翌日
一度、男は学園に泊まってから去ることになった。
そして、別れの時刻は刻一刻と迫っていた。
「ありがとうございました。」
「いえいえ、私は何も…。」
謙遜する紅城トワに男は告げる。
「紅城トワ。
君のおかげで私は目的を持つ事が出来た。
改めて言う。
ありがとう。」
男は紅城トワの頭を優しく撫でる。
少し照れる様に紅城トワが言う。
「久しぶりに、お父さんが出来たみたいでした…。」
何かを思い出したかの様に紅城トワがひらめく。
「あ!そうですわ!
マーブルドーナツを餞別として持っていって下さい!
バス停でお待ちを!
今すぐ買ってきますわ!」
そう言って、男よりも先に出ていってしまう。
「良い子だったな。」
男はバス停に向かいながらそう呟いた。
自分が何者か。
自分は何をしていたか。
自分を待つ者はいるのか。
そんなことを思いながらバス停に近づく。
そこからは、海辺が見えた。
「いたんだね…。」
ニヤリとそう言ったのは、黒いフードを被った青年…ロックだった。
「君は…。」
「あんたの夢、見せるんだね!」
『………に会いたい。』
男と少女が笑っている。
「その夢、絶望の檻に閉ざすんだね!
ロック・ヨア・ドリーム!」
男の夢が絶望の檻に閉ざされていく。
会いたい
あ い た い
ア
イ
タ
イ
ズドオオオォォォ………ンンン!!!
突然、地響きが鳴る。
男の体は、殻を脱ぎ捨て、人間の形をわずかに保っただけの異形の怪人の姿に変わる。
「なんなんだね…っ!」
ロックが言い終わる前にその怪人…カーバンクルの電撃が襲いかかる。
「ぐあああぁぁぁあああ!!!」
怪人の放った電撃で遠くまで弾き飛ばされてしまう。
「こ、ここは一旦退くんだね…!」
ロックの姿が消える。
マーブルドーナツは買えた。
あとは、これを彼に渡す。
少しでも喜んでもらうために。
少しでも父親の雰囲気を味わう為に。
彼女の顔は笑みを浮かべていた。
少しずつ駆け足になる。
少しずつ心踊る。
少しずつ彼に近づいていく。
しかし、そこには彼の姿は無く、一体の怪人が立っていた。
「…!
あなた、何者ですの…!
まさかディスダークの新手?」
その怪人はゆっくりと彼女の方を見る。
「やぁ、紅城トワ。」
聞き覚えがあった。
「君のおかげで、」
否定したい。
「目的を持つ事が出来た。」
目の前が真っ暗になる。
「ありがとう。」
彼女の手から、ドーナツの入った袋が落ちる。
「会わなければ、暦に。
また暦と、やり直さなければ。
その為にはまず、」
怪人の口は、にやけたようだった。
「絶望させなければ。」