朝の通学途中、俺は思わず呟く。
「まったく、昨日は大変だった……」
「昨日ってなにかありましたっけ?」
「いや、なんでもない」
「?」
「どうせ悠二のことだから変な夢でも、みたんでしょ」
「……」
隣にいるキアラがいつも通りお菓子を食べながら首を傾げ、シャナは文句を言ってくる。
変な夢か……あながち、間違いではないな。
俺は昨日の覇龍との戦いを思い出しながら、足を進める。しかし、ブルートザオガーを手に入れてから挑戦して正解だったな。
『ああ、それは間違いないだろう』
あの一撃は止めや致命傷を与えるのにとてもいい。もっと応用がききそうだ。
それに仮装舞踏会との決戦も近いし、もっと強くならなくちゃな。
「最近はあの襲撃以来、徒の姿を見ませんね」
「それは変ね」
『奴等が動き出すのかもしれん』
「仮装舞踏会……」
「お祭りもあります。日が被らなきゃいいんですが……」
ここで俺はあることを思いだす。奴等の襲撃もそうだが、あの男も来るころだと。さらに、それについては少し考えもある。これも、キアラたちに気づかれずに処理したいものだ。
「すまん、帰りはちょっと用があるから先に帰っていてくれ」
「えっ……そうですか。まぁ、私たちは私たちの予定があったので丁度良かったです」
「そっ、そそそうね!」
「なんだ?」
「乙女の秘密です」
なんだか分からないが彼女たちはもともとなにか予定があったようだ。しかしなんか仲間はずれの気分だな……。
そして、俺はふと先程から電柱の後ろに隠れていてこちらに声を掛けるタイミングを伺っている少女をちらりと見た。
いつも聞いている放課後の予鈴を聞くと、一目散にキアラとシャナは教室から去っていく。
……本当になんなんだ?
俺は素朴な疑問を抱くが今はいい。とりあえず俺は目的を達成すべく、予定通り彼女に声を掛けた。
「朝、声を掛けようとしてたよね」
「ゆっ、悠二くん」
その少女は吉田さん。これから俺が行うことに不可欠な人材だ。
「なにか話しとかあるんじゃないの?今、暇なら一緒に帰らない?」
「えっ……もっ、もちろんいいですよ」
緊張しながらも吉田さんはそう答える。こうして俺は今日、吉田さんと共に帰ることになった。
夕方、俺と吉田さんは静かに商店街の道を歩いていた。途中、池にちゃちゃを入れられが、無視無視。
「そういえば、吉田さんと二人で帰ったことなかったよね」
「はっはい。そうでしたね」
なにやら、言いたいことがあったと言っていたが、先程から俺が話し掛けるまで無言。これは困ったな。しかも、女性が喜ぶ話しなんて思いつかないし……。
俺は普段キアラたちと何を話しているかを思い出す。
……うん、物騒なことばっかだわ。後は食い物。
まぁ、今回の目的は吉田さんと最後まで帰ることではないのだが。やはり、そう簡単には見つからないか。まぁ、もし来てるなら結界に引っ掛かるだろうし。……いや、あえて警戒してすり抜けてくるか、あの男なら。
俺がそんなことを考えていると、フードの男が遠くに不自然にいるのが見える。
……見つけた!
「すまない、吉田さん。用事を思い出した」
「ええー」
「悪い悪い。その代わり、祭は吉田さんもキアラたちと一緒に回ろうぜ」
「えっ」
「池から聞いたよ。それなら速く言えばいいのに。すまないが、それじゃっ」
俺は吉田さんに短く告げると、走り出す。しかし、彼女が言いたかったことは恐らく……というか、間違いなくこのことではなかっただろうが、俺がそんなことに気付くはずもない。
本当に、俺はついている!
