだ。奴等は逃げられるであろう」

 

「つまり、この任命は……」

 

「体の良い囮ということだ。おそらく劉協殿下は民を救うために我々の権力を強め、天下に号令を掛ければ争いも無くなるとこの案を考えついたのであろうが、状況が悪すぎる。むしろ争いは増えるであろうな。そして董卓はこのことを分かった上で案を進めたはずだ。何せ、最近の董卓は劉協殿下に付きっきりであるからな。相談を受けないはずは無いし、彼女が自分の謀臣である賈詡にこれを相談しないはずが無い。賈詡ほどの人間であれば董卓にことの利益不利益を説明しているはずだ」

 

「うん」

 

 郭図と逢紀は頷く。許攸はその由々しき事態に頭を抱えざるを得なかった。




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