袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

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第八九話 趙雲の危機

「我が父の仇、ここで取らせてもらおう!」

 

 廖化は叫んで趙雲軍に突貫した。騎馬に兵士が吹き飛ばされていく。

 

「廖将軍、やはり突出しすぎです! 危険かと!」

 

「何を! 我が君は敵を殲滅せよとお達しである! これは軍令だ、敵への歩みを止めた者は斬る!」

 

 廖化は副官に叫んだ。

 無論、私怨だけでは無く、この場で趙雲を討ち取ることができれば袁紹軍の士気を下げることも可能であるし、今後の戦闘を優位に進められる。その考えに間違いは無い。

 しかし、このときの廖化軍の突出の仕方は異常であった。

 細く伸びた前線の尖端に位置していた廖化軍の勢いに後方の軍がついて行けず、徐々に孤立していったのである。

 何せ趙雲軍は騎馬を中心とした騎馬隊だ。趙雲自身の指揮能力を合わさってその機動力は生半可なものではない。それについていけば当然、他の軍から切り離されるのも無理は無い。

 

 

「ここで後方の敵を叩く手もあるが……」

 

 趙雲は切り離されつつある廖化軍を見て考えた。ここで一戦交えて撃破する手もあるが、貴重な時間が失われる。もし後方の敵に囲まれればいくら趙雲でも手の施しようが無くなる。

 

「後方の敵は気にするな! 前に向かってのみ進むのだ!」

 

 しかし、趙雲はこのとき劉備軍の二人の天才が動いていることに気づいていなかった。

 

 

 

「まさかとは思いましたが、ここまでとは……。噂に名高い猛将ですね」

 

 遠く見える趙雲軍の動きを見て言った。軍の動きを見ればその指揮官がどれほどの能力かは判断できる。

 鳳統はその能力の高さに鳥肌が立った。おそらく劉備軍で趙雲とまともに戦えるのは関羽と張飛くらいの者だろう。それにもかかわらず袁紹軍の中ではまだ、それほど高い地位にいるわけでもない。

 これから戦う袁紹軍の巨大さに恐ろしさしか無かった。

 

「だからこそ、ここでたたきのめしておく必要がありますね」

 

 そう、今、袁紹に対抗できる勢力と言えば曹操と袁術くらいのものだろう。彼女らに自分たちが有能な存在であることを示すためには、ここで趙雲軍を殲滅することが必要だった。

 

「狼煙を!」

 

「御意」

 

 近くの兵士に命じた。すると紫の狼煙が上げられた。

 

「朱里ちゃん、頼みますよ」

 

 鳳統は小さく呟いた。

 

 

 

「将軍! 前方に敵兵が!」

 

「む、伏兵か!」

 

 趙雲は副官からの報告を受け前方を見た。前方には諸葛の旗印を掲げた一軍が控えていた。鶴翼の陣形に広がっている。

 おおよそ戦力は四千ほど。まともに戦えば、今の時間が無い状況では絶望的だ。

 だが、周囲は河に囲まれており、敵を迂回することはできない。

 

「全軍、鏑矢の陣形を組め! 全軍突撃する!」

 

 趙雲の指示を聞くなり、騎馬隊でも突破力のある精鋭が前方を固め、矢印のような陣形になる。

 

(敵軍の事だ。間違いなく弓弩を備えているだろう……。ここを突破できるか……)

 

 趙雲は前方の軍を見つめた。ものすごい勢いで敵軍に接近していく。

 直後、前方から無数の木枯らしにも似た音が聞こえた。空に黒い棒が幾筋も走る。

 

「来るぞ!」

 

 趙雲の言葉が言い終わらないうちに周囲にものすごい数の矢が突き刺さった。趙雲は槍を振るい矢をたたき落としていく。

 他の兵士達も必死に盾を構え、剣を振るい矢から体を守ろうとする。しかし、如何せん数が多すぎた。

 何人もの兵士が矢に体を射貫かれ朱に染まって倒れていく。

 

「くそっ!」

 

 趙雲は叫んだ。しかし、為す術はない。それでも趙雲軍は突貫を続ける。

 ついに敵前方と接触。敵兵がなぎ倒されていく。しかし、運が悪い騎兵は盾にはね飛ばされ振り落とされたところを狙い撃ちにされた。

 趙雲も必死に剣を振るい、周囲の敵兵を倒していく。

 

「将軍! ここは我々にお任せを!」

 

 副官が叫んだ。

 

「……すまん」

 

 趙雲はこの場を切り抜けられるとしても僅かしかいない、それを直感で感じ取ったのだ。そうなればこの部下達は死んでも自分を生かそうとするだろう。自分が逃げ切らなければ、部下達も逃げられない。

 

「お前らもすぐに逃げろよ!」

 

 そう言って趙雲は愛馬をむち打った。

 

 

 

 

「この辺りですかね……」

 

 諸葛亮は戦局を見ながら言った。想像以上に趙雲軍は手強く、趙雲を討ち取るまではいかなかった。しかし、大きな損害を出させることには成功したはずだ。

 

「軍師殿、どうやら袁紹軍の兵、約一万がこちらに向かっていると……」

 

「気づきましたか。思ったより早いですね」

 

「兵を退きますか」

 

「ええ」

 

 諸葛亮は全軍に撤退を命じた。

 そこへ廖化軍が到着した。

 

「趙雲軍は?」

 

「見ての通り。大半は討ち取りましたが、趙雲は逃げました」

 

「くそっ! ならば追いかけます!」

 

「今からでは不可能でしょう。間に合わない上、袁紹軍一万が接近しています」

 

「しかし!」

 

「お気持ちは分かりますが、ここはお引きください」

 

「……ちっ! 退くぞ!」

 

 廖化は悔しそうに命じた。これから先、いくらでもその機会はある、何せ戦争は始まったばかりなのだから。


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