「黄巾賊が求めているの食べ物、安全な生活、そして旧体制の状況からの脱却です。我が君は以前より間違っているときは相手が誰であろうと対抗する姿勢を常に示してきました。もし彼らが、これらのことを望んでいるのであれば、あなたがこのことを飲み込むことを前提に味方につけてしまえば良いのです」
戯士才の大胆すぎる意見に皆が驚いた。何せ彼女は必要とあらば漢に刃向かってもかまわないと説いているのだ。
「竜刃、つまり私に向かって漢に弓引けと?」
「既に引いてしまっているのですよ。我が君。あなたは天の御遣いを袁術に手渡しました。この時点で天が御遣いにあることを認めてしまったのです」
「戯士才殿、さすがに言い過ぎなのでは……」
見るに見かねた文官の一人が止めようとするが戯士才はその制止を振り払う。
「もはや、我々は袁術につくと決めたのですから、今更朝廷に何を言おうと無駄でしょう。どうかご決断を」
一通り言い終えた戯士才を見つめる曹操。天才の頭脳は果たして今何を考えているのか。誰もが固唾をのんで見守る。
「良いわ。竜刃の言うとおりにしましょう」
その一言にその場がどよめく。当然の反応であろう。何せその当時の絶対的な価値観である漢に弓引くと言うことをはっきりと宣言したのであるからだ。今まではグレーな立ち位置をとっていたが、ここに来てはっきりと立ち位置を明らかにしたのだ。
しかし、この時代に漢にという行為はかなりの賭けである。
いったんはその場で会議を解散とし、戯士才、荀彧、郭嘉に後ほど曹操の執務室に来るよう伝える。
曹操と荀彧以外の全員が退席するのを待って荀彧が口を開いた。
「我が君、本当にかまわないのですか?」
荀彧が再確認した。何せ彼女の家は漢に代々仕えている名家中の名家だ。君主の漢を裏切る行為は彼女にとってもきわめて大きな影響を及ぼす。
「ええ。桂花、あなたは無理に私に付いてくる必要は無いわ。これは私自身の意思の決定であり、誰も覆すことは許さない。だから、あなたが何を言っても止まるつもりはないわ」
曹操の目は真剣であった。彼女は彼女なりの思いで漢を裏切ることを決意したのだ。
しばらく荀彧と曹操は見つめ合ったが、はあとため息をついて荀彧は諦めたように口を開いた。
「本当にしょうがないお人ですね。我が君は……」
「ええ。何せ乱世の奸雄だもの」
「そしてそのあなたに惚れ込んだ私はさらにしょうが無い」
苦笑しながら荀彧は言った。しかし、その言葉に未練や後悔と言った類いの雰囲気は感じられない。
「桂花、私に付いてきなさい。私があなたに時代の変わる瞬間を見せてあげる。この曹操が漢をそして世界を変える瞬間をね!」
「ええ。曹孟徳殿、あなたこそが私のたった一人の君主です」
「桂花、あなたには私の真名を預けましょう。何せこれから世界を変える手助けをしてもらう人だもの。私の真名は華琳よ」
「確かに受け取りました。改めまして、私の真名は桂花。華琳様、どうか私の知恵をお使いください」
「ええ。桂花、任せなさい。必ずこの曹孟徳があなたの知恵を思う存分使ってくれるわ」
ここに曹操とその軍師荀彧の数十年に及ぶ蜜月の関係が始まったのである。
「さて、此度の件でございますが、現在の不利な状況を絶対に他の勢力に悟られぬよう交渉を進める必要がございます」
曹操の執務室に来た戯士才は曹操と荀彧、そして郭嘉と共に会議を始めた。
「どのように相手方と連絡を取り合うか、そのために誰を送り込むか……」
「悩むところですね。何せ文武どちらも優れた人物である必要がある」
荀彧、郭嘉の順で言葉をつなげた。
「となると夏候妙才殿はいかがでしょう?」
戯士才は真っ先に思い浮かんだ人物の名前を言う。
「確かに秋蘭なら文武どちらも兼ね備えているわ。ただ彼女は挑発に弱い。万が一交渉がこじれて、私の名を少しでも侮辱しようものなら彼女は黙っていないでしょう」
「では、曹子和殿は?」
「だめね。あの子は武力があまり無いわ」
「ともなると当てはまる人物が……」
「いえ、一人います」
戯士才と荀彧が途方に暮れる中で郭嘉が毅然と言い放つ。
「それは誰なの?」
「曹孟徳、我が君ご自身です」
その瞬間、二人は固まった。まさか中のまさかの答えである。
「へえ。面白いこと言うじゃないの? 今、敵対している奴らのど真ん中に君主自ら行けと?」
曹操はにやりと笑いながら言った。しかし、彼女の目は笑っていない。答えようによっては殺すという意思表示であろうか、剣の柄に手をかけている。
「その通りでございます」
「理由は?」
荀彧と戯士才は曹操の雰囲気に呑まれてしまい、言葉が出てこない。
「全部で三点。まず一点。知勇共に兼ね備えた人物でこういった交渉の駆け引きができるのは我が君以外では適任者がございません。第二点。敵はあくまで現状を打破したいと考えているだけであり、我が君と必ずしも敵対したいわけではありません。第三点。我が君、自ら行かれることで敵方に本気度を見せつけることが可能であります。また配下の者や天下に堂々たる行為を知らせることで我が君の名声が高まり、今後に大きく影響を与えることができましょう。以上が我が君が為すべき理由にございます」
郭嘉は単純明快に答えた。
曹操はしばらく剣の柄から手を離さぬまま、目を閉じていた。
私情により、今後の投稿スピードが落ちる可能性があります。本当に申し訳ありません。
読者の方にはご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。