抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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泊地にて

はぁ~。どうしたものかしら、この二人。

 

「無理だよ‥‥‥いくら何でもあんな大群相手に助けに行くなんて」

 

「これだから新人は困るっぴょん。やれやれだっぴょん」

 

ウチの新人軽巡、名取ちゃんがすっかり萎縮しちゃって。それはそうよね、深海棲艦のあれだけの大群見ちゃったらね。新人なら怖いに決まってるわよね。けどそれを卯月ちゃんがあーゆー態度でやり込めたりするから‥‥‥。

 

「だって、卯月ちゃんだって見たでしょ?あの深海棲艦の群れ‥‥‥あんなの突破できる訳ないよ‥‥‥」

 

すっかり意気消沈しちゃって涙目の名取ちゃんの態度に、流石の卯月ちゃんもちょっとイラついてるみたい。

 

「軽巡のクセにだらしない‥‥‥うーちゃんはもっと絶望的な状況を知ってるぴょん!」

 

あ、きっと卯月ちゃんが言ってるのはあの時の事ね。そうそう、第一次対深海棲艦戦争の時の事。僚艦をみんな沈められて長月ちゃんと卯月ちゃんたった二人になって深海棲艦の大艦隊に囲まれた時の事ね。『偶々』哨戒に出てた金剛さんや赤城さん達が卯月ちゃん達を見付けて命懸けで助けてくれたんだっけ。あの時深海側の艦隊を指揮してたのって確か、空母水鬼だったわよね?

 

‥‥‥あれ?そういえば戦艦や空母が哨戒に出るって変だよね?って事は、山本中将ってあの時にはもう旧大本営に関する大体の事実を掴んでたって事?うーん、ま、それは今は置いておこう。

 

「もーいいっぴょん。うーちゃん一人でも助けに行くから」

 

って、ストップストップ!駄目駄目、卯月ちゃんを止めないと!

 

「待って卯月ちゃん、明日中に呉の沖立提督が来てくれる事になってるから!だから少し辛抱して」

 

鋭い視線で睨むように私を見た卯月ちゃんは「‥‥‥それを先に言って欲しいっぴょん。そういう事なら少しだけ待つぴょん」って言って部屋から出ていった。ふぅ、一先ず安心っと。

 

「あの‥‥‥」

 

卯月ちゃんが出ていったのを確認した後、今にも泣きそうな名取ちゃんが消え入りそうな声で訊ねてきた。

 

「呉から応援が来てくれるんですか?大和さんとか、熊野さんとか?」

 

「その二人は来ないかな」

 

私の返事を聞いて、顔が青ざめていく名取ちゃん。あー、これちゃんと説明しなきゃよね。沖立提督の事とか、鈴谷の事とか。

 

あ、そう言えば自己紹介まだだったっけ?

 

はーい、お待たせ。衣笠さんよ。

知っての通り、今はショートランド泊地を任されてる身。正直言って、今のショートランドを引っ張るのは衣笠さんには荷が重いんだけどね。そうも言ってられない。はぁ~、龍驤さんが『あっち側』に居るのは本当に厳しいなぁ。

 

沖立提督には少しだけ説明はしたんだけど1つだけ大きな問題があってね。実は、問題の孤島周辺って磁場が凄く不安定なのよ。それでその‥‥‥まあ簡単に言うと電探が役に立たないのよね。アハハ‥‥‥困っちゃうよね。あの深海棲艦の大群の中を進まなきゃいけないのに肝心の電探が使えないなんて。敵に発見されずに助けに行きたいけど、これじゃ完全に運任せ。一度でも見付かったらどうなるか分からない。

 

龍驤さんがこっち側に居てくれれば、まだ救いもあったんだけどね。ほら、偵察も出来るし、最悪航空機を囮にして逃げる事も出来るし。それに、沖立提督‥‥‥『駆逐艦夕立』が居てくれればきっと事態を打開してくれる‥‥‥。あのレ級と一対一でやりあえるくらいだものね。

 

あーもー、沖立提督早く来てくれないかなぁ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

‥‥‥『酒処 妙』。

 

 

いらっしゃいま‥‥‥またアンタ?ほんっと物好きよねぇ。まあ折角だからカウンター座りなさいよ。ホラ、そっちじゃ正月でしょ?濁り酒でも呑んでなさい。え?今は1月じゃないだろうって?けどそっちはそうでしょ?何よ、細かい事気にしてるとハゲるわよ?

