まだ両手が震えてる。敵の旗艦を引き付ける為に残った不知火先輩と陽炎の安否はまだ分からないし。もしも二人の身に何かあったら‥‥‥ううん、あの大艦隊を率いてるような深海棲艦だもん。きっと只では済まないよね。
でも私が代わりに、って言い出す事は出来なかった。応急修理女神妖精さんが私と一緒に来てくれる事も、断る事は出来なかった。『不知火先輩か陽炎に付いてあげて』って言えなかった。
だって‥‥‥沈むのは怖い。まだ死にたくない。
風雲です。
きっと、提督は私に自信を付けさせたかったんだと思う。敢えて重要な役目を任せてそれを成功させれば、心の持ちようもきっと変わるだろう、って。私も、もしかしたら変わるかも知れないって思ってた。
本当に私の実力で任務を達成できたのならそうなったかも、と思う。けど、これは私の力じゃない。結局、『駆逐艦夕立』の力を借りてるに過ぎない。そう、偽りの力。
『風雲!風雲ってば!聞いてんの?おーい』
「あっ‥‥‥ごめんね妖精さん。ちょっと考え事してて」
駄目駄目。今は作戦中なんだ。余計な事は考えないで、私は周辺警戒に集中しないと。私のじゃない、借り物の力で。
あれっ?阿賀野さんから通信‥‥‥?
『0―2―0に敵艦隊!向こうに見つかったみたい!反航戦でやり過ごすよ!みんな、私の指示があるまで第三戦速を維持して!各艦、輪形陣はそのままで砲雷撃戦用意!』
えっ、敵艦と戦闘‥‥‥?私が、私がちゃんと警戒に集中してれば‥‥‥。どうしよう、もしも何かあったら全部私のせいだ。
『風雲、聞こえたでしょ!なにボーっとしてんのさ!準備しなきゃ駄目じゃん!』
「えっ?‥‥‥あっ、うっ、うん!」
応急修理女神妖精さんに言われて、慌てて魚雷と砲を構える。狙いなんて絞ってる余裕は私には無くて。そんな私にはお構い無しに敵の艦隊は近付いてくる。敵旗艦の探照灯が、私達を照らしてくる‥‥‥。
海流があるとはいえ、こっちは四人も怪我人を抱えてるのに。怪我人で疲弊しきってる龍驤さん達を中心にした輪形陣のまま、私達も敵の艦隊に近付いていく。
『龍驤達への被弾は絶対阻止するんだよ?分かってるよね、風雲?』
分かってる。分かってるけど。こっちからは探照灯を持ってる敵旗艦以外の動きは見えにくい。それに敵からは私達の事が丸見え。多分龍驤さん達怪我人の事も。私なんかに出来るのかな?
「出来る‥‥‥のかな?」
『何言ってんの!やるしかないじゃん!』
『今よ!撃てっ!!』って阿賀野さんの合図と同時。私達はすれ違いざまに雷撃。当然向こうも撃ってくる訳で。
一度すれ違って離れた敵旗艦は、多分向きを変えて私達を追ってくる。阿賀野さんはどうするんだろう。迎え撃つの?それとも逃げ切るの?
‥‥‥あれ?阿賀野さん?指示はまだなのかな?早く次の指示をください、でないと私、どうしていいか分からない‥‥‥。
『各艦被害報告や!』
あれ?龍驤さん?阿賀野さんは?
『うーちゃんは小破だけど大丈夫っぴょん!』『弥生は無傷。大丈夫です』って二人が報告。白露さんや舞風さん、野分さんにも被害は無かったみたい。私も、今回は何とか被弾は無かった。
『こっちはアカンで‥‥‥阿賀野が大破や、意識も失っとる。敵さん、一番厄介だと踏んで阿賀野を集中砲火しよったわ‥‥‥』
そんな‥‥‥。それじゃまともに動けるのは睦月型の二人と足手纏いの私だけ?この状況で阿賀野さんが動けないなんて‥‥‥どうしよう‥‥‥どうしたら‥‥‥。
そっ、そうだ!応急修理女神妖精さんが阿賀野さんを治せば!そうしたらきっと何とかなるよ!
『キャアッ!』
『弥生!確りするぴょん!!』
‥‥‥え?弥生ちゃんが被弾?どうやら敵の雷撃があったみたい。不味いよ、早く、早く妖精さんを阿賀野さんの所へ連れて行かないと。
『風雲、伏せて!』
妖精さんの声が聞こえて、私は言われるままに慌ててその場に伏せた。私の髪を、間一髪の所で敵の砲弾が掠めていった。
「妖精さん、あっ‥‥‥ありがとう‥‥‥あれっ‥‥‥リボンが」
『確りしなよ、まだ終わってないんだよ!』
さっきの砲撃で、提督に貰ったリボン型電探が髪から外れて海面に落ちたみたい。何処に落ちて‥‥‥無い、無い、周りには見当たらない。
駄目だ、恐怖で身体が動かない。足が竦んでその場にへたり込んで。とてもじゃないけど阿賀野さんの居る所までなんて走っていけない。
『風雲!?何してんのさ!立って!敵の的になるだけじゃん!』
「だって妖精さん‥‥‥だって‥‥‥」
提督に貰った電探もなくしちゃった。もう駄目だ、私はきっとここで死ぬんだ。きっと私のせいで艦隊も全滅。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
私の右肩に乗ってた応急修理女神妖精さんが、『ああもうっ、この馬鹿っ!』って私を叱責。そのあと声が聞こえなくなった。妖精さんは自分の力で阿賀野さんの所に向かったのかな?それはそうだよね、どうせ足手纏いで使えない私なんて放っておいて他の子を助けたほうが今後の為になるもんね。
「ったく、そんな馬鹿な事考えてたの?それでも栄えある夕雲型駆逐艦?」
えっ?今の何?私喋ろうとなんてしてないのに、勝手に口が動いて喋ってる?
