抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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ブイン基地へ。中編その3

ブイン基地に戻ってきました。不知火達が不在の間に何事も無かったのはなによりですね‥‥‥ん?

 

「ヌイヌイちゃん、はいこれ」

 

不知火は「ひゃう」と思わず声を出してしまいました。ポイポイに後ろから、左右の頬に冷たい缶珈琲を押し付けられました。ヒンヤリとした感覚が気持ち良いのは確かですが、ウムム。

 

「まだ少し紅いみたい。コレ飲んで落ち着いたら?」

 

むむっ、不知火とした事が。まだ顔に熱が残っていますね。はぁ。休憩時と仕事のメリハリはつけねばならないというのに、情けない事ですね。

仕方ありません。ここはお言葉に甘えておきましょうか。

 

‥‥‥ふぅ。少しだけ気が鎮まりました。珈琲を二口飲み込んだ不知火は、ポイポイに勧められて洗面所へ。顔を洗ってきた方が良い、との事ですので。

あ、涙の跡がありますね。これはいけません。午後からもブインの艦娘とも会うというのに。普段は化粧はあまりしないのですけれど、今はファンデーションくらい塗っておきますか。これで少しは涙の跡を隠せればいいのですがね。

 

‥‥‥これで少しはマシになりましたかね。さて、それではポイポイの所へ戻るとしますか。

 

「お待たせしました。少しは隠せたと思い‥‥‥」

 

言いかけた不知火の顔に、ポイポイが何かを掛けました。これは伊達眼鏡、ですか?涙の跡もこれで目立たなくなる、と?まさか不知火が泣くのを予測して用意していたのでしょうか?ウムムム。何と言いますか、ポイポイの手の上で転がされているような気がして納得いきません。

 

「やはりポイポイは卑怯です」

 

「そう言わないで。ほら、そろそろ行かないと」

 

これからまた仕事ですし、今は置いておきましょう。呉に戻ってケッコンカッコカリの指輪を渡された時にささやかな仕返しをしてやります。それで勘弁してあげるとしましょう。

 

あっ‥‥‥ポイポイがまた不知火の右手を握って、その手を引いて司令室へ向かう。待って、待ってくださいポイポイ。折角顔に帯びていた熱が収まってきた所だったのに、手を繋がれたら先程の事を思い出してしまうではありませんか。また頬が紅くなって‥‥‥はぁ‥‥‥全く、態とですか?そうやって何時も不知火の気持ちを弄んで。貴女という人は。

 

司令室に着く迄の短時間で収まる筈もなく。先に戻って待っていた日向さんに指摘されました。

 

「不知火、どうした?顔が紅いようだが‥‥‥風邪でもひいたか?体調が良くないのなら休んだ方がいいと思うが?」

 

ポイポイもポイポイで「それなら休んでおいた方がいいっぽいわね。日向さん、医務室を借りても?」ではありませんよ?不知火のこの体たらくは一体誰のせいだと思っているのですか。

 

「ああ、構わない。午後は少佐と二人で回ってくるから不知火は休んでおくといい。体調が悪化しても困るだろう?」

 

「不知火は大丈‥‥‥いえ、日向さん。それではお言葉に甘えておきます」

 

誤魔化してくれたとはいえ。ポイポイ、覚えておきなさい。きっとこの落とし前はつけてもらいますよ?

不知火は紅潮を隠すように顔を背けて司令室を出ました。そのまま真っ直ぐ医務室へと向かい。正面にあったベッドに頭から倒れ込みました。

はぁ。そうやってポイポイは何時も何時も‥‥‥。先に不知火に火を着けておいて何時まで待たせる気なのですか。これだからポイポイは‥‥‥フフッ。

無意識に左頬の感触を思い出しつつ擦っていた不知火は、そのまま瞳を閉じて眠ってしまいました。我ながら情けない程にチョロいですね。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「少佐も人が悪いな」

 

「さあ?何の事?」

 

別にしらばっくれる事は無いだろう?不知火が少佐に好意を向けている事など、私のように知っている者は知っているからな。休憩中に不知火と少佐に何かがあったのを推察するのは容易い事だ。それくらいの雰囲気、私でも分かるさ。

 

うむ、航空戦艦日向だ。

なに?瑞雲教‥‥‥だと?はて?何の事だ?確かに瑞雲は素晴らしい海軍きっての傑作機体ではあるが、宗教というのは些か大袈裟ではないか?

