「くっ、どうしてこうなった?」
『相棒が夜遅くまで起きていたのが悪いな』
「ちくしょう!」
封絶の中、俺は音のない朝の御崎市を駆ける。キアラからの連絡によると今日の朝に二人の徒が結界に引っ掛かったそうだ。さらに、今日も同じくいつもの勢いで一番にシャナが飛び出していき、次にキアラが追いかけて俺が家に取り残された状況。しかも、戦闘中なのか連絡が通じない。
もう一度言おう……どうしてこうなった?
『あの二人なら大丈夫だと思うが』
「確かにそうだが……」
とりあえず原作と同じ展開のようで安心する。俺が原作よりも強くなった影響があるかと思ったがそうでもないみたいだ。でも、まだメンツが違う可能性も残されているので油断は禁物。
しかし、それでもまだ不安が残っている状況で三人で連係がとれないのは痛い。マージョリーは原作通りに仕掛けの回収に向かったのだろうか。
「一度、中央の塔の玻璃壇で現在の状況を詳しく確認したい」
フリアグネの宝具であった探知型の宝具である玻璃壇。これはあらゆる徒との戦闘でとても役立っている。これを俺が持っててもいいが、キアラやシャナも使いたい時に使えるようにした方がいいかなと思い、俺は原作通り中央の塔に置いた。
『では私も探知範囲を上げてみよう』
「頼む」
俺は走りながら禁手の鎧を纏おうとする。しかしその瞬間、無数の針のような自在法が俺を襲った。かろうじて俺は右に避けることに成功するが、右腕に少しかすってしまう。
「おいおいおいおい、まさか!?」
俺は見覚えのある攻撃に驚きを隠せないでいた。まさか、あいつがここで出てくるのは予想外だったからだ。
『無事か、相棒!?』
「今のところはな。だけど、時間を掛けると不味い」
この感じは間違いない。俺の記憶が正しければこの自在法はスティグマ。一度付けた傷を少しずつ広げていき体力を削っていく。そしてこの自在法を使うのはあの男のみ。
さらに、最悪なことに奴対策である自在式はまだヨーハンから教えて貰ってはいなかった。
……最悪だ。しかもこれに恐らく奴も加わる。
「……急所は外したか」
「″壊刃″サブラク」
原作ではまだフィレスの動向を追っていたはず。まさか、ホントに俺というイレギュラーが出てしまうとは。
「悪いが貴様の中にある零時迷子を貰うぞ。白龍皇」
「なっ!?」
さらに、突然背後から見知った大きな気配が現れる。やはり来たか……。
「糞、お前まで来たのかよ」
「今度は前のようにはいかん」
姿を表したのは″千変″ シュドナイ。前と違うところはその手に大きな槍を持っているところだろう。その槍の名は神鉄如意。大命の遂行時のみ持つことを許されたシュドナイ専用の最強の武器だ。
この状況から分かることただ一つ。俺の零時迷子の存在は既にばれており、本気で俺の零時迷子を回収しにきたということだけだろう。
しかし、この二人を同時に相手とか。もう、死んだ方がいいレベルなんだけど。俺のハーレム道は何故こんなに険しいのか。
『落ち着け、相棒』
「分かってる」
俺は自身の血が出ている右腕を見ながら言う。
「しかし、先程の弔詞の詠み手といいこの町には多くのフレイムヘイズがいるようだ。全員、貴様の仲間か?」
「その様子だと、弔詞の詠み手は……」
「我がスティグマで戦闘不能にした。またしても急所は外したが死ぬのまで時間の問題だろう」
事態は俺が寝ている間にひどいことになっていたようだ。もうこれはマージョリーが復帰するか、シャナとキアラが愛染兄弟を倒すのを待って合流するしかない。
マジピンチ……。
「だけど俺もそんな簡単にやられる訳にはいかないんだよ!禁手」
《Vanishing Dragon Balance Breaker!!》
俺の体が白い鎧に包まれる。傷の広がりは思ったより早い。俺は短期決戦を目安に奴らに突っ込んだ。
「ふん」
シュドナイが神鉄如意を地面につつく。すると、俺の後ろから無数の刃が襲ってくる。さらに、そのシュドナイとの攻撃に合わせるようにサブラクが針のような自在式を俺に向かって正面から襲う。
俺は冷静に分析し、それぞれの攻撃半減しながら手で凪ぎ払った。
『Divide』
「貴様の能力は把握済みだ」
「知ってるよ!!」
シュドナイが俺に向かって高速で接近する。本来は俺に接近すれば自身の能力を半減されるので悪手だが、今回は違う。サブラクのスティグマが俺の体力を削っている今、敢えて接近して俺の命を刈り取る算段だろう。
だが、前と違うのはそちらだけではない。俺は接近してくるシュドナイに対し、グランマティカを発動。奴の後ろを取った。
「貰った!」
「早いな。だか……」
俺はシュドナイに拳をぶつけようとする。しかし、そこにはもう奴の姿はなかった。後ろから聞こえてくるはずのない声が聞こえてくる。
気付くと俺は奴の神鉄如意によって地面に叩きつけられていた。
一瞬、呼吸が止まる。
「ほう、頑丈な鎧だ。俺の神鉄如意でも貫通出来ないとはな。だが、もう持つまい」
「くっ」
「さて、零時迷子を頂くとするか」
鎧の胸の宝玉の部分が崩れて、そのまま鎧は解除される。確かに奴の言うとおり貫通はしなかったが、さすがに今の攻撃をノーダメージで受けきれというのは無理がある。鎧はまた着け直すことは可能だが、出来て一回。
使い時は見極めることが必要になる。
俺はあまりの悔しさに唇を噛み締めた。奴に触れることに成功したが、戦える体力が残り僅かしかない。しかも、後ろにはサブラクが控えている。そして今回も奴の本体はこの町の下にいるのだろうか。そうであればキアラたちに伝えなくては。
俺はなんとかして立ち上がろうとする。そしてアルビオンに心の中である提案をした。
……覇龍を使うぞ。
『やめろ。今の状態では危険だ』
なに、簡単には呑まれないさ。
俺は心の中でほくそ笑むとシュドナイを睨み付けた。奴はそんな俺を気にすることなく、零時迷子を取りだそうとする。
しかし……
「六ペンスの歌を歌おうよ」
『ポッケにゃ麦が一杯だ』
「二十四羽の黒ツグミ、っは!」
『パイんなって焼かれちまう、っと!』
無数の紫色の炎弾がシュドナイとサブラクを襲う。シュドナイは神鉄如意で炎を払い、サブラクは冷静に見極めて避ける。
シュドナイは頭を掻きながら、面倒くさそうに言った。
「しぶとい奴だ」
「さて、派手に行くわよ!」
『はっはっは、残念だったなぁ』
俺の視線の先には完全に復帰したように見せかけているマージョリーがいた。
戦いは終盤に差し掛かる。