抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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第一幕 『ソロモンの悪夢』
仲間と共に


「あー‥‥‥漣はなんで此処でこんな事を‥‥‥」

 

がっくりと肩を落として項垂れているのは、ピンク色のツインテールが特徴的な漣ちゃん。その隣では腕組みして仁王立ちしてる川内さん。

 

「まあまあ、お礼にこの後夜戦に連れてってあげるからさぁ」

 

おおぅっ、川内さん、夜戦が御褒美って考えてる人なんて滅多にいないっぽい!その証拠に、ほら。

 

「そんな事思ってるのはアンタと天龍さんくらいだっ!要らねぇ!そんな御褒美マジ要らねぇ!!こっちはロシア帰りだっつーの!日本国内観光したいっ!牡蠣食べたいっ!せめて鹿に会いたいっ!!」

 

あー、漣ちゃんイラついてるっぽい‥‥‥こんな大きな舞台、滅多に経験できないし楽しめば良いのに‥‥‥。

 

「悪くは有りませんわ。こんな経験滅多に出来ませんもの。漣さんももう少し楽しめば良いのではなくって?」

 

ほらぁ、熊野さんもそう言ってる。アタシと同じ考えっぽい!

 

「ぐはっ!?熊のんまで!?夕立は違うよね?違うよね!?」

 

‥‥‥残念ながら漣ちゃんの期待には応えられないっぽい。「アタシも楽しみっぽい!」って答えたら絶望的な表情しちゃった。あーあ、今からが本番なのに‥‥‥。

 

「四人しか居ない同期の頼みですのよ?断る理由が何処にありますの?」

 

あ、熊野さん正論に見えるけど正論じゃないっぽい。だって、それだと漣ちゃんの訴えも四人しかいない同期の頼みだし。

 

「うぅ‥‥‥いいですよ、やりますよ、やればいいんでしょ?もう逃げる自由なんてないんだ‥‥‥」

 

漣ちゃん、不貞腐れちゃったっぽい。でも知ってる。漣ちゃんは凄く友達思いで、頼まれた事は確りやる子。始まったら、きっと頑張ってくれるっぽい!

今日は久々にロシアから帰ってきた漣ちゃんに会いに、川内さんが横須賀から駆けつけてくれたっぽい。‥‥‥妹の那珂ちゃんと一緒に。

 

「古鷹秘書艦は?響ちゃんは?」

 

あ、漣ちゃん、それ聞いたら駄目っぽい。漣ちゃんと一緒にロシアから一時帰国してる二人は今頃は電ちゃんと青葉さんに会ってる筈だし。

 

「お二人なら今頃は茨城ですわ。友人に会いに行くとか‥‥‥」

 

「ぐはぁっ!?あの二人逃げた!?チクショー、漣だけ参加させやがった!?御主人様の事恨んでやるゥ!!」

 

あー、もう始まるのにエキサイトしてる‥‥‥あ、カウントダウン‥‥‥ステージの幕が上がるっぽい。アタシ達四人はお揃いの、如何にもアイドルって感じのヒラヒラの衣装。バックダンサー任された!勿論、センターで歌うのは‥‥‥。

 

「四人とも、準備おっけー?それじゃ、いっくよー☆」

 

アイドル全開の笑顔の那珂ちゃん。これだけおっきなステージは那珂ちゃんも初めてっぽい。足が少し震えてる。

 

「こうなったらヤケだ!漣の本気を見るのです!」

 

「友人との共同作業というのも悪くは有りませんわ」

 

「他ならぬ妹の頼みだもんね。私も全力でやらせてもらうよ」

 

なんか、みんな燃えてきたっぽい。よーし、アタシだってアイドルしてみせるっぽい!!

 

『みんなー!今日は那珂ちゃんのライヴに来てくれてありがとー!頑張っちゃうから応援ヨロシクねー☆』

 

あ、始まっちゃった。ライト眩しいっぽい。うわっ、観客席埋まってるっぽい。出撃よりも緊張してきた‥‥‥あ、客席にみんな居る!春雨ー!天津風ー!

 

『最初はこの曲だよっ!『恋の2-4-11』!いっくよー☆』

 

 

 

‥‥‥今日は那珂ちゃんの手伝いだけど、いつもは深海棲艦から海を奪還する為に頑張ってるっぽい。これは、夕立と同期のみんな、それから仲間達とのお話っぽい。

 

今から三年前。あの頃の夕立は艦娘は『みんなと海を守る正義のヒロイン』って思ってた。だから、アタシがその艦娘になって、妹の春雨やみんなを守るんだ、って思ってた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「ここが東京‥‥‥」

 

初めて東京に来て、送られた地図の場所に向かった。とある場所にあるおっきなビル。海軍の関係者以外は鎮守府には入れないから、試験会場は別の場所っぽい。

 

その入口付近には人、人、人。みんな女の人。艦娘になる為に集まった人達。艦娘は本当に狭き門。『永遠の美を得られる』って噂だし、みんな必死。うぅ、アタシ受かるか不安になってきた。

 

受験票を握り締めて、受付を探す。中学でのアタシの成績は並くらいだった。高校に行くって手もあったけど、アタシはみんなを‥‥‥妹を守る為にも艦娘になるって決めた‥‥‥筈だった。必死に勉強してきたけど、こんなに受ける人が居るなんて‥‥‥自信無くなった。

 

「受験者の方ですね?受付は此方ですよ」

 

後ろから突然声をかけられて思わずビックリ。受験票が見えたから話しかけてくれたっぽい。銀髪ツインテールの、ベレー帽被った綺麗なお姉さん。事務の人、かなぁ?

