それから数日間に渡って行われた調査も結局は空振りに終わった。どの村も知らぬ存ぜぬと言われ、収穫は無し。田中達一行は早くもあきらめてしまい、今日が調査の最終日となった。
田中達がこれらから劉備に挨拶に来るとのことで諸葛亮と劉備はその対応に関して協議していた。
「桃香様、今日彼らが挨拶に来ましゅ」
はわわと噛んだことに焦りながらも諸葛亮は報告を行う。
「うん。これでご主人様に関してバレることなく終わりそうだね!」
「はい。元々それに関して調べる気はあまりなかったようですが……」
「でも、これがバレたらかなり大変なことになるのでしょう?」
「ええ。何せ今、朝廷は度重なる農民の反乱に神経質になっています。そのたびに担ぎ出されるのは天命を受けたとか言う人物達でした。これから先、朝廷はそうした者に対しては容赦の無い制裁を加えることになるでしょう」
「う~ん。別にご主人様はそういった人ではないんだけどな」
「本人ではなく周りが問題なのですよ」
そう言って諸葛亮はともかくと続けた。
「くれぐれもバレぬよう、気をつけてくださいね」
「分かってるって!」
そう言いながら田中達が待つ応接間に向った。
「数日間の間調査にご協力いただき本当にありがとうございました」
田中は開口一番に礼を言う。
「いえいえ。漢の臣下として当然のことをしたまでのこと。お礼など構いません」
「おかげで本当に順調に調査が進みました」
田中が少し含みを持たせた言い方をしたために少し疑問を持ちながら諸葛亮は答える。
「それは良うございました。お帰りになられた際、袁州牧には今後ともよろしくお願いいたしますとお伝えください」
「承知いたしました」
そう言って田中は背中を向けるが、思い出したかのように再度劉備の方に向く。
「忘れるところでした。劉太守に我が君から書簡がござったのでした。せっかくですのでここで読ませていただきましょう」
そう言うなり、袖下からごそごそと書簡を取り出す。
親愛なる劉太守殿
お初お目に掛かりますわ! 劉太守殿! 私は袁紹でございます!
さて、この度は調査にご協力いただき君主として感謝しておりますわ。おかげでかなりのことが分かったと田中から聞いております。
天の御遣いに関してはそこにいる田中が一番詳しいのでこの書簡をお読みになり終えましたら本人から報告を聞くようにしてください。
短い文ではございますが、準備もありますのでここら辺で筆を置かせていただきます。
では、ごきげんよう。
大将軍 冀州牧 袁紹
「さて、我が君から報告に関してお伝えせよとのことでしたので、ご報告をさせていただきましょう」
そう言って田中は横に引けていた審配に目で合図を送った。
すると横に置いてあった箱からいくつかの書簡が出てくる。
「これが何かご存じかな?」
それを見た瞬間、諸葛亮は顔から血の気が引くのが分かった。
「我が軍に来た書簡なのですがね。おかしいんですよ。私が送った書簡と中身が違うんですよね。私は袁州牧に対しては常に今回の噂に関してしかご連絡をしていないはずなのに、なぜか調査を一切していない書簡が送られていたんですよね」
そう言って田中はその書簡の中身を読み上げる。
「ここには劉太守が曹操と繋がっていないということが書かれております。しかも私の名で。おかしいですね。私はこのような書簡を送った記憶はありません。逆に送ったはずの書簡が届いてないのですよ。ご存じありませんか?」
「無論、知りません」
感情を表に出さぬようにしながら諸葛亮は答える。
「そうですか。それではこの書簡を送った本人に聞いてみるとしましょう」
審配がすぐに外に出て行き、一人の男を連れてきた。その男は血まみれになっており、明らかに何かしらの尋問を受けた後である。
「本初様の屋敷の守備兵が怪しい者を見つけたとのことだったので引っ捕らえてみるとこの書簡を持っていたとか。そしてこやつに犯人を聞いてみるのが早いでしょう」
田中は一息はさみ、ゆっくりとかみしめるように言った。
「さて、どなたがこの書簡を送ったのかな?」
「軍師殿です」
「名は?」
「諸葛亮、字を孔明」
「はて、そちらにおわす方もそのような名前であったと思いますが?」
「彼女の命令でやりました」
「と申しておりますが、いかがですかな、諸葛殿?」
「私ではありません。きっと曹操による計略でしょう」
とっさにそう答えるがすぐに田中は反論する。
「曹操ですか、それにしてはおかしいですね? 彼女がわざわざ劉太守が通じていないと書いた書簡を部下に持たせて、尋問しても口を割らないようにして、挙げ句の果てには命令したのは諸葛殿だと申すように仕向けますか?確かにこれが劉太守と通じているように見せるのでしたら計略と言えるでしょうが、これはあまりにも非合理的だ。さて、ここで私は一つの推論を立てました。これは諸葛殿、あなたによって勝手に考えられた物語なのでは?あなたは私に調査されて困ることを隠蔽した。違いますかな?」
彼は間接的に天の御遣いに関することを言っていることは誰にも明白であった。
ここでもし彼女が書簡に関して田中が嘘を言っていると言えば、彼女が書簡を奪ったことをバレてしまう。しかし、これが曹操による計略だと言ってしまった以上、取り返しは付かない。最早、完全に逃げ道を失ってしまったのだ。
ここまでである以上、主の劉備にまで被害を大きくするわけにはいかない。そう考えた諸葛亮はすべてを背負う覚悟を決め、口を開く。
「……。すべて私が考えました。私の責……」
「いいえ! 私が悪いの!」
そこで飛び出してきたのは劉備だ。
「私が天の御遣いさんを匿っていたんです! だから朱里ちゃんは何も悪くない!」
その瞬間、その部屋の中の空気が凍り付いた。
誰もが口を開けなかった、田中と審配を除いては。
もし何か疑問に持つようなことがございましたらご遠慮なく、ご意見をください。
少し終盤の方が駆け足気味なので必要とあらば、修正していきたいと考えております。