主人公だけど出番はまださき。……え?   作:灰恵

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”燐子”

 

 

 

 

「なんだこれ……力が抜ける」

「……くっそ、ここで終わりかよ」

 

二人の瞳から光が消え、音もなく炎上する。誰一人として気付くことなく存在そのものが消えていくのだ。

炎となった“存在の力”は人形の口の中へと吸い込まれていった。

 

「ふぅ。 もう、おなかいっぱい」

 

ぺろりと舌なめずりをして、腹をさすった。得たばかりの“存在の力”を使い、腕を生やし再生する。

 

「かんぜん、ふっかーーーつ!!!」

 

ギャハハハハ

 

甲高い笑い声が響く。

それを美沙斗は絶望し唖然と、眺めていた。

しかし、美沙斗は幸運だった。

たった二人の“存在の力”で、餓鬼ともいえる“燐子(りんね)”の腹を満たしたのは、二人が転生者という特殊な枠組み―― “存在の力”を多く含む存在 ――であったからにすぎない。栞がなければ“存在の力”を喰われた人間がいたということも、美沙斗が気付くことすらなかっただろう。いやこの場合、居合わせたのが転生者でなければ美沙斗も喰われていたに違いない。

だが、美沙斗はそんな事情を知らない。

 

「ん? んんんんん?」

 

へたりこんだ美沙斗に“燐子(りんね)”はぐるりと目を回し狙いを合わせた。

 

「まだ、残ってるぅぅぅ。封絶の中で動けるなんてぇぇぇ。そうだ! ご主人様に持って帰ろうぉぉぉおおお」

 

燐子(りんね)”の手が美沙斗に迫る。

助けは来ない。攻撃も効かない。なら……逃げるしかない。

 

何をしているの! 美沙斗! 逃げるのよ!

 

美沙斗は恐怖に支配され動かない体に叱咤(しった)し、転げ回る。間一髪、手から逃れた。

 

「まてぇぇぇぇ」

 

新しいおもちゃを見つけた子供のように声をあげ、美沙斗を攻める。

立ち上がろうと体制を整えたとたん、片足をつかまれた。

 

「つっかまえたぁぁああ」

 

燐子(りんね)”に足を持ち上げられ、美沙斗の頭が地面につくことなく宙に浮く。

 

「くっ! 離しなさい!」

「離すもんかぁぁ!」

 

人間が出しうる力をすべてを使って、美沙斗は“燐子(りんね)”を蹴る。けれども、“存在の力”を持たないただの蹴りでは“燐子(りんね)”に(かな)うどころか、傷すらつかない。

人間相手には有効な不破御神(ふはごしん)流でも異界の化け物“紅世(ぐぜ)(ともがら)”には――今回はその下位に位置する“燐子(りんね)”だが ――全く効かない。それを理解しているからこそ美沙斗は歯がゆかった。

 

せめて近くにフレイムヘイズがいれば……――

 

 

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

美沙斗の願いが届くように“燐子(りんね)”が左右に両断された。

 

 

 

***

 

 

 

一人(、、)の少女が封絶の中を走る。

 

「この存在の力の大きさだと、やっぱり“燐子(りんね)”だね」

「ええ、封絶を張ったってことは、喰うつもりなんだわ」

 

屋根を飛び越え、電柱を飛び越え、郊外についた。

 

「中心はこの辺ね。人が多くいるとは思えないのに、どうして……」

「アリサ、あそこに車があるよ」

 

封絶によって停止しているが、ここには不釣り合いな黒塗りの車があった。封絶を解けば走っていたに違いない。

 

「ホントだわ。何故ここに?……っ!!」

 

大きな“存在の力”が動いた気配がした。

 

「アリサ!」

「ええ!!」

 

小さな疑問を頭から追い出し、気配がした倉庫に潜入する。

 

「くっ! 離しなさい!」

「離すもんかぁぁ!」

 

よかった。まだ、生きてる!!

 

アリサは安堵と同時に気を引き締める。壁を蹴り上げ跳躍し、

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

燐子(りんね)”を一刀両断した。

 

 

 

 

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