抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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聞くは一時の

 

横須賀鎮守府内の居酒屋『鳳翔』。そう、軽空母の鳳翔が特別に許可を得て出している店よ。その最奥にある、他の席から完全に隔離された個室に陣取った私達四人。武蔵、島風、私こと足柄、それから私専属の妖精さん。この個室は私達の専用席って所かしら?

 

‥‥‥何よ、私の語りじゃ不満?島風だったら良かったかしらぁ?‥‥‥ブラウザバックなんてしたら只じゃ済まないわよ?

 

さて、先ずはそこの貴方には誓ってもらうわよ?いい?今から私が話す事は口外しないこと。一般人は勿論、他の全艦娘、提督連中にもね。じゃないと貴方の命、保証できないわよ?

そう、いい心掛けね。じゃあそろそろ話そうかしら。

 

ちょっとした問題が起きたのよ。そうねぇ‥‥‥鈴谷を沈めたあの潜水棲姫。アイツの討伐は終わったわ。墜としたのは日本じゃない、アメリカの艦娘達よ。あ、でも本題の前に注文かしらね。フフッ、この部屋だけ無線方式なのよ。あ、島風、注文するからマイクこっちにちょうだい。

 

「鳳翔さ~ん、私は何時ものヤツね~!」

 

ん?酒ならみんなもう呑んでるけど?武蔵はビール、島風はカクテル。私は日本酒で妖精さんは芋焼酎。妖精さんに焼酎教えたのは私。何よ、問題ある?

 

え、注文?私が『何時もの』って言ったらトンカツなの。察しなさいよ。栄養あるし酒に合うでしょうが!鳳翔が揚げたカツがこれまた旨いのよ。フフン、羨ましいでしょ?

日本酒は純米吟醸の無濾過生原酒。大阪の酒なんだけどね、キレがあって好きなのよ。‥‥‥私の好みに興味は無いの?ふぅん、いい度胸じゃないの。

 

で、そうそう。問題だったわね。どこまで話したかしら。潜水棲姫ね。ほら、武蔵がビール片手に話してるじゃない。

 

「伊19改‥‥‥アレにアイオワが殺られた。早急に対策が必要だ」

 

「あ、島風も聞いたよ。確か随伴艦の魚雷にやられたって」

 

そう。武蔵と島風が言ったとおり。アメリカでの私の最初の教え子、戦艦アイオワ。潜水棲姫率いる艦隊との交戦で僚艦を庇ったらしいわ。あの子は最後まで無茶ばっかりして‥‥‥。もしも潜水棲姫が撃沈出来なかったら最悪だったわ。

っと、そうよね、『そこじゃない』のよね。問題は武蔵が『潜水棲姫』の事を『伊19改』って表した事なのよ。

 

「でもさ、イクが沈んだ時も提督には島風から言ったんだよ?『対潜装備を増やした方がいい』って」

 

そうなのよね。確かに島風は提督に進言した。けどその時は潜水艦の姫級なんて居なかったし、説得力には欠けたわね。鈴谷が沈んだ後で提督が『島風の話にさえ耳を傾けてたら』って男泣きしてたわ。

 

それからあの後‥‥‥石油タンカーの時の鈴谷の事は武蔵と島風が居たし何とか抑えられたけど、アイオワが相手となると‥‥‥不味いわね。

 

「そうかも知れないが‥‥‥兎も角だ。各鎮守府の主力の装備の充実、新戦力の練度の向上を急がせなくては」

 

そうねぇ。武蔵の言う通りだわ。高速戦艦の榛名の着任も急がせたい所なんだけど。

 

「足柄、金剛型三番艦はどうなってる?」

 

声だけは真剣な武蔵だけど、ビールのジョッキ片手に顔が真っ赤なのよねぇ。目も据わってるし。

 

「三番艦のあの子ねぇ‥‥‥艦娘になるの、次女と末っ子が猛反対してるらしいわ。まだ先になりそうよ?」

 

言いながら、私は日本酒を一口。もう理解したわよね?深海棲艦の姫級や鬼級がどうやって生まれるのか。アイオワが轟沈したって事は‥‥‥脅威で言えばレ級とは比較に為らないわね。全く最悪よ。

 

あ、声なら問題ないわよ?ここ防音だし。ホラ、カラオケボックスみたいなアレよ。

 

『すみません、私達のせいで‥‥‥』

 

あら?酒で出来上がってるのもあるけど、妖精さんが泣きそうな顔になってるわね。後でフォローしとかないと。やれやれね。

‥‥‥そうよ。この妖精さん、初代の漣の艤装に乗ってた子よ。どうして知ってるのよ?

