抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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月光

「それで、わたくしのところに?」

 

「熊野さんなら良いアイデア思い付くかもって思って」

 

今は熊野さんの部屋で作戦会議中。内容は、勿論ヌイヌイちゃんについて。サンタさんの真実を伝え‥‥‥あっ、もしもまだサンタさんを信じてる人がいたらごめんなさいっぽい。

 

「あの歳まで信じていたとなると‥‥‥居ないと分かればショックでしょう。それに、かなり恥ずかしい思いをするかも知れませんし、それとなく気付かせるしかないのではなくて?」

 

やっぱり。熊野さんが言うようにバレないように伝えるのが良い‥‥‥よね?けどアタシじゃいいアイデアなんて浮かばないっぽい。

「うーん」って唸ってたアタシに助け舟を出したのは、川内さん。

 

「もっと幼い駆逐艦の子にサンタに手紙を書かせて、不知火ちゃんにはその時に『サンタはプレゼントは配らない』ってそれとなく話すとか?」

 

‥‥‥え?本能で生きてると思ってた川内さんのアイデアだけに、意外すぎて驚いた。アタシのその様子で考えてた事を察したっぽい川内さん、「夕立は私の事なんだと思ってるの?」って膨れてる。うん、脳筋って思ってたかも。ごめんなさい。

 

「ホラ、私、妹が居るって言ったでしょ?毎年プレゼント書いてもらってたからさ」

 

あー、成る程。納得っぽい。川内さん、そういえば下に妹が二人いるんだった。だからそういうの慣れてるんだね‥‥‥アレ?妹ならアタシにも居るんだけど、そういうのしてあげた事無いっぽい‥‥‥今年はお給料貰ってるし、何か買ってあげようかなぁ。

なーんて思ってたアタシだったけど、熊野さんが重要な事を指摘してくれた。

 

「ですが、それだと一つ問題が有りますわよ?手紙を貰ったからにはその子達の分は何とかしてあげませんと」

 

そっかぁ。小さい駆逐艦の子達に手紙だけ書いてもらっても、プレゼント貰えなかったらショックだもんね。うーん、そうなるとクリスマス会とか企画した方がいいっぽい?許可下りるのかなぁ?

 

「プレゼントですか‥‥‥余り高い物はどうかとは思いますが、お金ならわたくしの方で用意はできます。ですが、毎年となると‥‥‥わたくしが異動しないとも限りませんし‥‥‥」

 

そうなんだよね。熊野さんが用意してくれるっていう気持ちは嬉しいんだけど。幾ら御嬢様だからって流石に全部っていうのは悪いっぽい。それに、そのやり方だと熊野さんが異動になっちゃったら出来なくなるし。小さい駆逐艦の子は多くはないけど‥‥‥あれ?そう言えば‥‥‥曙ちゃんもそうだったけど、どうして小学生くらいの子が海軍してるっぽい?幾ら艦娘の才能が有るからって、流石におかしい。

 

川内さんが「生活の為だよ」って教えてくれた。アタシや熊野さん、漣ちゃんは違うけど、親が病気だったり、収入が少なかったり、孤児だったり。生活していく為に必要なお金を小学生でも合法的に稼げる‥‥‥艦娘なら。そんな思いであの採用試験を受けてる子も少なくないんだって。そっか。だから試験会場には小さい子も居たんだ。何だか‥‥‥辛いっぽい。

 

◆◆◆

 

それから解散して、アタシは部屋に戻った。うん?漣ちゃん?あ、漣ちゃんなら外出してる。えっと、御祖父さんが亡くなったらしくて、急遽実家に戻ってる。そのくらいの許可は下りるっぽい。

アタシが戻って来て直ぐに、ヌイヌイちゃんも戻って来た。自主練に行ってたっぽい。

 

冬って日が暮れるのが凄く早い。二人で夕飯を食べた後はもうすっかり夜。その日は満月で、よく晴れててクッキリと見える。

 

ヌイヌイちゃんは夏目漱石の小説を読んでて、アタシはお菓子を食べながらだけど窓を開けて何となく月を見てた。

 

「月が‥‥‥綺麗ですね」

 

ヌイヌイちゃんが囁くように言葉にして、アタシは振り向いた。でもヌイヌイちゃん、月なんて見てなくて小説に視線を向けたまま。見てないのに『月が綺麗ですね』なんておかしいっぽい。

 

「ヌイヌイちゃん、小説しか見てないっぽい?」

 

ヌイヌイちゃん、「‥‥‥ハァ」って小さく溜め息。うーん、アタシ何か変な事言ったっぽい?うん?何だかヌイヌイちゃんの頬が紅い。寒いから風邪には気を付けないと。

 

「今日の月‥‥‥ポイポイは、どう思いますか?」

 

え?月の事?確かに綺麗だよね?「月‥‥‥綺麗っぽい」って答えたら、満足そうに(本当に微かに)微笑んだ。あれ?何だったんだろう?