時間は掛かると思ったし、原作での詳しい日時などは覚えていなかった。なので、これは偶然である。
俺は大声で笑いたくなる衝動を抑えて、あの男……儀装の駆手の元へ向かっていった。
「少し話をしないか、フレイムヘイズさんや」
「あなたは……」
『うぬ、フレイムヘイズではない。おぬし、ミステスか』
「まぁ、そんなところだ。それより、あんたは吉田さんにどんな用事があったんだ」
「吉田さん?あぁ、先程の少女の名前ですか。彼女ならミステスとも知り合いですし、この町の調律に丁度いいと思ったのですが」
「調律?」
俺は知らないふりをしてとぼける。あくまでも自然にだ。
「その前に自己紹介がまだでしたね。私は儀装の駆り手のフレイムヘイズでカムシンといいます」
『わしは不抜の尖嶺べへモットじゃ』
「俺はミステスで坂井悠二」
『私はこの悠二のもつ宝具に宿っているアルビオンだ』
「……宝具に。私も長くフレイムヘイズを見てきましたが初めてです」
『わしも聞いたことはないのぅ』
やはりというべきかアルビオンの存在に反応したようだ。だが、今俺が話しをしたいのはそのことではない。
「それでその調律というのは?」
「おっと、そうでした。調律というのはこの町の歪みを正すための儀式です。彼女が適任だったと思ったのですが」
歪み……ね。フリアグネの都喰らいは防いだし、大丈夫だと思ったが、結局こうなったか。
まぁ、フリアグネにたいしても、燐子たちが存在の力を喰らいまくったし、シュドナイたちの襲撃もある。さらに、このフレイムヘイズの数も含め、こうなるよな。
「彼女は俺と友達なだけで一般人だ。出来れば他の方にしてもらいたい」
「そうですか……」
「条件とかは?」
「出来ればこの町に長く住んでいて、この町をよく知る方がいいのですが」
「それなら心当たりがある。ついてきてくれ」
「助かります」
俺はカムシンを引き連れて、ある場所へ歩き出す。この件に関してはずっとある男に任せようと思っていた。わざわざ吉田さんを危険にさらすことはないしな。後はカムシンが認めるかどうかな。
俺はあるフレイムヘイズがいる家に向かった。
「お邪魔するぜぇーーー」
「……」
「うるさいわねー……って、悠二じゃない。というか何故じじぃも?」
『ほう、この荒々しい気配はやはりお前さんじゃったか。弔詞の詠み手』
「久しぶりですね」
「そうそう、啓作はいるか?」
「啓作?」
マージョーリーはこの家の主の名前を聞いて、首を傾げる。
「あいつなら奥の部屋にいるけど?」
「そうか。なら、少し借りたい」
「待ちな。事情を説明するんだね」
「カムシン頼む」
「では……」
カムシンは簡単にここまでの事情を説明する。
マージョリーは静かに説明を聞いていた。特に文句はないようだ。
「なるほどね。でも、本人の確認をとりなさいよ。この儀式に関われば……」
「俺的には既に手遅れのような……」
「それでもよ」
「もちろんです」
暫くすると、奥の部屋から啓作が姿を現す。どうやら丁度、田中は外出中のようだった。
そして案の定、啓作はマージョリーはともかく俺やカムシンの姿に驚いているようだ。
「悠二……それと」
「初めまして私は儀装の駆り手でカムシンといいます」
『わしは不抜の尖嶺べへモットじゃ』
「どうも……」
「実はあなたに頼みがありまして」
「俺に?」
カムシンは啓作に説明していく。まぁこの通り、彼なら調律を任せられると思ったのだ。理由としてはこれからもこの裏の世界に関わっていくだろうし、大戦の時にはアウトローで手伝ったりしてたしな。この町にも長く住んでいることから適任だと思ったのだ。
しかし、
「……分かった。俺が引き受ける。姉さんの役にも立てるしな」
「決まりだな」
「こちらにも準備がありますので、三日後にやろうと思っています。場所はおって伝えましょう」
「ああ」
これで調律についてはなんとかなった。後は教授の襲来と、次の彼を含めた仮装舞踏会の襲撃だ。今の戦力なら問題ないだろう。ただ、原作以上で攻めてくる可能性もあるので油断できないが……。
次の重要なポイントはすぐそこに迫っていた。