抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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ナイトメア

 

時間は少しだけ進んで、お正月。でも深海棲艦は休んでくれない。だから別に元旦でも実家には帰れないっぽい。年に数日帰省できる日はあるっぽいけど、順番の交代制。分かってた、分かってたけど‥‥‥妹に会いたいっぽいぃぃ。

 

初詣は交代で厳島神社に行った。水面に浮かぶ鳥居が幻想的だった。海上での安全な運航の祈願と、打倒深海棲艦をお祈りしてきた。そういえば厳島神社も呉鎮守府の警護対象。アタシも数日だけ護衛の為に滞在したんだけど、その間はずっと神社のしきたりに従って過ごさなきゃいけなくて。あの時はちょっと疲れたっぽい。

 

それで、今日は非番のアタシ。それからヌイヌイちゃんと響ちゃんとで外出してきた。お正月だから閉まってるお店も多かったけど、久々に街を楽しめた。深海棲艦さえ居なかったらアタシとヌイヌイちゃんは高校生、響ちゃんは中学生になってる筈だもん。少しくらいはしゃいでもいいよね?

それで、今は3人で鎮守府の庭に居るんだけど。

 

「‥‥‥ですから、コッペパンですよ?」

 

ヌイヌイちゃんは頑なに譲らない。響ちゃんも響ちゃんで「いや、これはメロンパンだよ?」って譲らない。アタシが知ってるコッペパンってこう、紡錘形の、底が平べったいパンだったと思ったんだけど。ほら、給食とかに出てきそうな。だから、今アタシが食べてるのはメロンパンであって他の何かではないと思う‥‥‥っぽい。

 

「ポイポイ、それはコッペパンですよね?」

 

「夕立なら分かってくれるよね?それがメロンパンだって」

 

正直、アタシに振られても困るっぽい。偶々通り掛かった漣ちゃんが「呉ではメロンパンの事をコッペパンって言うのだっ!」って教えてくれた。へぇ‥‥‥漣ちゃんって物知りっぽい。そんなドヤ顔してる漣ちゃんに、響ちゃんが然も当たり前のように聞いた。

 

「そうだった。漣、今度の休みに一緒に買い物に行かないかい?出張に必要な物を揃えておきたいからね」

 

「え?なんで漣と?」

 

‥‥‥なんと響ちゃん、来月付でロシアに出張になるっぽい。何でも、北方棲姫の度重なる襲撃に手を焼いてるロシアが、日本に優秀な艦娘の派遣を依頼してきたんだって。提督さんが言うには、『昔は平和条約すら結んでなくて深海棲艦出現以前の世界では考えられない事』っぽい。ふうん、それじゃあ皮肉だけど深海棲艦のお陰で世界の国々が一つになってるって事かぁ。

 

「いや、響ちゃん。だから何で漣と‥‥‥」

 

あ、そうだよね。漣ちゃんが言ってる通り、どうして響ちゃんは漣ちゃんと二人で出掛けようとしてるのかな?

 

「瑞鶴さんから聞いていないのかい?漣も一緒にロシア出張なんだ」

 

漣ちゃん、「‥‥‥は?」って言って目が点になって固まってる。響ちゃんの話だと、とある優秀な提督が候補になってて、その秘書艦の重巡の古鷹さんと、先の大戦で軍艦ヴェールヌイがロシアに所属してた響ちゃん、それと漣ちゃんも入れて7人が行く事になったっぽい。

 

「聞いてねぇ‥‥‥あんの五航戦のヤロー‥‥‥」

 

あーあ、漣ちゃん、怒ってプルプル震えてる。で、響ちゃんのその後の言葉がトドメになった。

 

「迷ってた司令官に、瑞鶴さんが進言したらしいよ?『漣が海外に行きたがってるらしいから丁度いい』って。ほら、あれじゃないかな?クリスマスの時の『海外旅行』」

 

漣ちゃんが『あ゛?』って顔になった。「いや、その理屈はおかしい」って言った後に瞳からハイライトが消えたっぽい漣ちゃん。

この時は既に大本営の承認済み。もう決定は覆らなかった。あー‥‥‥何ていうか‥‥‥漣ちゃん、ファイトっぽい‥‥‥。

 

◆◆◆

 

そんな事があったお正月はのんびり過ごして、1月も下旬の頃。アタシはヌイヌイちゃんと水上機母艦の秋津洲さんとの3人で沖合の哨戒に出てた。何故かは分からないんだけど、最近になって深海棲艦の動きが活発になってるっぽい。だから、こうやって交代制で沖を見張ってる。秋津洲さんの二式大艇が居ればかなり広域まで見張れるし。

 

「すっかり大荒れですね‥‥‥今日はもう戻った方が良さそうです」

 