まあいいわ。これからちょっと本格的に話し合うから‥‥‥‥‥‥貴方はクロロホルムでも嗅いで眠ってなさい。『起きた時は全部夢でした』ってね。

 

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――――

 

――

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

呉鎮守府のアタシ達は大忙し。提督さん、クリスマスパーティーあっさり許可してくれたっぽい。見た目固そうなのに、やっぱりスッゴくいい人。

 

アタシ達は二手に分かれた。子供組担当と大人組担当。

子供組担当は駆逐艦の子達に『サンタさんに渡すから』っていって手紙を書いてもらって回収する役。みんなが欲しいもの、用意出来るものならいいなぁ。

これはヌイヌイちゃんとアタシの役。大人組担当は熊野さんと羽黒ちゃんが二人で回ってる。みんなで少しずつお金を出し合ってプレゼントとかの費用にするっぽい。「もし足りないような事があっても、わたくしが何とかしますわ」って熊野さんが言ってくれた。うーん、熊野さん、なんだか見たことない金額ポケットマネーで出しそうな気がしてきたっぽい。この前も「実家からカステラを送って貰いましたので」って御馳走してもらったんだけど‥‥‥すっごく高級そうな桐の箱に入ってて、舌触りとか全然違う。アタシの知ってるカステラじゃなかったっぽい。別の高級菓子だった。何だっけ‥‥‥献上品?って言ってた。

熊野さん、本当にどうして艦娘になったのかな??

 

あ、川内さんなら、伊良湖さん達と打ち合わせ。ホラ、クリスマスケーキとか、パーティーの食事とか。アタシは川内さんの事何も分かってなかったっぽい。川内さん、女子力すっごい高い。家事なんでもできる。お料理も作れる‥‥‥失礼だけど夜戦バカだって思ってたのに。アタシは‥‥‥妹が居ないと何も出来ないっぽいぃぃ。

 

それで、今は駆逐艦の子達のお手紙を持って部屋に戻る途中。言わなきゃ‥‥‥言わなきゃ。

 

「えと‥‥‥中身確認したら分担してプレゼント買いに行くっぽい」

 

「え?この手紙はサンタさんに渡すのではないのですか?」

 

あ、やっぱり信じてるパターンっぽい。何か言わないと!‥‥‥眩しい。ヌイヌイちゃんの純粋な瞳が眩しい。本当の事なんて言えないっぽい‥‥‥。

 

「‥‥‥サンタさんは忙しいし、深海棲艦のせいで海を渡るのは危険だから、アタシ達が仕事の負担を減らしてあげるっぽい」

 

「成る程。不知火の所にサンタさんが来ないのはそういう事だったのですね。そうですよね、艦娘の護衛無しに海を渡るのは危険ですからね」

 

うわーん、やっちゃったっぽいぃぃ!本当の事をさりげなく伝える筈だったのに!ヌイヌイの無垢な顔見てたら言えなかったぁ。

 

「ですが、不知火の欲しいものなら大丈夫です。もう貰いましたので」

 

そう言うヌイヌイちゃんの表情は穏やかだった。口元が緩んでで、笑ってるのが分かる。

あれ?嬉しそう?サンタさんは来ないのに?何で?

 

「サンタさん‥‥‥来なくてもヌイヌイちゃんは平気っぽい?」

 

「勿論ですよ」

 

アタシとヌイヌイちゃん。二人とも手紙の入った箱を抱えて、少しの間その場に立ってた。

 

そのあと部屋に戻ったら、お葬式から漣ちゃんが帰ってきてた。それでクリスマスに向けて決まってた事を話して、3人で手紙の中身を整理してた。

 

「そう言えば‥‥‥漣は欲しいものとか無いのですか?」

 

ヌイヌイちゃんのふとした質問。漣ちゃん、「えっ?うーん‥‥‥物っていうか‥‥‥海外旅行?ほら、海じゃなくて陸とか」って答えてそれをプレゼント候補を纏めた紙の、響ちゃんの名前の隣に書き足してた。

 

雪風‥‥‥

響 ‥‥‥新しい帽子

漣 ‥‥‥海外旅行

 

 

って感じで。漣ちゃん、『もしかしたら大佐が連れてってくれるかも』なんて甘い考えだったっぽい。

まさかそれが‥‥‥ううん、今はまだ言えないっぽい‥‥‥。

 

◆◆◆

 

その頃の、空母寮。熊野さん達の話を聞いた翔鶴さんと瑞鶴さん。テーブルでお茶を飲みながら話してたっぽい。

 

「プレゼントかぁ‥‥‥私も欲しいなぁ」

 

「あら、瑞鶴。プレゼントなら加賀さんから貰ったじゃない」

 

何言ってるの?って瞳で瑞鶴さんを見てる翔鶴さん。瑞鶴さんはと言えば「はぁ?加賀から?アイツのお下がりの戦闘機の事?どうせ要らなくなったから私に押し付けたんでしょ?」って。震電改の事よく知らなかったっぽい。空母なのにそれで良いのかなぁ?

 

「何言ってるのよ?瑞鶴‥‥‥震電改よ、アレ」

 

「‥‥‥‥‥‥へっ?翔鶴姉、今何て?」

 

やっと気付いた瑞鶴さん。ハッとして立ち上がって工廠へ走ってった。その後ろ姿を、翔鶴さんはニコニコしながら見てたっぽい。

 

 

 

 

 

そんな束の間の平和な時間は、突然破られる事になる。年明け‥‥‥アタシの16歳の年から‥‥‥ヤツとの‥‥‥中枢棲姫との長い戦いが始まるっぽい。多大な犠牲を伴って。

 




この話のラスボス、随伴艦が全部姫級とかいう頭おかしい編成のアレです。


シレッと響が出てきてますね。

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