 

それはさておき、だ。少佐もそろそろ覚悟を決める時だと思うがな。不知火は古参であると同時に呉の要とも言える艦娘だろう?指輪を渡すなら早い方がいい。今は状況が状況だしな。個人の感情がどうこうと言っていられる時じゃない。気持ちは分からないでもないが、今は心を押し殺して粛々と指輪を渡すべきだと思う。

 

「まあ誤魔化すのは構わないがな。これは艦娘の先輩として言わせてもらう事だが、少佐は自身の立場をもう少し考えた方がいい。思う所はあるだろうが、不知火のケッコンカッコカリは呉にとっても優先事項の一つだろう?」

 

「‥‥‥そうね。御高説痛み入るわ、日向『先輩』」

 

うむ、少佐も承知してはいるだろうがな。さて、それでは私はこれから少佐と査察の続きに行くとしよう。衣笠と違って何もやましい事は無いからな。私も衣笠には再三忠告はしていたのだが‥‥‥こればかりは本人の意識の問題だからな。

 

「では少佐、午前の続きと行こうか」

 

「ええ」

 

そうして司令室を出ようとした私と少佐だが、丁度通信があった。ふむ、横須賀からの様だな。

 

「此方ブイン基地、日向だ」

 

『山本だ。沖立と代われるか?』

 

山本中将からか。少佐と通信とは緊急の用件か?

 

「‥‥‥はい、分かりました」

 

ふむ、成る程。どうやら中枢棲姫を見付けた場合、上の指示を仰ぐまで動くな、という事らしい。何か効果的な策でも見つかったのか?

 

「少佐、それは例え此方が圧倒的に有利、中枢棲姫を轟沈せしめる場合でも上の指示を仰ぐまで動くなという事か?」

 

「ええ、そういう事です」

 

そうか、そういう事か。つまりはあの時と同じという訳だな?少佐が前回の対深海棲艦戦争で対峙した戦艦水鬼『ghost』の時と同じか。

 

「成る程な。つまり『アイオワの魂』を見付けたという事か」

 

「そういう事ね。話が早くて助かるわ、日向さん」

 

それならば私のやる事は一つだな。いち早くこのブイン基地の皆を鍛え上げて一人前の艦娘にする事だ。どんな事態にも対応できる様にな。

 

「分かった。覚えておこう。では少佐、査察の続きと行こうか」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ふぅ。ヌイヌイちゃんもどうにか分かってくれたみたいだし、一先ずは落ち着いたかな。ヌイヌイちゃんの真っ直ぐな気持ちを利用するなんて我ながら卑怯だとは思うけれどね。

 

沖立です。

今は日向さんに同行してもらって査察の続き。ヌイヌイちゃんの事は日向さんには誤魔化せるとは思って無かったけど、ヌイヌイちゃんに『日向さん達には気付かれてない』って思わせるくらいは出来たっぽいわよね。

 

「少佐、衣笠の事なのだが」って日向さん。「衣笠はあれで仲間思いで後輩の面倒見もいい。秘書艦経験も無いながら馴れない提督代理を彼女なりに頑張ってはいた。私に免じて今回は大目に見てはくれないだろうか?」って。気持ちは分かるけどね。私も東郷大将の秘書艦になったばかりの時は大変だったもの。

 

「分かりました。考慮しておきます。ヌイヌイちゃんの査定は少し厳し過ぎる所もあるし、ね」

 

「我が儘を言って申し訳ない、少佐」

 

