主人公だけど出番はまださき。……え?   作:灰恵

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誘拐

 

 

建物のコンクリートの床に、誘拐されたすずかたちは投げ落とされた。

 

「きゃ!!」

「ちょっと、もう少し丁寧に扱いなさいよ!」

「うるせぇ、嬢ちゃんだな。あいつ()のようになりてぇの?」

 

顔に傷のある男は、くいっと親指で後ろを指した。

 

「くっ」

 

アリサは口を閉ざす。

 

「そうそう、物分かりがよくて助かったぜ」

 

男が指示(さししめ)した先には、クラスメイトがボロキレのように転がっていた。

普段はうっとうしいほど、虫唾が走る奴だけど、誘拐されそうなところを助けてくれた。いや、実際には助けようとした。目の前にいるこいつが現れるまでは。

 

「こんなことをして、何が目的なの!? パパが黙ってないわよ!」

「おーおー、頼りがいのあるパパさんでちゅねぇ」

 

馬鹿にした口調で、男は笑う。

アリサは侮辱(ぶじょく)され、頭に血が上る。

 

「アリサちゃん、ここは抑えて」

「~~っ!」

 

すずかは冷静だった。何度かこういうことがあったせいか、以外にも頭の中は冷えていた。しかし、実際にはすべて未遂で終わり、誘拐されたのは今回が初めてだった。

 

「! すずか……?」

 

アリサは触れているすずかの体が震えていることに気付いた。

 

そっか、すずかも怖いんだ。

 

アリサは頭に血が上っていることさえ、馬鹿らしくなった。

 

しっかりしなさい。アリサ・バニングス! 一人じゃないんだし、きっと助けが来てくれる。

 

冷静になれたアリサは周囲を見渡す。

ブリキ缶やドラム缶が詰まれている。それらはさび付いていて、人の出入りがあるとは思えないが、どこかの工場の資材置き場ような所だ。これでは人が近くにいるとも考えにくい。

そこに転がっているクラスメイトのように不思議な力は持っていないし。――― 魔法だって言ってたような気がするけど。――― 携帯も没収されて、どうしようもないけど、もう少し時間がたてば、塾に行っていない私たちに講師たちが気が付くはず。

その時間がもどかさを感じるが、悔しいが、自分の非力な力ではどうしようもない状態だった。

 

「ごめんね。アリサちゃん」

「なに、謝ってるのよ。すずか。らしくないわよ」

「ううん。これはきっと私のせい」

 

アリサはらしくないすずかに苛立ちを覚える。

 

「だから……!」

 

なんで自分を責めるようなことをいうのよ! という言葉は、第三者の声が聞こえたことによって、喉の奥に飲み込んだ。

 

 

「ほう、目覚めていないとはいえ、勘は働くものなんだねぇ」

 

 

「「!!」」

 

二人は突然の男の声に驚いた。

 

「誰!?」

「あ、……あぁ……」

 

アリサは声を荒らげ、すずかは新たに現れた男の顔を見て、恐怖に顔をひきつらせた。

 

「すずか?」

 

ただならぬ怯え方に、アリサは眉を(ひそ)める。

 

「やぁ、久しぶりだね。すずか。元気だったかい?」

 

男は顔をにちゃりと笑い、見下した。背筋に悪寒が走る笑い方だ。

すずかはさらに怯えた。彼に、ではない。あの事を彼の口から滑らせてしまうか、それが怖いのである。

 

「おじ様」

「え?」

 

やっとでたか細い声は、アリサの耳に届き、言葉を疑った。

 

「おじ?」

「あ」

 

うっかり、喉からこぼれた声にすずかは狼狽(うろた)えてしまう。

 

「ああ、そうだとも。私は彼女、月村すずかのおじだよ」

「なんで、おじが私たちを誘拐しなきゃいけないのよ」

「くふふ。 君に直接恨みはないさ。まあ、一緒に連れてこられてしまったのは、不運だったと自分の運命を呪いたまえ」

「そんなこと、しないわよ!」

「そうかな?」

 

「自分の隣にいる可憐な少女が、“化け物”だったとしても?」

「やめてぇぇぇぇぇ」

 

すずかは悲鳴を上げた。

 

「すずか!?」

「あははは。 どうしたんだい? すずか。素晴らしい力じゃないか」

「そんなことない! やめて! 言わないで!」

 

泣き叫ぶすずかに、アリサは狼狽えた。

 

「我らは誇り高き、夜の一族(・・・・)なのだから」

 

すずかは言葉を失った。

知られてしまった。自分を友達だと言ってくれた人に。もう……

 

 

「だから、なによ」

 

 

「え?」

 

すずかは顔を上げた。

 

「おや? 知らないのかい? 彼は知っていたのだがねぇ?」

 

おじは隣にいる傷のある男を見た。男は何も答えず、肩を下げた。

 

「なら、教えてあげよう」

「!! やめて!!」

 

意味を知らない。なら、救いはまだある。そう思ったとき、叔父の言葉にぞっとした。

 

「我らは吸血鬼(・・・)なのだよ」

 

 

 

あたりが静けさに包まれた。

 

――― 1秒、2秒。

 

時がたっても、動かない。いや、動くものがいた。

傷のある男と、その男にボコボコにされたクラスメイトの男子だ。

 

「? なんだ?」

「痛ってぇ。くっそぉ。俺は主人公なんだぞ」

「まだ、言ってんのか踏み台」

「うるさい! 俺は踏み台なんかじゃない。お前がそうなんだろう!」

「さぁね。少なくともお前よりもましなほうさ」

「なんだと!!」

「それより、妙だと思わねぇの?」

「あ”あ”ぁ!?」

 

静かなのだ。

 

さっきまで芝居じみた演説はいつまでたっても始まらない。

ここで動いているのは、二人だけ。

まるで一時停止ボタンを押したかのように、目の前にいる三人はピクリとも動かない。

 

それに。

 

「これは……? 結界?」

「その割には妙だぜ」

 

二人はあたりを警戒する。

 

「一応、聞いてやるが、お前が張ったんじゃねぇんだよな?」

「違うね。お前は……あぁ、ねぇか。張られてから起きたもんな」

「あぁ? 馬鹿にしてんのか!」

「しっ! なにか来る」

 

二人は黙り、耳を澄ませる。

 

さび付いた鉄の扉が開く音が響く。足音がこっちへ来る。

 

二人は構えた。

 

 

「すずかちゃん! 無事!?」

 

 

 

 

 

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