「不知火ちゃんの言う通りかも。あたしの大艇ちゃんももう限界かも!」

 

そう。その日は急に降りだした大雨で海も酷い状況だった。そんな状態だし、これ以上はアタシ達も危険。だから哨戒は切り上げて大艇を回収、帰るつもりだった。この海じゃ、きっと深海棲艦だって出てこれないっぽい。

 

呉の方に向き直して、帰路を急ぐアタシ達。あーもー雨でビショビショ。まるで台風みたいになってきた。早く帰ってお風呂に入らなきゃ風邪ひいちゃうっぽい。

 

突然、先頭を走ってたヌイヌイちゃんが両手を広げて停止。それに合わせて止まったアタシと秋津洲さん。大荒れの天候の中、微かにだけど影が二つ見えた。深海棲艦のイ級?もうっ!こんな時に!

 

「様子が、おかしいです‥‥‥ポイポイ、秋津洲さん、気を付けて」

 

イ級二隻くらいなら、アタシとヌイヌイちゃんが居ればどうとでもできる。でも、一緒に居る秋津洲さんは申し訳ないけど戦力にならないし、船速も遅い。天候のせいで二式大艇が使えない今、ちょっと不味い状況なのかも。でも‥‥‥それは『ちょっと』じゃなかった。

 

前方のイ級と距離を取って離脱しようとしたアタシ達。けど、予期しない事態が起きた。イ級と反対側、アタシ達の後方から砲撃が飛んできて、少し離れた距離の左右に少なくない数の水柱が上がった。‥‥‥あれ?もしかして挟まれてる?

 

「あっ、あっ、あっ、あたしだって戦えるかも!?」

 

そんな事言ってる秋津洲さん、戦闘に参加してる所は殆んど見たことない。それにしてもこの海域、今までは深海棲艦なんて殆んど現れなかったのに‥‥‥。

 

兎に角、ここで留まってる訳にもいかない。動かないと的にされるだけ。秋津洲さんを守らなきゃいけないし、上手く左右どっちかに抜けてやり過ごさないと。

 

けど、駄目だった。右舷方向にも左舷方向にも、遠くに影が揺らめいてる。もしかして‥‥‥囲まれた‥‥‥?

 

「あっ、あたしを置いてって!遅いあたしが居なければ‥‥‥二人なら逃げ切れるかも‥‥‥」

 

秋津洲さんの理屈は分かる。アタシとヌイヌイちゃんの二人だけなら、振り切って逃げ切れるかも知れない。でも‥‥‥一人だけ置いて逃げるなんて、アタシには出来ない。

 

「ヌイヌイちゃんとアタシで包囲に穴を開けて突破するしかないっぽい!」

 

イ級12、タ級2、ツ級5、それに空母ヲ級が1。うーん、この包囲網、今のアタシ達の状態では辛いっぽい。いつの間に囲まれたん‥‥‥‥‥‥あれ‥‥‥これ、何処かで‥‥‥見たような‥‥‥。

 

ハハッ、アハハハハッ。なぁんだ。ちゃんとあった。秋津洲さんもヌイヌイちゃんも無事に脱出できる方法、あった。

 

「ヌイヌイちゃん!秋津洲さんを真ん中に単縦陣っぽい!前方の一点に攻撃を集中して全速前進っぽい!!」

 

アタシ達3人は縦に並んで、一点突破を目指した。勿論、前方のみに砲撃や魚雷の火力を 集中。これなら突破だけならできる。でも‥‥‥。

 

「後ろを見たら駄目っぽい!嵐に紛れて全力で逃げて!」

 

ヌイヌイちゃんと秋津洲さん、アタシの言葉通り全速前進。やったね、上手く突破できた。うん、問題はここからなんだけど。秋津洲さんの速度じゃ普通なら追い付かれるんだ。深海棲艦が誰かに気をとられて足を止めでもしない限り、は。

 

そう。誰かが囮になればいいっぽい。適任?勿論アタシだよ。だって、一度経験してるもん。あの『ソロモン諸島』で、ね。

 

一人足を止めて残ったアタシ。そうだよ、ヌイヌイちゃんも秋津洲さんも絶対アタシに気づいちゃ駄目。そのまま安全圏まで逃げて、みんなに知らせて。それから、深海棲艦のみんな、アタシだけを見て。アタシだけを狙って。

 

「ソロモンの悪夢‥‥‥見せてあげる!」

 

 

 

 

さあ‥‥‥最っっ高に素敵なパーティ、始めましょう?

 




ポイポイの咆哮は、次回。

駆逐艦12、戦艦2、巡洋艦5、空母1。第三次ソロモン海戦第一夜戦で旗艦比叡率いる夕立達帝国海軍と激突したアメリカ率いる国連連合艦隊と同じ編成。
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