さて。それじゃ、アッチから見て回りましょうか。‥‥‥え?戦艦水鬼『ghost』の時の事?そうね‥‥‥当人の事もあるし、あまり詳しく公表したくはないんだけど‥‥‥昔。何時か言った事、覚えてる?『旧大本営の根本を揺るがす事件』。そう、それ。深海棲艦は元は艦娘だっていう事が決定的となって、それが元は大本営の仕業だって事が明白となった事件。それが、戦艦水鬼『ghost』。『ghost』の元となった艦娘は‥‥‥金剛さん。

え?金剛さんは健在だろうって?話すと長くなるから簡潔に説明すると、実は金剛さんは一度轟沈してるの。それが、奇跡的に妖精として現世に戻ってきて‥‥‥。紆余曲折あって元の艦娘に戻れたの。

 

だからきっと、アイオワさんも同じように艦娘として戻れる筈。それが、中枢棲姫を完全に止める確実かつ唯一の手段ね。加賀妖精さんや鈴谷妖精さんに艦娘の身体に入って操作できる力があるのは多分その為だと思う。加賀妖精さんは兎も角、鈴谷妖精さんの身体は申し訳なかったけど‥‥‥。

 

だから。私達はそれに備えて最善の策がとれるよう準備するだけね。

 




さて、師匠回、並びにチョロインぬいぬい回でした。

え?金剛のは知ってた?なん‥‥‥だと‥‥‥(棒)



※※オマケ※※

――数日前――

伊58(Lv99)「夏休みでち!」キラキラ

伊168(Lv99)「私達が着任してから初めての夏休みよ!」キラキラ

伊58「潜水艦組で2泊3日の旅行でち!」

伊168「で、潜水艦組最古参の私達が行き先を決める事になったのよね‥‥‥って、私達誰に説明してるの?」

伊58「それは勿論、読者の皆さんだよ!」

伊168「読者って‥‥‥?」

伊58「気にしたら負けでち。で?ドコにする?」

伊168「うーん、2泊だし国内旅行?」

伊58「‥‥‥ろーが『どらマンボウ食べてみたい、ですって!』って言ってたでち」

伊168「ゴーヤってホントろーちゃんに甘いよね」

伊58「べっ‥‥‥別に意味は無いでち。ゴーヤもこのSSがガッツリ触れてる●洗のアクアワールド見てみたいだけでち。アンコウ鍋とか食べてみたいし。某戦車道のメッカだし」

伊168「ふーん」ニヤニヤ

伊58「別に意味は無いでち!ろーは関係無いでち!大事な事なので二回言ったでち!」

伊168「はいはい。それじゃそこもルートに入れるとして。温泉とかも行きたいよね」

伊58「温泉‥‥‥日頃の疲れを癒すのは大事よね」

伊168「そうでしょ?私達だけ毎日出撃あるからね」

伊58「でも昔と比べたらかなり楽でち。オリョクルとかバシクルとか‥‥‥」

伊168「そうだよね。今はデイリー消化の為の出撃くらいだし。バシクルに行くのもイベント中くらいよね」

伊58「最近着任の子に『オリョクルってデイリーの補給艦とか空母とか撃沈する為の出撃の事ですか?』って言われた時はジェネレーションギャップを感じたでち‥‥‥」トオイメ

伊168「本当よね。オリョクルがあんな3隻撃沈したら終わりの任務だったらどんなに楽だったか」トオイメ

伊58「ウチのてーとくは今あ号もろ号も滅多にやらないもんね」

伊168「まっ、それはさておき」

伊58・伊168「夏休みばんざーい!」

艦これ第一期終了&二期移行大規模メンテ。ウチの泊地の潜水艦達も恐らく初めての夏休み。因みにウチの執務室は
※コンクリート壁
※コンクリート床
※大掃除セット
※只の段ボール
※昔ながらのすりガラス
で引っ越し準備万端。待機秘書艦は勿論、ウチの嫁艦にして初期艦の漣。二期は果たしてどうなるでしょうね。無事に移行してくれればそれでいいんです‥‥‥。

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