 

◆◆◆◆◆◆

 

アタシ達がそんな事を話していた頃。事件は起こってたっぽい。

人型で、フルフェイスのヘルメットみたいなマスクを被ってて、砲の付いた異常に大きい両手の軽巡ツ級が二隻、それから鯨みたいな容姿のイ級が三隻、それともう一隻の計6隻が、横須賀第一艦隊の守る石油タンカーに向かってた。妙高さんの偵察機が直ぐに発見、加賀さんが彗星を発艦、イ級二隻、ツ級の一隻を轟沈。流石は加賀さんっぽい。

が、横須賀第一艦隊の守る石油タンカーに向かってた。妙高さんの偵察機が直ぐに発見、加賀さんが彗星を発艦、イ級二隻、ツ級の一隻を轟沈。流石は加賀さんっぽい。

 

でも、相手は高速艦。直ぐにタンカーに迫ってきた。最重要任務は石油タンカーを守る事。アタシ達の時と同じっぽい。だから、速やかに片付けなきゃいけない。

島風ちゃんが単艦で走って、ツ級のもう一隻を魚雷で落とした。うん、此処までは問題なかったっぽい。

 

その最後の一隻、深海棲艦の旗艦だったのが‥‥‥白髪の長い髪を揺らし、甲殻みたいなもので顔の半分が隠れてて、ノースリーブのミニのワンピースを着てて、下顎みたいな歯が並んで喉を守るように首回りを覆ってる。あ、太腿が綺麗だけどそれはいっか。

重巡ネ級eliteだった。けど、ちょっと他の個体と違うっぽい。他のネ級はみんな顎の先からスカーフが靡いてるんだけど、ソイツにはスカーフがついてない。曙ちゃんが夜の闇に紛れながら至近距離から魚雷を放ったんだけど、踊るような動きで避けて、太腿に付いてる副砲で反撃してきた。

 

「うそっ!避けられた!?」って驚いてる曙ちゃん、反撃を貰って小破。魚雷って推進燃料の残量の関係で、遠くなら遅く、近くなら速く進む。だから、さっきの曙ちゃんの超至近距離なら魚雷のスピードは高速。普通なら直撃っぽい。そんな距離で避けるような相手、曙ちゃんが知ってるのは島風ちゃんともう一人くらい。

 

雲に隠れてた月がまた出てきて、二人を照らす。背中から延びた双頭の砲が曙ちゃんに向けられたんだけど、そのネ級の顔が微かに曙ちゃんからも見えたっぽい。

 

「えっ!?‥‥‥‥す」

 

驚いてそう言い掛けた曙ちゃんの手を、全速力で走ってきた島風ちゃんが掴んで二人でその場から離脱。うん、間一髪でネ級の主砲から免れたっぽい。

 

「違うよ!曙、違うからね!」

 

曙ちゃんが思ってるだろう事を察して、全力で否定する島風ちゃん。「でっ、でも‥‥‥」って動揺しちゃってる曙ちゃんに「そんな訳ないから!似てるだけだよ!」って叫んでた。

 

相手は一隻だけ。加賀さんと曙ちゃんにタンカーの護衛を任せて戦闘態勢に入った長門さんと妙高さん。でも、武蔵さんが両手を広げて二人を制止した。

 

「武蔵、なぜ止める?」

 

「長門、これは旗艦命令だ。ネ級は私と島風に任せてお前達はタンカーと離脱しろ」

 

勿論納得いかない長門さんだけど、旗艦命令なら仕方ないっぽい。タンカーを守りながら他の三人と一緒に撤退していって。武蔵さんと島風ちゃんはネ級と向かい合った。

 

「‥‥‥静かに眠らせてやるからな」

 

武蔵さんがネ級に主砲を向けて。島風ちゃんが連装砲ちゃん達と走り出した。

 

「‥‥‥熊野さんが、泣いてるよ。だから、島風達が安眠させてあげるから!」

 

◆◆◆◆◆◆

 

それから、次の日。武蔵さんと島風ちゃんから熊野さん宛に送られて来た物があった。それは‥‥‥鈴谷さんが何時も‥‥‥沈んだ日も身に着けてた筈のヘアピン。『たまたま』海面に浮いてたのを見つけたっぽい‥‥‥‥‥‥。

 

 




月の輝く夜に。勉強不足ですよ、夕立ちゃん。




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