袁紹を活躍させてみようぜ!   作:spring snow

93 / 93
第九二話 絡み合う謀略②

「七乃~、麗羽の奴はまだ官渡におるのかの?」

 

「ええ、お嬢様。今ならば曹操さんと手を組んで、袁紹を倒すことができますよ~」

 

「だけど、麗羽を倒したところで良いことがあるのか?」

 

「だって袁紹はお金をたくさん持ってますから、お嬢様の好きな蜂蜜をたくさん買えますよ~」

 

「おお! それなら麗羽の奴を倒す意味もあるな!」

 

「さすが自分のことしか考えないお嬢様! そんなお姿もかわいらしい!」

 

 張勲は袁術の軍師として軍に随行していた。

 そのとき、不意に部屋に一人の男が入ってきた。

 

「失礼。我が君、ご報告がありまして」

 

 入ってきたのは袁術軍の将軍である紀霊だ。

 

「紀将軍、いかにされました?」

 

 先ほどまでの緩んだ表情に変わり、真剣な顔で張勲は尋ねた。

 

「全軍、出撃準備が整いましたのでご報告に」

 

「ご苦労様でした。合図があれば出陣します。それまでお待ちください」

 

 張勲は紀霊に指示を出した。

 

「張殿、そのお言葉、何度も伺っているが、今こそそのときでは無いのか?袁紹軍は未だ渡河を終えておらず、曹操軍との初戦に敗れたと聞く。今こそが好機と考えるが」

 

「いえ、まだそのときではありません。もう少し手間を加える必要があります」

 

「承知しました」

 

 そう言って紀霊はその場を後にした。

 

「のう、紀霊と七乃はなぜ我に従ってくれるのじゃ?」

 

 不意に袁術は張勲に尋ねた。

 

「お嬢様?」

 

「妾は袁家の正当な後継者であることは分かっておる。だからよってくる者達は何かしら思惑を抱えた者ばかりじゃ。じゃが、おぬしら二人は違う。なぜなのじゃ?」

 

 袁術はまっすぐな目で張勲を見つめてきた。

 小さな頃から袁術は袁家の跡取りとして甘やかされながら欲望の道具として扱われてきた。彼女は頭は良くないが、その反面、本能的に人を見抜く力は長けている。

 張勲は普段の態度を改めて袁術に言った。

 

「お嬢様のことが好きだからですよ」

 

 袁術のお世話係を申しつけられ初めて会ったあの日。純粋無垢に微笑む袁術を見て、この世にこれほどかわいらしい存在があるのかと驚いた。そしてその日誓ったのだ。この少女の笑顔を守り抜くために全力を尽くすと。

 

「そうか。七乃は妾のことが好きか!」

 

 自慢げに胸を張るこの少女。この姿を守るために消せねばならない存在がある。

 

 袁紹。

 

 袁術の姉でありながらも妾の子として生まれたが故、後継者から外された。しかし、彼女は自らの才覚のみで袁術で張り合えるだけの勢力まで伸ばした。

 これは袁家にとって二人の実力者が存在することになる。言わば跡目争いでもあるのだ。

 もしこれに負ければ、命は助かるかも知れない。

 ただそれが、袁術が笑っていられる環境だろうか。張勲が出した結論が今だ。

 

「お嬢様の笑顔は私が守ります」

 

 張勲はまるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 

 その夜、張勲は密偵からある報告を受けていた。

 

「曹操が袁紹陣営に離間の計を仕掛けているのね」

 

「はい。このまま正面切っての戦闘は不利と考えているようです」

 

「曹操陣営はどこに仕掛けているの?」

 

「どうやら袁紹陣営内部及び董卓陣営に仕掛けている模様です」

 

「こちらも便乗すればより効果が期待できそうね」

 

「しかし、袁紹内部は以前よりも強化されている上、奴らの防諜はかなり優秀です。そう簡単にはできないかと」

 

「それなら心配はいらないわ。彼らは優秀故につけ込む隙がある」

 

 そう言って張勲は一つの書簡を密偵に渡した。

 

「これを持って董卓の武将のところへ向かいなさい。バレるかバレないかぎりぎりの行動をしながらね」

 

 密偵は静かに頷き、その場から消えた。

 

「これで布石は打った。後は奴らの動きを待つのみね」

 

 

 

「袁紹に動きは?」

 

 曹操が戯士才に問いかけた。

 

「どうやら董卓陣営と揉めているようです」

 

 戯士才はにやりと笑みを浮かべて言った。

 

「田中達、防諜部が我らの計略に掛かり、張遼と呂布の裏切りを疑っている様子ですね」

 

「計略に掛かったと?」

 

「そう見て間違いないでしょう」

 

「本当にそうでしょうか?」

 

 その瞬間、疑問を呈する人物が現れた。郭嘉だ。

 

「田中は諜報を取り扱うことに長けた人物と聞きます。そんな人物がこんな簡単に計略に掛かるとは考えづらいと考えます」

 

「そういえばあなたは彼と会ったことがあるわね」

 

 曹操の言葉に郭嘉は頷く。

 

「ええ。彼は一面からの情報に頼らず、いくつかの情報を統合し複合的に物事を判断できる人物です。少なくとも彼が関わっている案件なのだとすれば不自然かと」

 

「ふむ……」

 

 曹操は目を閉じ、しばらく考え込む。そして目を開いた。

 

「いずれにせよ我が軍にとって袁紹達と相まみえる以外の方法は無いわね。軍議を始める」

 

「御意」

 

 曹操の主立った将はすぐに曹操の元へ集まった。

 

「袁紹に攻撃を仕掛ける。いつ頃が一番良いと思う?」

 

 すぐに荀彧が発言する。

 

「袁紹軍が間もなく渡河を終えると物見の兵士より報告が入っております。ですから渡り終えて進軍の準備が整うまでの間が一番かと」

 

「兵力をどの程度にする?」

 

「袁紹本隊は準備が整っておりませんので、戦力として考えなくてよろしいでしょう。陣が整っているのは先鋒の張郃軍、およそ二万程度。ですから三万もいれば十分かと」

 

「分かった。各員は出撃の準備を整えておきなさい。明日の夕刻、出陣。袁紹の先鋒、張郃軍を討つ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。