刃と剣がぶつかり合い火花が散る。それを何度も繰り返し、お互いの攻防が続いていた。
「やっぱ、
「無駄なことだ。私をココに閉じ込めれば戦いが終わったと、本気で思っているのか」
「うるせーよ。俺が諦め悪いの知ってんだろ。“斬月”」
「ふん。まだ、言うか」
「何度でも、言ってやるさ。お前は“斬月”だってな」
再びスピードを上げ、切りかかる。
***
天を突かんばかりの摩天楼の群れだった精神世界は、
天気は荒れ、風が吹き、雨が降り、嵐となって、海と化す。霊圧が海を荒し、水が干上がる。
「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガキンッ!!
その割合は、徐々に徐々に洋風な造り――「
ここは一護の精神世界。世界の在り様が
破れた死覇装の隙間からボタボタと血が流れる。滅却師特有の
「はあ、はぁ……」
以前、最後の月牙天衝を教わるために、天鎖斬月と刃を交わした時よりも、数倍危険な戦いを一護は強いられていた。
***
―― 王よ。俺に変われ。あの野郎をぶった切ってやる。
だめだ。
―― なんでだ。アイツはもう、斬月さんじゃねーんだぞ。
違わねぇよ。
―― いいから、変われ!! 死なれたら、困るんだよ!
一護は、フッと笑った。
なんだ、心配してくれるんだな。
―― な! してねぇよ!
今の“斬月”はユーハバッハかもしれねぇ。
―― なら!
でも! 感じるんだ。アイツの剣から、オッサンの意識が!
―― ……
たぶん、オッサンも戦ってるんだよ。アイツの中で、抗ってるんだ。
―― 斬月さんが勝つ前に、お前が死んじまう……
死なねぇよ。
白一護は首を振る。
―― 俺がわからねぇと思ってんのか。もう、ユーハバッハにここが侵略されてんのが。希望に満ちたこの世界が、時間を追うごとに絶望し始めてる。……お前が壊れる!!
***
「がはっ!!」
一護の口から、傷口から白い塊があふれる。虚の力が一護を包み込まんと、体を覆っていく。
「ほう、最後の悪あがきか」
“斬月”―― 一護に精神世界に引きずり込まれたユーハバッハ――は、にやりと口元を歪ませ、三つの目玉でその様子を見ていた。
内なる虚が出てくる。それはつまり、一護に命の危機が訪れていると同時に、すでに詰んでいるということだ。
顔から頭にかけて仮面に覆われ、頭に二本の角が生える。肌は白く覆われ、胸には穴が開く。
『ガァァァァアアアアア!!!』
――― やめろ! 斬月!!
体の支配権を白一護に奪われ、一護の意識は闇の奥底へと沈んでいく。
二本の角の間から霊圧が凝縮され、
ユーハバッハは
完全虚化となった一護は一瞬の隙に背後に回り込み、月牙天衝を纏った刃がユーハバッハを襲う。
しかし、
「無駄だ!」
一護の能力を奪うために
持ち前のスピードでそれを回避。囚われれば終わることを本能は感じ取っていた。
***
ここに、この世界にユーハバッハを閉じ込めておけば、少なくとも現実世界は護れる。
しかし、敵か味方かわからないオッサンとの終わりの見えない戦いは徐々に一護を苦しめていった。
目的を見失うほどに……―――
―― ダメだ。まだ、終わっちゃいねぇんだ……
いいや。もう、分かってるだろ?
聞こえるだろ?
外に満ちた戦争から解放された歓喜の声が。
滅却師への恨みの声が。
待っていない。
誰も、
死神がずっと守って来た霊王を殺したお前を。
誰も待っていない。
―― 違う……違う!!
お前は、独り。
―― ひとりなんかじゃ……ねぇ。
ほら、味方であったアイツも今じゃ敵だ。
殺しあっているユーハバッハと白一護の様子が見える。
お袋を殺したアイツが憎いだろう?
―― ……
さぁ、殺しあえ。
憎しみ合え。
そして、崩壊しろ。
さすれば、ここは、この世界全て、
――― ……ご、……一護!
頭上から差し込む一筋の光に顔を上げる。
――― 一兄。負けんな。
夏梨?
――― お兄ちゃん、頑張って!
遊子
――― 負けないで、黒崎くん。
井上
――― 一護。
チャド
――― 一護、根性みせろよ
たつき
――― いっちごーー! 勝てよーー!
啓吾
――― 啓吾さん、そんな大きな声上げなくても聞こえてますよ。
水色
――― 一護~、今度、一緒に酒飲みましょ!
乱菊さん
――― 馬鹿か松本。こいつはまだ、未成年だ。
冬獅郎
――― おい、てめぇ。いつまで寝てんだ? 暇だろ? 俺と殺りあえ。
剣八
――― 隊長。一護は寝てても、まだ戦ってるんですよ?
弓親
――― 早く、起きねぇと隊長がしびれ切らすかもなぁ? 一護
一角
――― さっさと起きろよ。一護。隊長が首長くして待ってるぜ。
恋次
――― 礼を言うにはまだ早い。
白哉
――― 一護! さっさと起きぬか! 馬鹿者!!
ルキア……!
***
パキリ
虚の仮面に亀裂が走る。
「む」
「独りじゃねぇ。俺も、アンタも」
虚の
「アンタの剣から伝わるのはなにも、憎しみだけじゃねぇ。悲しみだけじゃねぇ」
一護の瞳に光がともる。それはとてつもない強さを持つ。
「俺は決めたぜ、オッサン」
「何?」
「アンタを倒して、オッサンを取り戻す。アンタとオッサンが同じっていうんなら、何度も倒して、俺の強さをアンタに叩き込む」
一護は斬月を構える。
「だからアンタのこと、“斬月”って呼ぶぜ。アンタもアイツも俺の力なんだからな」
海の底に
「俺はアンタを超えるぜ」
「くくくっ……」
闇より生まれし我が息子の言葉に、
「やってみるがいい。黒崎一護!!」