抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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切っ掛け

 

はぁ。

提督からの呼び出し。私‥‥‥もしかして演習夜戦は外されちゃうのかな?それはそうだよね。呆気なく中破してみんなの足を引っ張って。何にもできずに大破して戦線離脱。昼戦の負けは間違いなく私のせいだもん。

私なんかより将来性のある子に経験させた方が良いに決まってるよね。私はきっと遠征任務だけこなしてればいいんだよ。

 

艦娘になったら少しは変われると思ってたのにな。やっぱり私は私。本質が変わる訳無いんだよね。優柔不断でドシでのろまで。はぁ‥‥‥足が重いな‥‥‥。

トボトボと、ゆっくり歩いて執務室へと向かった。

それにしても、この鎮守府の内装って無駄に豪華だよね。提督の趣味なのかな?あ、でも提督ってまだ少佐だしそんな影響力無‥‥‥ううん、世界の軍関係者でその名を知らない者は居ない『夕立』だもんね。影響力なら誰よりもあるか。

 

あ、着いちゃった‥‥‥。

憂鬱だけど、行かなきゃ。ノックをして。

 

「失礼します、風雲です」

 

「どうぞ」って聞こえて、私はゆっくりと扉を開いた。中に居たのは提督だけ。神通さんは演習が無い子達の夜間訓練で居ないのか。不知火先輩は手伝いしないのかな?そういえば昨日から提督と一緒に居る所を見てない。偶々かな?

 

「待ってたわ。風雲ちゃん、この後の夜戦演習の事なんだけど」

 

ほら、やっぱり。

 

「夜戦の旗艦、阿賀野さんに代わって引き受けてもらえる?」

 

ほらね。私なんて夜戦はメンバーから外されて別の子と交代‥‥‥‥‥‥え?提督は今何て言った?

 

「え?あの‥‥‥」

 

「もう一度言います。風雲ちゃん、貴女を夜戦演習の旗艦に任命します」

 

視線を合わせず顔を下に向けて。「無理です‥‥‥」って小声で返事するのがやっとだった。だってそうでしょ?私が旗艦、なんてどう考えたっておかしいもん。例え演習でもみんなを危険に晒しちゃうし、私の指示なんかで勝てる訳無いし。新人に旗艦を経験させるにしたって私なんかより適任な子は幾らでもいるし。そうだ、陽炎の方が私よりよっぽど向いてるよ。勇気も決断力も有りそうだし。

 

「どうして無理だと思うの?」って、提督は椅子に座ったまま私の顔を覗き込むように見てくる。

 

提督には分からないんだよ。配属されていきなり単艦で戦艦棲姫を沈めて、溢れんばかりの才能に恵まれて、順風満帆だった提督には。私の気持ちなんて。

 

「私には旗艦なんて‥‥‥それなら陽炎の方が‥‥‥」

 

提督は椅子から立ち上がって、私の方に歩いてくる。優しく微笑んで「風雲ちゃんなら出来るから」って。

 

「そんなに難しく考えなくても大丈夫。風雲ちゃんにやって欲しい事は二つ。相手艦娘が何処に居るのかを僚艦に伝えて攻撃の方向を指示する事と、相手からの攻撃が何処から来るのかを知らせる事。勿論、風雲ちゃんが攻めに行っても構わないわ」

 

‥‥‥え?その二つ?でも昼戦ならまだしも夜戦じゃ私だって相手は見えにくいし、私が見える範囲なんてみんなだって見えてるだろうし。それに、その二つの指示だけで勝てるような相手じゃない。提督は一体何がしたいんだろう。

 

「でっ、でも!私には‥‥‥」

 

口籠った私の様子を見て、提督はデスクの引き出しを開けて何かを取り出した。何あれ?細い‥‥‥リボン?

 

「今から言う事は口外しないでね?このリボンはね、実は高性能電探なの」

 

へっ?この一見ただのリボンに見える物が電探?あ、でも妖精さん達の技術なら出来そうだよね。金剛型のカチューシャだって電探なんだし。

 

提督が言うには、そのリボン‥‥‥じゃなくてリボン型電探は『化け物駆逐艦夕立』の戦闘を支えた重要な装備なんだって。これを身に付けておけば、目視でも嘗ての『夕立』のように敵の動きが捉えられるようになる、って。そんな重要な物、どうして私に?

 

「適正があるから、かな。大丈夫。風雲ちゃんなら使いこなせるわ」

 

適正、か。あの『夕立』の戦闘を支えた電探‥‥‥これが有れば、私でもみんなの役に立てるかも知れない。『化け物駆逐艦』の力の一端が有るのなら、変われるかも知れない。変わりたい。変わりたいんだ。

 

「分かりました。旗艦、やります」

 

駄目な自分から変わりたい。例えそれが他力本願だったとしても。文字通りこのリボンに縋る思いで、私は旗艦を引き受けた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

何でしょうか?不知火に落ち度でも?

