抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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『夜目』

 

こんな事言うのは失礼だっていうのは承知してるけど、旗艦風雲で本当に大丈夫なのかしら?昼戦の様子を見てる限りじゃ、とても務まるようには見えないんだけど。

司令も司令よね。『回避を繰返しつつ反撃』って、それ作戦って言えるの? 相手は私達と比べて練度が段違いに高いのに。まぁ、確かに避け続けて隙を見て攻撃するしか可能性はないんだけどね。どうにか相手旗艦の吹雪を大破させて戦術的勝利に持ち込むしかないわね。

 

陽炎よ。

それにしても本当に司令は何を考えてるのかしら。確かに夜戦なら私達駆逐艦の得意とする所だけど、それは相手も同じだし。結局の所、コッチは一番火力のある阿賀野さんの一撃に賭けるしか無いでしょ。なのにその阿賀野さんに探照灯持たせるなんてどうかしてるわ。阿賀野さんが狙われてやられたら流石に勝ち目なんてゼロ。

 

夜戦の監督は利根さん。お互い並んで挨拶を交わした後、其々の艦隊は一度大きく離れる。探照灯は其々の艦隊に一基ずつ。コッチは阿賀野さん、向こうは旗艦の吹雪が装備。コッチはハンデとして照明弾を一度だけ使用可、か。使い所が重要よね‥‥‥っと、風雲から通信か。

 

『至らない所も多いと思いますけれど、宜しくお願いします』

 

はいはい、大丈夫よ。旗艦の指示には従うし負けても風雲のせいにしたりはしないわ。やるからには諦めないけど、そもそも勝てるなんて思ってないしね。あ、また風雲から指示ね。

 

『陣形は単縦陣で‥‥‥えっと‥‥‥取りあえずこのまま微速を維持、周囲を警戒して下さい』

 

‥‥‥やっぱり不安になってきたわ。取りあえず前方を警戒しておこうかしらね。相手だってまだ仕掛けては来ないでしょ。

 

『全員緊急回避して下さい!えっと、えっと、0‥‥‥3‥‥‥5から魚雷が来ます!』

 

は?何言ってるのよ?雷跡なんて全然見えないじゃない‥‥‥って言うよりも、今夜のこの暗闇じゃそもそも目視で確認なんて出来る筈無いのに。何かと見間違えたんじゃないの?まぁ仕方無いわね。旗艦の指示だし回避行動はとっておこう。

 

回避行動完了っと。ほら、阿賀野さんが確認の為に探照灯で指摘のあった方角の海面を照らし始めて‥‥‥‥‥‥え?待ってよ。本当に雷跡が走ってるじゃない。あのまま前進してたら少なくとも私と阿賀野さんは魚雷の餌食だった。偶然見付けたのかしら?運が良かったわね。

 

あ、一瞬だけど射線の先で今何か光ったわね。きっと吹雪の探照灯ね。まさかあんな近くに居たなんて。ホント開始直後にやられなくて良かったわ。

‥‥‥って!阿賀野さんが探照灯付けたままじゃないっ!不味いわ、このままじゃ狙われる!

 

『0―5―5、魚雷お願いします!』

 

あ、風雲が誰かに指示してる。吹雪が移動でもしたのかしら?うーん、でも阿賀野さんは別の方向照らしてるし、誰かがその方向に居たとしても見えないと思うんだけど。試しに目を凝らして見てみよう‥‥‥うん、駄目ね。暗くて何にも見えないわ。

 

‥‥‥え?その方角の先が明るくなって、同時に爆発音?嘘でしょ?ホントに誰か居たの?

 

『舞鶴、白雪被弾。中破じゃ』って利根さんから通信が来た‥‥‥えっ?冗談よね?私達が先制したの?この暗闇で?これ、もしかしたらいけるんじゃない?

 

『陽炎、回避して!』

 

風雲、何よ突然!?回避しろったってそんな急に動ける訳無いでしょ。

 

『駄目っ!左肩!』

 

え?左肩?風雲ってばなんでそんなピンポイントに?って思った瞬間。私の左肩に走る強烈な痛み、それと鼓膜が破けるんじゃないかと思うような爆発音。っ痛たたた。私も中破か。演習弾でも痛いっての。これもう少し軽減出来ないのかしらね?