 

何?一応名乗るの?見れば分かるじゃないの、面倒ねぇ。あーはいはい。

元足柄、妙よ。全く。

 

ショートランド泊地?そうね、面倒な事になってるらしいわね。『ケ号作戦』を思い出すわねぇ。あの時は阿武隈が‥‥‥って何で知ってるか?あぁ、それはあそこで酔い潰れてる馬鹿(比叡)のせいよ。アイツが酔ってベラベラ喋ってたのよ。海軍の機密も何もあったものじゃないわね。まっ、私が言えた立場でもないけど。

 

「あっ、いらっしゃいませ!」

 

ん?出迎えのレンの声のトーンが少し高いわね‥‥‥っと。また珍しい奴が来たみたいね。さては開発に行き詰まりでもしたかしら?こっちに来るわね。

 

「妙さん、お久しぶりです!」

 

「何よ、明石。また悩み事かしら?」

 

無遠慮にカウンターに座って、「取りあえずお酒ください、お酒!」って明石、アンタ‥‥‥。こんな姿見たら明石のファンも幻滅するんじゃないかしらね?

 

「うわっ、日本酒‥‥‥濁り酒ですか?三重県の?特別純米?たまには良いですね!私にも同じのください!」

 

ったく。言っておくけど、その酒手に入れるの大変だったんだからね?やれやれね。

 

「で、明石?今度は何を開発してるのよ?」

 

「あっ、やっぱり分かっちゃいました?実は島風ちゃんの連装砲ちゃんなんですけど」

 

島風の、か。そういえば今は川内に特訓受けてるのよね。まだまだだって聞いてたけど。

 

「ほら、連装砲ちゃんって今はC型改二がベースになってますよね?それで、もう少しパワーアップ出来ないかなって妖精さん達とあれこれ試してはいるんですけど」

 

上手くいってない、って訳か。嘗ての先代のあの子に追い付くのは大変だろうけど、それを技術的な部分でカバーしようって訳ね。頼りすぎるのは良くないけど、まぁ悪くはないアプローチね。

 

「で、行き詰まって自棄酒ってわけ?まぁいいけどね。リフレッシュも大事よね。それなら遠慮なく売上に貢献していきなさい」

 

「はい、そうしますね!じゃあ隣の貴方、ご馳走になります!」

 

プックククッ、明石に集られるとはアンタもタイミングが悪かったわね。まっ、奢ってみせるのも甲斐性よ?明石みたいな美人と呑めるんだから安いもの、って考えておきなさいよ。

 

‥‥‥それにしても。今回は上手くやりなさいよ、沖立‥‥‥。

 

 

 




新年明けましておめでとうございます。
リアルがやっとゆっくりできるようになってきました。今回は短めで申し訳ありません。

ショートランド泊地の衣笠さん達と、元足柄さん達の様子でした。次回はポイポイ達に話が戻ります。

‥‥‥龍田さんと村雨さん、改二ほぼ当確おめでとうございます。

※※以下ネタです※※

◆◆◆神風さんの受難◆◆◆

番外編

漣「ん?御主人様、どうしました?」

漣「あー、漣はその子の事はちょっと‥‥‥他の人に聞いてみたらどうです?」

―――

利根「フム、そうじゃの。アレで中々根性のある奴だと思うぞ?あの戦時下で一矢報いておるしな」

榛名「そうですね、とても良い子だと思います」

―――

青葉「何でしょうか司令官、いつもの⬛️リコン病ですか?え?違う?」

神風「あの子の事?そうね‥‥‥若いのに頑張ったと思うわ」

―――

鹿島「提督さん!鹿島ただいま戻りました!‥‥‥え?あの子ですか?そうですね‥‥‥自慢の教え子です!」

―――

大和「どうされました?はい?‥‥‥そうですか。あの子‥‥‥」

大和「私の随伴として坊ノ岬に同行する予定だったのが修理で行けなくなって。申し訳無さそうに謝ってくれて」

大和「けれど、お陰であの子は沈まずに済んで。結果、乗組員の皆さんの命が未来に繋がれた訳ですから良かったのだと思います」

大和「えっ‥‥‥?そうでしたか。提督の御祖父様があの子に乗っていたのですか」

大和「‥‥‥それなら尚の事良かった。あの子のお陰で今の提督がある訳ですから」

大和「早くこの鎮守府に着任して欲しいですね。大丈夫ですよ、きっとその時が来ると思います」



松型駆逐艦二番艦・竹の実装はまだですか?






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