「ん?ああそっか。まっ、説明は後。今はこの状況の打開が先じゃん?」
また勝手に口が‥‥‥あれ?身体が動かせない。あ、やっぱり恐怖のせいで力を入れられないのかな?そうだよね、私なんかじゃ。
「‥‥‥風雲ってさ、こんなネガティブだったの?」
また。私の意思とは関係なく勝手に喋ってる。私、おかしくなっちゃったのか。
「あーもー面倒だなぁ。取りあえず風雲はおかしくなってないから。ちょっと身体を借りてるだけだよ」
‥‥‥まさか、まさか、応急修理女神妖精さんなの‥‥‥?
「おっ、理解が早くて助かるね。そういう事だから。おー、流石夕立が言うだけはあるね。視界良好。遠くまで良く見える」
えっ?だって妖精さん、提督から貰ったリボン型電探はさっき海に‥‥‥。
「はぁ?電探?そんな物最初から積んで無かったじゃん」
‥‥‥え?でも提督から貰ったリボン型の特別強力な電探‥‥‥。
「もしかしてそれって、さっきまで着けてたリボン?別に電探じゃなくて只のリボンだったけど?」
え?待ってよ妖精さん、それ、一体どういう事?
「いやいや、コッチが聞きたいよ。まぁ、それは一先ず置いておくか。先にアイツ等を片付けなきゃじゃん?」
私の口が‥‥‥じゃなくて妖精さんがそう言って敵艦隊を睨んで笑みをみせる。あれ‥‥‥提督の電探が無いのに何故か良く見える‥‥‥?
「だからぁ、その提督の電探って‥‥‥いいや。それじゃ風雲、行くよ!」
私の身体を借りた妖精さんは、私の身体とは思えないような軽快な動きで敵艦隊目掛けて走り出した。
鈴谷妖精、動く。
次回は風雲(という名の鈴谷妖精)のターン。
遂に運営から‥‥‥ぬいぬい改二の告知キタ━(゚∀゚)━!
※※以下ネタです※※
神風「もうっ。これから演習なんだからちゃんと準備してよね」
北上「うぇ~メンドクサ~」
大井|扉| ̄□ ̄;)!!
神風「全く、北上さんは‥‥‥もっとシャキッとしてよね。あっ、制服にシワがついてるじゃない。ほら、アイロンかけるから貸して」
北上「いいよ、面倒だし。それよりさ~、喉乾いたんだけど。何か飲みた~い」
神風「そう言うと思って用意しておいたわ。はい、お茶。北上さん、その銘柄好きだったでしょ?」
北上「おっ‥‥‥いいねぇ」
大井|扉|д゚)(どうして貴女が北上さんの好みを知ってるのよぉ!!)
神風「それ飲んだらちゃんとドッグへ向かってね?」
北上「へいへ~い」
大井|扉|д゚)(なっ‥‥‥なっ‥‥‥‥ななななっ!?二人のやり取りがまるで長年付き合ってるカップル!?)ガーン
神風「ああもう北上さんは‥‥‥髪もボサボサじゃない‥‥‥他の鎮守府の子と会うんだから身嗜みくらい確りしなきゃ。ほら、梳かしてあげるから少しジッとしてて」
北上「ありがとね、第一号」
神風「またそうやって呼ぶんだから‥‥‥神風だって言ってるでしょ?」
大井|扉|д゚)(一号!?北上さんが他の娘に渾名を!?しかも一号って!つまり私は二号って事ですか!?)ガーン
北上「はいはい、神風っち神風っち」
神風「もうっ。昔からいつもそうやって‥‥‥」
大井|扉|д゚)(昔!?昔から!?いつも!?)バターン(気絶)
※北上が二水戦旗艦の時に第一駆逐隊はその配下(当時の神風の艦名は第一号駆逐艦。初代の神風が引退した後に神風型一番艦神風を拝命)。‥‥‥北上×神風って何故か見かけない。二水戦=神通っていうのと大井×北上、北上×アブゥのイメージが強すぎるせいか。それに北上にも神風にもお互い言及してないのもですね。
北上「駆逐艦?(神風が何かと世話を焼いてくるのを思い浮かべつつ)ウザい(照れ隠し)」とか‥‥‥流行らないかなぁ(チラッチラッ)