‥‥‥‥‥‥ちょっと待って。ホントに待って。さっきからさ、何だか的確過ぎない?風雲って、もしかして全部『見えてる』の?嘘でしょ?幾ら夜目が利く人が居てもさ、普通飛んでくる弾丸の軌道まで見える?それに風雲からは私の姿が見えてるって事?私からは風雲の姿は何となくの位置くらいしか分からないんだけど。

 

あ‥‥‥、雷跡が私目掛けて向かって来るのが見えるわ。アッチャー、これは駄目ね。回避間に合わないわ。良いところ無しに戦線離脱かぁ。

 

『ごめんなさい‥‥‥ごめんなさい』って震えてる風雲の声が聞こえるわ。うん、まあ仕方無いでしょ。別に風雲のせいじゃなくて私の力が足りないだけだし。

 

魚雷はそのまま私に命中、轟沈判定。

はぁ、またみっともない所見せちゃったわね。やっぱりもっと精進しなきゃね。

 

うん?演習?私が離脱した後もなかなか善戦はしたみたいよ?風雲の指示のお陰で演習の途中までは相手の居場所や攻撃の方向なんかも分かったみたいだし。ただ、ね。ほら、舞鶴の艦隊も不意は突かれたけど冷静になればね。向こうは長年の経験もあるし、コッチと違って的確に、連携して攻撃してくる。対してコッチは風雲の方向指示だけが頼り。どっちが有利かなんて考えなくてもわかるでしょ。それにさ‥‥‥本人の名誉の為にもあんまり言いたく無いんだけど、風雲、途中から泣き始めちゃってね。本当は不安と緊張で押し潰されそうだったみたい。自分の力が足りないせいで私や他の僚艦がやられてくって思っちゃったみたいでね。通信から啜り泣く声が聞こえてたわ。

 

結果だけ言えば舞鶴艦隊がS勝利。ま、順当でしょ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

はぁ‥‥‥憂鬱だな‥‥‥。提督に報告しに行きたくないな。折角こんな凄い電探貸してもらったのにボロ負けしちゃった。

 

風雲です。

流石は提督が使ってたっていうリボン‥‥‥じゃなくて電探。夜戦は初めてだったけど、夜なのにあんなに見えるとは思わなかった。確かに陸の上でなら遠くまで見えない事もないけど、普通は夜戦で相手の位置や雷跡まで見えないらしいし。

 

でも。なんとか勇気を出して頑張ったけど駄目だった。唇処か口の中まで乾いて、手も足もガクガク震えて。緊張で吐きそうなくらいだった。阿賀野さんが『私が付いてるよ、だから頑張ろう?』って言ってくれて。提督のこのリボンもあるんだ、やらなきゃ、ってどうにか自分を鼓舞してみたけど。

最初の雷撃こそ防げたけど、モタモタして私の指示が遅かったせいで陽炎がやられて。一人、また一人、ってやられていくうちに私も何も考えられなくなっちゃって。どうしよう、どうしようって思ってるうちに私も大破。最後に阿賀野さんが轟沈判定を受けて負けちゃった。提督の期待も裏切っちゃった。

やっぱり、このリボンは返そう。きっと私よりもうまく扱える人が居るよ。その人に使ってもらったほうがいいに決まってる。私は‥‥‥輸送任務の足だけは引っ張らないように頑張ろう。

 

あ、着いちゃった。凄く嫌だけど、執務室の中に入るしか無いよね。ノックして、失礼します‥‥‥。

 

「風雲ちゃん、お疲れ様」

 

提督は私に微笑んでくれる。優しいよね。私なんて駄目駄目だったのに。

 

「‥‥‥ごめんなさい、提督。折角良くしてくれたのに」

 

謝って。それからリボンを返そうとしたんだけど、提督は受け取ってくれなかった。「それはもう風雲ちゃんのものだから。風雲ちゃんに似合ってるわ」って。

 

「それにね、最初からうまく出来る子なんていないわ。風雲ちゃんだって他のみんな以上に活躍出来るようになる。だから、せめてそれまではそのリボンは風雲ちゃんが使ってあげて」

 

どうして提督は私なんて気にかけてくれるのかな?別の子を育てたほうが呉の為にも、提督の出世の為にもいいに決まってるのに。

 

提督の好意を断り切れなくて。リボンは結局私が持ったまま。演習の報告書を渡して執務室を出た。

 

 

 

 

「よう。相変わらず辛気くせぇ顔してるな」

 

声を掛けてきたのは、天龍さんだった。

 

 

 




電探のお陰?で風雲には相手の動きが見えていたようですね。いやー、ポイポイの電探は凄いなぁ(すっとぼけ)

今回も風雲と陽炎がお送りしました。次回あたりはポイポイに復帰してもらいましょうかね。




来月の艦これ秋イベントはやはりというか遂にレイテ。新艦娘は涼月以外は誰がくるのやら。


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