そこは黒い空間。そこには目の前の黒いなにか以外には何も存在しない。
『それがお主の願いか』
「そうだ……だから」
坂井悠二と■■■■■の目的。
それらを為すために力を貸してもらう。全てはあの世界へ行き、悪魔の駒を手に入れて決して切れない鎖をこの手に。
思いだすは前世の記憶。自身の名前を思い出すことは出来ないが、あのラノベを開いたときの日は決して忘れてない。
「お前の目的に力を貸してやる。その代わりに俺の願いを叶えてくれ」
『創造神』祭礼の蛇
俺はそんな存在と向かい合っていた。
「朝か」
『無事だったか』
「ああ、問題ない。やつと話せた」
『祭礼の蛇とやらか』
「これであとは合流するだけだ」
時期は冬に近づき今のところサブラクの襲撃もなく目立った事件もない。強いて言うなら田中がこちらの世界から足を洗うくらいか。その辺でマージョリー陣営は揉めていたが。今は落ち着いている。
「悠二、稽古するわよ」
「ほいほい」
俺は毎朝の日課の稽古のためにシャナと共に庭へ向かう。キアラはもう先に向かってるようだ。
今日は休日で学校もないので特訓詰めの予定となっている。無論、俺もまだ自身の実力不足を感じることは多い。反対する理由もない。
「それ一本」
「ちょっ。もう一回!」
『うむ。なかなかうまくなったな悠二よ』
いい感じにお互いの剣の腕は上がってきている。原作の坂井悠二とは違い地力が違うためいつも特訓をしてるシャナやキアラも恐らく原作以上の力を身につけただろう。
「そろそろ、私の番ですね」
キアラは光を槍にして出現させる。彼女は遠距離主体の戦い方をしていたが近距離も対応できるような戦い方もしたいとういうこと槍の扱いも磨いていくことにしたようだ。槍ならば投合できるので遠くの敵にも対応できる。
「形成スピードも早いし、すごいな」
「もう少し火力を上げたいんですけど」
「特訓あるのみよ!」
最近、めっきり徒との戦闘がないのかシャナ不燃ぎみのようだ。
俺たち三人は無我夢中で稽古を続ける。
気付けば昼頃になっていた。
「悠二、お疲れ様です」
「キアラか。お疲れ」
俺は日陰で涼んでいると、キアラが水を俺に渡してくる。
「ありがと。しかしは容赦ないな」
「それだけ、悠二が強くなったきたということですよ」
「強く……か」
「聞きたいことがあるんです」
「?」
キアラがいつもよりも真剣な表情で俺を見つめる。俺は驚きつつもそんな彼女を見る。
「悠二は一体どこを見てるんですか?」
「それは……」
「悠二は強くなっています……確実に。
あのシュドナイとあそこまで戦えるほどに」
「……」
「どこまで強くなるか、これから先にどんな道を進んでいくのか私では分かりません」
やめろ……。
キアラの言葉が胸に響く。
「でも、私はあなたの力になります。ずっとこれから先も」
やめてくれ。
「だって仲間ですから、それに……。いえ、ともかく私も強くなります。だから……」
「キアラ」
「ずっと一緒に……」
「あー、こんなところにいたのね!」
シャナの叫びがキアラの言葉を遮る。
どうやら、母さんの料理が出来たので俺たちを呼びにきたらしい。
「まぁ、大丈夫だよ」
「えっ」
「大丈夫。俺はいつだって変わらないさ。だからそんな心配するなって」
そうさ、俺は変わらない。坂井悠二という皮を被ってるだけで変わることはない。
変わってないはずなんだ。
「だからこれからも一緒さ」
「はい!」
この時、俺の胸に鋭い痛みが走ったような気がした。
「これで全部だよな?」
「うん。千草から言われてたものは全部買ったわ」
時は過ぎて夕方、俺とシャナは二人で母さんから頼まれたものを買いに商店街へやってきていた。キアラは家で母さんの手伝いをしている。
そして買い物も終わり俺たち二人は帰路を歩く。
「そういえば、今日の昼にキアラと何を話してたの?」
「んっ、ああ。少しこれからのことを」
「ふーん。そう……」
「何だよ」
「別に!」
なにやら、シャナの様子がおかしい。いや、この感じはいつものことか。
「これからって、高校卒業してからのこと?」
「まぁ、そんな感じ」
「サーレともそんな話しをしてたわよね」
「ああ」
実際は少し違う特にここでそのことを話す必要はないだろう。
「ここに残るか。旅をするか」
「シャナは旅をしてきたんだろ。どうだった」
「……色々なものを見てきたわ」
「そうか」
「私は千草たちのためにこの町に残った方がいいと思ってる」
「それは」
「分かってる。それだと逆に彼女が危険にさらされるってことくらい。でも悠二の新しい家族のためにも一緒にいるべきじゃないかしら」
「……」
母さんの妊娠、新しい家族。この前に知った事実。
あのフィレス襲来のあとに父さんは仕事へ向かったがこの前再び帰ってた。その時に俺に母さんと父さんの二人から知らされたのだ。
それは俺をこの街に残すには十分な理由だ。
しかし、それは坂井悠二であればの話。
「分かってるよ。それを踏まえて考える」
「どんな答えを出しても、私は一緒に戦っていく」
「……」
「だからしっかりと考えて答えを出してほしいの」
「分かったよ」
「約束よ」
「……ああ、約束だ」
まったく、なんでかな。
思わず俺は見えないところで苦笑する。
ひどい男だな、俺も。
その後、俺たちは家に帰り母さんが出迎える。
そこからはいつもと変わらない賑やかで楽しい夕食が行われる。前世とは比べものにならない素晴らしい日々を送れていた。
俺はこの景色を、この毎日を手放す。
『相棒』
すっかり寝しづまった夜。俺はベランダから静かに満月を眺めながめていた。
そんな中、アルビオンが俺に語りかけてくる。
『よくも、まぁあのようなことが言えたことだ』
「怒ってるのか?」
『呆れているのだ』
「安心しろ。俺もだよ」
『別の選択はなかったのか』
「ないよ」
悪いが俺はそれほど優秀ではない。
間違って跳ばされたこの世界でなんとか本当に行きたかった世界に行ける唯一の道を考えた。しかもそれは行けるとは限らない。さらに坂井悠二の役目も終わらせなくてはいけない。
ここまで筋書きどおりに進めたのは奇跡のようなものだ。
かならず消える繋がりを考慮する余裕はない。
「もう直ぐだ。やっと行けるはずなんだ」
『……』
「手に入れる悪魔の駒を、ハーレムを。本物を……」
坂井悠二ではない、■■■■■の本物の繋がりを。
___覚悟は出来てる。
秋は過ぎ冬となりクリスマスイブを迎える。それは恋人たちが過ごす幸せな日。しかし全ての人が幸せであるということはない。
決別の日は静かに訪れた。