袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第六七話 劉備との対面

 劉備と思われる少女はそのまま前にあった机の前に座り込んだ。

 

「袁紹さんにはいつもお世話になっています! わたしが劉備、字を玄徳と言います! そして右から諸葛亮、鳳統、義姉妹の関羽です!」

 

 劉備はそう告げて田中達の到着を歓迎した。

 

「長旅でお疲れでしょうし、宴会の準備を行いますのでしばらくお待ちを。その間にご用件の方をお伺いいたします」

 

「ご丁寧にありがとうございます。私は袁州牧の臣下、田中と申す者でございます。そして横にいるこちらが審配にございます。劉太守の名声は冀州でも名高く、我が君もたいそう感心しておられました」

 

「それはありがとうございます!」

 

 劉備はにこやかに言う。

 

「我々が本日ここに来ました用件というのも実は最近起きている噂についてでございます」

 

「噂とは?」

 

「天の御遣いに関するものでございます」

 

「確か、管路と申す者が言っていたものでしゅね、はわわ」

 

 このときになり始めて、横にいた諸葛亮が口を開いた。というか噛んだ。

 田中はそれに笑いそうになりながらも平静を装う。

 

「左様。我が主君であらせられる袁州牧は皇室を保護されているお方。かような噂が立つことに大変な懸念と遺憾の意を示されておいでです」

 

「私共としても存じております。しかし、ここらは片田舎。使える予算も限られており、この噂をどうしようにもそれを無くすための方法は無く、頭を痛めているところなのでございます」

 

「つまり、噂の対象の地域が劉太守が治められているこの地域であることはご承知であると?」

 

「無論にございます。劉太守は皇室の末裔のお方、このような噂が立つことには大変心を痛めておいでです」

 

「そこまでおっしゃられるのであれば話は早い。調査の費用は全額こちらの方でお支払いいたします。ですので、その調査のお手伝いをしていただきたい」

 

 諸葛亮に田中がそう告げた瞬間、審配は思わず田中の方を見た。

 

「そうは言われましてもどのようなお手伝いをしたらよいのか……」

 

「簡単なことです。私ども共に統治している場所を回り、聞き込みのための道案内や現地の方との橋渡し役をお勤めしていただきたい」

 

「その程度であれば問題ございません。ご協力させていただきましゅ、はわわ」

 

 慌てる諸葛亮を見て吹き出しそうになりながらも田中は感謝の意を示す。

 

「かたじけない」

 

 そう言って田中達はひとまずその場を後にした。

 

 

 

「旦那様、そのような予算を我々はいただいておりませんよ!」

 

 役所を出るなり、審配は尋ねる。袁紹から言われた任務は噂の真偽の確認であり、調査ではない。しかし、田中はその調査を行うと言ってしまった。

 これは完全な越権行為ではないかと心配したのだ。

 

「審配、劉備の動きを見ていたか?」

 

「劉備ですか? いいえ」

 

「噂の件に関して話した瞬間、奴が一瞬表情をゆがめた。あれは痛いところを突かれた瞬間の顔だ」

 

「えっ!」

 

「おそらく奴は何かを知っている。この噂に関して聞かれるとマズい何かをな」

 

「なるほど、確かにそれであれば早急な調査が必要ですね」

 

「悪いが頼まれごとをしてくれないか? 早馬を二頭用意してくれ。私が渡す書簡の一つは丑三つ時に我が君のところへ直行させてくれ。もう一つは明日の白昼に途中までは同じ道のりを、途中からは大きく迂回し、晋陽方面を経由してから届けてくれ」

 

「承知しました」

 

 そう言って審配は早速それらの馬を調達しに行った。

 

「今の話を聞いたな?」

 

「ええ。しかと」

 

 田中は道行く人間の一人に言う。

 

「おまえは今日の早馬と同じタイミングで我が君のところへ行き、伝えよ。劉備は何かを隠しているとな。道のりは任せる。追っ手に気をつけろ。あの諸葛亮と鳳統なる者、ただ者ではないぞ」

 

「承知」

 

 そう言うとその人間は人混みの中へ溶け込んでいった。

 

「それにしても諸葛亮と鳳統が幼女とはな……」

 

 三国志の武将のほとんどが女性であり、まさかとは思っていたが、幼女と言うことは想定はしていなかった。さらに言えば、諸葛亮はまだ世に出てきてはいない。彼(彼女?)が歴史に登場するのは劉備が長坂の戦いで破れ、劉表を頼ってきたときのことだ。鳳統に至ってはさらにその後。それよりも十数年早い今の段階で劉備が天下の智者を取り込んでいる事実に驚きつつも、油断はせぬよう心に刻んだ。

 

「念のため、何人か別働隊を作り、我々とは別の調査隊の必要も考えねばな」

 

 田中は必要なことを考えながら通りを歩いて行った。

 

「それにしてもあの孔明、何度噛んだんだろう?」

 

 

 

 

 その晩、田中と審配は劉備の屋敷へと招かれ、宴会を楽しんでいた。

 

「それにしてもあの名高い田中殿にお会いできるとは光栄でしゅ! はわわ、噛んじゃいました……」

 

 舌を噛みながらも言ったのは諸葛亮だ。

 まさか後に三国志の武将でも一、二を争うほど有名になる人物にそのようなことを言われるとは考えてもおらず、笑いと驚きで田中は思わず酒でむせた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「いえ、少しむせただけです。私が名高いと? そのようなことは一つもしたことはございませんが、なぜそのような?」

 

「袁州牧様は何か多きな決断を下すとき、必ずあなた様がそばにいる。また黒山賊を討伐に言ったときには単身で陣中に入り込み、張燕を説得したとか。他にも様々な噂は伺っておりますよ。疑いをもたれたときは自らの首を差し出し、疑いを解いたとか、曹操の軍師であった戯士才を弁舌だけで配下に加えたとか」

 

 そのほとんどは確かに田中の行ったことではある。

 

「ですが、ほとんどは運がよかっただけです」

 

 田中はそう言って謙遜をする。

 

「運というものは実力が伴わなければつかむこともできません」

 

 諸葛亮はそう言って田中を持ち上げる。

 

「何、私ほどの人間など我が君の配下の中では星の数ほどおります。私はたまたま目に止めていただいただけです」

 

 田中はひたすら謙遜をしつつ、劉備や諸葛亮の言動に変わりは無いかを注視しつつ、月を見た。

 

 ちょうど月は満月でまもなく、丑三つ時になろうとしている頃合いである。このとき、田中が滞在していた宿から二つの陰が闇の中へと消えていった。

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