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

ここはグッと我慢して、丁寧にお礼。アタシ、『っぽい』って言っちゃう口癖があるっぽい。‥‥‥って、ほら。妹にも『今日は試験だし、意識して抑えて』って言われてる。ここは、確り意識して好印象っぽい!

 

‥‥‥あれ?このお姉さん、肩にリス位の大きさの2頭身の人形乗せてる?もしかして見た目より幼い?アルバイトなのかな?

 

「私の肩に何かありますか?」

 

あ、凝視してたのバレてたっぽい。何だか聞いちゃいけなかったっぽいし、ここは愛想笑いしとく。

 

「なっ、なんでもありません」

 

お姉さんは「そう、ですか」って言った後、受付まで丁寧に案内してくれた。それと、歩いてる時に何か紙に書いてた。あー、もしかしてアタシ不味い事しちゃったかなぁ‥‥‥。

 

 

 

 

 

でも。アタシを案内し終えて別れた後に、そのお姉さんは上司の女性とこんな会話をしていた。勿論その会話はアタシにも、会場の他の誰にも聞かれる事無く。

 

「足柄教官、妖精さんが見えたのは今年は今の所四人、ですね」

 

「そう。思ったより少ないわねぇ‥‥‥四人とも良い艦だと助かるんだけどね。引き続き宜しくね、鹿島」

 

 

 

 

 

それから午前中は筆記試験。モウダメ。諦めた。だって、半分どころか三分の一も解けなかった。難し過ぎ‥‥‥。

お昼は妹が作ってくれたお弁当。家事も出来て勉強も出来る自慢の妹っぽい!

 

お弁当のお蔭で少し元気が出て。午後からは面接。部屋に入ってビックリ。さっきの銀髪のツインテールお姉さんが面接官だった。やっぱり軍の人だった!?うわっ、さっきのアタシ、絶対失敗してた‥‥‥。

 

『座ってください』

 

‥‥‥はへ?何だかさっきのお姉さんの声とは違ったような‥‥‥ま、いっか。座ってって言われたし「失礼します」って言って椅子に座る。

 

『それでは最初の質問です。何故艦娘になろうと思ったのですか?』

 

マイクか何か、なのかな?絶対お姉さんの声じゃないっぽい。それ以前に、さっきお姉さんの肩に乗ってた2頭身の人形がテーブルに置いてあって、声はそっちから聞こえる。思わず見ちゃった。

 

◆◆◆

 

それから、一週間。どうせ落ちた、って諦めてたアタシは、大人しく高校受験に向けて勉強を始めた。そしたら、妹が部屋に駆け込んできたっぽい。

 

「姉さん、海軍から合格通知が来たよ!!」

 

はぁ‥‥‥そんなに慌てても何も良いことないっぽい。確かに『多分艦娘は落ちたから代わりに通知見ておいて』って言ったけど。態々駆け込んでこなくっても‥‥‥‥‥‥え?合格‥‥‥通知?

 

「合格‥‥‥?嘘っぽい?」

 

「姉さん、ちゃんと見てください!ほら」

 

合格。確かに艦娘として貴女を迎え入れますって書いてある‥‥‥‥‥‥うっそ‥‥‥‥。

 

「ごっ、ごっ、ごっ、ごっ、合格っぽい!?」

 

そこには横須賀鎮守府の通行証が同封されてて、今度の日曜日に鎮守府迄来い、って書いてあった。あの成績で受かったなんて信じられないっぽい‥‥‥。

 

その日はずっと嬉しくて嬉しくて。でも、両親は複雑な表情だった。そうだよね、娘が戦争に行くんだもん‥‥‥。

 

それから、日曜日。初めて見る横須賀鎮守府の正門は大きかったっぽい。入口で通行証を見せると扉が開かれて地図に書いてある建物を目指して歩く。受付の人、女の人だった。海軍って女の人が多いのかな?

 

何て言うか、学校?役所?そんな感じの二階建ての施設。玄関からすぐ左の応接室に入ってみると、そこには三人の女の人がソファに座っていた。後の川内さん、熊野さん、それと漣ちゃん。

 

アタシ、電車の時間のせいで今日はギリギリになっちゃったぽい。って事は、まさか今年の艦娘合格者はこの四人だけ?あれだけ人が居たのに益々アタシが選ばれた理由が分からないっぽい。

 

部屋には写真が飾ってあって、漣ちゃんに似てる女の子が海の上を走る写真だった。あ、これ知ってる。世界で最初の艦娘『英雄・漣』でしょ?

 

写真見てたら後ろから声を掛けられた。「私が撮ったのよ、それ」って。振り向いたら身長のある、ロングヘアーの女性が立ってた。足柄教官。足柄教官からは何とも言えない威圧感を感じたっぽい。

 

「今年の合格者は貴女達四人。これから艦娘として覚醒して、日本の為、世界の為に深海棲艦と戦ってもらうわ」

 

足柄教官の目は鋭かった。ちょっと怖かったけど‥‥‥アタシはこれから頑張るっぽい!

 




呉鎮守府の夕立。
あー、夕立主役は元々頭にはあったんですよ。

夕立、漣、川内、熊野の、たった四人の同期生のお話。夕立の進水から呉鎮守府への着任、ある一大事件に至る迄のお話。

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