ええ、2日目で多少イライラしているのは事実ですが、それが何か?

別に拗ねているわけではありません。ポイポイがあまりにもいつも通り過ぎて不知火の事を気にかけていなさそうだからと言って拗ねているわけでは。

 

夜は演習の監督をするのは私ではありませんし。少しだけ早めですが夕食をとってしまいましょうか。正直な所、部屋に戻っても陽炎とどう接してよいのか悩みます。努めて普通に振る舞っているつもりではありますが、心の奥では彼女を受け入れられない自分が居る。ふとした弾みで彼女を傷つけるような言葉を吐いてしまいそうな自分が。先の戦争で沈んだ前任の陽炎と比較してしまう自分が。

ですから、陽炎とはなるべく事務的な会話に留めるしかない。

申し訳ありません、陽炎。いつか貴女を受け入れられるその日までは。

 

さて、もうじき食堂に着きますね。やはりまだ時間が早いせいで人の姿もまばらです。

 

おや?通路の向こう側から話し声が聞こえてきました。阿賀野さんと風雲でしょうか。

 

「風雲ちゃん、髪留め変えたんだね!似合ってるよ」

 

「あっ‥‥‥ありがとうございます」

 

ハァ。これから夜戦演習だというのに呑気なものですね。確か旗艦が風雲に代わる、と聞いていますし、作戦や連携の打ち合わせでもしているのかと思っていたのですが‥‥‥世間話ですか。吹雪達はそんな話をしていて勝てるような相手では無いのは分かっている筈でしょう、全く。仕方ありません。多少なりともアドバイスをしておきましょう。苦労せずとも勝てると思っているであろう吹雪達にも『慢心は大敵である』事を味わって欲しい所ですからね。

 

‥‥‥ッ!?風雲!?なぜ、なぜ貴女がそれを持っているのですか!そのポニーテールを結わえているリボン!それはポイポイが大切にしていた物ではありませんか!!

いえ、まだそうとは決まったわけではありません。デザインが同じ別物の可能性だってありますし‥‥‥きっとそうに違いない。それにしても意図せずにポイポイと同じものを選ぶとは、風雲もなかなかセンスがありますね。

 

‥‥‥とは言え、一応確認はしなくては。落ち着きましょう。大丈夫、大丈夫です。不知火に落ち度など有る筈が無い。きっとあれはポイポイから貰った物の筈がありません。

 

「風雲」

 

「はいっ‥‥‥あっ、えっ?不知火先輩?」

 

驚いているようですね。狼狽していると言いますか‥‥‥何だか嫌な予感がしますね。これは一刻も早く確認をしなくてはなりません。

 

「そのリボンはどうしたのですか?まさか、まさか、ポイポ‥‥‥司令に貰ったのですか!」

 

何故そんなに怯えているのですか?まさかやはりポイポイにプレゼントして貰ったのですか。だからそんなに怯えて‥‥‥。

「顔が怖い」と阿賀野さんに指摘されるまで、不知火は自身の態度が風雲を怯えさせている事に気が付きませんでした。

そして余程不知火の事が怖かったらしく小さく頷いてポイポイに貰った事を肯定した風雲の姿を見て、不知火の頭は真っ白になりました。お菓子類のお裾分けなら兎も角、不知火ですらポイポイの私物をプレゼントして貰った事など無いというのに。それが、風雲はポイポイが御母様に貰って大切にしていたリボンを‥‥‥ポイポイはもしや不知火ではなく風雲の事を‥‥‥嗚呼、いけませんね、頭がクラクラしてきました。お腹も余計に痛くなってきた気が‥‥‥おや?目の前が真っ暗に‥‥‥。

 

微かにですが「不知火さんっ!?」という阿賀野さんの声が聞こえて、不知火は恥ずかしながら気を失いました。

 




変わりたいと願う風雲と、変われるかも知れない切っ掛け。次回夜戦演習です。
ヌイヌイはショックで倒れました。2日目だったのも災いしました。



艦これ只今アップデート中ですね。提督の方々、満潮改二の準備は万全でしょうか?作者の満潮はlv75。朝潮が70で改二、大潮が65で改二(要設計図)、荒潮が67で改二(要設計図)、霞ちゃんが(何故かちゃん付け)75で改二。つまり75有れば足りる!ヨユーヨユー(慢心)‥‥‥あれ?前にもこんな事書いたような‥‥‥。


追伸
満潮レベル足りませんでした(改二レベル77でした)。

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